呟きその6・武器
秋になると、ウサギは甘えてくる、気がします。気だけかも。
俺の名はうたたん。雄盛りの二歳児だ。
あ、ウサギ族の年齢は、人間の八倍以上と思ってくれ。
よって俺は今、人間ならば高校生男子だ。
今日の飼い主は、ダレっとしてゴロゴロして、スマホでネット小説を読んでいる。
連勤というものらしい。
十連勤? アホなんじゃないか、飼い主は。 労基法って知ってるか?
ダレている飼い主は、いつもの俺の甘味、毛玉取りのチューブ剤出すのを忘れている。
よってケージから鼻を突き出す。ついでにケージを齧る。
「ダメでしょ、齧ったら」
飼い主が手を出してきたので、俺は歯を当てた。
「痛いよ、うたたん!」
歯は当てただけ。噛んではいない。
マジ噛みしたら、人間の皮膚には穴が開くのだから。
飼い主は涙目になりながら、チューブ剤をくれた。
よしよし。
「ウサギさんの歯は凶器だ」
飼い主は何やらブツブツ言っとる。
だが、我々草食動物には、補食してくる肉食動物に、勝てるような武器はない。
だから走る。
走って逃げる。
なんたって、瞬間時速はサラブレッドよりも速いぞ、俺たち。
でも走り疲れたら、そこまでだ。
捕まったらお終い。
こんなちっぽけな部屋とはいえ、安心して眠れるのは有り難いことだな。
だから、本当は感謝しているぞ、飼い主よ。
ちょっぴりな。
感謝を込めて、思いきりキュルンとした目で飼い主を見つめた。
「可愛い顔しても、今日の甘味はこれだけよ」
あ、単におねだりしたと思われたらしい……。
寝よっと。