表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

呟きその5・先輩

 俺の名はうたたん、一匹の雄ウサギだ。

 夏の暑さは苦手だが、エアコンの風は心地良い。


 ところで飼い主は目が悪い。

 まあ、悪いのは目だけじゃないけどな。

 夜電気を消す時に「うたたん、コワくない?」などと言っておる。


 我が種族、人間的な視力は悪いよ。きっと飼い主と同じくらいだ。

 だが暗闇でも見えるのだ。

 そりゃあ夜行性だし、索敵必要だしな。


 ついでに言うと、人間族が見えないものまで見える。

 視力の問題じゃなくて、感覚のレベルが違うのだ。


 だから、先輩に会えた。


 今は日本人の暦で言えば、「お盆」という季節らしい。

 仏教の教えだな、うん。

 飼い主の住んでいる場所で、お盆は七月なのだ。


 その夜、飼い主が寝たあとのこと。

 天井の方から、シャンシャンという音がした。


 細い糸みたいな光と共に、ふわりと降り立つ一匹の同族。


「やあ、初めまして。僕は君の前に、ここに住んでいた者だよ」


 なんと!

 先輩であったか。


「僕は生前、『うーちゃん』と呼ばれていたんだ」


 飼い主のネーミングセンスは、昔から変わってないようだ。


「うーちゃん先輩、今日は何のご用で?」

「うん、三回忌が終わったので、月の天使様の眷属になれたんだ。そのお祝いで、地上に顔出しが出来たの。お盆だし」


 バリ仏教系の話だ。


 うーちゃん先輩は俺よりずっと小さい。

 だけど目は大きい。

 美兎(イケウサギ)だな。


「僕は血統書付きの、ネザーランドドワーフだったからね。飼い主さんが一目惚れしたんだよ」


 あ、ちょっとマウント取られてる気がする。


「でもさ、僕、体が丈夫じゃなくてね、飼い主さんに随分心配させちゃって」

「結構長生きだったって聞きましたよ」

「うん。十二歳までね。ホント、最後の一年はもう動きたくなかったくらい」


 うーちゃん先輩は、寝ている飼い主の胸にぴょこんと乗る。

 兎体(にくたい)じゃないから、重さはないだろう。


「ふふ。相変わらず、幸薄そうな飼い主さんだけど、あったかいな」


 もっと、甘えていれば良かった。

 抱っこ、させてあげれば良かったな。


 そんな思念が伝わってきた。

 懐かないウサギだったって、飼い主がいつか言ってたけど、十分懐いていたんじゃないか?

 

 ツンデレな先輩。

 血統書付きゆえの、プライドの高さかもしれん。


「そうそう、今日僕が来たのは、君にお願いがあってさ」

「なんでしょう?」


 焼きそばパンは買いに行かないぞ。我が種族、食えないからな。


「君には長く、長く生きて欲しい。出来れば、僕よりも」


「はあ」


 鋭意努力はいたしますが、こればっかりは、ねえ……。


「いつか、ずっと先の未来に、飼い主さんが身罷った時は僕が迎えに来るんだ。それまでは君が頑張ってよ」


 何十年先の話だ。

 でもまあ、了解の代わりに、俺は先輩の鼻先に、自分の鼻をつんつん付けた。


「そろそろ行くね。またお盆の時期には顔出すよ」

「はい。先輩もお元気で」


 空に帰っていく先輩の背中には、小さな羽が付いていた。

 先輩は兎天使になったんだ。

 さすが血統書付き!



 翌朝、目覚めた飼い主が、いきなり俺の頭を撫でた。

 何だ?

 何があった!


「ずっと、元気でいてね、うたたん」


 いつもより多めに牧草を出した飼い主は、仕事に行った。


 もう一回、俺は寝た。 

ええ、そんな夢を見たのです、飼い主は。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 先輩がおられたのですね。
[一言] エエ話や( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ