呟きその4・お医者さん
俺の名はうたたん。一匹のウサギだ。
雄なので、人懐っこいが気も荒い。
今日は人間の世界では、土曜日というものらしい。
土曜日と日曜日が連続してお休みになる、運の良い人もいるんだそうな。
珍しく飼い主が家にいた。
運も心がけもたいして良くない飼い主は、連続してのお休みは、あんまりない。
でも今日はきっと休みなんだな。
ヘンにニマニマしとる。
気に入らない。
「うたたああん、おっはよう!」
いや、もう十時越えてるぞ。
休みだからって、お前が起きるの遅いんじゃあ!
朝ご飯食べて、ぐにゅ――っと伸びてたら、飼い主が不穏な動きをしている。
クローゼット(と飼い主が言っている押し入れ)から、ゴソゴソ何かを取り出した。
ちょっちょっと待て!
今出したの、ウサギを運ぶバッグじゃないか。
このバッグが出たということは…………。
医者に行くってことか!!
俺は逃げてケージの奥で固まった。
だが、飼い主は俺の首根っこを掴むと、そのままバッグに押し込んだ。
何するんじゃあ!!
狭いバッグの中でドタバタ暴れてみたが、既に飼い主の足は、病院に向かっていた。
「あら、うたたん、今日はどうしました?」
「えと、爪切りをお願いしようと思って」
バッグの中でふて寝する俺の耳に、受付嬢と飼い主の会話が聞こえた。
動物病院の中は、ほかの種族の臭いが残っている。
ついでに、消毒液の匂いもする。
俺はどっちも嫌いなんだ。
だいたい、病院が好きな動物っているのだろうか。
「うたたん、どうぞ」
診察台の上で、バッグが開いた。
キョどりながら、俺は顔を出す。
「うたたん、大きくなったねえ」
抱き上げた獣医は見るからに熊だ。
いや、人間だけど、顔も体も熊っぽい、大きな男だ。
街ですれ違ったら、避けて逃げるね、俺は。
「お爪、伸びたねえ」
だが、強面のこの獣医、動物にはめっちゃ優しい。
抱っこされた俺は、つい獣医の胸に顔を埋めた。
あ、あったかい。
お日様の匂いがする。
昔、おふくろの腹の下で、寝ていた時のような匂い。
なんか……。
懐かしい……。
思わず、俺は鳴いてしまった。
「きゅううん」
獣医が笑っていた。
熊のような、豪快な笑顔だった。
獣医の名は、きっとクマゴロウだな、うん。
爪切りも無事に終わった俺は、またバッグに入れられた。
待合室には、犬が来ていた。勿論、飼い主と一緒だが、犬の飼い主が受付嬢に喋っている。
「ウチのポコちゃん、この動物病院が大好きなの」
マジか!
病院が好きな動物っているんだ!
診察室から、クマゴロウ獣医師が次の患畜を呼ぶ声がした。
ポコという犬は、嬉しそうに診察室へと向かった。
ウサギは声帯がないので、犬や猫のような鳴き声は出せません。
鼻息荒く、ぶうぶう音は出します。
極まれに、超可愛く、「きゅう」と鳴くこともあります。




