宋飛7
南方に位置する揚州でも段々と風が冷たい時期になってきた。
史令は昔から稲の収穫の時期が好きだった。
田畑には民の営みあり、それが文字通り実を結んでいるのがはっきり目に見えるからだ。
宋飛と別れてから、揚州軍の本営まで馬で三日かかった。
「劉明将軍、ただいま帰還いたしました」
「ご苦労だった。報告はすでに読んだ。お前が少数の賊徒相手に麾下を失うとはな。いささか驚いたぞ」
「申し訳ございません。ただ、思ったよりも骨のある男でした」
「使えそうか。なら、無駄ではなかったな。それで、楚州はどうであった?」
「関春将軍の副官である花安殿と意見を交わしました。大筋報告の通りですが、今はまだ動くのは厳しいかと思います。」
「そうか、現状に不満を持っているだけでよしとするか。簡単に国を裏切る男を欲しいとは思わん」
「楚州の関春将軍は、軍歴から言えば本来中央政府の軍を率いていてもおかしくありません。少なくとも楚州の内からもそう見られていました。明らかに中央から遠ざけられていると。」
「まともな軍人、役人ほど煙たがられる、そんな時代になってしまったのだ。この国の中央にいるのは己の事しか考えない権力者ばかりだ。賄賂が横行し、民のための政治が行われない。重税に喘ぎ、日々の生活すらままならない者がいる一方で、好き勝手に権力を濫用し肥太る者たちもいる。このままではいつまた反乱が起きてもおかしくない。」
「実際、賊徒は至る所で見かけました。流石に楚州は、他所に比べればまだましかと思いますが」
「報告にあった宋飛という若者もその一人だったな、史令?」
「はい。奴とは少し話しました。我々にとって、もしかすると同志となる人物かもしれません」