第1話 どうして僕は……
僕は死んだ。けど、どうして僕は?
白い天井をぼんやりと見つめる少年、アガサは朦朧とする意識の中で
そんな事を思う。
いや、思ってる時点で死んでるとは言い難い。だとしたら、何故僕は生きている?
そんな答えがアガサの頭に響いた次の瞬間、彼の全身は冷たい感覚に包まれ、
視界は暗転し意識は混濁したーー。
次に意識がはっきりしたのは、唐突に聞こえた「もしもーし」と言う、まだあどけなさを残す少女の声だった。
「だ、れ?」
「おはよ! あれ、今はもう夕方だからこんにちは? それともこんばんはかな?」
なるほど、確かに見事な夕焼けだ。そう思うほどに鮮やかな赤を見たが、
それは沈みかける夕日ではなかった。
室内を照らす照明の光を浴び、輝く赤い髪だ。
そして、大きな黒い瞳をしたまだあでけなさを残す少女が横たわるアガサを見下ろしていた。
「えっと、君は?」
「え、私? というか、まず聞いて来るのそこ?」
「ごめん。何ていうか、よく分からなくて」
「別に謝る事じゃ無いよ。面白いね、君」
少女は吹き出す様に笑い、「聞いた通りだ」と呟く。
アガサは疑問符を浮かべるも、少女は首を横へ振り代わりに「アテリス」と答えた。
「あ、どうも。アガサです……」
「うんうん、よろしくアガサ君」
「はい、よろしくお願いします」
「うん! ……え、それだけ?」
「それだけ、うーん。それだけ……じゃないわけじゃ無いとも言えなくもない、かな」」
「どゆこと? どっち?」
是か否か、どっちつかずな反応に目を瞬かせるアテリスは
小さな口をへの字に曲げ首を右へ左へもたげて疑問符を浮かべる。
「えっと、何か気になることでも? ……は! 私のスリーサイズ!?」
「違います」
「じゃあ私の好みのタイプとか?」
「もっと違うよ!」
「しょうがないなー。流石に正確な事は言えないけど、簡単に言うとバストはここ最近成長中!
けどそれ以外も増加中。食べ過ぎたのかなぁ……」
「いやいや、聞いてないですよ」
「え、聞こえてない? つまり、もっと詳しい数字を教えろって事!?」
「違いますよー!」
全くもってそんな事は言っていない。
勝手に喋っておきながらまるでアガサが悪いように仕向けるアテリスに、彼は顔を真っ赤にしながら
バタバタと手を動かして静止を掛ける。
どうしてか彼女は白のワイシャツのボタンを外しに掛かっている。
完全に振り回されている状態のアガサにアテリスは、
噴き出すように笑い出しワイシャツに伸びていた手を口元にやり「冗談じゃんー」と言う。
「もう、なんの目的があって僕をからかって……」
「顔、君は自分がどんな表情をしていたか知ってる?」
「そんなの知らないですよ」
「知ってる。君、すごく苦しそうな表情をしていたよ」
「苦しそう、ですか」
ふと、顔を触ってみる。少し頬に力が入っているかも知れない。
指先に伝わる僅かな感触にアガサはため息をこぼす。
「何か気になることでもあったのかな?」
「別に何かが気になるわけじゃ……」
「そうかな? それにしては随分と考えているみたいだったよ」
「考える、か。うーん、そんなに?」
「それはもう、まるで私に聞いてほしそうなくらいに」
じっと見つめる目は戸惑うアガサの胸の内を見透かしているように真っ直ぐで迷いがない。
果たして彼女には一体何が見えているのだろうか。寧ろ尋ね返したくなるも、アガサは胸の内にある言葉を吐き出した。
「少し、夢を見ていたような感覚だったんです」
つい先程までは強烈にあったはずだ。
だが息をするたびに外へ出ていくように失われているようだ。
今となっては濃い霧に包まれ、頭の中にあった光景を形容する言葉が出てこない。
「夢? そりゃー、君はさっきまで眠っていたからね。夢の3つや4つくらい見るよ」
「そういう意味じゃないですよ。てか、3つや4つは多いすぎないですか?」
「そう? 私とか結構よく見るよ? まあ、でも不思議と夢って少しするとすぐ忘れちゃうよねー」
「あ、そうですね」
眠っている時の夢の数なんてどうだっていい。と言うか、何でこんな事を話しているのだっけか。
もう、何を話そうとしていたのかわからなくなり、なんならもう話さなくていいか、とまでアガサが思ったが彼女は「それで?」と話を戻してくる。
「それでって言われましても。えっとーー」