第4話 想いを一つに
「悪夢…」
予想外の言葉に青蒼は呆然とその言葉を呟く
悩みと聞いた時に一番最初に思いついたのが琴乃の体調に関するものだと思っていた青蒼だが、出てきたのが実体の薄い"悪夢"という単語で考えがまとまらないようだった
しかし鷲伍朗の真剣な表情は、琴乃が深刻な悩みを抱えている事を如実に表していた
「えっと…それで琴乃ちゃんは今もその悪夢を毎晩見てるって事?」
「いや、毎晩見てるわけじゃない。あそこまで悲鳴を上げたのはオレっちが見た一回だけみたいだしな。でも悪夢自体は昔から何回か見てたみたいだ…それこそオレっちたちが知り合う前からって」
「なっ!?それって殆ど生まれてからずっとってことか……とんでもない隠し事をしてくれたもんだ」
鷲伍朗の口から驚愕の事実が飛び出し、青蒼と緋姫薙は絶句する
青蒼と緋姫薙が琴乃と明確に知り合ったのは小学一年生、鷲伍朗と琴乃が知り合ったのは保育園時代となれば下手すれば琴乃は赤ん坊の頃から悪夢に悩まされている事になる
「はぁ…私も情けないよ…琴乃ちゃんがそんな悩みを抱えていて気づけないなんて…。このことって琴乃ちゃんのお母さんは知ってるの?」
「いや知らねぇだろうな…そもそも琴乃自身ここ最近までハッキリと悪夢の内容を覚えていなかったみたいだから言葉で伝えられるものじゃない、寝ている間にうなされてるのを見ても体調不良で苦しんでるって考えるのが現実的だ」
「ここ最近まで…?ってことは昔は起きた時に忘れてた悪夢の内容が、今は起きても覚えてるってことか?」
「全部覚えてるワケじゃねぇみたいだけどな。少なくともオレっちが居合わせた時の悪夢の内容は今までで一番覚えてるらしい」
「それってどんな夢だったの…?」
鷲伍朗の言葉に緋姫薙が恐る恐る夢の中身について尋ねる
悪夢と言われるだけあって確実に良い内容の夢ではないが、琴乃の苦しみを分かち合いたい緋姫薙は聞かずにはいれなかった
「…秘密基地があったって言ってた、オレっち達が昔入り浸ってた秘密基地だ」
「……なるほど、今日の話で鷲が暗い顔をしたのは星澄の悪夢の話と繋がったからか。だが秘密基地だけなら悲鳴を上げる程の悪夢にはならないだろう?他に何かあったのか?」
青蒼の問いに鷲伍朗は少しだけ沈黙する
青蒼と緋姫薙はその沈黙を重く受け止めた、ここから話すのは悪夢の確信に触れる部分と理解したからだ
「秘密基地を見つけた琴乃は中に入ってみようとしたみたいだ、そうしたら体ごと何かに吹き飛ばされた」
「え?吹き飛ばされた?」
脈絡のない鷲伍朗の発言に緋姫薙は聞き返す
鷲伍朗も琴乃から聞いていた話を上手く説明できないようで苦々しい顔をしながら続ける
「ああ、そう言ってた。何か巨大なものにぶつかったみたいな感じだって、それで逃げるために起き上がろうとしたら衝撃で足が折れてたみたいで起き上がれなかったらしい」
「…そこで、目が覚めた…のか?」
「いや、まだ続きがある…つってももう終わりだけどな。その後琴乃は何とか這いずって逃げようとしたんだが…………何かに、足を喰われたらしい。その血塗れの足と激痛で目が覚めてオレっちが居合わせたってわけだ」
「琴乃ちゃん……」
「そうか…」
青蒼と緋姫薙は悲痛な面持ちで話を聞き終わった
その夢を見た琴乃の心情は計り知れないものだと分かったからだ
しかし青蒼には一つ疑問点があるようで、その疑問を鷲伍朗を投げかける
「それにしても夢の中で秘密基地を見つけたってのも不思議だが、その秘密基地の前で星澄を吹き飛ばしたって奴は何者なんだ?悪夢の内容は毎回その何者かに襲われているってことか?」
「悪夢の内容は毎回何者かに襲われるってことで分かってるみたいだ。だけどその何者かの正体はハッキリ覚えてねぇってよ…まぁ元々悪夢の話だ、内容がおぼろげでも仕方ねぇ。んでもってオレっちが青蒼に、いや青蒼と天茜に聞きたいのはこの部分だ」
「この部分…ってことは」
「あぁそうだ、お前ら二人は“夢”を見てるって言ってたよな?それも二人で同じ夢だ。だからお前らは今の話を聞いて何か心当たりはないか?何でもいい、悪夢の対処法は全て試しても無駄だった……もう頼れるのはお前らしか居ないんだ、だから何でもいい!何かねぇか!?」
「落ち着け!鷲伍朗!」
現状に対する焦りが募っていく鷲伍朗を引き留める青蒼
そんな自分に気づいたのか鷲伍朗は落ち込むように表情に影を落とした
一連の流れを申し訳ない顔で眺めていた緋姫薙は口を開く
「ごめん、鷲…今の話を聞いて心当たりは何もないよ…私の夢の中で青蒼以外の誰かが居たことはないし、斧とか剣とかを夢の中で作ったことはあるけど秘密基地を作ったことはないんだ…」
「更に言うなら俺達の夢の中ではいくら剣で斬ろうが、斧で体が真っ二つになろうが血は出ない、体に白い傷跡が刻まれるだけだ。この傷跡はすぐ治せるし、もちろん痛みもないからそれが原因で目が覚めたこともない」
「そうか…」
すっかり日が落ちた夜の星を見上げて鷲伍朗は悲しそうな顔を浮かべる
だがその悲しそうな顔はすぐに何かを諦めたような笑顔に変わった
「ありがとう二人とも、どうやらどーにもなんねぇみてぇだな。取り敢えず琴乃のお母さんに相談して…」
「待って!!」
そんな諦めから出た言葉は緋姫薙の鋭い静止の声に遮られる
青蒼にとってもそれは予想外だったようで、青蒼と鷲伍朗の二人は驚いた顔で緋姫薙の顔を見る
「私に一つだけ考えがあるよ」
「考え…か、言っておくが星澄が見てる夢は俺達の見てる夢とは明らかに別物だぞ。こうなったら俺達が余計な事をするより、素直に母親に話して心療内科やらの専門の人間に頼ったほうが…」
「琴乃ちゃんは誰にも言って欲しくないって、それは琴乃ちゃんがこれ以上皆に心配をかけたくないってことだと思う。ただでさえ体調が良くないのに悪夢まで見てるなんてお母さんには知って欲しくないんだよ!」
「あぁ…オレっちもなるべく琴乃の思いを優先してやりてぇ」
「もちろんお前らの気持ちも分かるが………口を挟んで悪かったな緋姫薙、その考えを聞かせてくれ」
複雑な感情が絡まる中、青蒼の言葉を聞いた緋姫薙は覚悟を決めた顔で宣言した
「私達が悪夢に入って琴乃ちゃんを悪夢から守るの!」
「なっ!?」
「マジか!?出来んのかそんなことが!!」
「うん!私と青蒼はずっと戦って遊んできたからね!どんな悪夢でも力を合わせてぶっ飛ばすよ!」
「ちょっと待て!話はそこじゃないだろう!敵の強さより星澄の悪夢に入る方法をだな…」
衝撃的な発言に困惑する青蒼をよそに、緋姫薙は自信満々の表情で言い放つ
「そんなこともう実証済みじゃん!いつもの私と青蒼みたいに手を繋いで同じベットで寝ればいいんだよ」
「おい!それをあまり大きな声で言うな!」
「オメーら昔から添い寝してたけど…まさか今でも続いてんのかよ…流石にヤバくねぇか?」
「ヤバいとか言うな!それより!その方法は昔一度皆でやって無理だと、夢の中で話したばかりだろうが!結局あの時も俺と緋姫薙しか同じ夢は見れなかったはずだ」
「にひひ、分かってないなぁ青蒼は。それは小学生の時の一回だけでしょ?高校生になったことだし、もう一回やるべきだよ!琴乃ちゃんを助けるためでもあるし!」
「まったく、どんだけ不確実な考えだ………だがやってみる価値はあるか」
「うんうん!そうこなくっちゃ!」
青蒼の返事に笑顔で頷く緋姫薙
だがそのやりとりを見ても鷲伍朗の顔は明るくなることはなく、少し考えた様子で二人に問いかける
「その夢を皆で見る方法ってのは確かに覚えてる…皆で布団並べて手つないでってやったからな。だがアレって八人でやったよな?今回も八人でやるとしたら…」
「そ、そうだね。今回は琴乃ちゃんの悩みの事だし事情を知ってる私達四人でやろうか」
琴乃を気遣う様子で話す鷲伍朗と緋姫薙
そこに青蒼が口を挟む
「いや、これは星澄に前もって相談したうえでの提案になるが、もし仮にやるなら俺は八人でやりたい」
「え?琴乃ちゃんは皆に知られたくないだろうし、守るだけなら戦える私と青蒼で良くて後は琴乃ちゃんを安心させる鷲が居ればよくないかな?」
青蒼の意見に不思議そうな顔をする緋姫薙
そのまっとうな疑問に答えるために青蒼は自分の考えを話し出す
「そもそも俺と緋姫薙が星澄の夢の中でいつも通り戦えるとは限らない。さっきも言ったが血が出るし痛みがあるって事は夢の中での勝手も違うってことだ、戦いのダメージで動きが鈍るくらいならまだ良いが、最悪の場合は剣や斧の生成なんかの非現実的な行為は出来ないってことになる」
「たしかに!それは困る!」
「そうなった場合は人数が多いに越したことはない、武力面は数の力を活用できるうえに、戦いでどうにもならないなら八人で話し合って解決策を出せる可能性もある」
「なるほどな…夢の中の話はサッパリ分かんねぇが、八人揃った方が良いって事は分かったぜ」
青蒼の話を理解した緋姫薙と鷲伍朗は納得したように頷く
それを見た青蒼はその瞳に僅かな怒りを灯し、静かに笑いながら言葉を続けた
「まぁそれに…」
「それに?」
「大事な友人を苦しめる悪夢を殴りたい気持ちは、アイツらにもあるはずだ」
「にひひ、そうだね」
「そりゃーそうだ」
こうして翌日に一連の話を琴乃に相談する約束をして
青蒼と緋姫薙と鷲伍朗はこの場を解散した
□ □ □ □ □ □ □ □
「んじゃ、今日のオレっちは琴乃と二人で昼飯食うから、あばよ!」
「み、みんな、バイバイ」
「おう」
「いってらっしゃい」
「バイバーイ」
衝撃的な琴乃の悪夢について聞いた翌日の昼休み
琴乃の悩みを青蒼と緋姫薙に話したことの報告、そして残りの四人に話してもいいか?という相談をするために鷲伍朗は琴乃を昼食に誘った
教室にはB組の男子三人、青蒼、朧、コートレールを残して鷲伍朗と琴乃が廊下に出ていく
そんな鷲伍朗の姿を見てコートレールは呟く
「鷲は高校生になったから星澄さんに積極的にアプローチする事にしたのかな?二人は何か聞いてる?」
「ふふ、もし聞いていても僕は話すことはしないよ」
「えー、じゃあドローン飛ばして確認しようかな」
「おい、お前には常識というものがないのか?」
「冗談冗談、そんなことしなくてもあの二人が良い雰囲気なのは変わりないし」
「まったく…」
いつもの調子のコートレールに呆れつつ、青蒼はこれから行われる鷲伍朗と琴乃の話について考える
そもそも悪夢というのは青蒼と緋姫薙がいつも一緒に見ている夢と違って、まだ現実的な説明がつくものだ
悪夢の原因は大雑把に言えば本人が抱えているストレスや不安、たとえ琴乃の夢の中に入る事が出来なくても皆で琴乃の悩みを共有して支える姿勢を見せれば、琴乃自身も心が楽になって悪夢を見なくなる可能性がある
逆にその悩みの共有や支えが琴乃にとって負担になってもおかしくないのだが
結局どうなるかは分からない、だから一番分かりやすい結末は夢の中に入って“悪者”を皆で倒すことなのだ
青蒼はそうなる事を願いつつ昼食を口の中に運ぶ
その姿を見ていた朧は少しだけ心配するような微笑を浮かべ青蒼に話しかける
「どうやら、青蒼は何かを知っているようだね?…それもあまり良い知らせではなさそうだ」
「ん?そうなの青蒼?」
「自覚は無いんだが俺ってもしかして隠し事が下手なのか?」
「ふふ、付き合いが長いから分かるだけだよ。青蒼も分かるだろう?そういうことは」
そう言われて鷲伍朗の悩みを聞き出したのも、付き合いの長さからくるものだと青蒼は思い出した
「言われてみればそうだな…」
「ちょっと?ボクは全然分からないんだけど?何か悩んでるならちゃんと教えてよ」
「レールはもう少し常識を覚えたら自然と分かるようになるはずだ。…だがどうやら今回の件については放課後には話せそうだ」
青蒼は今しがた携帯電話に届いた鷲伍朗からのメッセージを確認した
『ちょっと悩んでたけど琴乃には皆に話してもいいってオッケーもらったぜ。悪夢の解決方法の説明は青蒼と天茜に任せたからな』
そのメッセージに手短に返信し、青蒼は静かに覚悟を決める
全員に話してしまったらもう後戻りは出来ないだろう
このやり方を提案した以上、どんな結果になろうと琴乃にとっては良い出来事になるように責任を果たさなければならない
その覚悟を決めた青蒼の表情を、朧とコートレールまでもが心配そうに見つめ青蒼に聞こえないように小さな声で呟く
「あんな表情をする青蒼は久しぶりに見たよ。僕が力になれればいいんだけど」
「この感じだとボクも気合い入れないといけないみたいだねぇ」
そうして時間は過ぎていき約束の放課後に八人は集まった
集合場所は昨日と同じ校舎の屋上
まず手始めに青蒼達は琴乃の悪夢についての情報共有を行った
「琴乃…!アンタどんだけ抱え込んでんのよ…!そういうことはもっと早く話しなさい…!」
「う…ご、ごめんね。綿華ちゃん。ど、どうしても言い出せなくて」
「っ…!アンタねぇ…!」
「こーら☆!メンちゃんそんな怒っちゃダメだよ☆!コノちゃんは勇気を出してくれたんだから褒めてあげなきゃ☆!」
「そうだね、琴乃ちゃんが一番悩んでるんだから」
「…う…ごめん…琴乃…」
「う、ううん。心配してくれてありがとう、綿華ちゃん」
悪夢の話は他の四人にとっても衝撃的だったようで、特に一緒に居る時間の多い女子達は琴乃に多くの言葉をかけていた
男子達はその光景を静かに見守り、タイミングを見て青蒼が話し出す
「これで星澄の今の状況は皆に伝わったと思う。現時点でこの話は星澄の母親には知らせていない、これから俺達がやりたい事は俺と緋姫薙以外には非現実的な話だからだ。星澄の母親が知ってもあまり良い気持ちはしないだろうからな」
「…もったいぶらないで早く言いなさい…一体何するつもりよ…?」
「俺達の信頼に関わる大事な前置きなんだが…まぁいい、結論から言おう。これから星澄の悪夢に対抗するために八人で同じ夢を見て、襲い掛かる星澄の悪夢を返り討ちにする計画を実行する」
「え、え、ええ!?」
「……は?」
「おー☆!それは凄い良いね☆!」
「ふふ、またとんでもないことを言い出したものだよ」
「青蒼、それ真面目に言ってる?」
この話を知らなかった五人は三者三様の反応を見せる
改めて言葉にすると無謀にも程があると実感した青蒼だったが、そんな実感をおくびにも出さず青蒼は答える
「ああ、大真面目だ。全員で星澄の悪夢に入れるかどうかは確実ではないが、仮に入れなくとも大きな代償を払うわけではない。星澄の母親に悪夢について話すのは、これを試した結果次第でもいいはずだと俺は考える」
非現実的な説明とは裏腹に堂々とした青蒼の説明に、屋上に集まった面々は真剣な顔つきで耳を傾ける
その青蒼の説明を補足するかのように緋姫薙が言葉を挟む
「私と青蒼は同じ夢をずっと見てきた。これを応用して琴乃ちゃんの悪夢に入れたら、琴乃ちゃんを苦しめる悪夢を皆でぶっ飛ばすチャンスだと思う!悪夢の治療法ならこれが一番分かりやすいって私は思う!」
熱意を多く含んだ緋姫薙の声に陽愛は大きく頷いた
「はい☆!ヒメはさんせーい☆!取り敢えずやってみるの良いと思う☆!」
「…ほんと能天気ね陽愛は……。琴乃…アンタはどう思うの…?」
陽愛の明るい声に対して呆れた表情を見せる綿華
その視線は琴乃を捉えており、自分の意見は琴乃に委ねているようだった
「わ、わたしは……悪夢は、怖い……でも皆を巻き込みたく、ないよ…」
そんな悲痛とも言える声と表情は琴乃の苦しみを宿しており、悲しみを背負う姿は皆の声を詰まらせた
しかしただ1人だけ俯く琴乃に声をかける
「安心しろ琴乃、オレっち達はもう巻き込まれてんだ。琴乃っていう仲間が苦しんでるのにオレっち達が何もしないワケがねぇ、だからよココは一つ任せてみてくんねぇか?」
「鷲、くん…」
覚悟を決めたような鷲伍朗の声に顔を上げる琴乃
鷲伍朗の言葉にハッとし、続くように緋姫薙が言葉を続けた
「そうだよ琴乃ちゃん!私達が勉強に悩んでたら琴乃ちゃんは精一杯教えてくれるでしょ?それと同じだよ!誰かが困ってたら皆で助けるの!」
「そうだねぇ、ボクも星澄さんには恩があるし見過ごせないよね」
「いいかい星澄くん、重く考えることはない。君が皆に優しくするように僕達も君を支えようとしてるだけで、いつもの日常と何も変わりないものさ」
緋姫薙に続いて、コートレールと朧が語りかける
陽愛は何も言わずともにこやかな笑みで琴乃を見つめており、綿華も珍しく慈しむような微笑を浮かべる
「皆、ありがとう…!」
皆の優しい言葉に思わず瞳に涙を滲ませる琴乃
その姿を見た綿華から珍しい微笑がなくなり、青蒼に対して睨むようないつもの表情で問いかける
「…それで…良い雰囲気になったのはいいけど…具体的にはどうやって琴乃の悪夢に入るつもりなの…?」
半信半疑な綿華の問いに渋い顔をしながら青蒼は答える
「昔…小学生の頃に全員で泊まりで遊んだことがあっただろう?その時に緋姫薙の提案で全員で手を繋いで眠りについたはずだ。今回も同じことをやる」
「ふむ…僕の記憶ではあの時は特に何事もなかったはずなんだけど。それは大丈夫なのかい?」
やはり昔同じことを試して上手くいかなかった経験があるため、怪訝な顔をする朧と綿華
そんな不安は雰囲気を吹き飛ばすように緋姫薙が明るい声で呼びかける
「大丈夫!私なんとなく分かるから!次は絶対上手くいくって!」
「…ってわけだ。納得してくれるか?朧、入道」
「ふふ、もちろんだとも」
「…はぁ…そんなこと言われたら反対意見なんてだせないじゃない…」
「あはは☆!いつものヒビちゃんだね☆!」
緋姫薙の強引な説得に長年の付き合いである二人は仕方なく納得する
意見を抑え込んだ二人を見て、青蒼は悪いなと一言呟き周りを見渡す
鷲伍朗、琴乃、陽愛、コートレールは元々反対するつもりはないようで、それを察した青蒼は話を進める
「よし、意見はまとまったようだから計画を詰めよう。実行のタイミングは次の休みの日、泊まる場所は星澄の体調を考えて星澄の部屋にしたいところだが…流石に今の俺達が泊まるには狭いか?」
「そ、そうだね、この前に緋姫薙ちゃんと陽愛ちゃんと綿華ちゃんが泊まりに来た時に、もう一杯だったから、み、皆が泊まるのは入りきらないかも……で、でも!わたし、別の場所のお泊まりでも大丈夫だよ!」
「ふむ、そういうことなら僕の家にするかい?客室なら広いから皆が寝転んでも余裕がある。それに星澄くんの家にもある程度近いから、万が一体調が悪化しても直ぐに両親が来てもらえる。どうだろうか?」
「あーそういや朧ん家って忍者だったかの家系だっけ?それであのデカい屋敷があるっつう」
「忍者の血筋というのも眉唾物だけどね。今はもう大きい屋敷に住んでるただの一般家庭さ」
朧の提案に考え込む青蒼、やがて答えが出たのか皆を見渡して語りかける
「俺も何回か行ったことがあるが、確かに朧の家なら条件は合うな。各々親に許可を取れれば話ではあるがそれで決定とするか、何か他に意見はあるか?」
「う、うん、大丈夫!それでお母さんに話してみるね」
「異議なーし☆!」
「……好きにしなさい…アタシは従うだけだわ…」
「うっし!琴乃を苦しめる悪夢、ゼッテーぶっ飛ばす!」
「ふふ、いいね。柄にもなく僕はワクワクしてきたよ」
「珍しいね朧、まぁボクもだけど」
「よーし!青蒼!今日は夢の中でいつも以上に特訓だよ!ついてきてよね!!」
「当然だ。俺と緋姫薙が提案した以上、不甲斐ない姿を見せるつもりはない」
校舎の屋上を覆う晴れ渡る青空に、全員の気合の入った声が響き渡る
新たな困難を前に、幼馴染八人の想いは一つになっていた