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第3話 夢の見え方

「夢の見すぎでマジ寝坊とか、高校初日でやらかすかね」


新しい教室で新たな交友を結んでいる生徒が多いなか、青蒼の周りには見慣れたいつもの顔である男子三人が居た


「そこまで長い時間遊んでるつもりはなかったんだがな…」


「ふふ、それだけ昨日の夢は楽しかったってことかな?」


「まぁ…多少盛り上がった所は否めないが…夢の中だと時間が分からないのが一番の原因だろうな」


「前に寝坊した時は、夢の中に時計でも作るみたいな話してなかったか?アレは出来なかったわけ?」


「無理だった。どうやっても上手く動かない」


「ふーん、青蒼達が見る夢っていうのも結構不便なんだねぇ」


「例え不便でも、僕もそんな夢を見てみたいものだよ」


高校生になっても代り映えのしない友人たちとの雑談

その様子を隣の席に座っていた琴乃は静かな笑みで四人を見守っていた

すると琴乃の視線に気づいたのか、鷲伍朗は隣の琴乃に話しかける


「…つーか、琴乃はドンマイだったなぁアイツらと一緒のクラスになれなくて」


「う、ううん、わたし、鷲くん達と一緒のクラスで嬉しいよ?」


鷲伍朗の言葉通り、恋ヶ崎高校一年生のクラス分けでは

A組に 天茜(あませ) 緋姫薙(ひびな)、 御日奈(おひな) 陽愛(ひめ)、 入道(いりみち) 綿華(めんか)

B組に 黒空(くろぞら) 青蒼(あお)、 月渡(つきわたり) 鷲伍朗(しゅうごろう)、 層巻(そうまき) (おぼろ)、 御日奈(おひな) コートレール、 星澄(ほしずみ) 琴乃(ことの)

という琴乃を除けばA組とB組で綺麗に男女が分けられていた


「寝坊してギリギリかと思ったが、結構時間あるな。俺たちはいつまでこうやって話していればいいんだ?」


青蒼が時計を見れば、組み分けされた教室に集まって数十分が経つ

そんな青蒼の疑問にコートレールが答えた


「そろそろこのクラスの担任の先生が来るんじゃない?さっきドローンの試運転で校舎を見渡してたら、先生っぽい人が歩いていくのがカメラに写ってたよ」


「レール…もうドローン飛ばしてんのか?バレたらマジで怒られっから程々にしとけよ?」


「そうだねぇ、中学生の時に一回バレちゃった時は凄い怒られたからね。別に盗撮目的とかで動かしてる訳じゃないんだけどなぁ」


「そういう考えは駄目だよレール、相手から見ればドローンを動かしてる目的なんて分からないのだから」


「うぅ、それはそうだねぇ……ドローンに”盗撮してません!”っていう張り紙でも貼ろうかなぁ」


「いや、それは逆に怪しい」


呆れたような青蒼のツッコミに「規則も守ってちゃんと小型に改造してるのになぁ…」という、コートレールの的外れなぼやきが聞こえたタイミングで教室の扉が開かれる

外から女性の先生が入ってくる事を確認した生徒たちは、雑談を止め各々が自分の席に戻り始めた


「ようやく来たか、じゃあまた後でな」


「あぁ、また後で」


「星澄さん、自己紹介頑張ってね」


「う、うん、ありがとうレールくん。しゅ、鷲くんもマジック頑張って」


「おうよ、オレっちの活躍マジで見ときな!」


周りの生徒と同じように自分の席につく青蒼達


そうして彼ら彼女ら幼馴染八人の高校生活が始まった





 □ □ □ □ □ □ □ □ 




クラスでの顔合わせ、学校説明、そして入学式が終わり、高校初日ということで午前中で生徒たちは解散になった

しかし学校の屋上には青蒼達八人が集まって高校初日の余韻を共有していた


「じゃあ皆写真撮るよ、ドローン見ててね~。3、2、1…」


「ピース!!」


コートレールの掛け声とともに八人は近くに集まり、浮かぶドローンに顔を向ける

各々自由なポーズをとった後に、ドローンからシャッターを切る音が聞こえる

改造されたドローンにカメラが装着されており、遠隔でコートレールが写真を撮ったようだ


「レー君!レー君!写真見せて✰!」


「いいよ陽愛ちゃん、はい」


コートレールは8人全員が写る集合写真を気軽に撮るために様々な手段を模索していたが、最終的に義父がプレゼントでくれたドローンを改造し皆の写真を撮るために使用しているようだった

自分達の制服姿の写真に大喜びの陽愛に鷲伍朗が話しかける


「お?高校入学したオレっちはどんな感じよ?」


「あはは✰!ゴロちゃんは何も変わってないよ✰!」


「…ふ、あんたの軽薄さは相変わらずってことね」


「オイオイ、そりゃあねぇぜ~オレっちも少しは大人になったっての!」


綿華の厳しい評価に大袈裟に肩を落とす鷲伍朗

その姿を慰めるように朧が声をかける


「確かに初対面の人達に堂々とマジックを披露する度胸は、大人といっても差し支えないかもしれないね」


「隣のクラスから鷲の自己紹介が聞こえ始めた時は私の方が緊張しちゃったよ」


「ゴロちゃんのマジック、皆の反応は悪くなさそうだったね✰」


「……良くもなさそうだったけど…」


「んなッ!?」


緋姫薙と陽愛の好意的な言葉の後、またしても綿華の一言が胸に刺さった鷲伍朗

先ほどと同じような大袈裟なリアクションをした後に琴乃にすがりついた


「琴乃ぉ~!、オレっちのマジック良かったよな~?オレっち間違ってないよなぁ~!?」


「う、うん、鷲くんのマジックわたしは良かったと思うよ…!だ、だから元気だして…!」


「……琴乃、それ励ましになってないわよ」


鷲伍朗を慰める事に苦心する琴乃に苦笑いを浮かべる綿華

それをフォローするように青蒼が口を開く


「取り敢えずそこそこ拍手も貰ってたし、それで満足しろよ。流石に自己紹介で一円玉消すマジックを見せてもクラスの人気は勝ち取れないだろ」


「それでもよぉ、オレっちより順番が先だったレールに注目が集まるのは納得いかねぇぜ~」


「それは当たり前だよ☆!だってヒメの自慢の義弟だもん☆!」


「あはは…多分今だけだから安心していいと思う、鷲」


「まぁ初対面だとレールに聞きたい事は一杯あるよねぇ、私達のクラスも陽愛が一番目立ってたよ」


「……クラスに友好的な人間が多くて良かったわ…疎まれる陽愛とか見たくないし…」


「んふふ☆ヒメを舐めちゃいけないよメンちゃん☆!ヒメはどんな人とも仲良くなれるんだから☆!」


「ふふ、その自信が陽愛が好かれる理由かもしれないね」


「……色んな意味で怖い自信だわ…」


胸を張った笑顔の陽愛を辟易したような顔で眺める綿華

八人にとってその光景はいつもの日常であったが、今日はいつもと違う部分があった


心地よい春風が緋姫薙の黒髪を揺らす、見上げれば疎らに雲が浮かぶ青空が広がっており太陽の眩しさに目を細めながら緋姫薙は呟く


「それにしても屋上に入れて良かったね、中学校の校舎だと入れなかったから皆で屋上に集まるの憧れてたんだよ」


「落下防止の大きい柵はあるが、やっぱり高い場所は気分が良いな」


「え、えへへ、こうしていると昔の秘密基地を思い出すね」


「あのすげぇボロボロの展望台な、何年か前に取り壊されて更地になっちまったんだよなぁ…」


「…琴乃の体調も良くなかった時期だし、琴乃の部屋に集まってたら何時の間にか無くなってたわね…」


「ご、ごめんね、わたしのせいで…」


「星澄さんのせいじゃないよ。元々いつ崩れるか分からなかったし、あのままだと危なかったから仕方ないと思う」


「うんうん、レー君の言う通りだよ☆!コノちゃんは気にしなくて大丈夫☆!」


少し落ち込んだ様子を見せる琴野を励ますようにコートレールと陽愛が声をかける

そんな姿を見て朧が話し出した


「星澄くんの体調がもう少し良くなったら、また秘密基地を探しに行くのも楽しいかもしれないね」


「…あんた何言ってんのよ…もうアタシ達高校生よ?」


「ふふ、高校生だからといって秘密基地を探してはいけないというルールはないよ綿華?」


「そうだよ!そうだよ!私も探しに行きたい!秘密基地!」


高校生になったばかりとは思えない会話で盛り上がっている緋姫薙たち

しかしその盛り上がりに混ざる気配がなかった鷲伍朗は少しだけ考え込んでいるような素振りを見せていた

そんな珍しい鷲伍朗の姿に青蒼だけは気づいたようで静かに鷲伍朗に近づき話しかける


「どうした鷲伍朗?こういう話題の時に一番反応するのはお前だと思ったが」


「そりゃあマジで心外だぜ青蒼、オレっちも考え事する時はあるってもんよ」


「考え事?何かあったのか?」


「…まぁ、ちょっとな」


ほんの少しだけ影のある笑顔を見せた鷲伍朗に青蒼は逡巡した

長年幼馴染として付き合ってきたが鷲伍朗のそんな姿を青蒼は初めて見たからだ

その青蒼の逡巡の間に鷲伍朗は影のある笑顔を隠し、歯を見せて笑いながら言葉を告げる


「ワリィな、柄にも無いこと言っちまった、今この場所で話せるもんじゃねぇや、忘れてくれ」


「…そうか、言いたくないなら言わなくていいが、抱え込むくらいなら言った方が楽な時はある。覚えとけ」


「おう、サンキュな」


感謝の言葉を述べた鷲伍朗は盛り上がっている緋姫薙たちの会話に混ざっていく

青蒼はその喧噪の中に入る前に携帯電話を取り出し、鷲伍朗宛てにメッセージを送る


『俺が緋姫薙と毎日夕方にランニング行ってるのは知ってるな?今日は俺一人で行く、一週間前に遊んだ河川敷の所も走る。お前が良ければそこで待っててくれ』


このメッセージを鷲伍朗がどう受け取るか分からない

それでも青蒼は何もせずじっとすることは出来なかった





 □  □





気が済むまで校舎の屋上で話し合った青蒼達はそれぞれの家に帰宅した

日が傾いて赤く染まり始めた空を見て青蒼はランニングに行く準備を始める

右腕、左腕、そして背中に水を詰めた大容量のペットボトルを括り付けるように装着、ランニングに行くには少し不格好かつ非効率とも言えるトレーニング姿の青蒼に緋姫薙が声をかける


「ん?青蒼、ランニング行くなら言ってよ~。ちょっと待って、私も準備するから」


「緋姫薙、今日は俺一人で行くから家で待っててくれないか」


「え?何で一人で行くの?私も行きたいよ」


訝しい顔の緋姫薙は、青蒼の言葉に疑問を持ったようで理由を問いかける

その問いに対して回答に悩んだ青蒼は唸るように返事をする


「いや、何だその、あんまり詳しくは言えないが事情があるんだ。悪いな」


「事情?よく分かんないけど青蒼の事情なら私の事情でもある!私も一緒に行くよ!」


「あー…こうなったらもう何を言っても聞かないな緋姫薙は…」


「うんうん!よく分かってるじゃん私の事、じゃあ準備してくるね」


明るい笑顔で頷く緋姫薙は準備のために部屋の奥に消えていった

そんなご機嫌な緋姫薙を見届けると青蒼は心の中で鷲伍朗に謝るのだった


そうしてランニングの準備が整った二人は家を出て並んで走り始める

いつになく真剣な表情で足を動かす青蒼に対して、緋姫薙も何かを感じ取ったのかテンションの高い普段の様子は鳴りを潜め無言で青蒼についていく


ランニングが始まって数分、夕日に照らされて眩く光る川が見え始め青蒼は目を凝らす

青蒼の目線の先には光り輝く川をぼんやりと眺める鷲伍朗が河川敷に座り込んでいた


「よぉ、鷲。待たせてすまん、それと余計な奴を呼んできた事もすまん」


「へッ、ケッコー待ったぜ。余計な奴に関しちゃ青蒼が上手く言い訳できねぇと思ってたからいいけどよ」


「ん?鷲じゃん。やっほー」


「スゲー能天気な挨拶だな……オメー余計な奴って自覚ある?」


「全然無いよ~、だって鷲もいるんだったら私が首を突っ込んでも問題ないもんね!」


横暴な発言を胸を張って笑顔で答える緋姫薙に、困ったように青蒼が告げる


「問題ないかどうかは鷲が決めることなんだが…というわけでここまで連れてきといて何だが緋姫薙も居て大丈夫か?」


「ま、あんまり言いふらしたくねぇ話だが、お前ら二人なら別にイイっつーか……いやお前ら二人だから話しておきてーことだから大丈夫だ」


夕日を背にし陰になっている鷲伍朗の顔を見て、深刻な話であることを理解した青蒼は装着していたペットボトルの重りを外し地面に降ろす

その間に緋姫薙は心配そうに鷲伍朗に尋ねた


「どうしたの?鷲、何か悩みがあるってこと?」


「今さら水臭いな、真剣な悩みくらいなら俺たちの誰に話しても問題ないだろ。星澄にはもう話したのか?」


「話したってか正確にはオレっちの悩みじゃない、琴乃の悩みだ」


「琴乃ちゃんの悩み?それなら尚更…」


「誰にも言わないでって言われたんだ、皆に心配かけるからって」


疑問に思った緋姫薙の考えが口にでるより早く、鷲伍朗が答えを出した

多少の罪悪感がこもった鷲伍朗の言葉に二人は驚きながらも話を続ける


「なるほど事情は分かった、昔より色々打ち明けてくれるようになったと思ったが…完全に心を開いているのは鷲だけか」


「いやオレっちもグーゼン知っただけで心を開いてくれてるわけじゃねぇと思うぜ、何せ今でも詳しい事情はよく分かんねぇんだ」


「偶然知ったってどういうこと?琴乃ちゃんは何を悩んでるの?」


緋姫薙の問いに対して押し黙る鷲伍朗

やがて薄暗くなってきた空に映りだした星を眺め、ぽつりぽつりと語り始める


「あの日琴乃のお母さんから留守中の家を任されてな。その日は特に琴乃の体調が悪かったらしい、仕事がどうしても休めなくてオレっちに様子を見てて欲しいって頼み込んできたんだ」


「ほう、だが星澄の体調が悪い時に鷲が看病しに行くのはよくあることじゃないか?家も近いし星澄と一番仲が良いのは鷲だからな」


「オレっちも琴乃のお母さんに頼まれた時にはそこまで深く考えてなくってな、ほんとにヤバい時は病院に連れていくだろうし。だからいつも通りな感じで琴乃の部屋に入ろうとしたんだ、そうしたら…」


「そうしたら?」


話も途中で言葉に詰まった鷲伍朗に対して、話の続きを急かすように見つめる緋姫薙

当時の事を思い出した鷲伍朗は冷汗を流しながら言葉を紡ぐ


「部屋のドアをノックする直前、聞いたこともない絶叫が聞えたんだ…まるで殺される直前みたいな、そんな琴乃の悲鳴が。それでオレは急いで部屋に入った、何があったのかって琴乃を見たら琴乃はすげぇ青ざめた顔をしてオレに縋り付いてきた。そんでオレにこう伝えたんだ」



「悪夢を見た、って」


そんな非現実的な言葉に青蒼と緋姫薙は何も言う事が出来なかった

いつのまにか一人称が昔の頃に戻っていた鷲伍朗に得も言われぬ真剣さと恐ろしさを感じたからだ





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