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第1話 夢覚め、日常、また夢現


「もう明日だね」



「明日?あぁ、明日から高校生か」



「そうだよ、でもさ高校生になるっていう実感があんまり湧いてないんだよね、私」



「それ小学生の時も中学生の時も言ってたぞ」



「あれ?そうだっけ?よく覚えてるね」



「覚えてるさ、俺も同じ事思ってたから」



「やっぱりそうだよね、保育園の頃から私たち何も変わってないし」



「変わってねえなぁ…高校に入ったら何か変わると思うか?」



「うーん、どうだろうね。まぁ何かが変わっても変わらなくても、皆と一緒にいることは変わらない気がする」



「そうだな。俺もそう思う」



「にひひ、きっとそうだね。じゃあ私はもう起きるよ」



「俺も起きるか、今日の朝飯はどうする?」



「早く起きた方が朝ごはん決めて作っちゃおうか」



「分かった、そうしよう」



「それじゃあ起きたらまた会おうね」



「ああ、起きたらまた」



その言葉を聞き、緋色の女の子の体は朝焼けに包まれるように消えていく



青色の男の子も夢から覚めるように少しずつ意識を手放していった



〇 〇



カーテンが開かれた窓から太陽の光が差し込む

その眩しさに黒空(くろぞら) 青蒼(あお)は目を覚まし、少し大きめなベッドからゆっくりと起きあがって辺りを見渡した


「ん…あいつはもう起きたのか…」


寝ぼけた頭で階下の物音を聞き、青蒼は自室を出て階段を降りる

寝起きの顔を洗面所で洗った後、リビングに行けば青蒼の一番長い付き合いの幼馴染である、天茜(あませ) 緋姫薙(ひびな)の姿が見えた


「あ、おはよ」


「おはよう、朝飯何作ってんだ?」


「いつものトーストだよ。今日はイチゴジャム!」


「一昨日はブルーベリージャムだったよな?うちにそんな大量のジャムあったか?」


「意外とあったよ?青蒼のお母さんが私達の為に買っておいてくれたのかもね」


青蒼達が中学校を卒業してから、青蒼の両親は仕事の都合で青蒼を残して引っ越していた

その時に青蒼は両親から家の事を任されたが、青蒼の家に入り浸っていた隣人であり幼馴染でもある緋姫薙も家の事を任されており今となっては青蒼の家の事情をよく把握しているようになっていた


「まぁ俺たちの作れる朝食の事考えたら、ジャムがあるのは助かるな」


「トースト作るの簡単だし、ここ数日の朝食はトーストばっかりだったからね」


「最初は色々挑戦してたんだがな…まぁいいや、朝食ありがとう、早く食おうぜ」


「うんそうだね。いただきます!」


「いただきます」


青蒼と緋姫薙は手を合わせ、ジャムをつけたトーストを食べ始めた

トーストを半分ほど食べた青蒼は少し思案した様子で緋姫薙に尋ねる


「今日の予定はどうなってんだっけな」


「今日も琴乃ちゃんの家で集合だよ、琴乃ちゃんまだ体調良くならないんだって」


「そうか…明日から高校に行くんだし今日くらいは安静にさせた方がよくないか?」


「ダメだよ、琴乃ちゃんの寂しそうな顔見てらんないし、これ以上体調が悪化しないうちに皆で目一杯遊んで元気づけなきゃ」


「まぁ…分かったよ、んじゃさっさと準備するか。ごちそうさん」


「ん、ごちそうさま」


ここには居ない友人の事を想いつつ、トーストを食べ終わった二人は掃除や洗濯などを分担して行い手早く遊びに行く準備を済ませていった

準備が一通り終わり、鏡の前で寝ぐせを直すのに苦戦している青蒼に向かって緋姫薙が声をかける


「あ、そういえば、今日は皆で高校の制服着るらしいから青蒼もお願いね」


「それはまた唐突だな。どうせ明日着るからいいけどよ」


ようやく直った寝ぐせを確認しながら、長年使っている青い髪留めを前髪に付けると鏡には青い髪留めには不釣り合いな特徴的な三白眼の顔が映っていた

大人になるにつれて、昔から使っていた髪留めが似合わなくなっていく自分の姿に青蒼は苦笑いをしていると緋姫薙も準備が終わったようで青蒼の前に姿を現した


「じゃーん!どう?似合ってる?」


緋姫薙は先ほどの言葉通り高校の制服を身にまとっており黒色の長髪を赤い髪留めで後ろにまとめていて、とても活発そうな姿をしていた


「中学の時もそうだが、お前は制服がよく似合うな」


「にひひ、そうでしょそうでしょ、ほら!早く青蒼も制服に着替えて!」


「分かった分かった、しかしお前がいると着替えられんのだが」


「もー今更気にしなくてもいいのに、そろそろ陽愛が迎えに来るから早く着替えるようにしてね」


「おう」


緋姫薙がいなくなったのを確認して青蒼は新品の制服を手に取る

見た目こそ中学校の制服と大きな違いはないが、着てみると意外と新鮮な気持ちになっていた

自分の姿を鏡で見る青蒼であったが、その姿を覗き見ていた緋姫薙が声をかける


「うんうん、結構似合ってるじゃん」


「中学校の頃と特に変わりはないだろ、というか勝手に覗き見るな」


「着替えるの遅いんだもん、待ちきれなくなっちゃった」


「人の制服姿をどれだけ楽しみにしてたんだ…」


そんなやりとりをしていると玄関のインターホンが鳴り、家の外から元気な声が聞こえた


「ヒビちゃん!アオアオ!ついたよー☆!」


その特徴的な声は青蒼と緋姫薙の二番目に長い付き合いの幼馴染、御日奈(おひな) 陽愛(ひめ)のものだった


「ほら陽愛が着いたみたい早く行かなきゃ」


「全く…あいつもお前も朝から元気だな」


「それはそうでしょ明日から高校生なんだし!青蒼の元気がないだけ!」


「高校生になる実感が湧かないとか言ってたのは何だったんだ…まぁいい、取り敢えず行くか」


高校の制服姿に身を包んだ青蒼と緋姫薙が玄関の扉を開けると、そこには髪を桃色に染めた女子が笑顔で立っていた


「ヒビちゃん、アオアオ、おっはよ☆」


「おはよ、陽愛、一人で来たの?」


「うん、レー君はちょっと遅れるって☆」


「おはよう陽愛、今更ではあるんだが高校に入っても俺の事アオアオって呼ぶつもりか?」


「うん、そのつもりだけどダメ?」


「いや、別にいいんだが…これからも俺の名前は"あお"だって訂正する回数が増えそうだ…」


「にひひ、いつもの事だからいいじゃん。それより陽愛の制服すごい似合ってる!」


「ありがと!ヒビちゃんもすっごく可愛い☆!」


「そうでしょそうでしょ!あー早く琴乃ちゃんと綿華の制服姿が見たい!」


「二人共すっーごく可愛いもんね!ヒメも楽しみ☆!」


「いや本当に元気すぎるな今日のお前達…ほら早く行くぞ」


「オッケー!」

「はーい☆」


目的地まで歩いていく最中も元気に話していた緋姫薙と陽愛の姿に、まだ外に出て数分しか経ってない青蒼は既に疲れた顔をしていた

なんだかんだ高校生という新しい環境を楽しみにしている二人が、突然何かに気づいたように前方を見つめて声をあげる


「あ、あれ綿華と朧じゃない?」


「あ!ホントだー!おーい!メンちゃん、オボロン!おっはよー☆!」


陽愛の大きな声に気づいて振り返ったのは高身長の男女二人

一人は鋭い目つきだが優しそうな顔が特徴の男子、層巻(そうまき) (おぼろ)

もう一人はダウナー系の暗い印象が特徴の女子、入道(いりみち) 綿華(めんか)

この二人も青蒼達と付き合いの長い幼馴染であった


「ん?あの三人は青蒼達かな?」


「うわ…今日はいつにも増して元気ね…」


陽愛は綿華と朧を見つけると小走りで駆け寄り、綿華の制服姿をじっくり眺める

少し着崩した制服の上に濃い紫色のパーカーを羽織った姿は陽愛の目にはとても良く映ったようで


「メンちゃんの制服、可愛い!カッコいい!すごいよメンちゃん☆!」


「あぁもう鬱陶しい…分かったからアタシにくっつくのやめて…」


「にひひ、そんな事言って満更でもないんじゃない?」


いつの間にか後ろにいた緋姫薙も混ざり、女子三人はより一層盛り上がっていた

その三人を横目に朧は青蒼に近寄り話しかける


「どうやらお疲れのようだね?」


「明日から高校生だからか何なのか知らないが…緋姫薙も陽愛も今日はテンション高くてな…アイツが居れば多少はマシだったが…どうも遅れてくるらしくて俺一人に負荷がかかってる」


「ふふ、それは災難だね。確かにあんなにはしゃいでるのは久しぶりに見たかもしれない、それこそ中学校に入学する時以来かな?」


「あぁ、そういえば中学校に入学する時もあんなんだったか、全く…何から何まで全然変わってないな…」


「もしかしたら僕たちもあの頃から変わってないのかもしれないね」


「そうかもな、変わってないって良いことなのか悪いことなのか分からねえけども」


「多分…僕らみたいな子供は変わっていく方が良いんだろうね。ただ…自分にとって大事なものは変えない方がいいんじゃない?」


「おぉ、なるほどな。肝に銘じておく」


「いや…そんなに真に受けられると困るなぁ」


困り笑いを浮かべる朧の後ろから緋姫薙の声が響く


「二人ともー!早く琴乃ちゃんの制服見に行くよー!」


「おいおい、まだ男が二人いる事忘れてねえか?」


「ふふ、彼らのためにも早く行った方が良さそうだね」


そうして五人はほどなくして目的地に到着する

その目的地は一般的な一軒家であり、緋姫薙が話していた琴乃という女の子が住む家であった


「コノちゃーん!遊びに来たよー☆!」


インターホンを鳴らした陽愛が大きな声で琴乃を呼ぶと、家の中から玄関に向かって足音が聞こえてくる

足音が止まったかと思えば玄関の扉が開き、同時に男の声が響いた


「よっお前ら!お出迎えはオレっちが担当してるぜ」


「うわ、でた」


「うわってなんだよ!お出迎えが琴乃じゃなくて悪かったな!」


玄関を開けた男の子は金髪で耳にピアスをつけ黒縁メガネをかけた見た目をしていた

名前は月渡(つきわたり) 鷲伍朗(しゅうごろう)、この男子も青蒼達の幼馴染である


「鷲が出迎えたってことは、もしかして星澄の体調は良くないのか?」


「いや琴乃が出迎えたらオレっちの制服姿のインパクトが薄れちゃうだろ?だからオレっちが先にお披露目ってワケ、琴乃はそこそこ元気だぜ」


「もー☆!ゴロちゃんの制服姿がカッコいいのは分かったから、早くコノちゃん見せてー☆!」


「スゲー雑に褒められたな…っと琴乃の制服姿の前に一人足りねえぞ?遅れてんの?」


琴乃の家から出てきた鷲伍朗はこの場に居ないもう一人の幼馴染を案じると、背後から少年の様な声が全員を呼び止めた


「おーい!ごめーん!遅れちゃったー!」


「お、遅刻少年が来たね」


「レー君遅いよー☆!早く早くー☆!」


「ごめん皆、ドローンの調整に時間かかっちゃって…」


腰に小型ドローンとコントローラーを身に付けて走ってきた中性的で灰色の髪が目立つ男子は、御日奈(おひな)コートレール

御日奈陽愛の義理の弟であり彼もまた幼馴染の一人だった


「レール…お前の制服大きくないか?サイズとかちゃんと合わせたか?」


「あはは…ボクもそう思うんだけど、お父さんが『お前はこれから成長するから』ってちょっと大きめのものを着させられてね…」


「んふふ、ヒメは似合ってると思うよ☆!」


青蒼の尋ねにコートレールは自分の身体に合ってない制服を触りながら困り顔で笑う

身長が低く幼い顔立ちのコートレールは小学生に間違われる事が多いが、青蒼達と同じく明日から高校生であった


「よーし、これで全員揃ったな!琴乃が待ちくたびれてっからよ、ほら上がって上がって」


「…まるで自分の家のように振舞うわね…コイツ…」


鷲伍朗は我が物顔で琴乃の家に全員を招き入れると、そのまま琴乃の部屋の前までやってきて扉をノックした

緋姫薙が扉に声をかけると、扉の向こうから返事が聞こえる


「琴乃ちゃん、入っても大丈夫?」


「う、うん、大丈夫、だよ」


「はーい!おっじゃましまーす☆!」


とびきり元気な声を出して入室した陽愛に続き、六人が琴乃の部屋の中に入っていく

部屋の中は勉強机や本棚などが置いてあるごくごく普通のありふれた部屋で、部屋の端にあるベッドの上には小柄な女の子が座っていた

彼女の名前は星澄(ほしずみ) 琴乃(ことの)、茶色の髪と気弱そうな笑顔が特徴の女の子である

琴乃の体が弱いこともありこの八人の幼馴染達の遊び場は琴乃の部屋が多く、さほど広くもないこの部屋に八人が集まることも珍しい光景ではなかった


「コノちゃんの制服小っちゃくて可愛いー☆!」


「陽愛ちゃん急に抱きしめないで、恥ずかしいよ…」


「体調は大丈夫か?」


「多分大丈夫、かな?今は辛くないよ」


「一昨日はずっとぐったりしてたもんね、今日は元気そうで良かった」


「えへへ、皆のおかげだよ」


「オレっち達は遊んでるだけって感じだけどな」


陽愛が琴乃を抱きしめるのを当然のように受け流して、六人は思い思いの場所に座って窮屈ながらもくつろぎ始めた


「あーやっぱり琴乃ちゃんの制服姿可愛い、私も抱きしめていい?」


「え?は、恥ずかしいよ…」


「琴乃…もっとはっきり断らないとこいつら聞かないわよ…」


「うん、そういうこと!というわけで私もー」


「え、えええ」


困惑する琴乃をよそに緋姫薙も琴乃を抱きしめはじめ、その様子を青蒼は慣れた様子で話しかける


「それで、今日は何をするんだ?まさか制服鑑賞会ってわけじゃないだろうな」


「僕としては制服鑑賞会でも悪くないけれどね」


「朧…男がそれ言うとただ気持ち悪いだけよ…」


「あはは…ボクも制服鑑賞会なら良いと思うよ」


「でも制服着て集まろうって言ったの鷲じゃなかった?そんなに制服姿が見たかったの?」


「制服姿が見たいのはモチロンそうなんだが、家の中で出来る遊びもやりつくしたし気分転換に制服着て集まるってのもナイスアイデアだと思わねえ?」


「うんうん☆!コノちゃんのこんなに可愛い姿も見れたしナイスアイデアだよ!ゴロちゃん☆!」


「別に制服自体は明日でも見れたわよ…それにやることがないのは変わらないけど…何か考えてあるんでしょうね?」


「入道さんよぉ、オレっちをナメてもらっちゃ困るぜ。それについてもナイスアイデアがあるんだよ、何だと思う?」


「うわ、ウザ…」


「今のはウザかったね、私も同意」


「ゴロちゃんめんどくさいから早く教えてー☆!」


「わ、わたしは何とも思わなかった、よ?元気だして、鷲くん!」


「うぅ、琴乃のフォローだけがオレっちの癒しだ…」


「いいから早く教えろ」


女子三人からの文句に泣き真似をした鷲伍朗であったが、特に気にした様子もなくニヤリと笑い自分のアイデアを口にした


「自己紹介だよ、自己紹介」


「自己紹介?どういう事だ?」


「ほら、明日は高校入学と同時に新しいクラスとの初顔合わせだろ?高校なら知らない顔もめっちゃ居るだろうから自己紹介の練習を先にしとくってわけよ」


「自己紹介って練習するものなの?」


「…普通はしないでしょ…」


「ふふ、まぁしないだろうね。でも僕は賛成かな、あらかじめ練習しておけば当日恥ずかしい思いをしなくていいだろうし。特に星澄くんは緊張するタイプだろうから」


「う、うん。わたし上手く言えないとおもう…」


「ボクも賛成だよ。いつも何を言うか迷っちゃうし」


「ヒメもさんせーい☆!皆の自己紹介聞きたーい☆!」


「一人だけ趣旨を理解してない奴がいるが…特にやることもないし暇つぶしにはなるからいいんじゃないか?」


「えー…めんどい…」


不満そうな口ぶりの綿華だったが、その提案をはっきり断ることはなく自然な流れで自己紹介の順番が決まろうとしていた


「じゃあ言いだしっぺのオレっちがトップバッターだな」


一番初めの自己紹介は鷲伍朗に決まった

だが長年の付き合いなのか鷲伍朗がどんな自己紹介をするのか何となく察している七人を前に、鷲伍朗は自信ありげに喋り始める


「オレっちの名前は月渡(つきわたり) 鷲伍朗(しゅうごろう)!月を渡る鷲って覚えてくれよな!」


「おい、伍朗はどこ行ったんだ」


「はいそこ喋らない。…ゴホン、気を取り直しまして、オレっちのモットーは人を楽しませる事!そして特技はマジック!つーわけで今日はお近づきの印に一円玉瞬間移動マジックを披露してみせましょう!」


その突拍子のない宣言に満面の笑みで拍手をする琴乃と予想通りの発言に苦笑いで拍手をする六人がいた


「ここに何の変哲もない一円玉があります。これを右手の親指ではじいてっと」


鷲伍朗が空中にはじいた一円玉は綺麗に回転し、ある程度の高さまで行くと重力に従って落下し始めた

落下している一円玉を右手で素早くキャッチすると、鷲伍朗はニヤリと笑いその右手を開けるそこにはキャッチしたはずの一円玉は無くなっており、わざとらしい口調で鷲伍朗は告げる


「おっと、もしかしてどっかに落としちまったかな?だが安心してくれ、今無くした一円玉なんだが…オレっちが指を鳴らすだけでちゃんと戻ってくるからさ。じゃあいくぜ?3、2、1…」


カウントダウンが終わると同時に左手の指を鳴らすと、まるで瞬間移動したかのように鷲伍朗の左手に一円玉が現れる

七人の拍手を満足気に聞いた後、鷲伍朗は自己紹介の締めの言葉に入った


「以上!オレっちの自己紹介でした!ご覧いただきどーもありがとう!」


「びっくりするほど想像通りの自己紹介だったね」


「そのマジックもう百回くらい見た覚えがあるな」


「ゴロちゃん、ヒメは他のマジックも見たいな☆」


「ムチャなこと言うなよ~オレっちの中学時代はこのマジックを習得するのに精一杯だったのは知ってんだろ?」


「う、うん、鷲くんすごく頑張ってたから、知ってるよ?」


「…習得するならもっと目立つマジック覚えなさいよ…教室の全員に見せるのに一円玉は小さすぎると思うんだけど…」


「うぐっ、痛いところを言ったな…」


「まぁまぁ、僕たちはタネも仕掛けも分かってるから驚きは少ないけど、初めて見る人からしたら結構楽しんでくれるんじゃないかな」


「習得に三年かけただけあって結構上手いからな、指で一円玉を挟んで隠してるだけなのに意外と分からないもんだ」


「うんうん、ボクも初めて見たなら騙されちゃうかも」


「そうだろそうだろ?これは人気者間違いなしだぜ」


「……自己紹介でマジックして人気者になろうとするのは考えが浅いわね…」


想像通りの自己紹介ではあったが、そこそこの盛り上がりを見せて次の自己紹介に移ろうとしていた


「じゃ、じゃあ、次はわたしが言います!」


顔を赤らめながらも、気合いを入れるように大きな声で宣言した琴乃に七人が盛大な拍手を送る


「え、えと、わたしの名前は、星澄(ほしずみ) 琴乃(ことの)、です。あの、名前の覚え方は、星の澄む、琴の…あれ?琴の…乃?」


「あぁもう琴乃ちゃん、無理に鷲の真似しなくて大丈夫だから」


「え、えへへ、そうだよね。わたしのモットーは元気に生きる、こと?特技は、ないけど…趣味は星を見ること、です。え、えとマジックとかはないです!ごめんなさい!」


「安心しろ、自己紹介でマジックを披露するのは変人だけだから」


「おい、オレっちのことを変人扱いするんじゃねえ」


「…十分変人だわ…アンタ…」


「それにしても思ったよりスラスラ言えたね?明日もその調子で頑張って!」


「う、うん、ありがとう、レール君。人前に立っちゃうとダメかもしれないけど、頑張る!」


「失敗しても大丈夫☆!コノちゃんならどんな姿も可愛いから☆!」


「そ、それは大丈夫なの、かな?」


「にひひ、大丈夫大丈夫!ほら可愛いは正義っていうし、可愛かったら何とかなるよ!ということで次は綿華いってみよう!」


「…何がということでなのよ……まぁいいわ、どうせやらなきゃいけないみたいだし…」


「ふふ、綿華の自己紹介を聞くのは僕も楽しみだよ」


「……キモい」


いやいやながらも七人が見える位置に移動すると、綿華はけだるそうに自己紹介を始める


「……アタシの名前は入道(いりみち) 綿華(めんか)…趣味は花の観察…以上」


「流石入道ちゃん…凄く簡潔だ…」


「簡潔ってか短けぇよ!オレっちの五分の一も喋ってねぇじゃん!」


「鷲は喋りすぎなだけだがな、それを置いといても今のは近寄りがたい雰囲気が出てるな」


「僕はいいと思うよ。何よりもこの雰囲気で花の観察が趣味というのも味があって良いと思うな」


「……本当にキモい」


「オボロンの好みも分かるけど~メンちゃんはもっと元気出していかないとダメだよ☆!せっかく可愛い趣味があるんだから☆!」


「…誰かと仲良くするつもりないから、自己紹介なんか適当でいいでしょ…」


「ふふーん、それでも綿華は私達とは遊んでくれるんだよね~ほんとやさし~な~」


「……言わなきゃ良かったわ今の…」


「それじゃ綿華の次は僕の番かな」


そう言って朧が立ち上がると高身長の朧を見上げるようにして七人は聞く態勢に入る


「僕の名前は層巻(そうまき) (おぼろ)。生きるうえでのモットーとか趣味とか特技は思いつかないけど、仲良くしてもらえると嬉しいな。いや一つだけ好きなことはあるかな、僕の好きなことは華を見ることだね。そういうことでこれからよろしく」


華という言葉の部分に特殊な意味が含まれているのを七人は察して、陽愛は笑顔で拍手し男子三人と琴乃は苦笑いし、残りの女子二人は軽く引いていた

そんな状況を朧は爽やかな笑顔で受け流していたが、しびれを切らした綿華が口を開く


「……それ冗談じゃないくらいキモいから絶対言わないでよ…」


「ふふ、綿華がそういうならやめておこうかな」


「朧は綿華が好きなのを一切隠さないよね~…普通は恥ずかしがると思うんだけど」


「あ、あはは…わたしには出来ないなぁ」


「ヒメはいいと思うな☆!好きなことは好きっていわないとね☆!」


「ありがとう陽愛くん。僕もそう思うよ」



「俺はあいつの実直さがたまに羨ましくなるんだが…」


「奇遇だなオレっちもだぜ…」


「うん…ボクも…」


男三人が小声で共感しあっているなか、次の番が決まったようで陽愛が大きな声で手を挙げた


「はーい☆!次はヒメがやりまーす☆!」


「……一番問題なのが来たわね…」


「ヒメの名前は御日奈(おひな) 陽愛(ひめ)っていうの☆!ヒメの事はヒメって呼んでもらえると嬉しいな☆!モットーは可愛く生きること☆!好きなものは『魔法少女マジカル☆ピュアガール』☆!ヒメもいつか魔法少女みたいに可愛く魔法が使えたらいいなって思ってます☆!みんなヒメと仲良くしてね☆!これからよろしく☆!」


今までで一番のテンションとスピードで放たれた陽愛の自己紹介に置いて行かれそうになる七人だが、何とか青蒼が言葉を告げる


「…色々言いたいことはあるが…高校生って魔法少女もののアニメを見てるって公言するものなのか…?」


「うーんどうだろう?…少なくとも私の知ってるなかだと陽愛しかいないかなぁ」


「えー☆!?あんなに可愛いのに☆!?」


「う、うん、わたしもちょっと見てたけどそれを言うのは少し恥ずかしい、かな?」


「……あと可愛く魔法が使えたらいいなって何よ…あんまり変な事言うとイジメられてもおかしくないわよ…」


「ヒメは思ってること言ってるだけだもん☆!」


「喋り方も特徴的だし自分の事ヒメって呼ぶし、オレっち達とつるんでなかったら嫌な思いしてたかもしんねぇなぁ」


「自分の事をオレっちって呼ぶ鷲は、人の事を言えないんじゃないのかい?」


「そーだよ☆!変なのはヒメだけじゃないもん☆!レー君も絶対変だから☆!」


「ええ!ボク?」


「あぁ確かに俺たちの中で一番個性的だからな」


「うーん、それでも皆には敵わないと思うよ?」


「…ならやってみれば?…アタシ達が判断してあげる」


綿華にそう言われ、言葉を選ぶようにコートレールは自己紹介を始めた


「ボクの名前は御日奈(おひな)コートレールって言います。名前から分かるとは思いますが、日本人じゃないと思います。と言っても生まれた時の記憶が無くて本当の両親を知らないので確かな事は分からないんですけど…唯一覚えてた名前がコートレールだったのと、この灰色の髪は地毛なので多分日本人じゃないです。趣味はドローンの改造と、ドローンで写真を撮る事です。一年間よろしくお願いします。」


「…変な自己紹介だったわ…」


「私もそう思う」


「やっぱり変だったね☆!」


「あ、あはは、大丈夫レール君、皆も変だから!」


「うぅ…でもボクの自己紹介ならこう言うしかないじゃん!」


「いやまぁそりゃあ、そうなんだけどよ…。小学生みたいな見た目で元記憶喪失で両親が分からなくて日本人じゃなくてドローンが趣味って…マジで個性盛りまくってんな」


「印象に残る自己紹介としてはバッチリだと僕は思うけどね」


「俺の言った通りだろ?一番個性的だって」


「そこまで言うなら青蒼の自己紹介も聞いてみたいな!青蒼も絶対変だもん!」


「おいそんな事言われたらやり辛くなるだろうが」


「にひひ、じゃあ次は青蒼の番ね!」


「うそだろ…」


半ば無茶ぶりのような繋ぎ方をされた青蒼は渋々立ち上がり自己紹介を始める


「俺の名前は黒空(くろぞら) 青蒼(あお)。名前を漢字で書くと青と蒼で二つあるが読み方は"あお"だから間違えないでくれると助かる。日課でランニングとかしてるんだが、趣味と言われると…あー、なんだ、趣味は寝ることだ。そんな感じでよろしく」


「……安心しなさい青蒼、アンタもそこそこ変な自己紹介だったわ…」


「あはは!青蒼もボクの事、個性的だなんて言えないね!」


「俺としては無難にやったつもりだったんだが…」


「ふふ、ちょっとクールぶってるのも青蒼の良いところだと僕は思うよ」


「朧には言われたくないセリフだな、それは…」


「わ、わたしもよく寝てるから、趣味が寝る事でもおかしくないと思う、よ」


「琴乃の場合好きで寝てるわけじゃないっしょ…っつーか日課がランニングなら趣味が運動って言っても良かったんじゃね?」


「いや、それはそうなんだが…若干違うというか」


「あーはいはい、いつものやつね。それならやっぱり変じゃねえか」


「あはは☆!レー君が言った通りアオアオも変だったね☆!」


「ふっふっふ、皆は自己紹介で普通は何を言うのか分かってないね!」


「…緋姫薙、そんな事言うアンタは普通なんでしょうね…」


「あったりまえよ!自己紹介って普通は将来の夢を言うんだよ?私がお手本を見せてあげる!」


最後の番となった緋姫薙は元気よく立ち上がり眩しいほど明るい笑顔を浮かべた

もはや何を言うか分かりきった七人は静かに笑い合い緋姫薙の言葉を待った


「私の名前は天茜(あませ) 緋姫薙(ひびな)!好きなことは夢を見ること!」


「将来の夢は?」



「将来の夢は、皆と一緒に夢を見ること!」



「……やっぱり変ね、アタシたち」



その言葉で部屋の中に笑い声が響く


そんな日々が、彼ら彼女らにとっては普通だった




□ □ □ □ □ □ □ □




夕暮れまで遊んだ八人は夕飯の時間になると各々が自分の家に帰っていった

日課のランニングを終え、夕飯を食べ、入浴と寝る準備を済ませた青蒼と緋姫薙はリビングのソファでくつろいでいた

一度自分の家に帰っていた緋姫薙は夜になると必ず青蒼の家にやってくるのだが、今日はいつもより一段と眠そうにしていた


「おい緋姫薙、寝るならベッドで寝ろ。風邪ひくぞ」


「んん…分かったぁ…青蒼も早く来てね…」


「おう」


漫画を読んでいた青蒼の横で眠りかけていた緋姫薙がのそりと動く


「夢を見る、か。俺と緋姫薙にとっては普通の事なんだがな…」


今日の八人で遊んだ時の事を思い出し青蒼は思案する


「もう14年くらいか…」


しかし思案していたせいか、はたまた眠そうな緋姫薙につられたのか青蒼の瞼もだんだんと落ちかけていた


「ダメだな…明日から高校なんだし俺も早めに寝るか」


読んでいた漫画を元に場所に戻し、リビングの電気を消した

暗い家の中を迷わず進み、自分の部屋の扉を静かに開ける



青蒼の部屋のベッドには静かな寝息をたてて、緋姫薙が眠っていた


「…何年経っても慣れないな、これは…」


自然な足取りで、それでもほんの少しだけぎこちなく緋姫薙の眠るベッドに入っていく青蒼

起こさないように緋姫薙をベッドの奥に押しやり、何とか触れないくらいの距離をつくり青蒼は目を閉じる


ほんの数分もすると緋姫薙の寝息に青蒼の寝息が重なっていた

いつの間にか繋がっていた二人の手は、夢を繋げたあの日からの習慣そのもので


今日もまたいつもと変わらない日常が終わっていく






〇 〇






「ん、もう来たんだ」


「どうやら今日はいつもより遊び疲れてたらしい」


「にひひ、私も多分同じ」



上を見上げても下を見下ろしても限りなく広がる空の世界に、二人はいた


青蒼の髪は青空のような色に染まり、緋姫薙の髪は夕焼け空のような緋色に染まっていた


緋姫薙は自分の身長程の大きな斧を持ち、背中や腰にはジェット噴射口のような機械を装着していた



「それじゃ、さっそく始めようか」


「あぁ」



まるで遊びに誘うかのような軽い口調の緋姫薙が身をかがめ姿勢を低くすると、装着したジェット機構が爆発するように赤い光で輝く



その瞬間、緋姫薙は夢の世界で空を飛んだ


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