1#04
「あれ。今帰り?」
生徒会室に戻ると、馴染みのある青年に不思議そうに尋ねられた。
「そうだけど」
「なんや、やけに遅かったなァ」
回転式の椅子をクルクルと回しながら、青年はコーラ味のチュッパチャップスを舐める。
アシンメトリーの黒髪に一筋走る赤メッシュ。
それがコイツの馬鹿さを一層際立てているのではないかと、椎名はいつも思う。
「人助けしてたんだ」
「ハァ?」
椎名の言葉に、青年は素っ頓狂な声を上げる。
予想通りの反応。なんてこの馬鹿は分かりやすいんだ。
「椎名が人助け!?そんな馬鹿な」
「ほんとだって。会議室まで案内してあげたんだから」
「会議室?っちゅー事は新入生かいな?」
「うん。友達第1号になった」
そう言うと、青年は盛大に吹き出した。チュッパチャップスは何とか口に収まったままだ。
汚いな、と眉を寄せながらも、椎名は自分の席に着く。
使い慣れたシャープペンシルを手に取った。
カチカチ。
円柱型の頭をノックする。
カチカチ。
「し、椎名に友達って…」
爆笑する青年。彼が肩を揺する度、左右の耳に付く金のピアスが見え隠れ。妙な痛々しさを感じる。
カチカチ。
ノックする手は止まない。
椎名のその美しい唇が、緩く弧を描く。
「ほんと、笑っちゃうよ。……反吐が出る」
カチカチ。
無駄に出された長い芯を、椎名は一思いにへし折った。