1#02
前下がりのダークブラウンの髪。中性的な顔立ちには、そんな髪型がよく似合っていた。
奏はごくりと喉を鳴らす。
不意に響いた声に振り向くと、すごく綺麗な人が立っていた。背は奏より10センチくらい高い。
「何、してるの?こんな所で」
「えっ…」
心なしかどこか棘のある言い方。思わず身を竦める。
もしかしたら不審者か何かと間違われているのかもしれない。だとしたら早く誤解を解かなければ。
「あ、えと…。学校説明を受けに来たんですけど、会議室の場所が分からなくて…」
弁解すると、疑うようにジッと見つめられる。綺麗な、漆黒の瞳。それを縁取るように並んでいる睫毛は、女性のように長く艶やかだ。
しばらくして、綺麗な青年はほぅ、と小さく息を吐いた。
「どうやら本当に新入生みたいだね」
一体どこを見て判断したのだろうか。荷物?それとも身長?だとしたら少し切ない。
「君、名前は?」
「あ、日向奏です」
「かなで?男にしては変わった名前だね」
「そ、そうでしょうか…」
変わっているだろうか。確かにたまに聞き直される事もあるが。
何だか少し、ムッとしてしまう。
すると、それに気付いたように青年が奏の頭を優しく撫でた。
「ごめんね、馬鹿にした訳じゃないんだ。ただ、珍しいなぁって思っただけ。でも、凄く綺麗な名前だと思うよ」
にっこりと微笑まれて、自然と顔が赤くなる。
こんなに綺麗な人を男にしていて良いのだろうか。
「奏、って呼んで良いかな」
笑顔のままそう尋ねられて、首を縦に振る。
「じゃあ、奏。おいで、案内するよ」