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夢の異世界召喚に向けて努力を続けた高校生の出来事

作者: ヤシオ

俺は甲斐忠信。16歳の高校2年生。三度の飯よりラノベが好きだ。

中でも異世界転移モノが好物で、いつか俺の身にも異世界転移が引き起こされると信じている。

異世界へ行っても、正直ハーレムなんか要らない。ハーレムとか気疲れが凄そうだ。

俺はとにかくチート能力で魔王を瞬殺し、俺TUEEEEEして現地の人を救いたい。

だから、俺は今、暇さえあれば木刀で素振りをする。

今・・・!NOW、素振り!


─────シュッ!ッシュ!

「お母さんあれなに?」

「・・・指さしちゃいけません。行くわよ」

「へんなのー」


他人の声が聞こえた気もするが、そんな事は関係ない。

他人の目を気にして鍛錬を怠っていては、異世界転移した時に後悔するのだ。

俺は、今出来る事を頑張る。明確な夢があるのだから。


俺は、異世界へ行ったら現代知識チートで現地の人々を笑顔にしたい。

俺が文明の発展に貢献するのだ。

だから、俺は今、暇さえあればWikipediaで知識を検索し、ノートに書きこむ。

このノートは一時も欠かさずに身に着けて歩いているものだ。突然転移した時に持っていける状態でなければ意味がないからな。


「お母さん・・・またお兄ちゃん何か書いてる・・・」

「・・・もう広辞苑みたいな分厚さになってるわね・・・あの情熱を勉強に向けて欲しいわ・・・ハァ・・・」

「あれ毎日手にもって登校するから、私も友人から、お前の兄貴二宮金次郎じゃね?って言われるのよ・・・」

「あらあら・・・二宮金次郎さんに申し訳ないわねぇ・・・」

「そっち?!いや、そうじゃなくて私も恥ずかしいのよ・・・」


む?さっきから雑音が聞こえるが、多分気のせいだろう。

集中力が足りない証拠だろう。

気合を入れる為に頬を両手で強く叩いて再びwikipediaと真剣に向き合う。


「お母さん、見た・・・?今の何・・・?」

「怖いから好きにさせておきましょう・・・」


現地の人、待っていてくれ。

この世界の知識を詰めた聖書を携え、俺はきっと君たちに会いにいくからな。


*******************************************


俺はリュックを背負い、聖書を片手に持って今日も高校へ登校する。

リュックの中身は勿論サバイバルセットを常備している。

何時、如何なる時に召喚されないとも限らないのだから。

チョコバー10本、アルファ米の非常食30食、LEDライト、電池、太陽充電式モバイルバッテリー、糸鋸、皮手袋、保温シート5枚、ごみ袋70ℓ30枚、水2ℓペットボトル3本、水筒、電子ライター3個、警棒、サバイバルナイフ2本。

これでもまだ足りないのではないかと少し不安なのだが、何気に水が重い・・・。

まあ、最低限これだけあれば召喚された場所が魔の森だったとしても街まで辿り着けるのではないだろうか。

警察に呼び止められた場合に確実に危険がアブナイ状態になりそうだが、夢の為なので多少のリスクは許容している。

警察に俺の異世界召喚を阻ませはしないのだ。


「・・・なぁ、アイツいつも凄いでかいザック背負ってるよな」

「ああ、2組の甲斐か・・・。あれは中学生の時から荷物が凄いんだよ。被災したのかと思うよな・・・」


何か聞こえるが、夢の為なら人の目など───略。

まあイチイチ反応なんかしてやらないが、こいつらは突然異世界召喚された時の事を考えていないのだろうか?

どいつもこいつも気を抜きすぎじゃないか?

これが平和ボケというやつか。日本人は油断が多すぎると思われる。


「荷物もそうなんだけどよ、あの手に持ってるの何?広辞苑?」

「何だろうな・・・。誰も知らねぇんだわ」

「え?あんな目立つのに誰も聞いた事ないの?」

「あぁ・・・。あれについては、誰も知る物が居ない・・・」

「何だよその禁書的な奴。俺が聞いてきてやr」

「馬鹿野郎!お前殺られるぞ!!!」


出来るだけ周囲の声は無視しているのだが、さすがに突然の大声に俺もビクっとしてしまう。

いかん。明鏡止水が出来ていないようだ。

帰ったら修行だな。


「び、びっくりした。突然でかい声出すなよ」


ああ、君も驚いたか。そうだよね、声でかかったし。


「わ、悪い・・・。前に1組の木村があの本を無理やり見ようとしたんだが、あの本の角で顔面殴られて前歯折ったんだけど、その報復をしようとしたら木刀で返り討ちにあったみたいなんだよ・・・。ボッコボコだったらしいぜ・・・」

「え?!まじ?木村ってあの悪い奴だよな?皆近寄らない・・・」

「そう、その木村」

「しかも、ボッコボコ?!こ、こえぇ・・・」


失礼な奴らだ。そりゃあ俺の聖書に悪さしようとしたのだから、天罰の一つや二つ下ろうというものじゃないか。

ていうか、アイツら俺が会話聞こえてるなんて思ってないんだろうか?

普通に失礼な会話してないか?

俺はちらっと奴らの方へ視線を投げる。


「「ヒッ・・・」」


彼らは静かになった。

今日もこれで静かで平穏な1日になるだろう。俺には話す友人は居ない。

現代で虐げられた人間こそが転移先で主人公補正が得られるという物なのだ。

待っていてくれ。俺の異世界人達。君らの勇者は力を蓄えているところだ。


*******************************************


校門に差し掛かった時、地面から光を感じた。

とても強く発光しているようで、とても眩しい。

ヘッドライトをハイビームにされているくらい眩しい。

まったく、今日は誰が何の悪戯をしてきたのだろう?

っと思いそうになったが、そう言えば俺と関わろうとする奴なんて居なかった。

少し切なくて、悲しくて、瞼が熱くなってくる。

そんな事より、ひょっとしてコレって、アレなんじゃね?

───ッおいおいおい!ついに来た?!キタキタキタキタ!!

狂喜乱舞しそうな心を何とか平常心に持っていこうとするが、やばい。アドレナリンが止まらない。ブッシャブッシャと湧き出てくる俺のアドレナリン!


「おいおいおい、遂にお迎えが来ちゃいましたか?!うっひょおおおおおお!」


止まらないアドレナリンが口からも言葉として吹き出てしまう。

眩しいながらも観察すると、輝く光は図形っぽくなっている。

これはもう、確定じゃないでしょうか?

すると、光が段々と強くなり、目なんか開けていられなくなった。


「わっ何だなんだ?!」

「や、やばっ」


ああ、俺の巻き添えでさっき会話してた奴らも召喚されるパターンかなこれ。

まあ俺が付いてるから安心するがいいぜ。

おっと、光が収まったか。さて、状況確認を迅速にするか。

召喚先が魔の森でデスゲームパターンが一番やばいからな・・・。

そっと目を開いて周囲を伺うと、石畳の部屋で俺達を囲うようにローブ姿の人たちが立っているようだ。

───ハイハイ。このパターンの奴ね。

多分、あの女の人が王女で、今から説明がはじm・・・


「ようこそ、勇者様方!」


ハイ来た。来ました。ハイ、俺が勇者様ですよー。


「よお、何でアイツ・・・甲斐だっけ、ドヤ顔なんだ・・・?」

「シッ!今は話聞いとくとこだ!多分・・・」


うっせ。ドヤ顔なんかしてません。

・・・ごめんね、ちょっとしてたかも。だって俺勇者だし。


「貴方達4人は、勇者として我が国が召喚させて頂きました。先ずは、お詫びを申し上げさせて下さい・・・。皆さまにも家族や生活があったはずなのに、このように一方的に召喚するような事をしてしまい、本当に申し訳ありません・・・」


深く頭を下げる、自称王女。

なーぁるほどねぇ。このパターンのやつ。イージーモードのやつだね。

悪巧みをして召喚した訳でなく、本当に困っているのだろう。

このパターンは目的を達成したら帰れる奴じゃないか?


「まあ、状況が良く解らないんだが・・・状況が解るまでその謝罪は受けられないです。まずは説明をお願いできますか?」


巻き込まれた高校生Aが冷静に大人な対応を取る。

Bも深く頷いているぞ。

おや、そういえば4人って事は、もう一人誰か召喚されたんだよな?

右を見るが誰も居ない。

左を見ると巻き込まれた人AとBが居る。

という事は背後・・・を見ると、仏頂面の魔王が居た。


「何よ」


あ、かなり不機嫌だこの魔王。


「いや、何でもない」


冷静を繕って、俺は即座に女王に目線を戻す。

困ったな。魔王を倒すって言っても、俺には妹を倒せる想像がつかないぞ。

確かにテンプレパターンには、兄弟が勇者と魔王に分かれるパターンがあるけど、そこは想定しなかったな・・・。

よりによって、それかよ・・・。


「ねえ」


昔から俺は妹には勝てないんだよ・・・。

だから、家で母親と一緒になって俺の陰口言ってるの知ってても無視してやり過ごしてたんだしな・・・。


「ねぇったら!無視な訳?!」


あ、やべっ。ヒステリーの前兆だ。反応しとこっと。


「何だ、魔王」

「誰が魔王よ!」

「痛っ!痛い!ごめ、ごめんってば!」


全く、気に食わないと直ぐに暴力だ。だから魔王は困る。

俺の可愛い向う脛が折れちゃうじゃないか。


「私たち、帰れるのよね?」

「さあ?まあこのパターンなら帰れるんじゃないか?」

「このパターンって何・・・まあいいわ。どうやって帰るのよ?」

「魔王を倒すんじゃないか?」

「誰が魔王よ!」

「痛い!痛いってば!」


俺が怯えた目で震えながら妹を見つめていると、王女の話が問い掛けに替わった。


「皆様の名前をお聞かせ願えますか?」


正直助かった。ここで気持ちをリセットしよう。


「タダノブ カイだ。俺がこの世界を救って見せよう」

「ププッ。只のモブかいって聞こえた。アンタにピッタリね」

「・・・」


くそ。ここにきて何てこと言ってくれるんだよ、まお・・・妹よ。

モブ的なフラグ立ったらどうしてくれる?!


「あたしは甲斐美咲よ。魔王って言ってたけど、人類はそんなに苦しい状況なのかしら?」


妹よ。そしてお前は何故にそんな偉そうなのだ。権力者相手に横柄な態度だと、お兄ちゃんはヒヤヒヤしちゃうぞ。


「はい。それで、魔王軍はもうこの王城の目と鼻の先迄迫っているのです。この城が落ちる事があれば人類は最終防衛線を失う事になります・・・」


Oh・・・かなり切羽詰まった状態で召喚してくれたものだな。

いくら俺が勇者だと言っても、もう少し早く言って欲しかったよ。

こうなれば動くのは早い方が良いだろう。


「待ったなしという事ですね。早速、動きましょうか!」


俺が言おうと思ったのにぃ~・・・。

妹に抑圧されている間に、巻き込まれた人Aが俺達の代表みたいになってる。

まあ良い。力は俺にあるはずだ。交渉役はAに任せよう。

そう言えば、チート能力ってどうやって確認するんだろう。


「ステータスオープンッ!」


俺は叫んだ。腹から声を出した。

・・・何も起きなかった。

ああ、ハイハイ。自力でステータス開けないパターンの奴ね。


「恥ずかしい真似してんじゃないわよ!」

「痛っ!痛いってば!」


本当に、ウチの魔王は強すぎる。そろそろ俺の脛も限界を迎えそうだ。

それにしても、チート能力は知って置いた方がいいと思うんだけどなぁ。

どうやって確認するんだろう?

この世界独自の技術で確認するのかな。ほら、魔法的なアレでさ。

ここは聞いて置いた方が皆の為だろう。


「あの、すいm」

「伝令!伝令!魔王軍が突撃して来ました!このままでは城壁は30分と持ちません」

「何ですって?!ゆ、勇者様!慌ただしくて申し訳ありませんが、お力沿いをお願いします!このままでは人類は終わってしまいます!」

「いや、そのm」

「そうね!行くわよ!」

「では、こちらへお越しください!」


アーッ!聞きそびれた!妹のせいで!

でも、逆らえないしなぁ・・・。

まあ、テンプレ的に考えてコレはチュートリアルだろう。

ここで戦いを覚える。ってことは、ここで戦いながら能力を把握するのか。

・・・なるほどな。妹よ、俺の英雄伝説の始まりをその目に焼き付けるがいいわ!


*******************************************


『人類よ!今日と言う日が貴様等の最期の始まりとなるのだ!さあ、絶望をその身に味わい、魂を混沌に染め上げ、我の贄となるが良い!』

「くっ!魔王がまさか自ら攻めて来るだなんて・・・。打つ手がないわ・・・」


王女の表情は絶望に染まっている。


「我が娘よ。最期の時は共に過ごそう・・・」

「はい、王・・・いえ、お父様・・・」


王女と王様は肩を寄せ合い、最期を覚悟している。

というか、王様ダンディだ。声も渋くって、耳元で囁かれたら女なんて簡単に落とせそう。

うらやまs・・・俺は硬派だから全く関係ないのだが。

さてと、ここから逆襲だ。まずはチュートリアル戦闘をサクッと片付けますか。


「まだ俺達が居ます。そのために召喚したのでしょう?」


決まったぜ。ついに俺は言ってやった。


「いや、如何に勇者といえど、召喚して直ぐでは厳しいのではないか・・・?貴方達には召喚されてすぐ負け戦などと言う希望も無い境遇にさせてしまい、本当に申し訳ないが・・・」


王様も自らの身が危ないと言うのに謝罪の言葉をくれる。

ああ、この王族ならば力になってあげたいな。本当にそう思う。

その時、巻き込まれBが叫ぶ声が耳に入った。


「これ、特定の武器持てば使い方が流れ込んでくるぞ!こ、これチートじゃね?!」


ナ、ナンダッテー!!!お、俺も武器!武器を!


「あ、ほんとね!私は魔法なのね!」


妹は魔法か。流石魔王。イメージ通りじゃん。


「おっと、俺は槌か」


巻き込まれAは槌か。ププッ。槌って。勇者って感じじゃないな。

いや、人の事笑ったらいけないな。

てことは、俺は?俺の武器はアレっすよねぇ?来ちゃいますかあ?

・・・フフッ。キタキタキタキタ!


「俺は剣のようだな」


出来るだけCOOLに言い放った。

俺は剣のようだな。キリッ。

決まったぜ。

驚いた事に、剣を握ったら様々な技が前から使えていたかのように記憶に有った。

剣に触る直前までそんな記憶なかったのに、だ。

これが剣の勇者としての記憶なのだろう。

転移前に毎日木刀を振っていた事に意味なんて無かったかのように、体に記憶が刷り込まれる。そして、どうじに肉体もそれに馴染むように適応した事が解る。

・・・本当に木刀の素振り、意味なかったッ!


っと、考えていた時だった。


「スナイプアロー!」


巻き込まれBの声が聞こえて来た。

ほほう。技名を口に出した方が発動しやすいのかもしれないな。

そして矢の行方はどんなもんかな。

矢を目で追っていく。

凄いスピードだ。剣に適応していなければ動体視力的に目で追えなかったかもしれない。

重力なんて無い物のように一直線に飛んでいく。

矢はスピードも落ちる事無く、とにかく真っすぐ進み・・・

─────魔王の頭に突き刺さった・・・・・・・。


戦場に静寂が訪れる。

吹き荒ぶ風の音と、周囲の兵の呼吸する音だけが大きく聞こえる。


「ま、魔王様が逝去されたぞ!引け!引けー!」


瞬く間に魔王軍はその地を去った。

こうして、伝説の弓の勇者は召喚された直後に人類を勝利に導くという偉業を成し遂げたのだった。

次の瞬間、俺達4人は光に包まれて体が透けてゆく。


「おお、勇者様!弓の勇者様よ!本当に、本当に有難うございました。人類は救われました・・・」


王女は心からの笑顔で涙を流す。


「いや、待って・・・。俺の聖書使ってない・・・。俺帰りたくない・・・」

「アンタ何言ってんのよ!バカ兄貴、帰るよわよ」

「痛いって!わ、わかった帰る、帰るからやめて!」


こうして俺の異世界転移は幕を閉じた。

魔王から救われて良かったね・・・。



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