6話 眠るあなたに思い出の華を
10月6日。早朝 桃谷の部屋。
桃谷の部屋には、古藤が来ていた。
「朝から何の用事ですか?」
「古藤くんはみんなと仲良くなりたいの?」
「は、はい。もちろんです」
「そうだと思って、相関図を作ってみましたっ☆」
バサッと大きな紙を机から取り出し、古藤に見せる。
「…凄いですね」
「桃の、簡っ!単っ!説明~♡!」
「……えっ?」
桃谷の不思議発言に、古藤は戸惑う。桃谷はそんな古藤を無視して、紙を見せながら話を続ける。
「まずはボク☆いっちゃんは大学時代の同級生で、ホオズキは大学時代のライバル。よく解らないとこがあればホオズキに教えてもらったな~。少しホオズキをイジメめたのもいい思い出だよ~♡」
「ああ、2人とは何かとトラブル起こして、よく講義が台無しになっていましたね」
「……次はいっちゃん♡前の警察庁長官の娘」
「えっ!そうなんですか!?」
「いっちゃんは娘ではなく、ただの1人の女…いや、男として扱ってほしいから、仲のいい人にしか言わないの」
(まぁ、ボクとは仲がいいと言うか、ただの腐れ縁だけどね…)
「そうなんですか…」
「それ意外は特にないもないかな。いっちゃんはボクとホオズキの大学時代の友達だし、拷問長の大豆とは昔からの知り合いだったし…次いこう☆次は…ホオズキか…。……整形豊胸ババァ。それだけ」
「それだけですか!?」
「それだけだよ♪」
顔は笑っているが、桃谷は紙に書かれている、ホオズキの名前をグチャグチャに塗りつぶす。
「…あの人整形していたんですか?」
何かを察した古藤は、それに触れない。
「うん、整形してた。さぁ、次は……はぁ、めんどくさい。納豆君となっすー&うっしーは、このプロジェクトの最高責任者の警察庁長官の紹介で知っただけ。だからこの子たちの事はな~んも分かんない☆大豆君の事はいっちゃんとホオズキがよく知っている。060号とリサちゃんは秘密。……これで人物相関図終わり☆」
「……ありがとうございました」
「何か質問ある?」
「そうですね…桃谷さんの好きな人とか」
「えっ?なんでそうなるの?」
「僕が教授…あっ」
「……2人の時は教授でいいよ。大学時代にも戻ったみたいで懐かしいしね」
「…ありがとうございます。教授」
(おお、解りやすい『照れ』の表情。……古藤君はホモなんだろうか?)
「えっと、僕が教授のお手伝いをしていた時、恋人を作っていなかったように思っていなかったので、ホモなのかな~?と、思いまして…」
「失礼だね~。ボクはホモっぽいけどただのレズ好き。でも、普通の女子も好き♡」
「じゃあ、好きな人は誰ですか?」
「……君の知っている人だよ」
「もしかして…僕ですか?」
「ホモじゃないって言ったでしょ!」
「あっ、ごめんなさい」
(もう、この子といると疲れる…)
「はぁ、そろそろ行くか」
「仕事ですか?僕もついていきます」
「いや、いっちゃんの部屋」
「えっ?」
「もうすぐいっちゃんが起きる時間なの。それに合わせて…僕の美しい裸体を見せてやるのさっ☆!」
古藤は呆れた表情をする。
「……怒られますよ」
「起きて最初に見るのが僕の美しい裸体…うん!ナイス嫌がらせだね♡!」
「そんなドヤ顔で僕を見られても…」
「君も脱ごう♪!」
「嫌です」
「みんなで脱げば怖くない!!」
「嫌です!苺島さんのキックはバットが折れるんですよ!僕の体も折られますよ!」
「レッツパーリー♡!」
「地獄のパーティーじゃないですか!ちょ、僕を引っ張らないでくださいよ!」
ズルズルと、しかし確実に、古藤は引きずられていく。
「い、意外と力強いんですね…!」
「細マッチョだからね♡」
「ちょ、いい加減……放してくださーい!」
10月6日。昼 柚木と060号の部屋。
「こんちわ~」
桃谷が入ってきた。
「……なんだその顔」
「ぷっぷく!」
驚くのも無理はない。桃谷の頬ほほは腫れ上がっていた。
「ちょっといっちゃんに殴られちゃった♪」
「やっぱりか。まぁ、そんな事はどうでもいい。用事は何だ?」
「そんな事って言ったから教えないっ!」
「……うぜぇ」
「アゥっ!」
「……ようがないならどっかいけ」
「リサちゃんも蹴るのね!しかも060号の足の後ろからの反撃!……仕方ない、話すよ」
桃谷は渋々話し出す。
「うろ覚えだけど、君はその…茄子宮君と古藤君にまだあってないでしょ?…ババアはほっとけばいいか」
「…たぶん、まだ会ってない」
「今日はその2人に会わせようとしたんだけど…古藤君がいっちゃんにおもいっきり腰骨蹴られて、ヒビが入って絶対安静のため来れなくなっちゃったっ☆」
「……」
(だいたいわかるな。こいつが絶対の原因だと)
「しかもいっちゃん、ボクがちょっと古藤君を盾にしたぐらいで、思いっきりビンタするんだもん。こんなに腫れ上がっちゃたよ…」
「それだけで済んだだけでありがたいと思え」
「おもえー」
「む~」
(なんか、古藤とかいう奴可哀想だな…)
「あっ、たしかもう1人はどうした」
「来てるよ。おいで、なっすー」
(また変なあだ名付けられている…)
「…………あれ?」
「来ないじゃないか」
「ないかー」
「おかしいな~?」
桃谷は部屋の外を見に行き、数分後、無理矢理茄子宮と苺島が入ってきた。
「す、すまない。こいつをここまで運ぶのに時間が掛かってしまった」
「いっちゃんが引っ張ってきたんだ~。ほら、なっすー、いい加減1人で立ってよ」
「1人で立ったら朝子の所に行ってもいいんですか…?早く…朝子の所に行きたい……早くしないとまた、あいつが…」
茄子宮は部屋の空いたドアの前で、駄々をこねる子供のように地面に座り込む。
(……なんだこいつ?)
「この子は茄子宮 朝喜君。梨東君ほどでもないけど頭はいい。そして力はいっちゃんよりも強く、このプロジェクトナンバー1なんだ。…本気を出せばね。そして茄子宮君を実の妹の後うしろちゃんから引き離すと、やる気がなくなり動けなくなるんだ~」
「めんどくさい奴だな…」
「ん~、なっすーには060号のボディーガードをしてもらいたかったけど…仕方ないからいっちゃんやってよ」
「わかった」
「俺のボディーガード?」
「リサちゃん、お花見たい?」
桃谷は060号を無視して、柚木に話し掛ける。
「……見たい」
すこし怯えながら、柚木は答えた。
「じゃあ、見せてあげる♪」
「?よくわかんない」
「俺もわからん」
「簡単さ~、少し外に出てもいいって事だよ。060号は手枷を付けたままだけどね☆」
「外に…出られるのか?」
「この刑務所内の庭で、太陽は人口の物だけど…それでもいいかな~?」
「……」
「いいよ!」
答えに詰まっている060号より先に、柚木が答えた。
「リサちゃんのやりたい事はなるべく叶えるだから、これは決定~♡」
「……わかったよ。それより…さっきから苺島と茄子宮と言う奴の姿が見えないな。どこ行った?」
「ああ、いっちゃんが監視室に戻しに行ったよ~☆」
(茄子宮とかいう奴は、何をしに来たんだ…)
数分後。特別刑務所内 庭。
「ほぉぉぉぉぉ~~~~~」
綺麗な花が咲いている庭を見て、柚木は興奮のあまり奇声を発する。
「おはな!たくさん!」
「…取りに行ってもいいぞ」
「わかった!」
嬉しそうに柚木は走っていく。
「あっ、勝手に取ってもいいって言ったけど、本当に良かったのか?」
060号は、付添いの苺島に聞く。ちなみに桃谷は、苺島に引きずられて戻された茄子宮の様子を見に、監視室に帰った。
「この花は職員が育てたものと死刑囚が育てたものがある。どちらも押し花などの加工品などの材料ために作られている。まぁ、少しぐらいなら誰も怒らんだろ」
「少しぐらいどころか両手にいっぱい抱えてるぞ」
「……だ、大丈夫だ。いざなったら桃谷のせいにすれば…」
「060号様~~!」
「うぉわっ!」
いきなり少女が現れて、060号を押し倒した。
「お前誰だ!」
「お前じゃない、佐十 ミカン、16才。060号…いや、インビジブル様の大ファンなのよ」
「いいかげん俺の上からどけ…」
「いーやー」
佐十は060号の頬に擦り寄り、060号は顔が赤くなる。
「は、離れろ!この…ふしだら女っ!」
「やんっ!」
抵抗する佐十を、苺島は無理矢理060号から引きはがす。
「ここは今、私たちだけの貸し切りのはずだ!どうやって入ってきた!」
「私の罪は不法侵入。あれぐらいの入口の鍵、簡単に開けられるわよ~」
「……思い出した。お前は不法侵入と器物損壊罪でこことは別の刑務所に入っていたが、その刑務所がいっぱいになったからこっちに移ってきた奴か」
「そうよ。入ってきた先には私の大好きなインビジブル様…これは運命な…」
ビービービービー!
「な、何この音?」
「ふっ、060号の滞在時間終了合図だ。さぁ、帰るぞ」
「ああ。行くぞ、ガキ」
「うん」
柚木は抱えきれないほどの花を持って、060号の元に来た。
「へえー、その子が例のプロジェクトの…」
「……佐十」
「えっ?何ですか?インビジブル様♡」
「……お前はもう帰れ」
「いや、このふしだら女はそんな簡単には…」
「はぁーい、帰りまーす♡まったね~☆」
佐十は帰って行った。
(なんか…テンションが桃谷みたいな奴だったな)
「…やっと行ったか、全く、ふしだらな女だな」
「あれってふしだらなのか。俺はウザいけど可愛いと思うな」
「あっ、あんなのが好きなのか?……わ、私の方が…かわい」
「ん、もうすぐ飯だな。早く帰るか」
「ごはんっ!」
「…そうだ、さっき苺島何か言ったか?」
「な…なんでもない」
俯苺島の顔は、真っ赤になっていた。
「そうか。わかった」
060号と柚木は並んで帰り、苺島は少し後ろからついてくる。
(最近、体が変だ。060号を見ている時だけ。
これが…『恋』なのか?
そして今日は…少しの嫉妬を学んだ。
恋は女の幸せ。
私は…女のような存在か、男のような存在、どちらになればいいんだろう…)