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3話 甘い夢

いつものように朝が来たが、あいつはまだ起きない。私は仕方なく、あいつの部屋に行く。

「おい!いつまで寝てるんだ!リサはもう起きているんだ!だからお前も早く起きろ!要人!」

掛け布団を引っぺがして、無理矢理要人を起こした。要人は明らかに不機嫌そうだ。

「…もう少し寝かせてくれ」

「駄目だ、早く起きろ」

「……叶」

「何だ?」

「…………好きだ」

要人の言葉に、私は顔が赤くな…。

「うわっ!」

ハッと目を覚まし、徐々に今の状況が解ってきた。

(今のは夢か…。なんてふしだらな夢を見たんだ私は…】

私は自分に嫌悪する。

(…ん?そういえば、今何時だ?時計時計…あった)

「……3時か」

(今日の集合時間は5時だったな。用意時間を抜いて、1時間あるな。…もう1回寝なおすか。

目覚ましのアラームをセットして、ふたたび布団の中に潜った)





――――――――


「……叶、何をしているんだ?」

「とれーにんぐよ。わたしはしんだおかあさまのぶんまで、おとうさまをまもるの」

「そうか、ありがとう。叶」

父さんは私の頭を優しく撫でる。私は…父さんに褒められるのが好きだった。

「叶、恋とはふしだらな物だ。叶は恋をするな」

「はい、わかりました。かなはこいをしません」

父さんのいう事は絶対だった。



「どうして!?話が違うだろ!」

「そんな物はあの事件の証拠にはならない!」

きょうおとうさまは、おともだちとおはなしちゅう。でも、なんかケンカしている。わたしにもっとちからがあれば、このケンカをとめられるのかな?おとうさまはかなしまないのかな?わたしにもっとちからがあれば…。




「お父さま、はなしって何?」

「叶、これを持っていなさい」

お父さまからうけとった物は、きれいなピアス。

「叶が大人になったら付けなさい。そして…あいつに罪を認めさせてくれ…」

「お父さま…泣かないで。私、もっと強くなるから」

私はその日から、トレーニング量を倍に増やした。




でもある日、父さんは遺体となって帰ってきた。

「…お父様?」

「叶ちゃん」

「警察庁長官さん」

「言いにくいんだが…君のお父さんはもう目を覚まさないんだ」

「…嘘」

「嘘じゃない」

「…」

「私だって、親友でも同僚でもあった君のお父さんが亡くなって悲しい。本当に…惜しい人を亡くした…」

「…嫌だ」

「叶ちゃんはもう身寄りはがない。だから、私の養子にならないか?」

「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

「叶ちゃん…」

「私はお父さまのそばにずっといるの!」

「叶ちゃん!」

幼い頃の私は泣きながら家を飛び出し、少し遠い別邸の父さんの部屋に行く。



「……?何か物が少なくなっている気が…。気のせいかしら?」

まるで父さんの死を否定するかのように、必死の思いでを探した。そして見つけたのは、

『私はもうすぐ死ぬだろう。でも、これは私の力が足りないせい。叶が悲しむ事はない』

と書かれたメモ1枚。

「どうしよう…続きが破られている」

続きを探したが、見つからなかった。

しばらくして、私は疲れて眠ってしまい、気付けば警察庁長官さんの家だった。

ここでどんな会話をしたかを憶えていない。が、私はそのあといろいろあり、警察庁長官さんの養子になった。




それから10年余りで、私は父さんと同じ警察になっていた。そして、父さんの墓に報告した時に決めた。

私は邪魔な胸などいらない。欲しいのはたくましい筋肉。

私は子供を作る部分などいらない。子供を作る事もなければ、恋人を作るつもりもないからだ。

私はどうして力のない女に生まれたんだ?力のある男に生まれたかった。

そう、私が欲しいのは力。全てを守り、全てを壊し、全てを捻ねじ伏せ…そんな力が欲しいんだ…。どんな事をしてでも…!



そして私は父さんの墓の前で、足元まで伸びた長い髪を切り、女の自分を捨てた。

この誓いの日から数年後、私は警視総監になり、警察庁長官様からある事を聞いた。

「君のお父さんを殺したのは誰か知っているだろ」

「人物像が全く見えてこない事と、姿を全く見せない事からその名が付いた、インビジブルですよね」

「そのインビジブルが、殺し屋集団の若きボスだと分かった。君のお父さんを殺したのは、インビジブルが雇った殺し屋だ」

「インビジブルは何故父を殺したんですか?」

警察庁長官様は少し黙った後、再び喋りだす。

「言いにくいんだが…君のお父さんはある事件を起こし、人を殺した。その逆恨みだと、私は思う」

「じゃあ、その事件を調べれば、インビジブルの正体が分かるんじゃないでしょうか?」

「それを私が今調べているんだ。君はこっちを頼む」

渡された資料には、危険区域のマークと、『インビジブル潜伏地』と言う文字がかかれていた。

「君は死ぬかもしれない」

「でも、やります!やらせてください!」

「…決意は本物のようだね。行っておいで。苺島 叶警視総監」

「はい!」




渡された資料に書かれた場所に着いた。とても荒れた場所だ。

「本当に、殺人鬼がいますって感じの場所だな」

その日から、インビジブルが居そうな場所に行って、浮浪者や暴力団関係人物などとケンカ三昧の日々を送り、私の体は傷だらけになる。

でも私は、理想の男らしい体に近づけたようで、嬉しかった。

そして今日は、ある暴力団にケンカを売る。しかし、弱かった。

「なんだ…この程度なのか…」

私は暴力団組員のボスを掴み上げる。

「ちょっ、ちょっと待て!俺たちはこの地区じゃ弱い方なんだ!だからもうやめてくれ!」

「じゃあ、インビジブルの情報を教えろ」

「あぁ、あいつか。たまに会うよ。お前と同い年ぐらいの、弱そうな女だった」

「女?」

資料に書き込んでおく。

「女だ。間違いない。力の弱さを殺しの技術でカバーしているらしい」

「他は?」

「地図を貸してくれれば、インビジブルがよく表れる場所に印を付けてやる」

「よし、書け」

暴力団のボスに印を付けてもらった。

(やっと一歩前進か…)

しかし後日、インビジブルは柿島 要人と言う男だと言う確定情報が入ってきた。

「あの野郎!嘘の情報教えやがって!印の場所にも誰もいなかったじゃないか!……あれ?じゃあ、あいつは何故インビジブルを女だと言ったんだ?…まぁいい。私は私の任務を遂行すればいいんだから」

柿島が現れる場所に行くと…。

「……もしかして、あの、体育座りで頭に段ボール箱被っているやつか?」

(話し掛けづらいな…。とにかく、なんとかこいつの指紋とDNAを採取しなければ…)

苺島は手袋をはめ、上着の胸ポケットに入っているボールペンを、柿島の目の前に向かって転がす。

「おや、ボールペンがないどこに行ったんだろうなー」

ヤバい…演技が下手すぎる。完全に棒読みになってしまった…。

「…………ん」

「お、おお、ありがとう」

よかった、なんとか拾ってくれた。このボールペンを袋に入れて…これで指紋はOK。あとはDNAを採取するため、体液か髪の毛か…。

「お前、なんで段ボール箱被っているんだ?」

苺島は柿島に近づく。

「……寒いから」

(寒いからって言っても、それを取ってくれなきゃ邪魔で採取できないんだよ!)

その時、突如突風が吹き、柿島の被っていた段ボール箱が吹き飛ばされた。

(よし!ナイス風!)

「……」

「ちょっ、行くな!」

飛ばされた段ボール箱を取り行こうとする柿島を、苺島は腕を掴んで引き留める。

「……何?」

(うわぁ、不機嫌そう…)

「えっと、その……えいっ!」

「痛っ!」

苺島は、ヤケクソで柿島の髪の毛を1本抜く。

「か、髪にゴミがついていたんだ。…さらば!」

(こうなったらどこまででも逃げてやる!)


数分後。

(あれ?追いかけてこないのか。まぁいい。髪の毛ゲットできたんだからな)

その後の化学班の調査により、インビジブルの唯一残した証拠品のDNAと、柿島のDNAは一致した。

警察の人々は素早く逮捕状を作り、インビジブルの逮捕に向かう。そして、私も同行させてもらった。

「柿島 要人だな。お前を逮捕する」

「……」

柿島はゆっくり立ち上がり、そして逃げた。

「逃げた!追うぞ!」

私は同僚と共に、逃げた柿島を追う。しかし、インビジブルなら私たちを殺してから逃げるんじゃないのか?

「よし!苺島はそっちから回り込め!」

「はい!」

そして、私たちの連係プレーにより、逃げた柿島を捕まえる事ができた。

「俺は連絡してくるから、苺島はそのままそいつを押さえていろ!」

「分かりました」

「…………ゲームオーバー…」

「?」

(こいつ、何を言っているんだ?)

柿島 要人が気になった私は、インビジブルの資料を見直した。

「インビジブルを見た、唯一の生き残りか…」

『6才の女児、押し入れに隠れて生き残る。

心の傷は深いものと思われるが、当時出かけていた父親の要望により、精神病院で治療する事もなく、今は父親の家で暮らしている。

女児の証言。

「みぎてにきずがあった」

女児を担当した上田刑事によると、右手の甲の下に傷があると言う』

(手の傷…柿島の右手の甲の下にもあったな)

『この事件担当上田は、突然同僚に発砲して大怪我を負わせたり、意味不明な言動が目立ち、現在精神病棟に入院中。これもインビジブルのせいなのか?』

(上田か…こいつも調べてみるか。

私の父さんが殺されたのは私が8才の時。インビジブルが私と同い年なら、8才で私の父さんを殺した事になる。それはありえないだろう。やはりあの人が言うように、インビジブルは殺し屋を雇って父さんを殺したのか?

…よく分からん。でも、殺意や憎しみは幼い子供でも持つ事ができるからな。

柿島 要人は裁判で死刑になり、特殊な刑務所に送還されたと聞いた。そしてその半年後、私は友人の家で酒を飲み、ある事件を起こしてしまう。それは…)

「お前はどう足掻(あが)いても男にはなれないんだよ」

「…なんだと?」

「だからもうトレーニングなんてやめろよ。どうせ無理だって」

「無理じゃない!私は…男のような力を手にするんだ!」

「女のお前に出来るのか?」

「私を…女扱いするな!」

怒りにまかせて友人をおもいっきり殴った。血がでても、相手が謝っても、殴りすぎて私の指が折れても、私は友人を殴り続けた。

そして、気が付けば病院のベッドの上。

「気が付いたかい?」

「警察庁長官様…何故ここに?」

「君は友人を殴り、そして君も感情が昂たかぶりすぎて気絶した。そんな君のお見舞いに来たんだよ」

「わざわざすみません。…あの、友人は?」

「鼻を粉砕骨折、顎あごも砕かれ肋骨も折れていた。全治6ヶ月だそうだ」

「……すみません、反省しています…」

「…この事件により、君はもう警視総監ではなく、ただの一般人になった。でも、警察関係の仕事をしたいかい?」

「…できるのならばしたいです」

「分かったよ」

警察庁長官様は持っていた鞄の中から、1枚の紙を取り出した。

「この刑務所では、『死刑囚特別プロジェクト』を行おこなっている。君は看守となり、このプロジェクトの一員となるんだ。もちろん、この仕事はかなりの精神力がいる。君にできるか?」

「分かりません…でも、やります!」

「…この仕事が上手くいったら、君がもう1度警察官になれるようにしてみるよ」

「ありがとうございます!」

こうして、私は『死刑囚特別プロジェクト』に参加する事になったんだ。





――――――――


ピーピーピーピーピーピー。

「…ん?もう時間か…?……懐かしい夢を見たな…」

苺島は目覚ましのアラームを止め、寝ぼけ眼で職員専用共同洗面所に向かう。

…今日は10月3日、私がこの仕事を初めて1年が経つのか。だから…警察庁長官様の名前が思い出せないのか…。この仕事を始めてから、1度もあの人と会っていないしな…。

「はぁ…」

苺島はため息をつきながら、職員専用共同洗面所のドアを開けた。

「なーにため息ついてんの?君らしくないね~」

「…?」

職員専用共同洗面所には、上半身裸の見たことあるような男がいた。

「お前……桃谷か?」

「なんで疑問文なの~!桃、怒っちゃうからねっ☆」

「メガネをかけていないお前も見るのは初めてだから間違えていたんだろう。すまないな」

「…」

桃谷は、先ほどよりも苺島に近づく。

「メガネかけていないボクはカッコイイでしょ♡ギャップ萌えってやつ~☆」

「ああ、そっちのい方がいい男だ」

「んぶー!」

「どうした?子供のように(ほほ)を膨らませて」

「いっちゃん、今日はなんかおかしい。ボク、つまんない!つまんないつまんないつまんない!」

「そうか…」

「……えいっ!」

蛇口の水を苺島にかける。

「な…何をする!」

「おっ、怒った怒った♡やっといつもの君に戻ったね♡オカエリー☆」

「うむ…ボーっとしていて、迷惑をかけたみたいだな。すまなかった。さて、私も顔を洗うか」

苺島は、洗面所で顔を洗い出す。

「そうだ、今日は集合時間10分早いからねっ☆」

「何っ!それを早く言え!お前が右手に付けている、金色の腕時計壊すぞコルァ!」

「これはダメだよ~。ボクが教授になった時に助手から貰った、大切な物なんだから~」

(お前はもう教授じゃないだろ、アホ)

「壊すなら、納豆君が左手に付けている時計にしたら?」

「あれは大切な人の形見だ。そんな大事な物は壊せない」

「僕のはいいんだ~」

「あっ!こんな話をしている場合ではない!邪魔だ!」

「あ~れ~」

桃谷を突き飛ばし、苺島は先ほどよりもスピードアップして、身支度をする。

「もう、いっちゃん…激しすぎだよ♡」

「……」

(あのクソ細マッチョ!殴りてぇ!なんで上だけ脱いでいるんだよ!アピールか!?誰にアピールしているんだ!)

「ああもう!イライラしているのに後で変なポーズをとるな!見たくないのに鏡に映るんだよ!」

「そんなに急がなくていいんじゃない?職員寮と刑務所は、専用通路使えば近いんだから」

「善は急げだ!」

数分後。

「よし、終わった。…あのアホはやっとどこかに行ったか。まぁいい。早く行こう」


同日 某時刻 監視室。

「すまない!遅れた!」

凄い勢いで苺島が入ってきたため、メンバーは驚く。

「苺島さん、遅れたって言っても…」

梨東は、秒数まで表示されている置時計を見る。

「12秒ですよ」

「12秒でも遅刻には変わりない。すまなかった」

深く頭を下げる苺島に、梨東はオロオロしている。

「そ、それぐらいで頭を下げないでくださいよ。まだメンバーそろっていないんですし…」

「そろっていない?」

頭を上げて人数を確認すると、メンバーは4人いた。

060号の子育てプロジェクト参加人メンバーは5人…桃谷のアホがいない…!

「あの野郎…どこ行った……」

「そんな鬼みたいな怖い顔しないで、なんかお話しましょうよ。何がいいですか?」

「話か…」

(今日は懐かしい昔の夢を見た。そのせいだろうか…恋愛と言うものが気になる)

「お前…1番尊敬する人に恋愛するなって言われたらどうする?」

「んー、一応守りますけど、その人の言葉を守れないくらい好きな人ができたら、僕はその言葉を守らず好きな人と付き合います。いつまでもその人の言葉に縛られるのも、ちょっと嫌ですしね」

「そうか…」

(…言葉と言う名の鎖を引きちぎってもいいのか?)

「お前は付き合うなら、年上と年下と同い年、どれがいい?」

「僕は話が合いそうな同い年か、頼りがいのある年上ですね。年下は疲れそうなので、あまり好きじゃないです」

「ふむ…なるほど。なすびはどう思う?」

苺島は、モニターを見ながらずっと機械を操作している男に話し掛ける。

「なすびじゃないです。茄子宮(なすみや) 朝喜(ともき)です。私は付き合うなら同い年です」

「じゃあ、(うしろ)は…」

「私はお兄ちゃんと同じです」

「…わかった」

(参考になったような、ならないような…)

「苺島さんはどうなんですか?」

梨東が話し掛けてきた。

「私は…同い年だな。同い年が1番気が合いそうだ」

「それなら…僕が23才、茄子宮さんと後さんが21才、桃谷さんが28才、060号さんが26才だから…同い年なのは060号さんだけですね」

「その言い方は、060号と恋をしろと言っているようなもんだぞ」

「す、すみません…」

(060号か…)

苺島は今朝の夢を思い出す。

(最初に見たあの夢…正夢に……なる訳ないな。うむ、考えすぎだ)

「おっ待た~☆」

「お前…何分遅刻したと思っているんだ!くらえ!雑巾ぞうきんアタック!」

「みぎゃ!」

苺島の足元にあったバケツの中から雑巾を取出し、桃谷に投げつけると、桃谷の顔面に命中した。

「それ、さっきリサちゃんがお漏らしした時に、床と汚物を拭き取った雑巾ですよ!今片付けようと思ってたのに!」

「えっ…?」

「桃谷さん、大丈夫ですか?」

梨東が桃谷に近づく。

「これも一種の特殊プレイだと思えば…むしろ興奮する♡」

「早く風呂入って来い!」


桃谷入浴中。


「ボクの艶なまめかしいスペシャルボディ~、覗かないの?」

「覗くかバカ!」

「ああ~、ボクの肉体は美しすぎ」

「黙って入れ!」

監視室にシャワー設置したの誰だよ…!

「ふ~、さっぱりした☆」

「で、何故今日は集合時間が早かったんだ?」

「これが届いたんだっ☆」

持っていた鞄の中から箱を取出し、中を開ける。

「これは…」

「ゼリーだ!僕、ゼリー好きです!」

「ボクの助手が貰ったんだけど、いらないって言ったからボクが貰ったんだ。珍しいのと普通の味が3種類ずつ。好きなの選んでね♡」

「僕、柘榴(ざくろ)味もらいます!柘榴好きなんですよ!あの見た目がカッコイイですよね!」

「そうなんだ~☆」

「…おい、桃谷」

「ん?」

「お前の助手は元気なのか?」

苺島は、桃谷の耳元で小声で言う。

「…元気だよ」

桃谷も小声で答える。

「本当にお前の事を慕したっているんだな。あいつは被害者なのに」

「……」

「あっ、すまな…」

「ねぇ!なっすーとうっしーも食べなよ!業務命令だよ!」

話を無理矢理終わらせるかのように、桃谷は2人に話し掛ける。

「…貰います、ありがとうございます」

「君のはボクが選んであげる。はい、これね」

「……」

桃谷はナスビ味のゼリーを茄子宮に渡す。茄子宮はそれを無言で食べる。 

「うっしーは好きなの選んでいいよ」

「後うしろ 朝子ともこです。では…これを頂きます」

後はオレンジ味のゼリーを選んで食べた。

「次は…」

「さて、私は」

「ボクは苺味♡」

「次は私だろ!」

「……ニヤッ」

桃谷は苺味のゼリーをグチャグチャに混ぜる。

「お、お前、そんな事をするな!」

「ボクがグチャグチャにしたのは、苺味のゼリーだよ~?そ、れ、と、も、自分がグチャグチャにされていると思って××た?」

「滅びろ!」

(くそ…こうなったら…)

「わ、私は桃味のゼリーをグチャグチャしてやる!」

「あ~ん、ボク、グチャグチャにされちゃった♡」

「ゼリーの話だろ!あと、私はまだ食べてない」

「えっ、ボクを食べちゃうの?いっちゃんのH♡」

「ゼリーの話と言っただろ!」

2人が口喧嘩している時、梨東は…。

「ふぅ、美味しかった。あれ?まだ1つ残っている。桃谷さーん、これ、誰のですか?」

「人参味はリサちゃんの。人参嫌いだかちょうどよかったよ。そうだ!いっちゃんが持って行ってあげなよ」

「なんで私が」

「今の所仕事は、モニター見ているだけだからつまらないでしょ?」

「…分かった」

苺島は人参味のゼリーを持って、監視室を出…。

「リサちゃんには何味か言わないでね!あと、死刑囚の060号にはぜりーなんて言うごちそう、あげちゃダメだよ!」

「はいはい…」

(060号…あの夢の後だから、なんか変な感じがする…)



柚木と060号の部屋。

「柚木、ゼリー食うか?」

「たべる!はやく!」

ゼリーを見た柚木の目は、獲物を狙う肉食動物のようだ。

「お、おう、ちょっと待て」

柚木の迫力に、苺島は少しビビっている。

「……美味いか?」

「うみゃい!」

人参味だとは気付いていないようだな。

「…………」

苺島は、雑誌を読んでいる060号を見つめる。

「ん?俺に何か用か?」

060号が視線に気づく。

「あっ、いや、その…」

(な、何か言わなければ!)

「わ、私は…恋愛と言うものを経験すると人は力が弱くなると思っているが、お前はどう思う?」

「…はぁ?」

(わ…私は混乱して何を言っているんだ!落ち着け自分!)

「いや、今のは…」

「いいんじゃねえの」

「えっ?」

「力が弱くなっても、たった1人、本当に大切な奴さえ守る力があれば、俺は弱くなってもいいと思うぜ」

「あっ……そっか…」

(060号の言葉で、私の中の価値観が確実に変わった。

ドクン。心臓の鼓動が急に早くなる。

ん?なんだこれ?顔が…体が…心が熱い…。060号を見ていると、心臓の動きが早くなってしまう…。

もしかして…)

「どうした?顔が赤いぞ?」

(060号が、私を見て、私を心配してくれている。それだけで…何故こんなにも嬉しいんだ?

これが…『恋』なのか?)

「大丈夫か?」

(私は死刑囚の060号に…恋、してしまったのか?)



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