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1話 最悪な出会い

あの人が書いていた小説を引き継ぎ、数年の時を得て、リメイク版として復活しました。

不定期更新です。どうか、よろしくお願いします。

10月1日 とある刑務所内会議室

『死刑囚 060号 柿島(かきじま) 要人(かなと)。生い立ちや過去は一切不明のホームレス。確認できるだけでも31人を殺害』

プロジェクト参加メンバーは、手元の資料を読んでいる。

梨東(なとう)、本当にこんな奴に子育てが出来ると思っているのか?」

「彼が育てる柚木(ゆずき)リサちゃんには色々と問題がありますしね…」

「まあ、やってみようよ。いっちゃん♡」

桃谷(ももたに)!いっちゃんと呼ぶな!私は苺島(いちじま)まだ!」

苺島は桃谷に掴み掛る。

「と、とりあえず060号を連れて来るので、落ち着いて下さい!」




とある刑務所内 特別プロジェクト参加死刑囚収容独房

梨東が薄暗くジメジメしている通路を歩いていくと、060号が収容されている独房についた。とても分厚い扉を開け中に入る。

暗闇の中には拘束された060号がいた。

梨東は何もここまで拘束しなくてもいいのでは?と、疑問が頭に浮かぶが、とりあえず頭に被せられた袋を取り、目隠しと猿轡(さるぐつわ)を外し、彼を一時的に開放する。

「調子は、どうですか?」

「…医者か?」

「白衣を着ていますが、医者ではありません。犯罪心理学者の梨東 一多喜(かずたき)です。拘束具、全部解いてしまいますね」

060号の足枷と全身の拘束具も外されていく。

「俺を開放してもいいのか?」

「逃げようとしても無駄ですよ。逃げたらあなたの首元につけられた首輪が爆発しますからね」

「首輪の事は知っている。今から、俺に、何をするつもりかと聞いているんだ?」

その気迫はさすが殺人鬼といったところか。梨東は少し怯える。

「…あなたは、特別プロジェクトに選ばれたんです」

「プロジェクト?…ああ、死刑囚に薬物投与の人体実験をしたり、女死刑囚に子供を産ませて人殺しの子供は人殺しになるか調べたりする、あの狂ったプロジェクトか」

「ええ。ですが、あなたにしてもらうのはそんな事じゃありません。あなたがするのは、あなたが殺した人の子供を育てる事です」

「…はぁ?」

さすがの060号も目を丸くして驚く。

「このプロジェクトの意味は、殺人鬼でも人を愛し、更生できるかなんです」

「……くだらねえ」

そう吐き捨てる言葉と共に、ガシャンという音を立てながら、060号拘束具は完全に外れた。

体を自由に動かせるようになった060号は、ストレッチしながら考え事をする。

「…仕方ねえ、か。俺はここから出られないしな。やってやるよ。そのプロジェクト」

「わかりました。まぁ、断っても無理矢理参加させるんですけどね」

「……」

「とにかく、これを飲んでください」

梨東は持っていた鞄の中から水筒を取出し、その中身を白衣のポケットに入っていた折り畳み式の紙コップに注ぐ。そして、その中身は……尿にしか見えない物だった。

「これって…」

「違います!あなたをより安全に移動させるための睡眠薬です!」

「いや……それはそれで飲みにくいんだが…」

「あっ…と、とにかく!飲んでください!」

「……」

嫌そうな顔をする060号に、梨東は尿にしか見えない睡眠薬を強気に押し付ける。

「…飲めばいいんだろ飲めば」

なかばヤケクソで060号は、睡眠薬を飲み干す。薬の効き目は即効性だったようで、呑んだ直後、060号は足から崩れ落ち眠りにつく。

(…よし、ちゃんと息はしているな。あの人が作った睡眠薬だから、少し不安だったけど…。とにかく連絡しよう)

梨東は無線機でどこかに連絡する。

「梨東です。無事、060号眠りました。手術室に運びます」


――――――――


??? 記憶


(…………何もかも失ってしまった……。空腹で力が出ない…。もう…何日普通の飯を食っていないだろう…。ゴミ箱の残飯を漁る気力もない…。後は死を待つのみか…)

彼が死を覚悟した時、上から食べ物が降ってきた。まるで天からの恵み化のようなそれを、彼はそれを貪むさぼりながら食べる。

「かわいそうに…お腹が空いていたんだね」

「お前は…」

上を見上げると、彼と同い年ぐらいの人物が立っていた。

「××君…だよね?」

「何の用だ」

「君にいい物を持って来たんだ」

謎の人物は、持っていた鞄の中から、戸籍謄本を出した。

「これって……」

「死んじゃった君の新しい戸籍だよ」

「でも」

「買い取ったんだ。ある自殺志願者から。このままこの人が戸籍上死んだ事になったら、もったいないじゃん」

「もったいない?」

「君は戸籍上死んだ事になっている。でも…もう1度生きたいでしょ?別の人になっても」

「…」

何も言い返せない彼を満足そうに見つめながら、謎の人物は話を続ける。

「君がこの顔に整形して、新しく、×× ××じゃなく、柿島 要人として生きるんだ。…その代わり、君に頼みたい事が……」


――――――――



ピピピピピピピピピピ。

(何か鳴ってる…時計?)

手探りで音の発信源を探し、アラームを止める。

(……懐かしい夢を見た。あいつの名前…何て言ったっけ?……ダメだ。思い出せない)

『ハーロー!060号くん』

「っ!」

(頭の中で声が聞こえる?何をされた?)

『ボクは桃谷 やなぎ。このプロジェクトの一員さ』

「…状況を説明しろ」

『んー、簡単に言えば、君の脳の中に特殊なチップを埋め込んで、目には特殊カメラを取り付けた。チップからは、会話や聞いている事が音声データとして記録され、監視カメラからは、君の今見ているものがこちらのモニターに映し出せる。チップは通信機能付き!☆=』

060号はしばらく考えた後、再び喋りだす。

「つまり、全て監視されているって事か」

『そゆこと♡』

(落ち着いた梨東とは違い、こいつは甲高く猫撫で声で、気持ち悪い男だな)

「そして、その部屋にいる子供を君が育てて、その結果次第で即死刑か減刑か仮釈放が決まるんだ』

「子供?」

部屋を見渡すと、隅にいるぬいぐるみを抱えた子供が、060号を睨んでいた。

『だから、このプロジェクトは『死刑囚子育てプロジェクト』っていうんだよ。わーかーるーかーなー?』

(なんでこいつは楽しそうなんだ…。…ん、何か変だ)

頭の違和感に気付いた060号は、部屋に設置してある鏡を見た。

「……髪が短い」

『ボサボサの髪がウザかったから、君が寝ている隙に切ったんだ。手術の時剃ったから、後ろちょっとハゲているけど。嫌だった?』

「…かまわない。他に何もしなかったんだろうな?」

『君、臭かったから寝ている隙に勝手にお風呂入れたんだけど、その時チ××触った』

「何してんだこの変態!」

突然の大声に驚いた柚木は、ベッドの下に隠れてしまう。

『もう、話が先に進まないので、今度は僕が進行します』

『話に入ってこないで~』

『警察の方が待ってますよ』

『はぁ~い』

ガタッとイスを引く音が聞こえる。どうやら、桃谷はどこかに行ったみたいだ。

『何か聞きたい事はありますか?桃谷さんの事以外で』

「…子供のデータをくれ」

『待ってください』

今度はパラパラとページを捲めくる音がする。何かの資料を見ているのだろうか?

『えっと、その子は柚木 リサちゃん、5才。あなたに両親を殺されてから、しばらく施設にいましたですが、施設が閉園する事になり、リサちゃんはここに来たんです。今言えるのはこれだけです。あと、リサちゃんといる時だけ、あなたは本名を使ってもいいですよ』

『ちなみにこっちの声は君にしか聞こえないから、リサちゃんから見れば、君は1人で喋っている変な人~!』

『ちょっと!勝手に入ってこないでください!』

『じゃ、通信を切るよ~』

『人の話聞い』

ブツッ、ツーツー。

(…通信ってこんな風にきれるのか。まあいい、さっそくヒマだし子供と話してみるか)

060号は、ベッドから出てきて部屋の隅で絵本を読んでる柚木に近づき、隣りに座る。

「……柿島 要人だ。その…よろしくな」

「…」

(無視かよ…。仕方ねえ、次は…握手でもしてみるか)

柚木の目の前にそっと手を差し出す。

「……」

が、その手は叩き落されてしまう

(このくそガキ…!)

「ひっしね。そんなにそとにでたいの?バッカみたい」

柚木は明らかに060号の事を見下しながら、毒舌を吐く。

「このクソガキ!!」

冷静ながらもキレやすい060号のストレスメーターは限界を超え、ブチ切れた060号は、柚木の胸ぐらを掴み上げた。しかし、柚木は顔色1つ変える事なく、冷めた目で060号を見つめる。

『怒っちゃダメです!その子を1回でも殴ると、あなたは即死刑になりますよ!』

「…っ」

納得のいかない060号は舌打ちをしながらも、渋々柚木を床におろす。

『とにかく、ちゃんと謝ってください』

「…………すまねえ」

「わかればいいのよ」

柚木は絵本を持って、またベッドの下に潜っていった。

「…出てこいよ。目を悪くするぞ」

「あんたのかおみたくないのよ」

「…わかった、もう勝手にしろ」

(…イライラする……が、仕方ねえのか。俺も、部屋にある雑誌でも読むか)


ほぼ同時刻 監視室。

「…リサちゃんは060号の事、何も知らないんですよね?」

「相性が悪いんじゃないの?ボクといっちゃんみたいに」

梨東と談笑する桃谷。

「も~も~た~に~」

そこに、勢いよく監視室の扉を開け入ってきたのは、明らかに怒っている苺島だった。

「ウワサをすればなんとやら」

「怒ってるじゃないですか。今度は何をし、うわっ!」

2人の間に割って入り、苺島がテーブルに置いたのは、数本のアダルトビデオだった。

「私のロッカーにこんなふしだらな物を入れたのはお前だろ!」

「だって~、君のロッカー何にも入ってないんだもん。何か面白い物入れておきなよ~。苺島 (かなう)警視総監」

桃谷の言葉に、苺島は顔をしかめる。

「……今はこの刑務所の看守だ」

「そうだったね~」

2人は睨み合い、梨東はため息をつく。

「…はぁ、どっちも前途多難だな」


時間は過ぎて夜 柚木と060号の部屋。

『リサちゃんと一緒に寝てね~♡』

「はいはい。……おいガキ、寝るぞ。布団の中に入れ」

「…」

柚木は、060号をジッと見る。

「そこ、寒いだろ。ほら」

先に布団に入っていた060号が布団を捲ってしばらくすると、柚木はおとなしく布団の中に入ってきた。そして、060号のお腹の上に乗り、すぐ眠りだす。

「…なぁ、こいつ重いからどかしてもいいか?」

『ダ~メ☆多分、リサちゃんは君に甘えているんだよ』

「おい!こいつヨダレ垂らしているぞ!」

『いいじゃん~、ヨダレくらい~。我慢しなよ』

「……今日だけだからな」

やがて、060号も眠りについた。




深夜 監視室

「桃谷さん、これどうぞ」

梨東は桃谷にコーヒーを差し出す。

「ありがと」

桃谷がコーヒーを飲んだのを確認して、梨東は桃谷に隣りに座る。

「初日、なんとか終わりましたね。それにしても…苺島さん、まだ仕事終わらないのかな?」

「気になるの~?」

「ち、違いますよ!あっ、きっ、今日のデータ、記録しますね」

「君は本当にわかりやすいね~」

顔が真っ赤になっている梨東を、桃谷はニヤニヤしながら見つめる。

「そ、そんな事より、いつ言うんですか?060号に残された時間が10月31日までって事……」

「……まだ、まだその時じゃないよ。だって秘密は多いほうが面白いからね」


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