第35話
今回は直人たちではなく、別の人のお話です
~???~
走る―走る―ひたすら走る
「やつを逃がすなっ追えぇぇっ」
後ろから5~6人の兵士が草むらを掻き分けながら追いかけてくる、捕まったらどうなるか、それを知らないけれども彼女は逃げる。ただひたすら逃げる。
顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら擦り傷を負いながら逃げる
彼女がなぜ兵士たちに追われ逃げているのか、それは数時間前まで遡る…
―――――
弓を構えて目の前の獲物―牡鹿に狙いを定め、キリリと弦を絞り矢を解き放つ。
解き放たれた矢は牡鹿の側頭部に向け走り、牡鹿の命を奪う。矢を頭に受けて断末魔をあげながら倒れたのを確認した彼女は待ち伏せていた木の上から飛び降り自分で仕留めた獲物のもとに駆け寄る。
彼女は獲物が事切れているのを確認すると髮の色と同じ茶色の耳や尻尾についた木の葉を払って耳をピクピク動かしながら獲物を仕留められたことに喜ぶ
「やったやったーついに仕留めたぞー」
と言いながら尻尾を振る。彼女は12歳から狩りを始めて一度も仕留めたことがなく、今回が初めての獲物になった。そして彼女は鼻歌を歌いながら獲物を肩に担いで家へ帰宅した。
「おかーさん、鹿さんがとれたよー」
とドアを開けながら報告する。ドアの奥は居間でその横には夫婦とメアリそれぞれの寝室へつながるドアがあり、居間では30代ぐらいだろうか彼女の両親がお茶をのみながら寛いでいた。その両親には耳や尻尾はついていない
「おぉ…よくとれたな。偉いな、メアリ」
と父親がメアリの頭をわしゃわしゃと撫でようとするがささっと逃げて母親のもとに駆けていく。
「…よぉし、今日は鹿の肉を使った肉料理だ」
娘が構ってくれなかったことに対し肩を落としたが気を取り直して、空元気をだしながら鹿を担いで外へ解体をしに出ていく。
メアリは母親にギューっとハグをすると、母親はあらあらと言いつつ微笑みながら頭を撫でる。
撫で終わると目線を下げて「今日のメアリのお話、聞かせてくれないかしら」と言うと「いいよっ」とニコニコしながらメアリが答え、居間にある椅子に二人とも腰掛けて色々と話していく。母親は終始ニコニコと笑顔で聞いていた。
しばらく話していると解体し終えたのか父親が肉の固まりを手に持ち「料理を頼む」と母親に言ったのでメアリは「えぇー」と不貞腐れる。すると「メアリ、じゃあお父さんにさっきの話をしてあげれば?」と母親が言ったので、それを聞いた父親が「ん?どんな話なのかな。メアリ教えてくれないか」と言った。
メアリはというとそっぽを向いて「おとーさんには話さない」と言い放つと父親はあちゃーというかのように頭をかく。その様子を母親はクスクスと笑いながら見守っている。しばらくして母親が鹿肉のシチューを作り、食卓に並べいざ食べようとしたとき玄関のドアがノックされ「王国騎士団だ、扉を開けてもらおう」と聞こえた。
メアリの両親は目を合わせ父親がドアへ、母親はメアリを寝室へ誘導する。そしてメアリは「いいよと言うまで開けちゃダメだよ」と言われた。
自分の寝室に閉じ込められ様子が気になるのでドアに耳を当てて聞き耳をたてると会話が聞こえてきた。
「最近、ここらでよく獣人を見かけると通報されたのでな。その情報収集に来たのだ」
と低い声が聞こえ
「そうなのですか、それは大変ですね。聖書で悪魔と言われる獣人は怖いですが私どもは見たことはございません」
とメアリの父親が答える
「そうか……本当に見に覚えはないか」
「いえ、まったく」
「ふむ……おいっ貴様らっこの家を探せっ」
と複数の足音が聞こえる
「あっ騎士様っな、なぜでございますかっ」
ガタッと物音とともに父親の制止の声が響く
「貴様らが獣人を匿っていることは既に調べがついているのだっ神への反逆だぞっ、こいつらを連れていけっ」
とバタバタという音と床に押さえつけられる音が響くと同時にメアリの寝室のドアが開き「みつけたぞぉっ」と叫ばれた。
すると父親が「メアリィッそいつらには何としても捕まるんじゃないっ逃げるんだっ」と叫んだ。
それを聞いたメアリは一時的に硬直してしまったものの自分を捕まえようとしている兵士からすり抜けるように逃げ兵士たちの間を次々と通り抜けていき最後にドアから外に逃げる。ドアから外に出る直前にちらりと両親を見ると押さえ付けられながらも自分たちの娘に向けさっきと同じように「にげろぉっ」と叫んでいるのが見えた。
(おとーさん、おかーさん…私を育ててくれてありがとう、おとーさん…いままでごめんね、大好きだよ)
目から涙が溢れるけども振り向かないようにひたすら走る、後ろから「逃がすなぁ追えぇぇっ」と叫びながら兵士たちが5~6人追いかけてくるがどんどん引き離していく。
月明かりに浮かんだ彼女の顔は鼻水や涙でぐしゃぐしゃになっていた。
誤字脱字がありましたら遠慮なくどうぞ




