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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第一章】女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。
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第4話 【4月24日】理子と葉っぱとミヒャエルの暗示


このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.

──4月24日

 変わらぬ日常。理子は学校の廊下を歩いていた。件の合コン以来、彼女は落ち着かない日々を過ごしている。

 あれから5日経つが、ミヒャエルからの連絡は一向に無い。


(彼は何者だろう? どうして私の事を知っていたの?)


 ミヒャエルが知っていたのは、単に理子の素性だけではない。彼は迷う事無く、理子の住所を口にした。親しい友人でさえ、他人の住所を暗記するのは容易ではない。それをやってのけたミヒャエル……その事実が余計に彼女を悶々とさせる。


(……ミヒャエルとどこで会った? 本当に初対面じゃない? 全然思い出せないのに?)


 そんな事を考えながら歩いていた理子は、不注意から誰かとぶつかってしまう。


「うわっ!?」


 転びそうになる理子を、ぶつかった相手が抱き止める。


「すみません!!」


 理子は謝り、接触した相手を確認する。


「すまん、先生の方こそ余所見しとった」


 理子がぶつかった相手は柏木だった。いつも通り顔を隠した不審者スタイル。


(……げっ、よりによって柏木先生……)


 途端に理子はげんなりした。理子は柏木から素早く距離を取り、ぶつかった拍子に落としたノートと筆箱を拾う。

 柏木もしゃがんで手伝おうとするが、理子が余りにも勢いよく拾い上げるので、手を出す隙が無かった。


「鈴木さん……何かぼーっと、しとったけど大丈夫?」


「何でもありません。大丈夫です!」


 理子はサングラス越しに柏木と目が合う。だが、覆い隠された彼の表情は読み取れない。生徒の中で、柏木の素顔を見たと言う話を聞いた事は無かった。当然、理子も彼の尊顔を拝んだ事など無い。


(……他の先生なら……素顔を見た事があるのかな?)


「そっか……ならええねん」


 そう言うと、柏木は立ち上がった。理子は柏木を見上げる。背の高い柏木。この高さはミヒャエルを彷彿とさせた。

 流暢な日本語を話す、背の高い西洋人……共通点が多い。


(……まさかね? ……ん? …………あれ?)


 理子の中にふと疑念が沸く。ミヒャエルは初対面では無いと断言していた。彼は理子の個人情報を知っていて、目の前の柏木はその個人情報を知るすべを持っている。

 まさかと言う思いが、理子の脳内を駆け巡る。しかも、その考えを否定できる要素が無い。


(!!??)


 突如として、この可能性に気づき理子は困惑した。あの晩以来の激しい混乱が、理子の脳内に押し寄せる。


(……待て待て待て!! そんな馬鹿な!?)


 もし仮にミヒャエル=柏木だとして、偶然にも合コンで居合わせるなんて、いくら何でも出来すぎだ。しかし……それ以外に個人情報が知られている状況に説明がつかない。理子は考えれば考える程、この仮説が正しい気がしてきた。


(柏木先生がミヒャエル?)


 フードに隠され、柏木の髪色は確認出来ない。

 理子の心拍が速まり、鼓動が耳に響く。胸が苦しい……喉の奥が詰まるのを感じた。

 そんな彼女に、柏木は更なる追い討ちをかけた。


「髪に何かついとるよ」


 そう言って理子の左耳付近に手を伸ばす。


(!?)


 驚きを隠せない理子。


(もしかして、また……あの時と同じ、小さな薔薇の花が出るのだろうか?)


 更に胸が高鳴る。


 だが、柏木の手が捉えたのは薔薇では無く……葉っぱだった。


「ぷっ……頭に葉っぱ着けとるとか……木登りでもしてたん?」


 マスクのシワが僅かに動き、柏木が小さく笑ったのが分かる。

──その瞬間、理子の中で熱い何かが込み上げた。


「……っ違います!! 失礼します!!」


 理子はそう言って、慌てて立ち去る。

 この時、理子は自分を恥じていた。ミヒャエルの事を考えていたとは言え、あの怪しげな不審者相手に、一瞬でも異性を意識してしまった事が恥ずかしかった。

 何より……手を伸ばされた時、特別な何かを期待した事が、とても恥ずかしく思えた。

 鏡を見ずとも、赤面しているのを感じた。きっと自分は、酷くみっともない表情をしているに違いない。そんな顔を、柏木に見られたくは無い。そう思い、逃げ出す理子。

 そんな彼女に、柏木が言い放つ。


「制服着たお子様が、酒なんか飲んだアカンで」


 その台詞は、背後からの痛恨の一撃だった。思わず理子は振り返る。彼女は言葉も出ず、微動だに出来ない。疑惑が確信に変わりつつあった。

 もし、ゲームの様なセーブポイントが実際に存在するならば、彼とぶつかる1時間前にしたかった。もっと早くこの可能性に気づけたなら、きっと今よりいい対処が出来たであろう。理子の脳裏に、そんな現実離れした空想が過る。

 しかし今更だ。馬を盗まれてから馬小屋を施錠しても無駄なのだ。

 そんな理子の様子を、せせら笑うかの様に柏木は眺める。


「はよ教室戻らな、次の授業始まんでぇ」


 ハッとして声をかけようとする理子。

 それに対して柏木は、人差し指を自身の口元に当てて「シッ」と僅かな音出す。彼女を制止する動作。理子はミヒャエルの言葉を思い出す。


(絶対誰にも教えてはいけない)


 そう、教えられない。言ってはいけない。例えそれが、ミヒャエル本人だとしても……


【柏木】に【ミヒャエル】の事は話せないのだ。


 理子は、自分の行動に制限がかけられていると感じた。


 チャイムが鳴った。次の授業が始まる。もう行かなければならない。

 理子は、後ろ髪をひかれる思いできびすを返し、教室に走った。

【作中解説】

『馬を盗まれてから、馬小屋を施錠する』

ことわざの一つ。

意味は『後の祭り』『後悔先に立たず』と同義。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。


Thank you for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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