表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第一章】女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。
5/182

第3話 【4月19日】理子と合コンとミヒャエル

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.


──4月19日


「理子、お姉ちゃんの代わりに合コン行かない?」


 理子にそう言ったのは、今年、新社会人になったばかりの姉だ。


「は?」


 自室で数学の予習をしていた理子は、キョトンとして手を止めた。


「何で私が? まだ高校生だよ? 合コンって飲み会でしょ?」


「うん、そう。本当はお姉ちゃんが行きたかったんだけど……急用が出来てさ~」


「行けないなら、行けないで断ればいいじゃん」


「1人抜けたら誰か余るじゃん。だから代理って事でお願い!高校生って事は伏せてさ~。フリーターって事にしてさっ?」


(……呆れた姉だ。社会人とは思えない)


 理子はそう思い、眉をひそめる。


「お願い理子~お礼もちゃんとするしさ~」


「お礼?」


 理子はその言葉に思わず反応する。姉はニンマリと笑った。

 結局……お礼につられ、理子は合コンへの参加を承諾する。


(……まあいっか。今日は金曜日だし、明日は学校も休みだし)


 呆れた妹である。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 理子は、父親と姉の3人暮らし。母親は理子が小学生の時に亡くなっている。

 現在、父親は出張中。帰りが遅くなっても咎められる心配は無い。

 姉は理子と同じ高校の出身で、合コンの女性陣は全員が姉の同級生。つまり、理子にとって先輩方にあたる。

 代理の件は、既に姉から連絡済みだ。いざとなったらフォローしてもらえるとの事だが……先輩方を差し置いて、目立つ行動は出来ない。

 寧ろ、引き立て役を所望されているように思えた。邪推するならば、どちらかと言えば華やかさに欠ける姉も、引き立て役で合コンに呼ばれたのかも知れない。

 しかしながら、相手が女子高生と言うだけで、興味の対象になる可能性もある。用心の為にも、本当の身分は絶対に明かしてはならない。先輩方も、理子と同じ考えだ。ひとまず、理子の正体を明かす人は、女性陣にはいなかった。


合コンの会場は家からそう遠くない。理子は電車で向かった。

 繁華街とオフィス街の中間地点に、飲食店が多く建ち並ぶ一角があり、そこに会場である小料理店があった。内装は古民家風。入り口を入ってすぐの壁に、抽象的で鮮やかな色使いの絵が飾られていた。

 理子は先輩達に誘導されて、店の奥へと進む。個室タイプのテーブル席。手前に男性陣3人、奥に女性陣4人で座る。


「あれ? 1人足りなくない?」


 先輩が尋ねる。


「あー……大丈夫、大丈夫、もうすぐ着くから。ほっといて先に注文しよっか?」


 男性陣の1人が言う。続いて、他の2人も「とりあえず自己紹介する?」と提案した。

 それを先輩達も快諾。遅れている1人を待たずして、自己紹介が始まった。先輩達の視線を気にしつつ、理子も自己紹介をする。


「えーっと、理子です。カフェでバイトしてます。23歳です。」


 年齢以外、嘘は言っていない。実際にカフェでアルバイトをしているのだから。

 理子が拙い自己紹介を終えたところで、突然、個室の引き戸が開いた。全員の視線が開けた人物に注がれ、一斉に息を止める。

 引き戸を開けた人物は、頭を鴨居かもいにぶつけぬように、少し屈んで個室に入った。

 背の高い白金髪トウヘッドの西洋人。美しい顔立ちに、長いまつげが良く映え。凛と立つその姿勢から、体幹が鍛えられているのが伺えた。


「ごめん。遅れた」


 絹糸のような髪をした、端正な顔立ちの青年。理子を含む女性陣は目が釘付けだった。

 突然現れたこの美青年は、理子の正面に鎮座した。空いてる席がそこしか無いのだから不可抗力なのだが……理子は横からの無言の圧を感じていた。先輩が笑顔でこちらを睨んでいる。


(後で席替えだな。これは……)


 先輩方が白金髪トウヘッドの青年に質問を浴びせる。


「どこ出身?」


「日本語どこまで話せる?」


「名前は?」


 すかさず男性陣が「まぁまぁ先に注文しよう」と遮った。促されて全員で注文する。未成年である理子は一瞬迷ったが、出来心でカシスオレンジを一杯注文した。

 理子は未成年だが、飲酒経験が全く無いわけではなかった。父や、姉が買ってくる酒を、少し味見する程度の経験はあった。


(後で先輩方に本日の合コンの特等席を譲るのだから、これぐらいの【おいた】は目を瞑ってもらっても罰は当たるまい……)


 理子はそう考えた。

 注文を終え、落ち着いた所で、改めて白金髪トウヘッドの青年が自己紹介をする。


「ミヒャエル・ワーグナーです。ドイツ出身です。来日して5年になります」


かなり流暢りゅうちょうな日本語だ。否、流暢りゅうちょう過ぎると言ってよい。


「仕事は何?」


「日本の食べ物で苦手なものは?」


「カルチャーショックだった事は?」


 先輩達のミヒャエルに対する質問は止まらない。彼以外の男性陣には面白くない展開だ。今夜の合コンにミヒャエルを呼んだのは、間違いなく失敗だっただろう。

 こうなる事はある程度予想がつきそうだが……不思議な事に、ミヒャエルの参加に反対する者は誰1人いなかった。それどころか、呼ばなければならない気がしていた。その【原因】を彼等は一生知る事は無い。


 コンコンと個室の戸を叩く音がして「失礼します」と店員が入って来た。注文の品か来たのだ。お酒の名称を1つずつ声に出しながら、店員は手際よく提供した。


「じゃあ乾杯しよ!」


「カンパーイ!」


 それぞれがグラスを肩より少し高い位置に上げ、優しく音を鳴らし合う。

 理子も乾杯してカシスオレンジを味わおうとした。しかし……ある妨害により、それは叶わない。理子が持つグラスの縁を、指を揃えたしなやかな手が覆っていた。ミヒャエルの手だ。

 理子を含む全員が固まる中、彼は柔らかに微笑んだ。


「理子、君はまだ高校生だよね? お酒は駄目だよ」


 ミヒャエルにそう指摘され、理子は目を剥く。


「えっ……違いますよ……日本人だから……若く見えるんです……」


 理子は思わず嘘をつく。


「〇〇高等学校、2年B組鈴木理子。君はまだ16歳だ。未成年の飲酒は法に触れるよ」


 ミヒャエルは諭すように言った。頭を殴られたかの様な衝撃が理子を襲う。

 何故この青年は、自分の個人情報を知っているのだろうか?

 理子同様、混乱している先輩達に対して、ミヒャエルは続けて言い放つ。


「君達は、彼女が未成年だと言う事を最初から知っていたのかな? 未成年の飲酒を黙認して、罪に問われる覚悟はある?」


 ひきつった声が聞こえそうな程、先輩達は青ざめた。全員が声を出せないでいた。

 ミヒャエルは財布から万札を数枚取り出し、テーブルに置いた。

 そして有無を言わさず理子の手を引き、食店の後にする。

 残されたメンバーは、ただただ互いの顔を見合わせ、酷く困惑していた。


 理子を連れ出したミヒャエルは、そのまま表通りに行きタクシーを止めた。どこへ連れて行くのかと、理子がそう質問するよりも先に、彼は言う。


「すみません〇〇〇〇〇までお願いします」


 ミヒャエルが運転手に指示した場所は、紛れもない理子の住所だった。


「ちょっと待って!? 何で私の家を知っているの!? 初対面でしょ!?」


理子は焦る。ミヒャエルは少し考えてから口を開いた。


「どうしてか知りたい?」


「当然!」


 後部座席のただならぬ雰囲気に、運転手が困惑する。それを直ぐ様、察したミヒャエルが発車を促す。

 夜の街並みを走るタクシーの中で、ミヒャエルは静かに理子に話し始めた。


「理子、僕達は初対面ではないよ。僕の事を忘れちゃった?」


 そう言われて理子はますます混乱する。こんな美青年と面識があるなら、忘れる筈は無い。だが全く覚えが無い。


「人違いじゃないですか?」


「なら、どうして僕は君の個人情報を知っているの?」


「それは……そんな事言われても……全然覚えて無いし……分かりません」


 理子は弱々しく答える。それを聞いてミヒャエルは少し間を置き、


「……そっか、分かった。無理を言った様だね。ごめん理子」


 そう言って、悲しげに微笑んだ。


「……ズルい。そんな顔されたら、まるで私の方が悪いみたい……」


「……ごめんね」


 ミヒャエルは、申し訳なさそうに微笑みながら謝罪する。


 暫くしてタクシーは理子の家に到着した。理子がタクシーを降り、ミヒャエルもそれに続く。ミヒャエルは運転手に待つ様に頼み、運転手は快く料金メーターをそのままにして待つ。

 家の前に立つ理子に、ミヒャエルが話しかける。


「理子、髪に何かついてるよ」


 そう言うと彼は、長い指を理子の耳元に伸ばす。次の瞬間、そのしなやかな指は小さな薔薇の花を掴んだ。マジックだ。何も無い所から、コインを出すマジックの応用だろう。


「えっ!? すごっ」


 理子は素直に驚く。テレビ等でありがちな手法ではあるが、それでも実際目の前でされると嬉しいものがある。


「良かった喜んでもらえて。子供騙しだと言われたらどうしようかと……」


 ミヒャエルは少しはにかんで笑った。その顔を見た理子も、つられて「フッ」と笑う。

 緊張が少し緩んだところで、理子は改めて尋ねる。


「ねぇ、私やっぱりミヒャエルの事を思い出せないよ……私達、どこで会ったか教えてよ」


 ミヒャエルは、また少し考える。そして唐突に、人差し指を理子の口元に当てた。理子は戸惑うが、ミヒャエルは構わずに言う。


「理子、今夜の事は絶対誰にも教えてはいけない。約束だよ」


 言われて理子は、奇妙な感覚に襲われる。何らかの力に支配されている気がした。理子自身、理解が出来なかったが、不思議と反抗する気が起きない。ついつい素直に「分かった」と言ってしまう。


「今度連絡するから、日を改めて話そう」


 そう言うとミヒャエルは、待たせていたタクシーに乗り込み去って行く。ほうけたままの理子は、タクシーのテールランプが小さく見えなくなるまで、そこに立ち尽くしていた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。


Thank you for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=onscript?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ