第1話 理子と怪しい先生
鈴木理子は訝しみながら、ピアノに座る非常勤講師を眺めていた。
(相変わらず酷い服装だな……)
理子がそう思うのも無理は無い。ゆったりとしたパーカーにデニムのスボン。スポーティーなサングラスと黒いマスクで顔を隠し、フードをすっぽり被った姿。どうみても不審者にしか見えない。
だが意外にも、理子以外の生徒達はそんな服装を気にする事無く、この不審者の様な非常勤講師を慕っている。
ピアノの周りには複数の生徒が集まっていた。授業中だと言うのに、この講師は雑談が多い。皆楽しそうに彼の話を聞く。
だが理子は違う。理子はこの怪しげな講師を、入学した当初から好きになれなかった。
彼女は思う。
(顔を隠してる様な男が、よく教壇に立てたものだ……他の教師は何故アレを許すのか、理解に苦しむわ……)
確かに柏木の服装は酷い。だがスタイルだけは抜群に良かった。背も教室の鴨居にぶつかる程ある。骨格や肌の色からして、彼が西洋人であるのは間違いない。
しかし……何故か名前が柏木渚と言う。おまけに、そのルーツが外国とは思えない程、流暢な日本語……もとい大阪弁を喋るのだ。
(……帰化したのかな?)
西洋人の帰化は珍しい。理子が気になる点は他にもある。
時折、あのスポーティーなサングラス越しに、理子は視線を感じていた。勿論、彼女の思い過ごしと言う事もあり得る。確実に見られていると断言は出来ない。柏木から、特別な接触を受けた事も無いのだから。
理子は現在、高校2年生。来年、音楽の授業は無い。
(……今だけの我慢)
理子がそんな事を考えてるうちにチャイムが鳴り、音楽の授業が終わった。ガヤガヤと席を立つクラスメイトに紛れて、理子も音楽室を後にする。
そんな彼女を、件の講師が見つめていた。
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