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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
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第163話【現今】内海と食人種管理機構

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.


【これまでのあらすじ】

内海は理子に会うべく柏木宅を訪問した際、リーという怪物と遭遇する。

理子から遠回しに拒絶され、一旦は渋々帰った内海だが、後にリーが人狼である可能性に気づき、理子から引き離さなければ、と思い至る。



【登場人物】

内海ウツミ

マグダレーナから利一に譲渡され、利一の式神となった影の怪物。

利一によく似た理子の事を気にかけていて、理子と柏木の交際に反対している。


鈴木すずき理子りこ

不死の怪物を狩る力を持つ少女。

死者からのメッセージを夢で見る事が出来る他、鋭い勘を持ち合わせている。

その出生は謎に包まれており、柏木が現在調査中。

育ての母である井上いのうえ理子さとこが事故で亡くなり、その騒動から逃れる際、鈴木すずき理子りこに改名した。


柏木カシワギナギサ(別名ミカ)

不老不死の怪物であり、理子の恋人。

表の立場は、理子が通う高校の非常勤講師。

『渚』や『ミカ』の他に複数の名前を持つ。


リー・ガーフィールド

柏木の友人で、彼と同じく怪物。

柏木に理子の護衛を頼まれ、快く引き受けた。


柏木かしわぎ利一りいち

柏木渚の親友であり、内海の元・主。

数年前に起こった震災に巻き込まれ、亡くなっている。

【現今】


 その小さな時計店は、古びた商業区の一画にあった。

 真っ直ぐ伸びた線路沿いに車2台が徐行ですれ違える程度の道路が続き、その道路を挟んで反対側に、2階建ての店舗が横並びに続いている。各店舗の2階部分は住居になっていた。


 高度成長期に建てられた店舗兼住宅は、建てられた当初こそ様々な店が開店して賑わったものの、現在、営業しているのはたったの3軒のみ。大概はシャッターが下りた状態で、店としての機能を放棄していた。


 件の時計店は、辛うじて営業している3軒の内の1軒だった。

 看板を兼ねた軒先のきさきテントは、長年に渡り風雨に晒され、全ての文字が剥がれ落ちていた。陽に焼けて色褪せた緑色のテントに、比較的濃い緑色で【もがみ時計店】の文字が浮かび上がっている。その事から察するに、元は鮮やかな緑色だったのだろう。


 店の正面、右側のショーウィンドウにアンティークの置き時計と懐中時計が幾つか飾られていた。左側には年季の入った木製の扉があり、菱形ひしがたのステンドグラスの小窓がはめ込まれていた。扉は、所々、焦げ茶色のペンキが剥がれかけていてる。それが外観のみすぼらしさに拍車を掛け、古い店にありがちな、入り難い雰囲気をより濃く醸し出していた。


 時刻は夜の11時を過ぎ。近隣の店はどこも閉まっている拘わらず、この古びた時計店からは、明々と暖色の光が漏れている。


 内海は上を向いて、色褪せた軒先テントを凝視する。人間の目には剥げ落ちた文字の跡にしか見えないが、怪物である内海の目にはハッキリと【食人種管理機構】の白い文字が見えた。


 見えた瞬間、背筋に凍てついた空気を感じた。古びた扉を前にして、頭の中で誰かが問い掛けてくる。


 ──本当に、それでいいのか?


(いいんだ)と内海は答える。


 ──利一様はどう思われる?


(関係無い。悪いのはミカだ)


 ──でも……


「黙れ!」


 感情を抑制出来ず、思わず声に出た。


 問い掛けて来た声の正体は、己の良心だろうか?

 それとも、臆病な性根が頭の中で声として現れたのか?


 内海は大きく深呼吸してから、棒状の黒いドアハンドルに手を伸ばす。この扉を開けたら、もう後戻りは出来ない。意を決して扉を引く。


 一歩、中に踏み入れると思わぬ解放感に包まれた。本来あるべき2階の居住空間は無く、屋根裏まで吹き抜けになっている。天井には立派なはりが組まれ、筒状のモザイクランプが3つ、ぶら下がっていた。

 大胆な改修工事を施した割りには物が少なく、店内は酷く寂しい印象だった。

 店の隅にある空のショーケース。申し訳程度に飾られた壁掛け時計。店の奥にある木製のデスクには、飾り気のない電気スタンドが置かれている他、何もない。


「いらっしゃい」


 不意に声がして目をやると、デスクの向こうから豊かな毛並みの太い尻尾が現れた。艶やかな金色の尾は、先端にゆくほど細く尖り、白い毛に変わっていた。


 ふさふさの尻尾が左右に揺れて、訪れた客に話し掛ける。


「こんな夜更けに、何のご用でしょうか?」


 内海は尋ねられてハッとする。豊かな毛並みの尻尾に気を取られていた。


「夜分に失礼。私は内海と申します。南関東に滞在している人狼について窺いたい事があり、こちらに参りました」


「……内海? もしや管理人の内海でしょうか?」


 ゆらゆらと揺れていた尻尾がピンと静止して、そのままを描いてデスクの向こうに消えた。代わりに三角の耳が現れて、次いで黒い鼻が見える。


「元、管理人です」と内海は答えた。


「やはり」


 尻尾の主はそう言うと、軽々とデスクを跳躍して、内海の前に姿を現す。


「こんばんは、内海。初めまして、私は殯丸もがりまる食人種しょくじんしゅ管理機構かんりきこうの相談窓口を担当している狐です」


 尻尾の主──金色の狐はそう言って、後ろ足で立ち上がり、一礼する。


「滞在している人狼と仰いましたね? 詳しい話をお聞かせ願いましょう」


「……私が担当していた地区に、人狼とおぼしき男がいるのです」


 殯丸もがりまるは「ほぅ」と感心した風に言って、糸のような細目を少し開く。


おぼしき……それはつまり、未登録の人狼がいるという事でしょうか?」


「あくまでその可能性がある、という話です。ですから、その者が……彼が本当に人狼なのか、それを確かめたい。登録されている人狼であれば、こちらで確認出来るでしょう。もし……確認出来ないのであれば──」


「その者が未登録の人狼である可能性が高い──と?」


 内海はコクンと頷く。


「ですが、貴女の仰る彼とやらが他の種族である可能性もあるのでしょう? 抑々(そもそも)、人狼だと疑う根拠は何ですか?」


「それは──(どういうべきだろうか?)」


 内海は間を置いてから「私は」と切り出す。


「私は管理人でした。己の職務に責任を持ち、最後まで責務を果たしてきた、と自負しております。ですから、決して誤解なさらないで頂きたいのです。管理人として得た情報は口外すべきではありません。私自身、それを重々承知しています。だから今からお話しする内容は、それを踏まえた上で話したのだ、とご理解下さい」


 内海は前置きを述べてから、険しい口調で続けた。


殯丸もがりまるは【ベッドの下の男の子】をご存知でしょうか?」


「ええ勿論。存じてますよ。この仕事に携わる者で、その事件を知らぬ者はいないでしょう」


「私が人狼だと疑う男は、その事件の主犯である【マイケル】の友人なのです」


 それを聞いた途端に、殯丸もがりまるの全身の毛が逆立つ。


「なんと!? では……貴女が担当していた地区に彼が──マイケル氏がいたのですね?」


 訊かれて内海は「はい」と答えた。

 マイケルとは、柏木渚がかつて名乗っていた名前だ。


「それだけでは、ありません。人狼と思しき件の男は、1975年の襲撃事件の犯人と同じ名前なのです。あの犯人が生きていれば、年齢的にも丁度合う」


「……だが、人狼は人よりも短命です。仮に犯人ならば、もう寿命は尽きている筈では?」


 殯丸もがりまるは怪訝な顔で、そう言った。


「呪いで寿命を延ばす事だって出来るでしょう!?」


(ヴィヴィアン・ジェファーソンがそうだったじゃないか!)

 ───と言いたいのを、内海はぐっと我慢する。

 ヴィヴィアンの事情を知っている者は極少数だ。内海が知っている、という事実は、内海しか知らない。知られては都合が悪い。だから、知っていると公言するのを控えた。


 殯丸もがりまるの目には、内海が何かを焦っているように見えた。


「失礼を承知で窺いますが、内海は罷免ひめんされたと聞いております」


「……罷免された怪物のげんは信ずるに値しない、と──そう仰いますか?」


「率直に申し上げて、そうですね。……もしや内海は、手柄を立てて、管理人に返り咲こうと思ってらっしゃるのでは?」


 それに対し、内海はキッパリと「違います」否定して、更に続ける。


「手柄など、どうでも良いのです。私は秩序を乱す食人種が許せない。人に害を為す怪物は、例え誰であろうと絶対に許せないのです。取り分け人狼は人にも、怪物にも害を与える、言わば毒です。その毒が……私の大切な人の側にいる事が我慢ならない!!

何としても排除しなければ──」


 ──理子の身に危険が及ぶかも知れない、という言葉を飲み込んで、内海は胸が苦しくなる。

 思い出したのは、理子ではなく利一の顔だった。利一の事を思う度、罪悪感の海に投げ出される。心が溺れて呼吸もままならない。


「内海、落ち着いて下さい。一体、何の話です? 大切な人とは誰の事ですか?」


 殯丸もがりまるは困惑気味に尋ねた。


「すみません。全て最初からお話します」


 内海は、胸の痛みを堪えてポツリポツリと打ち明ける。


 マイケルこと柏木が、理子を連れて内海のもとを訪ねて来た事。


 理子がハインツに狙われた事。


 的井と2人でハインツを殺処分した事。


 そのせいで管理人をクビになった事。


 そして理子を訪ねて、リーと遭遇した事。


 殯丸もがりまるは一通り聞いてから、僅かに黙り込み、大きな溜め息を吐いた。


「内海の主張は分かりました。一先ず、リー・ガーフィールドが人狼として登録されているか調べてみましょう。それでもし登録が無い場合は直接リー本人と会って、人狼であるかどうか問いましょう。その際、彼の側に鈴木理子がいたならば、彼女をこちらで保護します。それで良いですね?」


「はい! ありがとうございます!」


 内海は安堵の声色で感謝した。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間が、楽しいものになりますように。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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