第14話 【5月23日】理子と柏木の重大な質問
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「鈴木、俺達付き合わね?」
学校からの帰路の途中、理子は同級生から思わぬ告白を受けた。彼とは高校1年生からの友人で、たまたま帰る方角が同じだった。今日も自転車で帰っていて、偶然、帰路が重なっただけだ。
「ごめん、付き合えない」
すかさず理子は断った。
「何で? 俺の事嫌いか?」
「違う。嫌いじゃない」
「じゃあっ!」
「私、付き合ってる人がいるの」
理子は、はにかみながら答えた。フラれた彼は、ショックで口が塞がらない。
そんな彼を置いて、理子は颯爽と自転車を走らせた。
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他者と関わる事は、自身に様々な影響をもたらす。恋人や友人に影響され、新しい趣味を見つけたり、性格が変わったなんて、ありがちな話だ。
だが無論、変われないものもある。典型的な例を挙げるとすれば……
──食事。
アレルギーのある人は、特定の【物質】が含まれている食事は摂取出来ない。
柏木の場合はその逆で、特定の【栄養】を摂取しなければ生きていけない。正確には、活動出来なくなる。
このまま理子と付き合えば、いつか秘密を知られる可能性が高い。
人と、人ならざる者が関係を構築するには、様々なリスクがつきまとう。
理子と真剣に交際するならば、いずれ……柏木は決断しなければならない。
秘密を打ち明けるか……
それとも……
秘密を守り抜くか……
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理子と柏木が付き合いだして、暫く経った頃。
ある朝早く、柏木は自宅から電話をかけた。真面目な表情で緊張している様子だ。何コールかして、相手が電話に出た。柏木が喋る。
『やあ、久しぶり……うん僕だよ…………あぁ、お陰さまで元気でやってるよ……君に頼みがあるんだ……いや、違うよ……実は……』
電話の相手は海外だった。日本とは時差があり、相手の方は夕方で、天候は雨模様。キッチンの窓から雨を眺めつつ、彼女は柏木と会話をする。
『そう、分かった。……詳しい日程が決まったら連絡して頂戴。いつでも待ってるわ』
そう言って、彼女は電話を切った。13歳前後のアフリカンの美少女。芸術的に編み込まれた長い髪が、艶やかに揺れる。電話を終えた後も、彼女は窓の外を眺め続けた。
『ヴィヴィー、誰からの電話?』
初老の女性がキッチンに現れ、背後から彼女に声をかけた。彼女はこう答える。
『……誰でもないわ。間違い電話よ』
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電話を終えた柏木は、自宅のガレージに向かう。以前、シートを濡らしてしまった車が、元通り綺麗な状態でそこにあった。
柏木はその車に乗り込み、自宅を出た。向かった先のコンビニに理子が待っていた。
柏木の素顔を知る者は限られている。その為、理子を堂々と迎えに行けた。例えバレたとしても、柏木には秘策がある。秘密が漏れる心配は無かった。
休日のデート。2人は、ほぼ毎週末出掛けた。レジャー施設やスポーツ観戦。色々な場所に行ったが、本音を言えば、一緒にいられれば何でも良かった。
今日は、理子が見たがっていた映画を見に行く。
映画館の入り口で、理子は双子の少女とすれ違う。お揃いの髪飾りを着けた、可愛らしい双子。
「あーいいなぁ、双子って楽しそう。昔、すごく憧れてたんだよね」
羨ましいそうに理子が言うと、柏木はある事実を打ち明けた。
「そうなん? 実は俺、双子やねん。双子のお兄ちゃん」
「本当!? 写真とかある?」
「写真は無いなー。離れて暮らす様になってから、随分経つし」
「メールで送って貰えば? SNSとか色々あるじゃん」
「……弟とは、全然連絡取ってへんねん」
「どうして?」
「知りたい?」
「またそれ!」
「ワハハごめん。ごめん」
「もうっ!」
「いつか話すて」
「本当に?」
理子が訝しみながら訊く。すると柏木は、一呼吸してから真剣な顔をした。
「………なぁ理子、もし俺が【怪物】やったらどうする?」
「え?」
唐突な質問に理子は戸惑う。
「もし……俺が、おとぎ話に出てくる様な【怪物】やったらどうする? 陰に隠れて、大勢の人間を食っとったらどうする? そんな俺でも理子は愛せる?」
これは柏木にとって重大な質問だった。殆ど真実を言っているに等しい。理子はそんな事とは知らなかったが、何か大切な問いかけをされている気がした。そして彼女は答える。
「渚が怪物でも、私は渚が好き。もし何か問題を抱えてるなら、一緒に解決すればいいじゃない……ずっと側にいるよ」
理子の答えを聞いて、柏木は笑みを溢す。
「なぁ、キスしたい。してもえぇ?」
「はっ!? 人前だよ!?」
理子は焦る。
「えぇやん!」
「駄目! 淫行罪で捕まるじゃん!」
柏木は戯けて言った。
「ほんまや~。俺、何も出来ひんや~ん。はよ、大人なってな~りっちゃん」
「もう馬鹿っ!」
2人はそんなやり取りをしてから、映画のチケットを購入した。
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