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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
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第154話【1975年】◆エミリーの夢見とミカの煽り◆

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.


【前回のお話(第147話)↓】

https://ncode.syosetu.com/n3439ge/160/


【前回のあらすじ】

人狼ウェアウルフの襲撃を受け、遂に真実を知ったエミリーは、己の運命にあらがう事を決意する。

彼女はチェスターの協力を得て、姉メアリーを連れて逃げようと考えるが、ミカに先手を打たれ、メアリーを人質に取られてしまう。


【登場人物】

チェスター(愛称チェット)

人間から吸血鬼ヴァンパイアになった青年。

メアリーとエミリーの護衛兼監視を担当していたが、2人が不幸になる未来を知り、救おうと決意する。


メアリー(姉)

狩人と呼ばれ、怪物を無力化する血を持つ少女。

妹共々、母親に売られ、怪物達に監視されて生きてきたが、当の本人はその事実を知らない。

高校卒業と同時に、怪物達の家畜にされようとしている。

今は、ミカに操られ、意思の無い状態で人質になっている。


エミリー(妹)

姉と同じく、狩人の少女。

姉の高校卒業と同時に、怪物達に殺されようとしている。

姉と同じく何も知らずに生きてきたが、ミカに真実を聞かされ、運命に抗う事を決意する。

紆余曲折うよきょくせつを経て、チェスターと恋仲なった。

ここ数日間、不思議な夢を見続けている。


ミカ(別名マイケル)

夢魔インキュバスの青年。

メアリーとエミリーの父親に、家族を殺された被害者遺族であり、その復讐として、姉妹の父親を殺害した加害者である。

姉妹を憎んでいて、2人の不幸な未来を待ち望んでいる。

人間を操る力を持ち、自由に性別を変える事が出来る。


ベンジャミン

記憶喪失の青年。身元が分からず、路頭に迷うところをアビーに救われ、リーの家で雇われる。

チェスターと出会ってから、奇妙な夢や幻覚を見るようになる。


リー

町一番の資産家であり慈善家の男性。

怪物達に協力して、チェスターと親子のふりをしている。

姉妹の事情を知り、彼女らに同情している。

【1975年】


 人狼ウェアウルフの襲撃から一夜明け、チェスターは普段通り護衛の任務にあたった。

 彼の直属の上司であるヴィヴィアンは、襲撃を手引きした疑いをかけられ、聴聞会に呼ばれて行った。


 一方、チェスターの裏切り行為を知ったリズは、ヴィヴィアンの言う通り、人狼ウェアウルフに殺害された事になっていた。裏切りに対するお咎めも一切無く、ミカと利一が、裏切りを告発した様子もなかった。他の同僚達も、襲撃の件しか知らない様子だった。


 こうして一先ず、チェスターは生かされたが、問題は何も解決していない。

 


 チェスターはエミリーを連れて、自宅である屋敷に向かっていた。

 チェスターが運転する車の──助手席にエミリー、後部座席にメアリーとミカが座る。

 車が2ドアだった為、後部座席に座るには、前の座席を畳む必要があった。

 ミカは『後ろは狭い』と文句を言っていたが、チェスターに『嫌なら走れ』と言われ、渋々黙った。


 エミリーは振り返り、真後ろに座るメアリーを見る。メアリーは虚空こくうを見つめたまま、エミリーと目を合わそうとしない。妹の存在すら認識出来ないようで、まるで意思の無い人形だった。

 その原因は、メアリーの隣に座るミカだ。彼はメアリーの精神を操作して、傀儡くぐつと言う名の人質にした。


 メアリーを人質に取られた事で、エミリーとチェスターは大人しくせざる得なくなった。仕方なく、2人は普段通り学校に行き、普段通りに下校した。唯一違うのは、そこにメアリーとミカが加わった事だ。


 ミカは周囲の人間の精神に干渉して、自身の存在を隠蔽した。無関係な人間の目には、ミカの姿はおろか、声すらも認識出来ない。

 彼はその状態で、傀儡くぐつのメアリーを操り、学校に通わせた。何食わぬ顔で彼女に授業を受けさせ、友達と会話をさせる。そして当然の如く、チェスターの車に乗り込んだのだ。

 流石に、チェスターは良い顔をしなかったが、揉め事を起こすわけにもいかず、嫌々ながらも乗車を許すしかなかった。


 4人を乗せた車は、昨日の事件現場付近──商業区を避けて走行した。

 端から見れば、仲の良い若者の集団にしか見えないだろう。事情を知らぬ者は、誰も疑いはしない。まさか若者の内、青年2人が人外で、少女1人が人質なっているなんて、そんな馬鹿げた想像に至る方が可笑しいのだから。


 暫くして、エミリーが口を開く。


『それで? マイケル(ミカ)はいつになったらメアリーを解放してくれるの? それとも、メアリーがおばあちゃんになるまで、ずっと側にいるつもりかしら?』


 エミリーは嫌味っぽく尋ねた。


『勿論。プロムが終わったら解放するよ。こう見えて僕は忙しいからね。いつまでも人形で遊んでられる程、暇じゃないんだ』


『人形ですって!?』


 一気に怒りが湧き起こる。


『メアリーはあんたのオモチャじゃないのよ! 血の通った人間なの! 私もメアリーも、幸せになる為に生まれたの! その権利がある筈だわ!』


『無いよ。君達は親に売られた家畜だ』


『違うわ!! ママには何か事情があったのよ。そうに違いないわ! でなければ、娘を売るなんて馬鹿な真似、誰するもんですか! マイケルだって、そうよ! 何か事情があるのよね?』


『僕が?』


 ミカはあざけるように聞き返す。


『そうよ。皆、何かしら事情があるの。今に至る理由があるの筈よ』


『エミリー、落ち着け。コイツに何を言ったって無駄だ』


 チェスターがなだめるも、エミリーは止まらなかった。


『僕の事情は話したろ? 僕は、君達一家に復讐したい──ただ、それだけだよ』


『納得いかないわ! だって私に、あんなに優してくれたじゃない! 私を抱いて、子守唄を歌ってくれたじゃない! 絵本を読んでくれたじゃない……なのに』


 そう喋るうちに、エミリーは段々と落ち込んで、語尾が弱々しくなった。

 すかさず、ミカは呆れた調子で『だから』と反論を始める。


『それは君の父親が、息子の仇だと知るまでの話だ』


『嘘よ!!』


『何故、そう思う?』


『だって──』


 エミリーはそう言いかけて、一瞬止まる。だっての先が思いつかない。


 ──だって?

 ──だって、何だろう?


 思いつかないまま、何か反論しようとして、つい夢の事を口にした。


『だって──夢で見たんだもの』


『『は?』』


 エミリーが発した予想外の言葉に、チェスターとミカは、目が点になる。2人の顔には、彼女が何を言っているのか理解出来ない、と明らかに書かれていた。

 その反応を見て、エミリーは己の発言が恥ずかしくなる。それでも何とか説明したくて『夢で見たのよ。何度も、何度も』と呟いた。


『夢で見たって……本当に?』


 チェスターは困惑して聞き返す。頭上には、疑問符ぎもんふがいくつも浮かんでいた。


『あっ今、私の事、馬鹿にしたでしょ!?』


『してねぇよ!』


『嘘おっしゃい!』


 エミリーの怒りの矛先はチェスターに向けられた。彼女が二言、三言、文句を言ったところで、後部座席から声がかかる。


『エミリー。今の話、もっと詳しく聞きたい。何度も、僕の夢を見たと言ったね。いつから見始めたの?』


 ミカは冷静に尋ねた。チェスターはルームミラーで、一瞬、ミカを確認する。鏡に映ったミカは、とても真剣な表情をしていた。その様子に違和感を覚えた。


 エミリーも、真剣な様子のミカに戸惑う。夢の話など、馬鹿にされると思っていたが、ミカは馬鹿にするどころか、いたく真面目に聞き返してきた。


『……ええ。何度も見たわ。最初に見たのは──』


 エミリーは、これまで見た夢の内容を、覚えている限り詳しく話した。


 ──子供の頃、ミカに遊んでもらった事。


 ──ミカが母親を連れて、バレエの発表会に来てくれた事。


 ──ある夢の中では、ミカの性別が男ではなく女だった事。


 ミカはそれらを真摯しんしな態度で聞き、そして全て聞き終えてから、少しの間考え込む。


『マイケル』


 少女の愛らしい声で呼ばれて、ミカはハッと顔を上げた。エミリーがまた振り返ってこちらを見ていた。彼女と目が合った刹那せつな、冷淡な表情が崩れたが、直ぐ様、冷たく睨み付けた。


『何?』


 ミカは素っ気なく尋ねる。その口調には、不快感がにじんでいた。


『マイケルって、本当は女なの?』


『男だよ』


『じゃあ、あの夢は』


『君の妄想だ』


 ミカがそう言いきった直後、チェスターが『オイ』と口を挟んだ。


『お前が女に変身出来るのは事実だろうが。エミリーの妄想で片付けるなよ』


『えっ!? そうなの?』


 エミリーは目を丸くする。

 チェスターに指摘されて、ミカは小さく舌打ちした。だが、直ぐに良からぬ事を思いついて、口を開く。


『あー……そうそう。そうだったね。女に変身してた時に、君とキスしたんだった』


 車内は一瞬にして凍りつくいた。

『え?』──と聞き返すエミリーの横で、チェスターは一気に血の気が引いく。


『チェスター、どうゆう事よ!!』


 怒声が響き、ミカはニヤリと笑う。


『あーそう言えば、裸で君に添い寝してあげた事もあったね』


 ミカが言っているのは、チェスターがミカに敗北して倒れたいた時の事だろう。確かに、チェスターが目を覚ました時、女のミカが半裸の状態で側にいた。添い寝の真偽は不明だが、望んでいなかった事は確かだ。

 だから即座に否定した。


『違う!!』


『何が違うのよ!! まさかマイケルと寝たの!? 彼と、そう言う関係だったの!?』


『誤解だ!! コイツとは寝てねぇよ!!』


『じゃあ、キスもしてないのよね!?』


 そこでミカが『チェスターとは3回キスしたよ』と──暴露ばくろした。


『オイ、てめぇ!!』


『3回!? 3回もしたの!? 一体、どういう事よ!!』


 エミリーは怒ってチェスターの右腕の袖を掴み、力一杯揺らした。

 そのせいで車はやや蛇行して、チェスターは慌てて速度を落とした。


『危ない! やめろって! 落ち着けよ! 違うんだって! コイツと俺はそんな仲じゃねぇよ!』


『じゃあ、何でキスしたのよ!!』


『コイツと喧嘩したんだよ! コイツの種族はキスで相手の体力を奪うんだ。それで、俺が体力を奪われて──負けたんだよ!! 分かったか? そんな関係じゃねぇよ!』


 チェスターはそう言いつつ、内心、3回のキスの内、1回が喧嘩によるものではない事を苦く思う。


(もし、ミカがそれをエミリーに言ったら──)


 その時は全力で否定して、ミカが嘘をついている事にしようと考えた。

 だがしかし、次にミカから発せられる言葉に、チェスターは絶句させられる事になる。


『安心して。チェスターの言う通りだよ。僕らはそんな関係じゃない。だって彼は、158歳の童貞だからね』


『え?』


(158歳? 童貞?)


 エミリーは、事実か否かを確認しようと、チェスターを見る。彼は真顔で絶句していた。怒りが限界値を突破して、頭が真っ白な状態だった。


 チェスターは無言で車を適当な路肩に止め、車から静かに降りると、そのまま運転席を畳む。

 ミカは、チェスターからの無言の圧力を感じて、何も言わずに素直に後部座席を出た。


 ──次の瞬間、2人は取っ組み合い、あっと言う間に地面に伏した。


『ち……ちょっと!!』


 エミリーは慌てて車から降りて、2人のもとに駆け寄った。目に飛び込んで来たのは、軍服を着たミカと、彼に片腕を後ろ手に引っ張られ、梃子てこの原理で地面に突っ伏しているチェスターだった。


 エミリーが唖然としていると、チェスターが『クソが!!』と叫ぶ。


『残念だったね。毎回、君に殴らせてあげる程、僕は親切じゃないんだよ』


 言って、ミカはあざる。

 チェスターは酷く悔しそうに顔を歪めていたが、突然、ハッと何かに気がついて、抵抗する力を緩めた。

 ミカはその様子を見て、チェスターの腕を離し、彼の背に乗せていた片膝を退けた。


『何、どうしたの?』


 エミリーが心配して尋ねると、チェスターは深刻な顔で『人狼ウェアウルフ』と言った。


『……どこだ?』


 チェスターはミカの問い掛けを無視して、数秒の間、黙り込む。

 察知した人狼ウェアウルフの気配は、チェスターの屋敷の方角からだった。

 途端に、途轍とてつもなく嫌な予感に襲われる。


(今、屋敷には誰がいる?)


 そう考えて、真っ先に浮かんだのはリーとアビー、屋敷の使用人達、そしてベンジャミンだった。


 今朝、チェスターはリーに頼んで、ベンジャミンを探しに行ってもらった。本当は、もっと早くにベンジャミンの安否を確認したかったが、昨晩は利一が側にいた為、リーに伝える事が出来ず、今朝になったのだ。


 昨日、人狼ウェアウルフに殺害された犠牲者の中には、ベンジャミンはいなかった。それどころか、殺害されたのは護衛の怪物ばかりで、人間の犠牲者は1人もいなかった。だから、きっとどこかに身を潜めていると期待して、リーに頼んだのだ。彼なら必ず探してくれる、と信頼していた。


(もし、リーがベンを見つけて、自宅に連れ帰っていたら?)


 全身の毛が逆立った。ゾワゾワと不吉な予感に支配されて、僅かに震えた。

 今すぐ屋敷に行かねばならない──だが、エミリーとメアリーを連れて行くわけにはいかない──だからと言って、ミカに任せるわけにもいかない。名案が浮かばず、焦りだけが増す。


『チェスター!』


 エミリーに呼ばれて、ハッとする。


人狼ウェアウルフって昨日の怪物ね? そいつ、どこにいるの?』


『恐らく、俺の屋敷いえだ』


『分かったわ。そこに行きましょう!』


 思いがけない言葉に、チェスターは目と口をポカンと開けた。


『は? 何言ってるんだよ?』


『だって、屋敷いえにはチェスターのご両親や使用人達がいるんでしょ? その人達は、今、襲われてるかも知れないんでしょ? 助けに行かないでどうするのよ』


『危険が待ち構えてるところに、お前を連れていけるかよ!』


『あら、忘れたの? 私は狩人なんでしょ? 私の血は怪物を無力化して殺せるのよ。役に立つじゃない』


『馬鹿言うな! 卒業を待たずして死ぬ気かよ!』


『違うわ! 貴方の家族を助けたいのよ!』


『じゃあ、行こうか』


 突然、ミカが口を挟む。チェスターは、そんな彼を鋭く睨み付けた。


『僕がエミリー達を守りつつ、屋敷の人間を助け出すから、君は人狼ウェアウルフを討伐しろ』


『黙れ!! 誰が、お前なんか信用するか!!』


『僕は、メアリーが卒業するまで、彼女らを死なせる気は無いよ。そんな中途半端な不幸は絶対に認めない。だから、最初にメアリーが襲撃された時も、全力で彼女を救ったろ?』


『裏側にメアリーを落とした奴が、何を言う!!』


『ちゃんと無事だったろ? 全部計算のうちだよ』


『ふざけるな!!』


 チェスターはそう叫んで直ぐに、メアリーからの頼み事を思い出す。


【チェット……お願いよ】


 ──裏側から帰還したメアリーは、悲痛な面持ちで懇願こんがんしていた。

 それと同時に、その頼み事を誰にも知られたくない様子だった。

 その頼み事の内容は、チェスターにとって全く理解に苦しむもので、何故、メアリーがそんな事を頼むのか、皆目見当かいもくけんとうもつかなかった。もしかしたら、ミカに操られているのか、とも考えたが、吸血鬼ヴァンパイアの直感的に、そうではないと感じていた。


(メアリー。何で、あんな頼み事を……)


 チェスターは、傀儡くぐつになっている彼女を見る。相変わらず目は虚ろだった。


『チェスター、迷うな。君が判断を迷っている間に、君の大切な人が死ぬんだぞ。誰かを助けたいなら、今すぐに決断しろ』


 ミカの言葉が刺さる。正直、耳を塞ぎたい気分だった。誰が何と言おうとミカを信用する気にはなれない──が、迷っている暇などない。


『っ──クソが! さっさと乗れよ!』


 3人は素早く車に乗り込み、一路いちろ、屋敷を目指す。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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