【閑話】柏木と親友と悲恋の物語
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柏木は、今は亡き親友の言葉を思い出す。
「恋せぇよ。お前も恋せなアカン。せやろ?」
──柏木に対して、彼はそう言った。
1956年。親友が24歳の時だ。久方ぶりに訪ねて来た柏木に、彼は自身の悲恋話を語った。
彼の想い人は、大陸の南半島出身だった。彼の親族が猛反対する中、2人は心を通わせた。親の目を盗んでこっそり逢瀬を重ねたり、すれ違い様に文を渡したりもした。互いに目が合うだけで、蜜のような幸福感が胸に広がる。
勿論、妨げはあったが、それでも幸せな日々だったと、彼は語る。
──しかし、それがある事で一変した。帰国事業だ。彼女の家族はかねてより帰還を希望していた。本来なら同郷に還るべき所だが、当時の事情により、家長である彼女の父親は、北に行く決断を下す。
離ればなれになりたくない2人は、駆け落ちをしたが、すぐに見つかり連れ戻された。
結局……彼は彼女を見送る事すら許されなかった。
暫くして、彼女からの手紙が届く。内容の詳細は伏せるが、彼にとって読むに耐え難いものだった。彼女の書いた文字が、所々、涙で滲んでいた。
万力で締め付けられた様な痛みが、胸を苦しくする。すぐに返事を出した。しかし、彼女に届いたかどうかは今も分からない。
彼は言う。
「報われへん恋やったけど……彼女と過ごした時間は、満ち足りたもんやった……」
柏木は、黙って話を聞いていた。彼なりに思うところがあったが、それを口に出来ないでいたのだ。そんな様子を見て、親友は更に言った。
「お前も恋せぇよ。誰かを好きになってみぃ。結ばれへんかったとしてもえぇやないか」
酒が入ったせいか、いつも寡黙な親友が、今日はやけに饒舌だ。
「俺は……ジヒョンに恋した事を……悔やんだりせぇへん……」
そう言うと、親友は完全に酔い潰れたのか、ごろんと畳に寝そべった。
──月日が流れ、柏木は思う。
親友が言った事は正しかったと……
人は、誰かを愛さずにはいられない様に出来ている。
例え悲劇に終わったとしても、きっとまた誰かに恋をする。
国、文化、民族、宗教、種族を越えて。
何度生まれ変わっても、性懲りも無くまた恋をするのだ。
【解説】
閑話この話は実話を元に書かれています。
おぐらの知り合いに、帰国事業がきっかけで親友と離ればなれになった方がいて、その方の体験談が元ネタです。
実際は同性の親友だったとの事ですが「……この話、異性なら初恋じゃね?」と妄想し脚色を加えたのがこの閑話です。
話の内容にもある様に、いつも親の目を盗んで二人で会っていたとお聞きしました。
手紙の下りに関しては、実際には、何通かやり取りがあったらしいですが、それが突然来なくなったとお聞きしております。
ですから作中同様、あちらに渡られたご友人の生死は不明です。
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