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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第一章】女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。
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第11話 【4月25】柏木と電話と心の葛藤

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.



 理子を送り届けてから柏木は自宅に戻った。自己嫌悪で反吐へどが出そうになる。

 その時……不意にスマホが鳴る。 相手の名前を確認してから、柏木は電話に出た。


『はい』


『よっ、久しぶり』


 古い馴染みからの電話だ。柏木は英語で会話をする。


『何の用だ?』


『何だよお前、冷たいな。失恋でもしたか?』


『……』


 その問いかけに、柏木は沈黙する。


『おいおいマジか!? 誰? どんな女だ? 教えろよ』


『今忙しいんだ……早く要件を言え』


 柏木が苛立つ。相手は静かに言う。


『こっちで起きてる連続殺人事件を知ってるか?』


『ああ、日本でも報道されてる』


『どうも嫌な予感がするんだ』


『……考えすぎだろ。もしそうだとしても、俺は日本で謹慎中なんだ。協力は出来ないぞ? 知ってるだろ?』


『……あぁ~、分かったよ。じゃあ、精々、日本で楽しい余生を送れ……またな』


『待てよ』


『何だ?』


『……』


『今忙しいんだ。早く要件を言え』


 電話の相手は、さっき自分が言われた台詞をそのまま柏木に返した。ちょっとした意地悪だ。柏木は少し苦々しい顔になるも、すぐ真顔に戻って相手に尋ねる。


『……ベッドの下の男の子は元気か?』


『……元気だ。あの子は変わり無い』


『……そうか、ありがとう……今度、ハーブでも送るよ』


『おお、そっちも元気でな』


 会話を終え、柏木は電話を切った。それから、今日浜辺でこっそり撮影した理子の画像を眺めながら、これまでの事を振り返る。


(教え子と合コンして……学校でもセクハラ紛いな事を行い……ドライブに誘った挙げ句……自宅に連れ込み……シャワーを浴びさせ……盗撮した画像を眺める…………アカンやん、俺!!)


 彼に最大級の自己嫌悪がのしかかる。


 柏木は2階にあがり、寝室のベッドに仰向けになった。高い天井を見上げながら、ここ数年の出来事を思い出す。


 数年前の、3月のある日……

 当時、柏木が暮らしていた街が、酷い災害に見舞われた。家も、財産も、親友も、根こそぎ全部流された。

 その時の柏木は、己の身を守るのが精一杯で、親しい人を助ける余裕など無かった。


 長く生きると、こう言う事は度々ある。災害や戦争で理不尽なリセットを被るのは、柏木にとってこれが初めてでは無い。だが、何度経験しても馴れはしない。辛い傷として何時までも心に残る。


 柏木は海に飲み込まれた街を見下ろしなが、唯々静かに涙した。最善を尽くしても……誰かを救えた事はほぼ無い。毎度まいど、無力を痛感する……


 被災した柏木は、知人を頼り、今の街に移り住んだ。それから暗示や呪い(まじない)を駆使して、今の高校の非常勤講師になったのだ。


 体が老いないから、数年毎に別の土地へ移らなければならない。なるべく顔を隠しての生活。彼の素顔を知る友人は限られている。

 友人以外の人間には、最後に会ってから数年経つと、彼の人相を忘れる様に呪い(まじない)をかけておく。これで個人の思い出は残っても、顔の記憶は残らない。

 柏木はそうやってずっと生きてきた、これからもそうやって生きていく……そう思っていた。


……そんな時に、理子と出逢う。


(理子を意識し出したのは、いつからだろう?)


 暗い配色の制服。モノトーンで統一された高校生の群れ。その群衆の中から、彼女を【見つけた】のは去年の夏。


──その時の事を思い出す。


 音楽の授業中、窓の外を見た理子は、脇目も振らずにグランドへ駆け出した。無言で飛び出す彼女を追いかけた先に、熱中症になりかけの生徒が踞っていた。


 理子は、容赦なく柏木に指示を出す。


「先生! この子保健室運んで! それと救急車っ!」


「えっ!? あっはいっ!!」


 理子の気迫に押され、柏木は思わず間抜けな声が出た。幸い発見が早かったので、熱中症の生徒は大事には至らずに済む。

 柏木は素直に理子を凄いと思った。自分とは真逆だと。自分はいつも……肝心なところで判断を誤ってきたと、彼は思う。


 この一件から、柏木は理子を観察する様になった。いつも迷わず、全力で誰を助ける理子。そんな彼女をうらやみつつ、心の奥底でそっとねたんだ。純真無垢な理子の姿が、柏木の目に眩しく映った。


 合コンがあった、あの日、あの晩、あの店で、理子を見た柏木は心底驚いた。それと同時に不味いと思う。


(何でここにいる?)


(何をしてる?)


(早くどこかへ行ってくれ)


(僕が普段何をしているか)


(どんな生活をしているのか)


(何を【糧】に生きているのか)


(君だけには、絶対に知られたくない)



 合コンにいた彼らと、最初から【ミヒャエル】の名前で交友していたのが幸いした。そうでなければ身元がバレ、柏木は冷静ではいられなかっただろう。

 理子が酒を注文したのを止めなかったのは、連れ出す口実が欲しかったからだ。もし最初から注文を止めていたら、理子は素直に身分を白状して、あの場に留まっていたかも知れない。

 自分の【本性】を見せたくなくて、柏木は理子を強引に連れ出した。理子の為じゃない、自分の為に行き当たりばったりの行動をした。


 柏木の脳裏に、理子の姿が浮かぶ。


【貴方……柏木先生なの?】


【私もさ……あの……名前で呼んでもいいかな?】


【……渚】


 いつも柏木に対して無愛想だった少女が、今日は打って変わって、可愛らしい表情を見せた。柏木は、それを心から愛おしく思う反面、別れ際に見た理子の表情に、胸を痛める。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。


Thank you for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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