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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
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第110話 【1975年】◆フラれたチェスターとメアリーの課題◆

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.

【1975年】


 病室のベッドでメアリーは目を覚ました。暫く無言で天井を見つめ、ふと隣に気配を感じて目を向ける。ベッドの脇に祖父役がいた。


『おじいちゃん……』


 呼ばれて祖父役は頷いた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 チェスターとヴィヴィアン、そしてチェスターの父親役リーが病棟に到着すると、祖父役が病室の前にいた。

 祖父役は目配せをして、廊下の奥を指す。ヴィヴィアンがそれに同意して頷き、4人はメアリーの病室から離れた場所に集まった。


『メアリーは何も覚えていない。祖母役エマが殺された事も、裏側に行った事もだ。マイケル(ミカ)による記憶の処理は完璧だったよ』


 祖父役はそう説明した。


『……なら、マイケルの出番はもう無いわね』


 チェスターはそれを聞いて、安堵すると同時に、ミカに対して怒りを感じた。

 確かに、ミカの処理は完璧だったし、本人も自信を持ってそう言っていた。言った上で、万が一を考慮して、病院まで着いて来たのだ。

 やるべき事をやり、それに対して自信を持つ事は当然だ。

 そして己の力を過信せず、不測の事態に備える事も実に正しい。


 だが、それがミカだと言うだけで腹立たしく思えた。これは理不尽な怒りだと、チェスターも自覚はしていたが、どうにも収まらない。

 一度、嫌悪感を抱いてしまうと、それを正当化したい心理に陥る。相手が正しくても、それを認める事が難しくなるのだ。


『事故と言う事にしてある。家の階段から落ちて……頭を強く打った……それで記憶喪失になり、髪は手当てをする為に切られたと。……メアリーにはそう説明している。リズにも連絡済みだ。今、エミリーと一緒にこちらに向かっているよ』


『そう……ありがとう』


『……これから、どうするんだい? メアリーを狙う怪物がいるんじゃ、迂闊に彼女を外に出せないだろう?』


 リーにそう尋ねられて、ヴィヴィアンは眉間にシワを寄せた。


『だからと言って、閉じ込める訳にはいかないわ。護衛を増員して、これまで通り生活させるしかないわね』


 リーは怪訝な顔で『何故?』と訊く。


『それがウォーカー夫人の希望だからよ。娘2人が高校を卒業するまで、極普通の生活を送らせて欲しいと、上の連中に頼んだの。……特にメアリーはプロムに対して、強い憧れを持っていたから……』


『……だから、チェットに誘わせたのか』


 言ってリーは、チェスターを横目で見る。

 勿論、怪物達がメアリーにプロムの相手を用意しようとしたのは、それだけが理由ではない。根本は、メアリーの純潔を守る必要があったからだ。

 無関係な人間がプロムの相手になるよりも、怪物が相手なら間違いも起こらない。


『責任重大だなチェット。もし、プロムで失敗するような事があれば、君もヴィヴィアンに蹴られるぞ』


 チェスターの頭に過ったのは、股間を粉砕されたミカの姿だ。いくら不死身に近い吸血鬼ヴァンパイアでも、あれだけは絶対に食らいたくない。


『マイケルに制裁を加えたのは特別よ。余程の事が無ければ、あんな事はしないわ』


『じゃあ、プロムで余程の失敗をすれば、チェットも股間を蹴られるのかな?』


 リーの言葉に、チェスターは血の気が引いて絶句した。そして、直ぐ様、ヴィヴィアンを見る。


『やだ、蹴らないわよ。……そんな目で見ないでくれる?』


『あっ……』


 チェスターは、異変を感じて遠くを見据えた。どうやら、メアリーが病室から出たらしい。

 直ぐに、それを全員に伝え、ヴィヴィアンをその場に残して3人で向かう。


 病室から出て少し行った所にメアリーはいた。何かをしている風でもなく、1人でその場に佇んでいる。

 祖父役が彼女に声をかけた。


『メアリー、ベッドに戻りなさい。体に障るよ』


『おじいちゃん……』


 メアリーは、祖父役の後ろにいたチェスターに気づく。


『メアリー……大丈夫なのか?』


 チェスターが心配して尋ねると、メアリーは怪訝な顔をした。


『どうして、貴方がここにいるの?』


『私が呼んだんだよ。いけなかったかい?』


 メアリーは祖父役をチラリと見てから、チェスターに目を向けた。


『チェスター。2人だけで話がしたいの』


 メアリーは妙に落ち着いていた。ショックではないのだろうか? 階段から落ち、記憶を失い、髪まで短く切られていると言うのに、彼女は至って冷静だった。チェスターにはそれが不思議でならない。

 もしや、ミカに記憶を操作された影響ではなかろうかと、只々、不安に思った。


 チェスターとメアリーは2人だけで病室に入り、ベッドに腰かけた。

 チェスターがおもむろに尋ねる。


『……で、話って?』


『ごめんなさい』


『……何がだ?』


『私、やっぱりプロムには行けないわ』


 チェスターは目を丸くして、唖然とした。一瞬、何かを聞き間違えたのかと思ったが、直ぐに違うと分かって、慌てて尋ねる。


『何でだよ!?』


 やはりミカが何か仕掛けたのではと、内心疑う。


『貴方のせいじゃないわ。問題は、私なのよ』


『何だよ、それ。納得がいかねぇよ』


『そうよね。納得出来ないわよね。でも、仕方ない事だわ。……とても残念だけど』


『理由が知りたい。どうして気が変わったんだ?』


 するとメアリーは優しく微笑んだ。チェスターがその笑みに戸惑うと、メアリーはチェスターの両手を握り、真剣な眼差しでこう言った。


『人生には2種類の課題があるの。1つは生まれもった課題、もう1つは自分で選んだ課題よ。私は選んだの……それは私にしか出来ない課題で、私がやるべき課題なのよ』


『何だよ、その課題って……』


 チェスターが困惑して尋ねると、メアリーは首を横に振った。


『今は言えないわ』


『言えよ! じゃないと納得出来ないだろ! 何か悩みがあるなら、言ってくれ!』


『いずれ……チェスターの手を借りたいの。私1人では成し得ないから。だから……その時が来たら、私の課題を手伝ってくれる?』


『手が要るなら、今、直ぐ貸す! 俺は何をすればいいんだ?』


 チェスターは握られていた両手を握り返した。メアリーの課題が、何かは知らない。何を手伝って欲しいのかも分からなかった。それでも、彼女の力になれるならば、喜んで手を貸したいと思った。


『メアリー言ってくれ……頼むから……』


 すると、メアリーは顔を寄せて──チェスターの耳元でそっと囁いた。


『…………』


『え?』


 チェスターはそれを聞いて、意味が分からずメアリーの顔を見る。彼女は悲痛な表情で、人差し指を口元に当て、沈黙のジェスチャーをしていた。


──言わないで、と。


 チェスターは困惑しながらもメアリーの意図を汲み取って、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。だが、本当は尋ねたかった。


──今のはどう言う意味なのか? ──と。


『チェット……お願いよ』


 そう言われて、チェスターは嫌だと言えなくなる。

 今にも泣き出しそうな彼女に対して、拒絶の返事が出来なかった。

 手を貸すと言いながら、拒否する事も、何となく気が引けて──それで、つい気圧けおされて──返事をした。


『わ……分かった』


 途端に、メアリーは安堵の笑みを浮かべた。


『チェット……』


 嬉しそうに感謝の思いを込めて、彼の名前を呼ぶ。きっと、後に続く言葉は『ありがとう』に違いない。


──だが、それを彼女が言うより先に、誰かが病室の扉を開けた。


『メアリー!! 無事なの!?』


 飛び込んで来たのはエミリーと、祖父役に新しい祖母役、そしてリズとリズの母親役だった。


 チェスターは反射的にエミリー達の方を向く。すると突然、メアリーがチェスターを全力で平手打ちした。


『『!?』』


 メアリーは痛そうに叩いた手を押さえ、叩かれた方のチェスターは唖然とした。エミリー達も唖然としてメアリーを見る。


『チェスター!! 今すぐ帰って頂戴!!』


 メアリーはキツイ口調で言って、チェスターを睨む。その態度は、先程とは別人のようだった。

 チェスターは戸惑いながら『……分かった。帰るよ』と言って、ベッドを立ち上がり、すごすごと扉に向かう。


『ちょ……ちょっと……待って、何があったの?』


 エミリーが慌ててチェスターを引き留める。


『……フラれた』


 チェスターはポソッと言って病室を出た。


『はぁあ!? 何よそれ!?』


 背後でエミリーが騒いでいるのが聞こえたが、チェスターはそれを無視してリーのところに行った。


『どうしたんだ、チェット?』


『……メアリーにフラれた』


『なんだって!?』


『……帰るぞ』


 言ってチェスターは駐車場に向かう。リーも直ぐにあとを追った。

 エスカレーターを降り、駐車場に着いた所で、リーが尋ねる。


『……本当に帰っていいのかい、チェット』


『何がだよ?』


『メアリーと喧嘩でもした?』


『お前には関係無い。詮索は止めろ』


『酷いなぁ。僕がここまで送って来たのに、その言い方はあんまりだよ』


『感謝してるよ。お陰でメアリーに打たれた挙げ句にフラれた。プロムも無しだ』


『えぇ!? それは流石に不味くないか!?』


『仕方ねぇだろ!』


『でも、だってホラ……』


『なんだよ?』


『ヴィヴィアンに蹴られるんじゃないかな?』


 2人の脳裏に、ミカの無惨な姿が浮かんだ。


『……』『……』


『……』『……』


『……』『……』


『……』『……』


『……』『……』


『……』『……』


『……いや……大丈夫だ……だと思う……うん』


『……チェット、声が震えてるよ』




『チェスター!!』


 突然、誰かがチェスターを呼ぶ。見ると、酷く動揺した様子の青年がこちらに走って来る。


『……お前は』


 チェスターはその青年に見覚えがあった。


──11年生のアダムだ。


 アダムは悲痛な表情で懇願する。


『チェスター助けてくれ!!』


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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