表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
112/182

第101話 【1975年】◆ミカとミゲルの告白◆

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.

【1975年】


──姉妹の家が襲撃された、その日の晩。ロバートの家にて……


『出来ない』


 ミゲルはキッパリと断った。ミカとチェスターを殺すなど、絶対に出来る筈はなかった。殺しは望んでいないのだ。


『何故、僕なの? 自分達で手を下す気はないの? 僕に罪を擦り付けるつもり?』


 ミゲルは震えながら、人狼とヘンリーを睨む。心臓が早鐘を打ち、それが頭にがんがんと響く。手に汗がにじみ、喉が渇くのを感じた。

 ヘンリーは忌々しそうに答える。


『本当は僕だって、自分の手でミカを殺したいよ。……でも殺したくても出来ないんだ』


 そう言って、自身の胸倉を掴んだ。


『だから、それは何故?』


 ミゲルがいぶかしんで尋ねるが、ヘンリーはその理由を明かさない。怨みがましく怒っているような眼をして、口角だけ笑って見せた。全てをべらべらと喋る気は無いようだ。


 ミゲルはヘンリーから視線をそらし、人狼を見据えた。人狼はロバートから手当てを受けている。左手の指が3本、欠損しているのが一瞬見えた。


『貴方は花嫁を手に入れたいと言ったね。その為にチェスターを殺したいと。では何故、チェスターを殺す必要があるの?』


 人狼は黙ってミゲルを見つめ返す。つい先日まで、己に怯えていた少年が、恐れを堪えて自分達に質問を投げ掛けている。少年の中で、何か変わるきっかけがあったらしい。それを感心しつつ、素直に答える。


『彼が花嫁の側にいるからだよ。花嫁だけなら僕1人で拐えるけど、彼がいるとそうはいかない。流石の僕でも、人狼ウェアウルフ吸血鬼ヴァンパイアを同時に相手にするのは難しい。しかも、吸血鬼ヴァンパイアは感知能力に優れているから余計に厄介だ。だから事前に、チェスターを排除する必要があるんだよ』


 ミゲルは眉をひそめる。やはり、この人狼は花嫁を力ずくで拐う気なのだ。


『その人の意思は無視なの? 可哀想だとは思わないの?』


 そう尋ねるも、そう思わないと分かっていた。答えなど聞くまでもない。それをあえて尋ねたのは、ただ非難したかったからだ。


『仕方無いんだ。でなければ我々の種は、今度こそ本当に絶えてしまう』


(今度こそ?)


──それはどういう意味なのか?


 ミゲルは、ふと思い出す。以前ヘンリーは人狼ウェアウルフは差別と迫害を受けたと言っていた。エドモンドも人喰い行為を見逃せないから討伐したと言っていた。


(その事を言っている?)


 正直、訊きたい事が有り過ぎて、何を訊こうかと迷ってしまう。だがしかし、まだ重要な事を教えてもらっていない。ミゲルは改めて、あの質問をする。


『……貴方の正体は誰なの?』


 人狼はミゲルと面識があると言う。では、その正体は誰なのか?

 それを知らずして、この場を立ち去る訳にはいかない。


(こいつの正体が分かったら……すぐに、ここから逃げるんだ)


 ミゲルはほんの一瞬だけ、退路となる扉を見た。人狼はその視線に気づいて、手当てを終えたロバートに目配せする。

 今度はミゲルがその目配せに気づく。怪訝な顔をしていると、人狼が声をかけてきた。


『僕の正体が知りたいんだよね? じゃあ……そろそろお互い、人間の姿に戻ろうか』


『……どうやって?』


 以前、人外の姿から人の姿に戻った時は、意識が朦朧もうろうとしていてハッキリとは覚えていない。


『簡単だ。人の姿を思い浮かべればいい』


 人狼がそう言うと、その体は小さく縮んだ。右手の鉤爪が消え、牙が人の歯に変わり、禍々しい体は幼い少女に変貌する。


『ほらね。慣れれば、こうやって他人に化ける事も出来る』


 人外は、幼い少女の姿を模してニヤリと笑う。但し、左手だけは人狼ウェアウルフのままだった。おそらく怪我をしているせいだろうが、それが故意に化けなかったのか、将又はたまた、化けれないのかは分からない。


『……誰にでも化けれるの?』


 もし、そうだとしたら脅威だ。人間の姿をした人狼ウェアウルフには怪物の気配が無い。一度、人に紛れてしまえば見つけ出すのは困難になる。

 仮にこの場からうまく逃げれたとしても、どこに人狼が潜んでいるか分からなくなるのだ。


『誰にでも化けれる訳じゃない……条件がある。補食した人間の姿にしか、化けれないんだよ』


『じゃあ……その姿の子は……』


 人狼は微かに笑った。まるで『そうだよ。文句ある?』と言いたげな顔をして、ミゲルを見上げた。

 この人狼にとって人を喰う事は、良心が痛む行いではないようだ。ミゲルには、それが堪らなく恐ろしかった。


 もし、この場に……何も知らない人間がいたとして、眼前に佇む幼い少女が、人喰いの怪物だと思うだろうか?。

 思う筈はない、疑う事などしないだろう。それに気づくのは、補食される瞬間だ。突如として襲われ、理解が追い付く前に殺される。その殺戮を防ぐ事が出来るのは、人狼ウェアウルフに対抗し得る怪物だけだろう。


人狼ウェアウルフに対抗し得る怪物……)


 人狼の話から推測するなら……それは、やはり同種の人狼ウェアウルフ吸血鬼ヴァンパイア。その他に可能性があるとしたら……人狼の指を切り落としたと言う、あの日本人ぐらいしか思い当たらない。


『ミゲルもやってごらんよ。今まで補食した人間の中で、覚えてる者の姿を思い浮かべるんだ』


 人狼はニッコリと微笑む。


『……その前に貴方の正体を見せてよ』


 言ってミゲルは違和感を覚えた。人狼は先程から、微妙に此方こちらの気をそらし、話をそらしている。ミゲルの質問に答えるつもりがないのかも知れない。もしくは──時間稼ぎ……


(ロバートだ!)


 人狼から目配せされたロバートの姿が見えない。幼い少女の姿に気を取られている隙に、彼は席を外していた。

 途轍とてつもなく嫌な予感がして、全身の毛穴がすぼむ。


──今すぐに逃げるべきだ──と心が叫んだ。


 人狼は、今、人間の姿をしているのに対し、自分は動きの素早い人外の姿をしている。更に、人狼は変化へんげが完するまでに1分程時間を要していた。ここでミゲルが逃げたとしても、直ぐには行動出来ないだろう。


──ならば……


 ミゲルは一気に駆け出した。全力でドアを蹴飛ばして破壊する。破片にまみれながら転がるようにして、裏庭の方へ疾走した。

 家の外に出て、緑の芝生と木の塀を飛び越え、更に遠くを目指して跳躍する。


(追っ手は……)


──来なかった。


(逃げれたのか? わざと逃がされたのか?)


 誰も追いかけて来ないのが、却って不気味だった。


(……とにかく、今は逃げよう)


 極力、人目を避けて、夜の住宅街を走り抜けた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


──姉妹の家が襲撃されてから、一夜明けた早朝。


 狭間での行為を散々楽しんだ後、ミカと利一は性別を元に戻し、表の世界に戻った。

 ヴィヴィアンから言い渡された謹慎処分はまだ、解けていない。それどころか、またもチェスターをノックアウトさせたまま2人でトンズラしたのだ。戻ればお叱りが待っているだろう。

 しかし、だからと言って本当に逃げる訳にはいかない。2人は明け方の街をぶらぶらと歩きながら、チェスターの家に向かう。


「なぁミカ……あのお嬢さんに何したん?」


「何って? 人狼じんろうから助けただけやで?」


「あの無残な散髪はなんやねん。兎の穴に匿っただけとちゃうんか?」


「さぁ……知らん」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「さよか」「え゛!?」


 利一はアッサリ引き下がり、ミカは利一からの叱責がなかった事に驚愕した。利一はそれに眉をひそめる。


「なんやねん……その反応……」


 利一は不機嫌そうに言う。


「いや、だって……りっちゃん、いつもなら……もっと怒るやんか」


「ほな、正直に話してくれるんか?」


「いや?」


「おい!」


 2人がそんなやり取りをしてると、前から誰かが歩いて来た。

 見覚えのある可愛らしい少年──


『……ミゲル』


 ミゲルは酷くやつれた様子だった。よく見れば怪我をしている。治りかけの傷が、あちらこちらについていた。

 だが、それよりも目を引くのは少年の眼光だ。以前会った、弱々しい少年の面影はなく、強い意思をひしひしと感じた。


『……マイケル(ミカ)話があるんだ……2人だけで話したい』


 ミゲルにそう言われ、ミカは利一を見た。利一は黙って頷いた。


『いいよミゲル。じゃあ……行こうか』


 ミカはそう言って、ミゲルと一緒にその場を離れた。

 残された利一は懐からT字型の紙を3枚取り出し、手の平に乗せる。すると3枚の紙は蜻蛉とんぼのように羽ばたき、1枚は利一の耳の後ろに留まり、もう1枚はミカとミゲルを追跡し、最後の1枚は空へ飛翔して行った。


 ミカは利一と離れ、段々と人気ひとけの無い場所へと移動した。坂道を登り進む途中で、ミカはミゲルに尋ねる。


『話って何?』


 ミゲルは黙って歩みを止めて振り返る。その表情は暗い。心に重い荷を抱えているのが分かる。


『……マイケル』


『何?』


『マイケルとあの日本人は……どう言う関係なの?』


『……友人だよ』


『本当に?』


『そうだよ』


 そう言われてもミゲルはに落ちない。ヘンリーの言った事を鵜呑みにする訳ではないが、利一を見ると違和感を覚える。

 彼は人間だと聞いていたが、人間ではない気がする。性別も男性なのに、男性じゃないような気がしてならない。


『ミゲル、僕も質問してもいいかな?』


『……何?』


『その怪我はどうしたの?』


『……転んだんだ』


『どこで?』


『……森』


 確かに、誰かに暴行されて出来た傷ではなさそうだが、森で転んだと言う説明には納得出来なかった。


『何故、森に行ったの?』


『……身を隠す為に』


『何故、隠す必要があったの?』


 その質問にミゲルは答えない。横を向いて視線をそらし、口元に力を入れて、唇を口の中に巻き込むようにして噛んだ。

 ミカも黙って、その様子を見ていた。余程言い難い事があるらしいと思い、追及せずにミゲルの方から話すのを待った。

 そして──暫くして、ミゲルは口を開く。


『…………僕は……ミカに言わなければいけない事があるんだ』


 震える声でそう言った。


(何から話せば良いのだろう?)


 ミカと会うまでは、あれやこれやと話す内容を考えて来たが、いざ本人を目の前にすると躊躇ためらってしまう。


──自分は人狼で、望まぬ覚醒を強いられた。


──義理の父親を誤って殺し、その死体を解体して処理した。


──ここ最近発生している殺人と失踪事件は、自分の仕業だけど望んでやった訳ではない。


──ヘンリーに出会い、ロバートに出会い、自分以外の人狼に出会い……彼らは自分に、ミカとチェスターを殺させようとしている。


 それらを頭の中で一通り確認して、深く息を吐いた。今度こそ……言わなくてはいけない。ミゲルは腹を括る。


『……僕は……人狼ウェアウルフなんだ』


 やっとの事で告白した。途端に、取り返しのつかない事をしたと思った。それは意味の無い後悔だ。それでも『とうとう言ってしまった』と胸が苦しくなった。

 ミカの顔をまともに直視出来ない。彼は、今……どんな顔をしているだろう? それを想像するだけで恐ろしかった。

 嫌われたに違いない。それで、人を殺めたと打ち明けたら、更に侮蔑されるだろう。

 怪物社会におけるルールは分からないが、無秩序に殺人を犯していい筈はない。必ず罰がある──ならば、喜んで受けよう。

 そうすれば、もう誰も殺さなくて済む……

 ミゲルは伏せていた目を固く閉じ、ミカの言葉を待った。




『知ってた』




 ミカは、あっけらかんとした調子で言った。ミゲルが驚いて顔を上げると、ミカは優しく苦笑した。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=onscript?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ