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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
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第99話 【1975年】◆ミゲルと3人の目的◆

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.

【1975年】


 どれ程の時間が経過したのだろうか? 冷たく固い床の上で、ミゲルは目を覚ました。部屋に灯りは無く、辺りは闇に包まれている。だか、奇妙な事に部屋の様子はハッキリと見えた。


 壁際の棚、年代物のストーブ、傷だらけの旅行鞄、野球のバットにグローブ。様々な物が置かれていて、奥にはボイラーがある。恐らくここは地下の物置部屋だろう。


 ゆっくりと体を起こし、ふと、己の手を見て『ああ、またか』と溜め息を吐く。

──禍々しい手に鋭い鉤爪が眼前にあった。また人狼に変身したのだ。

 直ぐ様、血糊が着いてやしないかと体を確認したが、その痕跡は見当たらない。

 今度は、唸り声に似た安堵の息を吐いて、気を失う前の出来事に思いを馳せる。


──人狼がいた。自分以外にも人狼がいたのだ。そいつはミゲルに化けて、チェスターを殺せと言った。


 そして──この街に3人目の人狼がいるとも言っていた。3人目の人狼は雌で、純潔だとも聞いた。純潔ならば、彼女は人肉も食さず、恐らく変化へんげもしないだろう。気配も普通の人間と変わらない筈だ。

 今まで得た知識を総合すれば、答えは自ずとそうなった。


(あいつは、チェスターが邪魔だと言ってた……)


──3人目の人狼を花嫁にしたい……その為にチェスターを殺して欲しいと……


(何故、邪魔なんだろう?)


 ミゲルにはその答えが分からない。だが、誰かに指図されて行動する事には抵抗がある。チェスターを殺せと言われても、戦う気にはなれない。それが両親の仇だとしても、今のミゲルには討つ気はない。


(これから、どうすれば……)


 気を失う前は自首を決めていたが、今のミゲルは人外の姿だ。この姿で人前に行くのははばかられる。

 ミカに連れられて訪れた酒場、そこにいた気のいい怪物達。彼らは人間から正体を隠して生活している筈だ──確認した訳ではないが、自然とそう思った。

 人外の姿を人間に晒せば、彼らに迷惑がかかるのでは? それが気掛かりだった。

 ならば何が最善だろうか? 頭に浮かんだのはミカだ。


(マイケル(ミカ)に会って、彼に全てを打ち明ければ……)


 それが一番良い気がした。

 地下から地上に続く階段に足をかけ、斜め上の扉を見据える。ミゲルの姿に化けた人狼が、扉の向こうに潜んでいるやも知れない。


 他者に殺しを依頼するような者が、善人である筈がない。そして、純潔であると言う3人目の人狼──彼女が、もし平穏を望んでいるのであれば、警告するべきだと思った。

 だが、殺人を犯したミゲルの話をどこまで信じてくれるだろうか? それを思うと不安でならない。そもそも、3人目がどこの誰なのかさえ分からないのだ。


(マイケルなら知っているかも知れない……)


 多くの怪物達に慕われていたミカ。ミゲルよりかは確実に顔が広い。彼なら、純潔の人狼について知っていそうな気がした。


 1段、また1段と階段を登り、鋭い鉤爪が生えた手でドアノブに手をかける。不意に、扉の向こうに気配を感じた。

──人間と怪物の気配だ。詳細な人数は分からないが、確かに人間と怪物がいる。


(ロバートと……ヘンリー?)


 耳をすまして会話を聞いた。


『手痛くやられたようだな』


 そう言ったのはロバートだ。


『クソっ!! 何なんだあの男は!?』


 それは聞いた事のない声だ。男性であるのは間違いないが、かなり声が低く、言葉がやや聞き取り難い。時折、唸り声が混じって聞こえる。この声の主は同種──人狼であると直感した。


『ともかく、手当てをしよう。……間違っても僕を食べないでくれよ?』


 ロバートがそう言って、ごそごそと動く音がする。救急箱を漁っているのだろう。


(2人だけ? なら、あの怪物の気配は……)


 ここでミゲルは気づいた。怪物の気配を隠蔽出来る人狼も、人外の姿に変化へんげしている間は、気配を隠蔽する事が出来ないのだ、と。


(じゃあ……きっと……僕が扉の前にいる事もバレている?)


『……そこにいるんだろ? 出てこいよミゲル』


 人狼にそう言われ、ミゲルは『やはり』と思い、観念した。意を決して、扉を開けると、そこから辛うじてダイニングが見える。

 その床に、毛の無いグリズリーのような怪物が座り込んでいた。


『……やあ、起きたか』


 人狼は苦悶の表情を浮かべながら、そう言った。右手で固く左手を押さえ、左手を腹に抱えるような姿勢をとっている。人狼の体に、所々、血が付着していて、それが左手からの出血だと察した。


『……何があったの?』


 ミゲルが訊くと、人狼は牙を剥き出しにして唸る。


『メアリーを殺そうとして、返り討ちにあったらしいよ』


 聞き慣れた声に、ハッとして振り向くと、いつの間にかヘンリーがいた。


『ヘンリー! あの男は何者だ!?』


 人狼は声を荒らげ、ヘンリーを責めるように尋ねた。次いで【あの男】と呼んだ人物を、差別的な用語で改めて呼ぶ。それは日本人を蔑む言葉だ。

 それを聞いて浮かんだのは、ミカの側にいた【彼】だ。


『彼はね、ミカの飼い主だよ。ミカは、彼に飼われている奴隷だ』


 ヘンリーの返答に思わず耳を疑った。ミカは彼を友人だと言っていた。あれは嘘だったのか? そう疑問に思ったのはミゲルだけではない。


『……ミカは奴を相棒パートナーだと言っていたぞ』


 人狼がそう言うと、ヘンリーは苦虫を噛み潰したような顔をした。


『……奴隷で、相棒で、親友。……どれも本当だよ。腹立たしい……けどね』


 ミゲルはミカの話も気になったが、何より『メアリーを殺そうとした』と言う発言に恐怖を感じていた。


──何故メアリーを襲った?


──何の為に?


──何を企んでいる?


──一体、自分は何に巻き込まれている?


 この場から逃げ出したい気持ちを堪えて、ミゲルは彼らに尋ねた。


『貴方達の目的は何?』


 人狼の言う事を信じるなら、彼の目的は花嫁だ。では何故メアリーを襲い、チェスターの死を望む?

 そしてヘンリーの目的は何か? 人狼と同じく、花嫁を欲しているようには見えない。と、言うより……人狼と、ヘンリーと、ロバート、この3人の目的が一致しているようには見えなかった。


 集団と言うものは、共通の目的意識を持つものである。共通の敵を認識したり、共通の課題に取り組む事で、集団内の統制を図るのだ。

 だが、この場にいる4人には、共通の目的意思があるようには見えない。少なくともミゲルには絶対無かった。


『知りたい?』


 ヘンリーはミゲルの質問に対して、満面の笑みを浮かべる。


 ミゲルはヘンリーの目的を知りたい──そう思ったが──答えを聞くより先に浮かんだ。


【僕はね、ミカを心から愛しているんだ】


 初めて会った、あの日……ヘンリーはそう言った。


【だけどミカが他の人と一緒にいると、彼を殺したい程に憎らしく思えるよ】


 あの言葉が、例え話ではないとしたら──あれがヘンリーの本心であり、あれこそが目的──


『マイケル……いや、ミカを……殺すのが目的なの?』


 ヘンリーはコクンと頷く。


『僕はね、君にミカを殺して欲しいんだよ』


 目の前が一気に暗くなった気がした。次いで、頭の中で点と点が線で繋がる。


──チェスターを疎ましく思う人狼。


──ミカを憎らしく思うヘンリー。


──ミゲルの殺人を賛美するロバート。


 ミゲル以外の3人には、確固たる共通の目的意思があった。


 それは【自分】だ。


 3人の目的は、自分ミゲルに殺しをさせる事だ。


 ミゲルがそれに気がついたのは──メアリーがプロムの誘いを受けた日の──翌日の事だった。



ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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