第9話 【4月7日】◆エミリーと豹変した善人チェスター◆
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生徒達が賑わう廊下で、メアリーは怪訝な顔をしながら一点を見ていた。視線の先には妹エミリーと厄介者チェスターがいる。
今から1ヶ月前、メアリーは耳を疑う様な話をエミリーから打ち明けられた。彼女は、その事を思い出す。
【1ヶ月前】
夕飯を終え、2階の自室で寛いでいたところで、メアリーは信じがたい話を聞く。思わずメアリーは聞き返した。
『えっ? どう言う事? もう一度言って?』
メアリーの部屋のドア付近に立つエミリー。姉に聞き返され、エミリーは改めて告げる。
『だから、暫くの間、チェスターと一緒にいる事にしたの』
『どうして? 何故? 理由が知りたいわ!』
大切な妹が、あれ程嫌っていたチェスターと一緒にいると言い出した。しかもチェスターは、いつもメアリーに言い寄っていた筈だ。
メアリーの表情に困惑の色が滲む。
『メアリーお願い。大丈夫だから、しばらくそっとしといて、そうすれば全部上手くいくわ。約束する』
対して妹は自信有りげだ。何を言っても聞きやしない姿勢を見せる。
根負けしたメアリーは言う。
『分かったわ。貴女を信じる。でも何かトラブルがあったら、必ず私に打ち明けてね』
この会話から数日のうちに、大きな変化があった。
まずチェスターはガールハントを一切止めた。それから沢山いたガールフレンドと別れて、他の生徒に対する、威圧的な態度も改めた。チェスターとつるんでいた取り巻きの男子生徒も、一切問題を起こさなくなった。
学校中が噂をした。『チェスターは宇宙人と入れ替わっている』と……
作家ジャック・フィニィのSF小説【盗まれた街】を連想させた。実際そうではなかったが、そう思う位の変わり様だった。
だが、彼の豹変ぶりに一番驚いていたのは、他でもないエミリーだ。予想外だった。チェスターがここまで徹底するなんて、エミリーは思いもしなかった。
早々に落第させる気でいたのに……チェスターは通学の送迎は勿論、エミリーの買い物にも愚痴一つ溢さず付き合い、果てには姉妹の祖父母とも仲良くなった。
──ある日の事だ。
エミリーが帰宅すると、キッチンにエプロン姿のチェスターがいた。どうやら、祖母と仲良くクッキーを焼いていたらしい。エミリーは言葉が出ない程衝撃を受けた。
──また別の日には、
祖父とチェスターが釣りに行くと言い出し、2人は仲良く川へ出掛けた。これもエミリーの知らぬ間に、チェスターが約束していたようだ。
結局、魚1匹釣れないまま2人は帰って来たが……何やら楽しく過ごせた様子だった。
そんな彼の豹変ぶりに、段々、エミリーも絆されてしまう。
そして今日【4月7日】、チェスターがエミリーを家族に紹介するからと、彼女を夕食に誘っている。
メアリーはそれを目撃したのだ。
『じゃあ、一度家に帰ってから迎えに行く』
『分かったわ、待ってる』
チェスターとエミリーが、そう約束した所でメアリーが来る。
『私もお邪魔してもいいかしら? 妹が付き合ってる相手のご家族に、私もご挨拶したいわ』
突然のお願いだったが、チェスターはこれを快諾した。
その日の授業を終えて、2人はチェスターの車で帰宅後、身支度を整えた。それから再び彼の車に乗って、チェスターの家に向かう。
チェスターの家はかなりの豪邸だった。門から家までの間に小さな噴水があった。
腕の良い庭師を雇っているのだろう、ガーデニングにセンスが光る。
建物自体は古いものの、手入れが行き届いていて、美しい外観を保っていた。
姉妹が豪邸を見上げると、2階の窓際に人影が見えた。顔は確認出来ないが、背格好からして男性の様だ。
((チェスターのお父さんかしら?))
その人物を気にしつつ、姉妹が中に入ると、エントランスホールでチェスターの両親が出迎えてくれた。
『いらっしゃい、ゆっくりして頂戴』
『息子がいつも世話になってるね。夕飯まで時間があるから、色々見て回ると良い』
感じの良い夫婦に見える。
((何故この両親から、荒くれ者が生まれたのか謎だ))
姉妹で同じ事を思った。エミリーは更に思う。
(……でも1ヶ月間付き合ってみて、良い所も見えてきた……いつも威張り散らしていたけど……よくよく思い返せば、持病や障害を抱えた生徒に意地悪する様な事は無かった。人種に関わらず下級生を虐めてはいたけれど、肌の色を理由に虐めているのを見た事は無いし、それこそ人種関係なく、女の子に手を出していたわ………………あれ?)
『……チェスターって本当は善人なの?』
エミリーは思わず、隣にいたチェスター本人に訊く。
『おい……俺を今まで、何だと思ってたんだ……』
2人のやり取りを見て、チェスターの両親が笑った。
『息子は乱暴者で誤解を受けやすいんだ。エミリー、これからもチェットをよろしく頼むよ』
『あっ……はいっ』
エミリーはそう答えたが……ふと不安が過る。私と彼の今の関係は、いつまで続くのかと……
作中解説①
【盗まれた街】
【原題 The Body Snatchers】はアメリカ合衆国の作家ジャック・フィニイによるSF小説(1955年出版)
内容は、宇宙から来た未知の生命体に、人間が肉体を乗っ取られると言うもの。
この小説は2020年現在迄に4回映画化されている。
(興味のある方はどうぞ)
作中解説②
チェスターの父親がチェスターをチェットと呼びますが、これはチェスターと言う名前の愛称。
Chester→Chet
メアリーならモーリーやポリー、エミリーならエムやエミーになるらしいのですが…愛称だらけになるとややこしいので、姉妹に関しては愛称無しです。
今後も愛称のあるキャラクターは出ます。
若かりし頃、知り合った留学生の女の子の愛称が【デブス】だったのですが、デブでも無いし!ブスでも無いじゃん!と思った事があります。
名前の響きや意味合いが、国によって異なるのは実に興味深いです。
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