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『君は怪物の最後の恋人』女子高生がクズな先生に恋したけど、彼の正体は人外でした。  作者: おぐら小町
【第二章】夢魔は龍神の花嫁を拾い、人狼の少年に愛される。
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第93話 【1944年】◆◆ミカと利一と城の住人◆◆

このページをひらいてくれた貴方に、心から感謝しています。

ありがとうございます。

A big THANK YOU to you for visiting this page.

【1944年】


 利一は、部屋の奥にあるバスルームでシャワーを浴びていた。

 降り注ぐ湯を浴びながら、利一はミカに対して怒っていた。


(あのド阿呆ぅ……いつか絶対しばいたる)


 利一はそう思いながら、ミカにキスされた手と額を入念に洗う。出来る限り身体を清め、利一はバスルームをあとにする。

 脱いだ着物はミカが持って行ってしまった為、利一は否応無しにミカのシャツを着る羽目になった。


(なんちゅー格好や……)


 利一はシャツ一枚を身にまとい、不服に思いながら寝台に座った。


 そこへ丁度、席を外していたミカが部屋に戻って来た。途端に立ち上がり、ミカを警戒する。


 ミカはそんな利一を見て、クスッと笑った。


「そんなに警戒せんでも……何もせんし」


 利一はミカを睨んで言う。


「お前の言葉は信用出来ひん!! さっきかて、俺の了承無しに俺を喰ったし!!」


「……そら、すまん」


 ミカは心が一切込もっていない謝罪をして、利一を見下ろす。当然、利一は納得出来ず、直ぐ様、抗議しようとする。


「お前っ……!!」


──が、ここで利一の腹の虫が盛大に鳴いた。


──グゥゥ~ウゥ~


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「……」「……」


「ブハっ!」「!!!」


 ミカは思わず吹き出し、利一は一気に赤面した。


「あははははははは」


「笑うなー!!!」


「そやな~俺ばっか、ご馳走になっとったらアカンよな~あははははは……何か食べよか?」


「……何食わせる気や?」


「心配せんでも、ちゃんとした飯食わすし」


 利一はいぶかしむ。少年の心はミカに対する不信でいっぱいだった。


「ほな、行こうか」


 ミカは利一を素早く抱き上げると、そのまま部屋を出た。利一は有無を言う間も無く連れ拐われた。


 市松模様いちまつもよう廊下の奥に、黒い扉が一つあり、その扉を潜り抜け、石造りで出来た螺旋階段を降りて行く。

 降りた先に見えて来たのは、地下室にある食堂だった。

 天井が高く広々とした空間に、暖色系の光を放つ球体が、高い位置で浮遊している。

 食堂の中央には大きな木製のテーブルがあり、メイドらしき女性が数人いて、仲良さげに談笑していた。


 ミカがその女性達に声をかける。


『やぁ、談笑中悪いんだけど、この子に何か食べさせてもらえないかな?』


 会話に夢中になっていた女性達は、声をかけられ慌てて席を立つ。


『ミカ様!?』

『これは失礼致しました』

『その子供は?』


 女性達は口々に喋る。


『この子は……』


 ミカは利一の事を紹介しようとするが、急にその説明を躊躇ちゅうちょする。

 利一を奴隷だと紹介してしまうと、幼女趣味を疑われかねないと危惧した。

 ミカの中で、一応はそう言う誤解は避けたいと言う意識が働いた。


『知り合いの子供だよ。訳あって、預かる事になったんだ。暫く城に置くから面倒見てやって』


 女性達はそれを了承し、利一は女性達が用意したパンとスープと平らげた。


(良かった……まともな食事やった)


 腹が満たされ、ようやく安堵する。


 ミカは再び利一を連れて階段を上がり、自室に戻ろうとした──が、廊下のT字路で、突然その歩みを止めた。


「ミカ?」


 不審に思った利一がミカに声をかける。ミカは答えず、廊下の角に鋭い視線を送る。

 よく見ると、角に人影が映っていた。誰かがそこに潜んでいるのだ。


『そこにいるのだろ? 何の用だ?』


 ミカは隠れていた人物に声をかける。すると、ミカと似た服装をした男が角から現れた。


『ようミカ……新しい玩具を拾ったんだってな』


 ミカは険しい顔をして男を睨む。その緊張は、ミカに抱えられた利一にも伝わった。


「ミカ……誰なん?」


 利一が口を開いた途端──光る何かが、利一目掛けて飛んで来た。


「!?」


 ミカは利一を男から隠すようにして、飛んで来たナイフを避ける。

 だが男は、ミカの動きを予想していた。避けるであろう方向に、もう1本のナイフを飛ばしていたのだ。

 ミカの側頭部をナイフがかすめ、血が頬を伝う。


「ミカ!? 血が!!」


 ナイフでつけられた傷は修復せず、血は流れ続けてミカの髪と衣類を赤く染めた。


『へぇー凄いね、そのナイフ。……狩人の骨を合成してあるのかな?』


 男はニヤリと笑い『ご名答』と言った。


『ミカ、その娘……俺にも貸してくれるよな? まさか独り占めなんてしないだろ? 同じマグダレーナ様に仕える身として、仲良く分け合おうじゃないか? なぁ?』


 ミカは怪訝けげんな顔をして言う。


『……同じねぇ?』


『なんだよ?』


『同じじゃないだろ?』


『あ? なんだお前……マグダレーナ様に選ばれたからっていい気になるなよ』


『いい気になって何が悪い? 当然だろ。僕は君とは違うんだ。……そこをどけ、邪魔だ』


 ミカは威圧的な態度で男に話す。男も負けじとミカを睨むが、廊下の奥に、ダークブラウンの髪に翠色の目をした青年を見つけ、顔色を変えた。


(ハインリヒ様だ……不味い)


『いいさ……通れよ。今日は許してやるよ』


 男はそう言って、ミカに道を譲る。


『……二度と僕に構うな……この子にもな』


 ミカは男への警戒を強めたまま、利一を男から隠すようにして通り過ぎた。


(油断した……よりによって彼に目を着けられるとは……彼は今日、城にいない日じゃなかったのか?)


 ミカは、少女姿の利一を男に見せてしまった事を悔やんだ。足早に自宅に向かいながら、利一の事を気づかう。


「利一……大丈夫か?」


 利一はミカに抱かれた状態で、怯えていた。


「なんやねん……ここは……お前の家なんやろ? こんな危険な所に住んどるんか? ……なんでや! こないな所……引っ越したらええやんか!」


 利一はミカを責めるように訊き、ミカは至極真面目な口調で答える。


「マグダレーナ様がここにおるからや。ここがどんなに危険な場所でも、この世界がどんなに邪悪やとしても、彼女がおるから、ここにおるんや」


「何で、そうまでして?」


「彼女に忠誠を誓ったからや。他に理由はあれへん」


 ここで、ようやく利一はある事に気づく。そしてそれをミカに尋ねた。


「……なぁ、ミカには息子がおるんやろ? どこなん? この城におるん?」


 するとミカは、立ち止まり、暫く黙り込む。


「……ミカ? どないしたん?」


 利一が不安になりミカに呼びかけると、ミカは静かに話し始めた。


「あの子はここには、おらん……あの子は表側で俺の弟と暮らしとる。……もう……二度と会えへん」


「……え? どう言う事なん?」


「この城の住人は、絶対に表側には行けへんのや。どんなに申請しようが……どんなにまじないをかけようが……表側には帰還出来へん。戦争に負けた結果がコレや」


 苦悶の表情でそう言った。

 利一にはミカの話す内容がよく分からなかったが、ミカが酷く辛そうにしている事に胸が痛んだ。


──哀愁漂うミカの表情。その端正な顔立ち。血に染まった姿さえも美しく見える。

 この男は、良心の呵責も無く非道な仕打ちを平然と行うクセに、いざとなったら利一の命を救う。

 城に着く前、利一は女性に化けたミカの美貌に見惚れたが……

 改めて見れば、寂しそうな表情を浮かべる男性のミカも美しく思えた。


 つい数時間前に、自分を殺そうとした相手だと言うにも関わらず、利一はミカに同情していた。

 自分を誘拐した犯人に好意を抱く【ストックホルム症候群】と呼ばれる心理状態。この時の利一は、それに近かったかも知れない。


 ミカ再び歩き出し、2人は無事部屋に戻る。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

貴方の今日の残り時間を楽しんで下さい。

Thank You for reading so far.

Enjoy the rest of your day.

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