第8話 【4月25日】理子と性懲りもなく呆れた怪物
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帰りの車の中。また再び沈黙が続く。だが行きとは違う空気が流れていた。
土手でのやり取りの後、2人で波打ち際を散策中に、理子は転倒してしまう。運悪く、そこに大きな波が襲った。2人共ずぶ濡れの状態になり、理子の方は下着まで全滅した。
──寒い。海開きにはまだ早い季節だ。
不運は続く。泣きっ面に蜂のゲリラ豪雨。2人は急いで車に乗り込む。
理子はシートを濡らした事を謝罪したが、柏木は気にしなくて良いと彼女に言った。スマホが無事だった事が不幸中の幸いだ。
濡れた服が互いの身体ラインを際立たせる。恥ずかしさから、双方直視する事叶わず、狭い車内が一層狭く感じた。手を伸ばせばすぐそこに相手の体がある。
別に迫られてる訳でも、凝視されてる訳でも無い。それでも、やり場の無い気まずさが、せせこましい空間に充満した。
やがて理子は、走っている車が行きとは違うルートを進んでいる事に気づく。理子が行き先を尋ね、柏木は答えた。
「……俺の家」
柏木の答えに、理子の心拍数は上昇した。
「……嫌?」
心配そうに柏木が尋ねる。理子は答えた。
「……ヤじゃない」
(……今の会話が意味する事は何だろう? そんなつもりは無いけれど、もし、そんな状況になっても良いと言う返事だった?)
己が発した返事にも関わらず、理子は困惑する。深読みすればする程、恥ずかしくなった。
(……馬鹿か、私は!! いくら素顔が美形だからと言って、単純過ぎるでしょ!!)
毛嫌いしていた筈の講師に、ときめいている己を情けなく思う。理子は柏木の顔を見る事が出来ず、窓の外をずっと眺めていた。
そして……柏木も同じく、理子の顔を見れないでいた。彼は考えを巡らせる。
(……不味い)
(……非常に不味い)
(……理子が可愛く見える)
(……理子が可愛い過ぎる)
(こう言う幼い子は、好みではなかった筈なのに……)
理子の事が堪らなく愛しい……柏木はそう感じていた。理子に対する想いは薄々存在していたが、柏木本人はあまり自覚していなかった。
しかし今日、理子と過ごして、彼女に対する好意を自覚してしまった。
思わぬ偶然と、己の安易な悪戯心から、この事態を引き起こし、あまつさえ自分の恋心を認識して戸惑う青年。
まさに愚の骨頂である。
(彼女に直接関わる事無く、遠くから見ていれば良かったものを……)
あの晩……理子と合コンで出会って以来、柏木の中で何かが狂い始めていた。
(……こう言う気持ちになるのは、何十年ぶりだろうか?)
(誰かを愛する資格なんて……本当は有りはしないのに……)
(それなのに……また性懲りもなく恋してしまう……)
(どうしようもない……)
(どうしようもなく……)
(呆れた怪物だ……)
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