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第十五話 招かれざるモノ・中編

(そんな! 境界線を越えた途端、こうも分かり易く差が出るとは……)


 氷輪は愕然とした。同じ山道が続いている筈だが、乾き干上がったような土、やせ衰えた木々、申し訳程度に映えている雑草。心なしか、風もカビ臭いような匂いがするように感じる。


(田や畑、民の家はどうなのだろう? そして肝心の民は?)


 気を取り直しで歩を進める。兎に角、民の状態を確認せねばと自然に早足になる。


(外の領土の話は、聞かされては来た。だが、どこか遠い国の物語のように感じていた。私は、知らなければならない。もし、人柱というしきたりがなければ、そうなっていたであろう事を……)


 歩みを進めながら、突き動かされるように込み上げる思い。


(およそ五十年ほど前、公家中心の「南朝」という政権と、武家中心の「北朝」と呼ばれる政権、この二つの朝廷の対立による混乱が長じていると聞くが……)


 知りたい思いと、知るのが怖いという相反する二つの感情が全身を駆け巡る。小半時ほど歩き続けると、漸く道が開けてきた。思わず足を止める。そこは干上がった田畑が広がっていた。高く昇りつつある陽の光が、容赦無く照りつける。


(各地で大干ばつが起こり、飢饉が続いていると聞いてはいたが……)


 己がついこの間まで生活して来た土地とは、天と地ほどの差に戸惑いを隠せない。如何に恵まれてきたか、そして守られて来たのかを今更のように思い知る。


(けれども、その豊かさとは全て人柱によるしきたりのお陰なのだ)


 本来ならその贄となっていた筈の自分。筆舌に尽くし難い複雑な思いに囚われた。ふと、歩みが自然とゆっくりになっている事に気付く。


(兎に角、人を探そう。まずは話しを聞かないと)


 再び足を速めた。しばらく歩くと、何件かの民家が見えてきた。連なる田と畑の間に建っている。乳母に絵に描いて教えて貰った通りだ。そしてやはり、畑は土が渇き切っており、辛うじてすずしろなどの葉がヒョロリと出ている程度だ。田はほとんど干上がってしまっている。周りを見渡すと、少し離れた場所の畑でぼんやりと座っている男がいる。氷輪は彼に話を聞いてみようと足を進めた。


 男はまだ若そうだった。酷く痩せた体に、元の色が何色かも判別つかないほど着古したであろう黄ばんだ直垂を身に着けている。繕い後が痛々しい。彼は無気力に畑の縁に腰をおろし、虚ろな目で虚空を見上げていた。氷輪が歩く毎に、シャリンシャリンと錫杖が鳴り、近づいて来るのが聞こえたのだろう。男は氷輪の方に顔を向けた。ひどく覇気の無い表情だ。目が合うと、氷輪は丁寧に頭を下げた。男も釣られたように頭を下げる。そして氷輪が近づくなり、億劫そうに立ち上がった。


(栄養不足で体にも気もちにも力が入らないのだ)


 氷輪は感じた。


「ここには自分と他に数名しか残っていませんよ」


 男は氷輪が聞きたい事を察したように口を開いた。物語僧であることが見て取れたせいもありそうだ。


「なんと?!」

「ええ。皆取りあえず『(みやこ)』を目指せば何とかなる、てんで『京』を目指して出て行きました。残ったものは年老いた者か『京』に夢を見られない者のみ……」


 男は虚ろな目を向け、話しを続けた。


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