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第十二話 考察

「……そもそも人の世の文献によると、や。その十の神の御宝言うのは神が饒速日命(にぎはやひのみこと)が天照大神から授かって天盤船に乗って河内の国に天降り、んでその後に大和の国に移った、とされとる。まぁ、諸説あるねんけどな。全て揃えればあらゆる願いが可能になる、ちゅーもんらしいが、その割には血眼になって探している人間どもがごく一部のみ。まぁ、これに関してはその力を知っている一部のものが独占しようとひた隠しにしてきたと考えれば不自然ではない。だけど、や」


 人型に変化(へんげ)した風牙改め『ふわり』は木の切り株に腰をおろし、念の為外に声が漏れぬように防御の述を施し、一先ず森の中の少し開けた場所で会議をしている。ふわりのほぼ向かい側の切り株に琥珀が腰をおろし、その隣の檜の幹に氷輪が寄りかかってふわりの見解を聞いていた。


「……そもそも(あに)さんの『贄』の件やが、ワイが産土神をしていた時に小耳に挟んだ事がある。信濃国の一族の領域の繁栄との引き替えに代々贄を捧げてきていたが、それを覆そうと動き出した者がいる、とな。これ、兄さんの事やろ? 神からしたら逆らう人間なぞ許すまじ! てところだろうけどなぁ。猶予期間? みたいなのも感じるし、様子見というか、高見の見物みたいな印象も受けるし。そもそもの矛盾は、兄さんが宿世の女と出会うっつー件やな」


「どういう事?」


 琥珀は不思議そうに問いかけた。氷輪も不思議そうにふわりを見つめている。


「あーもう、当事者はどうしても一つの事に囚われがちだから意外とそのものの本質を見失い易いのや。そもそもその宿世の女と出会う、てのは誰から聞いたのや?」


 焦れたように言うふわり。


「あたしは、人形師の家を訪ねた時に……」


 少し気まずそうに氷輪えおチラッと見やりながら話しを続ける。


「人形の百夜の姉さんから。お礼に、て先読みをしてくれて。それで……」

「へぇ? あの百夜の姐さんかぁ」

「ふわりは知ってるの?」

「直接()た事はないけどな、大妖魔の類で妖界ではちょっとした名物姐さんで通ってんねん。何でも、最近では神の誘いを断ったとかなんとか聞いたなぁ」

「へぇ? 有名なお姉さんなんだね。あたしは妖界から離れて結構経ってるし、全然知らなかった」

「ん……姐さんが神の誘いを断った? あっ! ちょい待てな、今考える時間欲しいわ」


 ふわりは突然閃いた様子だ。膝を抱え顎を膝に乗せて考え込んだ。


(……神の誘い、ワイを(そそのか)そうとした禍津日神さん……ほぼ同時期や。姐さんに何を持ちかけたのかは知らんが……調べてみる価値はありそうやな。だが、慎重に事を運ばんと下手したら消されそうや。さて、どうするか……)


 氷輪は、琥珀が人形師の家を後にしたあたりから元気が無かった事を思い出していた。


(百夜は、私への先読みは躊躇していた。代わりに『あなたは下手に周りの事を気遣って決断するより、心のままにいった方が最終的には自分も周りも上手く行く』と助言してくれた。その時、恐らくは宿世の女性の事を伝えようとして辞めたのだろう。琥珀には……伝えたのだろうな。それで琥珀は、あんなに元気を無くして……)


 色々な事を思い、葛藤しつつもそれでも行動を共にしてくれた琥珀を改めて愛しいと感じ、大切にしたいと思うのだった。その事を言葉に出来ない事がもどかしい。ただ黙って、右手を伸ばし琥珀の背中を撫でた。


(兄者……)


 琥珀は氷輪が黙って背中を撫でてくれた行為で、百夜に宿世の女性の事を聞いたのだろう、という事を察したのだと伝わった。その事で美辞麗句を述べるどころか無言を貫く彼が、琥珀には非常に誠意溢れる事に移り、嬉しかった。ただ、互いに愛しさを込めた視線を交わし合う二人であった。


(……まぁええわ。モフモフに変化(へんげ)して兄さんの肩の上で黙々と考えたらえーねん)


 ふわりは一旦思考を中断し、切り変えた。氷輪と琥珀を見やる。


「そこや!」


 と声をかけた。驚いてふわりを見つめる二人。


「ます宿世の女と出会う、てのは、兄さんが素直に掟に従わず旅に出る、て事を想定してるから出会うのやろ? まるで最初から何もかも仕組まれたようやないかい!」


 ハッとした様子の二人。


「そう言えば……」

「確かに! 言わてみたらその通りだ」


 ふわりは頷いてみせた。


「せやろ? 何か裏がある、と考えて事に当たった方がええで。せやかて考えすぎも良くないけどな」


 厳かに言った。そして


「御宝、所在がはっきりしているのを一つ一つあげてみようや」


 と続けた。


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