98・トラック野郎、新体制
夕飯の買い出しをして会社に戻ると、驚きの光景が広がっていた。
「ち、ちくしょう………」
「わたしの勝ち」
膝を突くボロボロのシャイニーと、汚れてはいるがほぼ無傷のコハク。
どうやら勝負はコハクが勝ったみたいだ。だがコハクは汗びっしょりで肩で息をしている。コハクにとって勝負はギリギリだったみたいだな。
「社長、これは一体?」
「ああ、コハクに新しい武器をプレゼントした。そしたら二人が模擬戦をするって言ってな」
「なるほど」
しろ丸を抱っこしたキリエはすぐに事態を飲み込んだようだ。
キリエは優しくしろ丸を撫でている。
「あ、ご主人様。おかえり」
「ただいま。勝負はコハクの勝ちか?」
「うん。でも危なかった、シャイニーは強い」
「······お世辞はいいわ。アタシの攻撃は殆ど避けられたし、アタシはあんたの動きが殆ど見えなかった。今のアタシじゃどう足掻いても勝てないわ」
シャイニーは自分がコハクより弱いことをあっさり認めた。
自分の弱さを認めることが出来るのは、強さの証だと思う。
「確かに、今はわたしが強い。でも、シャイニーは気付いていない」
「え?」
「シャイニー、わたしの最後の三撃、躱せなかったけど対応してた。今日初めてわたしと戦ったのに、僅かな攻防でわたしの動きに対応した······本当に、驚いた」
「·········」
「シャイニー、まだまだ強くなる。わたし、追いつかれるかも······だから、追いつかれないように頑張る」
「コハク······」
「シャイニー、これからも模擬戦に付き合って」
「ふん。今に見てなさい」
「負けない」
コハクはシャイニーに手を差し出すと、シャイニーはその手をガッチリ握る。
なんかあれだな、不良同士がケンカして意気投合するような、そんな感じがする。
「あー、なんかオナカ減ったわね」
「うん。ご主人様、ごはん」
「はいはい。頼むぜ、ミレイナ」
「はい。任せてください」
「私も手伝います。ミレイナ」
『······うなぅ』
あ、しろ丸が起きた。
ご飯の単語に釣られたのか、キリエの腕の中で甘えるように身体を擦りつけている。
「はいはい。ご飯にしましょうね」
『なぉーん』
キリエがしろ丸を撫でると、ミレイナ達も代わりばんこに撫でまくる。
さてさて、しろ丸のためにもご飯にしますかね。
食事が終わり、女性陣達は各々の時間を過ごしてる。
コハクはしろ丸を連れて風呂、ミレイナは読書、シャイニーは武具の手入れ、キリエは自室に設置してある簡易祭壇に祈りを捧げていた。
俺はと言うと、トラックの運転席へ座っていた。
「タマ、明日からコハクも働くけど、運転に問題はないんだな?」
『はい。現時点での運転技術は社長を遙かに上回ります』
「そ、そうか」
なんだろう、この気持ち。
友人に勧めて貸したゲームが、自分より遥かにやりこんでるデータを見てショックを受けたような。
「えーと、そういえばエブリーも強化出来るんだよな?」
『はい。新項目【従車強化】から強化可能です。項目を表示しますか?』
「頼む」
いくら運転技術があるとはいえ不安は解消すべきだ。
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【従車強化】
[車内設備購入][車体強度][車体カラー変更]
[車体装飾][トラックウェポン強化][ドライバー変更]
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「なるほど、トラックウェポン強化ってのは?」
『従車は全てデコトラカイザー専用武器に変形します。現在の所有車は軽ワゴンのみ。[トラックウェポン]は《エブリストライカー》のみ使用可能です』
「エブリー、ストライカー」
なんかカッコいいな。
試して見たい気持ちもある。
「いや、今は強化が先だ。まずは強度を上げるか」
『畏まりました』
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[車体強度] 必要ポイント500
○車体強度 LV1
○エンジン出力 LV1
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「これだけか。トラックと比べて少ないな」
まぁいいや。とりあえずレベル一〇まで上げておこう。
「タマ、レベル一〇まで上げてくれ」
『畏まりました』
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[車体強度] 必要ポイント500
○車体強度 LV10
○エンジン出力 LV10
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「よし。次は車内設備だ」
『畏まりました。車内設備を表示します』
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[車内設備]
○カーナビ[20000] ○オーディオ[10000] ○香水[300]
○クッション[1000] ○ドリンクホルダー[500]
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「なんか普通だな……」
『あくまで従車ですので。レベルが上がると項目も増えます』
「うーん……じゃあ、とりあえずカーナビでいいか」
『畏まりました』
ポイントに余裕はあるし、ちょっとお高いけど仕方ない。
シャイニーはともかくコハクは周囲の地理に疎いし、必要経費だ。
「とりあえずこんなもんか」
『お疲れ様です』
「明日から暫くは俺と二人で配達だ。よろしく頼むぜ、タマ」
『こちらこそよろしくお願いします。ですが一つ訂正を。私は人間ではありませんので、二人という表現方法は間違っています』
「バカ言うな。一緒に働く同僚なんだ、それにお前は姿形こそトラックだけど、心は立派な人間だと思うぞ」
『回答不可』
俺は忘れてない。
初めてデコトラカイザーに変形した時、あの時のタマはサポートではなく自分の意思で俺に救いの手をさしのべてくれた。
玄武王を倒せたのもタマのおかげだし、俺の中ではタマは最高の相棒で友人だ。
「なんか照れくさいな······とにかく、明日から頼む」
『·········』
タマからの反応は無かった。
もしかして照れてるのか? なーんて思ってしまった。
翌日。俺たちは全員制服に着替え、事務所で始業の挨拶をしていた。
新しくコハクの机も入れたので、事務所の模様替えもした。
ミレイナとキリエ、シャイニーとコハクを隣り合わせにして机を合わせ、四人が向かい合わせになるように位置を変える。俺はその四つ合わせの机の前に社長用デスクを置き、四人の顔が見れるような位置に来た。
ちなみにしろ丸はカウンター上の座布団。
何故かカウンター上を気に入ったので、とりあえず邪魔にならないようにカウンターの隅に置く。
俺はみんなの顔を見ながら、今日の予定を話す。
「えー、今日からコハクも一緒に働く。コハクはシャイニーと一緒に、エブリーに乗って周辺集落を回ってくれ」
「はい。ご主人様」
「それと、安全運転で頼むぞ。緊急時以外スピードを出しすぎない事、集落内は最高時速三〇キロまで落とすように」
「はい。ご主人様」
「シャイニー先輩の言うことをちゃんと聞くこと」
「はい。ご主人様」
「よし。じゃあ細かい仕事はシャイニーから教わってくれ」
「はい。ご主人様。よろしくシャイニー」
「むふふ、先輩に任せなさい!!」
ちょっと不安だが大丈夫だろう。
するとキリエが挙手をした。
「社長。社長は一人ですが……平気なのですか?」
「そーよ、アタシがいなくて一人で配達出来るの?」
「ふ、甘いな。こう見えても運送歴はお前より長いぜ。それに……一人じゃない」
「ふふ、タマさんが居ますもんね」
「ああ。頼りになるパートナーだ」
キリエとシャイニーは失言と感じたのか、それ以上は言わなかった。
「さて、今日も一日よろしく頼む」
『うなーお』
俺の挨拶と同時にしろ丸が鳴き、俺たち五人は笑いに包まれた。
こうして、アガツマ運送会社はコハクを加えた新体制で仕事を始める。
配達が早く終われば、その分事務仕事に時間を当てられるし、週休二日も夢じゃない。まずはコハクに仕事を覚えさせて慣れて貰う。
やることはたくさんある。一歩ずつ進んで行こう。