表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第8章・トラック野郎と新車と新入社員』
97/273

97・トラック野郎、教会へ行く

 トラックに戻った俺を待っていたのは……誰も居なかった。

「あれ、シャイニーとコハクは?」

「変ですね、先に店を出たのに……」

 取りあえず車内に戻り、タマに聞く。

『シャイニーブルー様とコハク様は競争しながら帰られました』

「マジかよ」

 おいおい、ここから会社まで数時間の距離だぞ。

「コウタさん、どうします?」

「うーん……まぁ放っておくか。それより、せっかくだしキリエの様子を見に行くか?」

「あ、教会ですね?」

「ああ。勉強を教えてるみたいだし、差し入れでも買って行くか」

「わぁ、いいですね」

 シャイニーとコハクは多分だけど会社の前で組み手をするつもりだろう。

 悪いがそっちは放っておく。いちいち解説すんのも面倒だし、シャイニーより強いかも知れないコハクの動きなんて、俺に見えるわけがない。

 それより、キリエとしろ丸を迎えに行くのがベストだ。

「あの、夕飯の買い出しもしたいので」

「そうか。じゃあキリエを迎えに行った帰りでもいいか?」

「はい」

 ミレイナの笑顔は今日も輝いてるね。

 俺は教会へ向けてトラックを発進させた。




 教会は会社からもそこそこ近い。

 地区で言えば二つ隣の地区だから、馬車や人力車を使えば簡単に行ける。

 教会は大きくも小さくもないが、チャペルや十字架がちゃんとあった。異世界でも十字架ってあるのが驚いた。

「ここか。オーマイゴッドの大聖堂に比べると小さいな……」

「大聖堂と比較しちゃダメですよ。あれは現存する教会の中でも一・二を争うくらい古い建物なんですから」

「まぁそうだな……って、あれより古い建物があるのか?」

「ええ、神を崇拝する『神聖都市オーマイゴッド』とは別に、聖なる力を神より賜りし『聖王』が統治する『聖王国ホーリーシット』にある『エクテニア聖王堂』があります」

「せいおう?」

「はい。詳しい事はよく分かりませんが……神を崇拝するオーマイゴッドと、神の奇跡を賜りしホーリーシットは最悪の仲と言われ、大昔は戦争があったそうです」

「戦争かよ、物騒だな……」

「ええ。ウスグレー参道にも聖堂があったそうですが、その戦争の際に破壊されたそうです」

「ほぉ……ミレイナ、詳しいな」

「えへへ……実は、キリエが教えてくれたんです。一緒に図書館に出かけた時に、いろいろお話を聞いて」

「キリエか……そういうの好きそうだしな」

「はい。さすがはオーマイゴッドの元シスターですね」

 と、教会の前でこんな長話をしても仕方ない。

 ここに来る途中でポイントで買ったカステラやチョコの詰め合わせを土産に、俺とミレイナは教会のドアを開けた。

 中は日本でも見た事があるような教会で、参列席が並ぶ普通の教会って感じだ。ここで結婚式とか挙げるんだろうな。

「えーと······あ、あそこのシスターさんに聞こうか」

 俺の視線の先には年老いたシスターが、箒を片手に掃除をしていた。

「すみませーん」

「ん······なんだいあんたら。何か用事かい?」

「え、ええと······ここにキリエが来てると思うんですけど」

「キリエ? ああ、あの子なら裏庭で授業中さ。ところであんたらは······そうか、あんたがキリエの言ってた社長かい」

「え、あ、は、はい」

 老シスターは俺をジロジロ見てクククと笑った。

 なんか怖いなこの老シスター。

「ふん、裏にはそこのドアから行ける。行くなら行きな」

「お、お邪魔します」

 老シスターは顎でドアを指すとそのまま掃除に戻った。

 俺はミレイナを促してドアを開けて裏庭へ。

「キリエは······お、いたいた」

 裏庭は意外と広く日当たりもいい。

 キリエは移動式黒板の前で一〇人ほどの子供たちに勉強を教えていた。その様子を眺めていると、キリエはこちらに気が付いた。

 しろ丸は教卓の前で丸くなってる……可愛いな。

「·········社長、ミレイナ?」

 授業中なので俺は手を上げて答え、ミレイナはニッコリとお辞儀をした。

 キリエは少し微笑むと、授業を再開する。

 子供達は真面目に授業を聞いてるし、邪魔しないようにするか。




 授業が終わり、子供達は俺たちに気が付く。

「さぁ、みんなにお土産を持ってきましたよ」

 ミレイナがカステラの入った袋を見せつけ、キリエに向かってウィンクをする。するとキリエは頷き子供達に言った。

「では皆さん、おやつの時間にしましょう。手を洗って食堂へ集合して下さいね」

 キリエがそう言うと子供達は大きな声で返事をし、競争するように教会内へ入って行った。

「申し訳ありません、社長、ミレイナ。気を使って頂いたようで」

「気にすんな。それよりこれ、ポイントで買ったチョコとカステラだ、子供達に分けてやってくれ」

「はい。ありがとうございます、この分のポイントは私の」

「俺からのプレゼントだ。ほら早く行けって」

「·········はい」

 キリエはお辞儀をすると教会の中へ戻って行く。

 余計な事は言わせない。俺だって恵まれない子供達に優しくするだけの気持ちはある。

「気を使わせたようだね」

「うおっ」

「きゃっ」

 突然、後ろから声が聞こえたと思うと、先程の老シスターがデッキブラシを片手に俺とミレイナの後ろに居た。

「ガキ共はキリエに任せて、あんたらはこっちに来な、茶ぐらい出してやるよ」

「え、あの」

「ほら、さっさと来な」

「は、はい」

 有無を言わさず、俺とミレイナは老シスターに連行された。

 やっぱこの老シスター、俺は苦手だ。




 老シスターの部屋に案内され、俺とミレイナはお茶をご馳走になっていた。

「キリエはガキ共に勉強や魔術を教えてくれてね。とても助かってるよ」

「勉強はともかく、魔術もですか?」

 ミレイナが聞くと、老シスターは頷いた。

「そうさね。魔術と言っても攻撃に使うような魔術じゃなくて、周囲を照らす光や何も無い場所で水を出したり、濡れた身体を乾かすような温風を出す魔術さ。魔力と多少の訓練で誰でも使えるような初級魔術さね」

 なるほど。確かにそりゃ役立ちそうだ。

「勉強や魔術だけじゃなく寄付もしてくれてね、子供達はみーんなキリエによく懐いてる。あんな若いのにいい子さね」

「寄付······」

 たぶん、給料から出してるんだろうな。

「あたしみたいな老い先短いババァより、キリエみたいな若いのにここを任せたい気持ちもあるが······」

「それは······」

「わかってるよ。キリエは元シスターで信仰心もあるけど、あんたのとこで働く事に生き甲斐を感じてるフシがある。それに、今のキリエはシスターより教師みたいなモンさね。ここにいるよりあんたのとこで働きつつ顔を出してくれるのがいいみたいだ」

「そうなんですか?」

「ああ。今のキリエは足りない何かを得ようとしてる。子供達と触れ合う事で、自分に足りない何かを掴もうとしてる······あたしにはそんな風に見えるのさ」

「·········」

 キリエに足りない物。

 それは、俺やミレイナ、シャイニーにはなんとなくわかる。

 親の愛を知らず、合理的な生き方をしてきたキリエ。

 アルルの件でも、母親に会いたいと泣くアルルの心情を理解出来ず、シャイニーと対立した。

 キリエは、子供達と触れ合う事で、愛という物を知ろうとしてるのか?

「それにしても、キリエは大したやつだね」

「え?」

 老シスターは感心したように言う。

「初級とはいえ六属性の魔術をあそこまで上手く操るとは。魔術適正は『風』と聞いていたが、相反属性の『地』属性を事も無く操っているのを見て驚いたよ」

「へぇ〜······」

 意味がわからんのでスルーしておく。

 後でミレイナに聞けばいいかな。

 すると、部屋のドアがノックされた。

「シスター・ミラノ、午後の授業は······」

「ああキリエ、午後は別のモンが来るからいいよ。今日は帰っていいさね」

「はい、ではまた。社長、ミレイナ、今日はわざわざありがとうございます」

「いいって、じゃあ夕飯の買い物して帰るか」

「はい」

 俺とミレイナは立ち上がり部屋を出ようとする。すると老シスターが俺たちに話しかけて来た。

「キリエ、また頼むよ。それとあんたら、暇な時は茶でも飲みに来な、歓迎するよ」

「ありがとうございます、その時は是非」

「ふん」

 老シスターに挨拶し、俺達は教会を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ