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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第8章・トラック野郎と新車と新入社員』
95/273

95・トラック野郎、歓迎会とおねだり

 エブリーをガレージに戻し、ミレイナ達の元へ。

「すごいですコハク!! まさか初めてであそこまで乗りこなすなんて!!」

「ま、まぁ……すごいんじゃない?」

「これでエブリーの運転手は決まりですね」

『うなーお』

 みんな、コハクが運転手になることに異論はないみたいだ。

 ミレイナに抱っこされてるしろ丸も同意してるみたいだしな。

「ありがと、みんな」

「ははは。さーて、コハクの歓迎会だ。近くの鍋屋でメシにでもするか」

「大賛成っ!!」

 シャイニーは飛び上がって賛成した。

 ミレイナもキリエも頷き、その足で鍋屋に向かうことに。

「コハク、今日は好きなだけ食べていいからな」

「うん。ありがとうご主人様」

 うーん、笑顔が可愛らしいね。

 まだ一七歳、ミレイナと同い年だしな。子供っぽいとも言える。

「ねぇコウタ、ちょっぴりお酒も飲まない?」

「お、いいね。キリエはどうだ?」

「では、少しだけ」

「皆さん、明日から仕事ですからね?」

「お鍋お鍋♪」

『なあーお』

 あ、そういえばしろ丸は店に連れて行ってもいいのかな。

 でも歓迎会だし、家に残しておくのも可哀想だ。

 みんな何も言わないし、こっそり連れて行けばいいかな。




 会社から徒歩一五分ほどのところに、飲食店が建ち並ぶ地区がある。

 飲食店と言っても個人食堂や居酒屋ばかりで、仕事の終わりに軽く一杯引っかけるような店が殆どだ。なので規模もそれなりの大きさである。

 その中の一軒であるモツ鍋屋に、俺たちアガツマ運送会社は入店した。

「いらっしゃい!! お、コウタ社長じゃねーか」

「こんばんわ親父さん、奥の一間を貸し切り出来る?」

「おお、空いてるぜ」

「じゃ貸し切りで。実は新入社員の歓迎会なんだ」

「ほぉーっ!! また華が増えるのかい? こりゃいいね」

「あはは、それじゃモツ鍋と肉鍋を大盛り五………いや、一〇人前で」

「はいよっ!! じゃあ奥の間にどうぞ!!」

 そう、ここは顔なじみのモツ鍋屋。

 実はちょくちょく通っていたんだよね。みんなを連れて何度も出入りしてる内に、顔を覚えられちまった。親父さんもいい人だし、これからも通おうと思う。

「ご主人様、いいにおい……」

「モツ鍋だ。食べたことはあるか?」

「ない。楽しみ」

 俺たちは奥の間に移動して横長のテーブルの前に座る。もちろん座卓だ。

 座卓に座ると店員さんが器や箸の準備をして、魔道具のコンロを準備する。このコンロは火の魔石が敷き詰められ、魔力を流すと熱を持つらしい………なんのこっちゃ。

「あ、冷たいエールを三杯、大ジョッキで!! いいわよねコウタ」

「おお、キリエは?」

「構いません。ミレイナとコハクは?」

「私は冷茶で」

「わたし、アクアドラゴンの血液水で」

「なんだそりゃ………そんなのないぞ?」

「えぇー………じゃあ水でいい」

 極端なヤツだな。っていうかアクアドラゴンの血液水ってなんだ?

「おっと、しろ丸はここに置いてっと」

『うなー』

 ちなみに席順は、俺とコハクとしろ丸が横に並び、向かいにはミレイナとシャイニーとキリエが並んでいる。しろ丸は俺の隣の座布団の上に置いた。

 それから一〇分ほどで大鍋と飲み物が届き、各自グラスを持つ。言われなくてもわかってる、俺の音頭だろ?

「えーそれでは。本日はコハクとしろ丸の歓迎会という事で、たくさん飲んで食べて下さい。では······乾杯‼」

「「「「かんぱいっ‼」」」」

 乾杯と共に、俺は冷えた麦酒を一気飲みした。

 ほろ苦い味が口の中いっぱいに広がり、喉を通って胃の中に流れて行くのがわかる。やべぇ超美味い。

「ッッかぁぁぁぁッ‼ うんめぇぇぇッ‼」

「さいッッッこうねっ‼」

「ふぅ······おかわりを」

 俺とシャイニーとキリエは最初の一杯を一気飲みし、おかわりのジョッキを注文する。するとコハクが俺の袖をチョイチョイ引っ張った。

「ご主人様ご主人様、おなべまだ?」

「おお、そろそろいいかな?」

 俺は置いてあった鍋つかみを使い、蓋を開ける。

「おぉぉー」

「うん、いい感じですね。コハク、よそってあげますね」

「ありがと、ミレイナ」

「ふふ。しろ丸にも」

『なおーん』

 ここのモツ鍋は『ハイミノタウロス』という牛のモンスターと、『ピッグオーク』という一般種モンスターのモツを使ってる。

 下処理したモツをたっぷりの異世界ニラやキャベツと煮込み、匂い消しのにんにくを入れる。そしてこの店オリジナル調味料を使い味付けしてるのでとても美味い。

 その調味料がなんと······味噌である。

 この世界には味噌が存在しないと聞いたが、匂いといい味といいこれは味噌しかあり得ない。それが俺がこの店に通うようになった最大の理由だ。

「はふ、おいひい」

『うなー』

 コハクは牛モツをモグモグ食べ、しろ丸も小皿のモツを器用に食べていた。

「はは、いっぱい食べろよ」

「うん、ありがとうご主人様」

『なおーん』

 結局、大鍋三つでは足りず、追加で五人前の鍋を注文した。

 しろ丸もとにかく食べるし、シャイニーも張り合うし、歓迎会は多いに盛り上がった。

「うっく、いいコハク、アタシはあんたの先輩よせーんぱーい‼ それと、アタシはまだあんたを信用したワケじゃないわよ、うぃっく、少しでも不穏な動きしたら······アタシの双剣のサビにしてやるわっ」

「わかった。あとお酒臭い」

 シャイニーは酔っ払ってる。コハクと肩を組んでいろいろ喚き散らしていた。迷惑この上ない奴だ。

「しろ丸······この小さな体のどこに入るんでしょうか。不思議ですね」

『なー』

「可愛いからいいじゃないですか。キリエ」

「·········そうですね」

 ミレイナとキリエはしろ丸を構っている。

 確かに、バレーボールくらいの大きさなのに、それを上回る量の肉を食べてるのは間違いない。ホントに良くわからん生物だ。

 鍋屋に入って二時間、そろそろお開きの時間になった。

「さて、そろそろ帰るか」

「そうですね」

 明日から仕事だし、今日はここまで。

 まだ問題はありそうだが、こうしてコハクとしろ丸の歓迎会は終わった。




 翌日から仕事が始まり、今日は配達は無しで事務作業と倉庫整理を行っていた。

 俺は事務机に座りキリエの伝票確認を手伝い、頭を使うのが苦手なシャイニーは、一人で倉庫整理と洗車をすると言って出ていった。

 ミレイナは収支計算行い、しろ丸はポイントで買ったフカフカ座布団の上で丸くなって寝ていた。この毛玉は本能のまま生きてるな、飯食って寝ての繰り返しだ。

 俺は書類を書きながらふと思った。

「············ふむ」

 カウンターの上にフカフカ座布団を乗せ、そこにしろ丸が毛玉になって寝ている。

「マスコットキャラクターか······ありかな」

「どうかしましたか、社長」

「あ、いや。しろ丸なんだけどさ、ウチのマスコットキャラクターにしようかなって」

「マスコットキャラクターですか?」

「ああ」

 某宅急便だって黒い猫をマスコットキャラクターにしてるし、ウチにもそれくらいのインパクトがあってもいいかも知れない。しろ丸は犬なのか猫なのかは知らないが、可愛らしくて愛嬌がある。

「あのさ、トラックの荷台にしろ丸をデザインしたマークがあれば可愛らしくていいと思わないか? 目立つし、そのマークを見たらアガツマ運送だってわかるしさ」

「なるほど。それは面白い試みですね」

 トラックのバンボディは【自由塗装】でペイント出来る。紙にイラストを書いてダッシュボードに入れれば塗装項目にインストールも可能だしな。

「試しにやってみるか。ミレイナ、可愛いしろ丸のイラストを書けるか?」

「わ、私ですか⁉」

「うん。俺は無理だし」

「き、キリエは?」

「無理です。信仰心はあっても絵心はありません」

「シャイニーはたぶん書けなそうだし、ここはミレイナに任せるぜ」

「わ······わかりました。やってみます」

 モノは試しだ、いろいろやってみよう。

 そう思って事務を再開すると、シャイニーがドアを勢いよく開けて入って来た。

「おい、ドアは静かに開けろよ」

「大変よ‼ コハクの奴が······」

「え?」

「いいから来て‼」

 ただ事でない雰囲気に、俺とミレイナとキリエは顔を合わせ、シャイニーに続いて外に出た。

 コハクは運転練習をさせている。まさか逃げ出したのかと疑い、俺は右手にある紋章を思わず見てしまった。

「くそ······」

 やはり、俺が甘かったのか。

 そう思い外に出ると······俺は目を疑った。

「え······」

「な、なにこれ」

「······」

「あいつ、ずっと一人で運転してるのよ」

 そこで俺たちが見たのは、プロドライバー並の腕前で走り続けるエブリーだった。

「ぶいーん」

 公園内を爆走してる。 

 地面には無数のタイヤ痕が刻まれ、その運転の凄まじさを物語っている。

「あ、あれよ、さっき見せた技‼」

 シャイニーが叫ぶと同時に見せたのは、タイヤを高速回転させながらその場で回転、後輪で円型の跡を刻む技だ。

「ま······マッドターンだと······車で⁉」

 マッドマックスで見た伝説の技だ。

 ギアを巧みに切り替えハンドル捌きであの技を使ってる。

 ターンが終わると、エブリーはゆっくりとした動きで俺たちの脇に止まった。

「ご主人様、この子すっごく楽しいって」

『社長。彼女のテクニックは素晴らしいです。車体性能をフルに引き出しています』

「えへへ。ありがと、タマ」

『恐縮です』

 いつの間にかタマと仲良くなってるし。

 俺が言えることは一つだけだ。

「あー······怪我するなよ?」

「うん」

 呆然とするミレイナ達を置いて、エブリーは再び走り出した。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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