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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第8章・トラック野郎と新車と新入社員』
92/273

92・トラック野郎、いろいろ聞く

「ただいまー」

「ただいま帰りました」

 恐るべきタイミングでシャイニーとキリエが帰ってきた。

 まるで漫画やアニメみたいなタイミングだ。ミレイナのカミングアウトから数秒後の出来事だぞ。

「ちょうどいいですね、みんなにコハクを紹介しましょう」

「あ、はい」

 ミレイナちゃんは動じてません。

 何となくそんな気はしていたが、まさかの同胞とは。

「よーしよーし」

『うなぉー』

 コハクは毛玉を撫でてるし。

 こうして見るとコハクはかなり可愛い。間違いなく美少女だ。

 ちょっとポヤッとした天然系。この会社には居ない属性の持ち主だ。

「ただいまー…………誰?」

「もしや、奴隷の方ですか?」

「お帰りなさい。紹介しますね、彼女はコハクです」

 コハクはシャイニーとキリエをジトッと見ると、ぺこりと頭を下げた。

「わたしコハク、よろしくね」

「………ちょっとミレイナ、この子」

「これは『死の首輪』……犯罪奴隷で最も危険な奴隷に付けられる首輪ですね」

 うげ、二人とも警戒してる。

 シャイニーに至っては殺気まで出してる。こりゃいかん。

「おいおい、落ち着けよ」

「へーきだよご主人様。わたし、嫌われるの慣れてる」

「え……」

「よーしよーし」

『うなー』

 コハクは俺を見てにっこり笑った。

 何故だろう、その笑顔があまりにも寂しく見えた。




 険悪な雰囲気の中、ミレイナが全員分のお茶を淹れる。

 ソファに座り、コハクの紹介と説明をすることになった。

 ちなみに席順は俺の隣にコハク、向かいのソファにシャイニーとキリエ、一人用ソファにミレイナが座ってる。

 シャイニーは露骨に警戒し、キリエも表情を凍らせていた。

「改めまして彼女はコハク······私と同じ魔族です」

「は?」

「え?」

 シャイニーとキリエがミレイナを見つめ、お菓子をモグモグ食べてるコハクを見た。

「彼女は魔族の中でも『四天種族してんしゅぞく』と呼ばれる種族である、『魔竜族まりゅうぞく』の方です。そうですよね、コハク」

「うん、そーだよ。ちょっと混ざり物があるけど」

 ウツクシーではミレイナの影が薄かったから何とも思わなかったが、こうして聞くとミレイナも魔族なんだな。フツーに忘れそうになる。

 するとコハクはバンダナを外し、頭頂部とおでこの中間くらいを俺たちに付き出す。

「これ、証拠」

 そこには、小さな二本のツノが生えていた。

 バンダナはこのツノを隠すための物だったらしい。

「『四天種族してんしゅぞく』は鳥、亀、竜、虎の血が混じった混血種族で、魔王四天王に選ばれし種族なんです」

「へぇ、じゃあ玄武王は亀なのか?」

「はい。バサルテス様は魔亀族一の暴れん坊で、魔界では危険視されていました」

 そうだったのか。

 それにしてもコハクは随分と人間に近い姿だな。玄武王なんて二足歩行の亀の化物だったのに。

「コハクは何でこっちに来たんだ?」

 俺の疑問だ。

 確かコロンゾン大陸とかいう、ヤバい場所の先が魔族の住む魔界なんだよな。

「修行してた」

「修行?」

「うん。お父さんより強くなるために、SSレートのモンスターを狩りまくってたら、いつの間にかコロンゾンを抜けて人間世界に来てた。そこでお腹減ったから近くの町でご飯食べたら捕まった」

「そ、そうか······その、SSダブルレートって?」

「魔族が使うモンスターの危険レベルです。ダブルですと超危険種に相当しますね」

 つまり、コハクは超危険種を狩りまくってたらコロンゾン大陸を抜けて人間世界に来てしまった。そこで腹減ったから近くの町でメシを食ったところ金が無くて無銭飲食になり捕まった。

「······って事か」

「うん」

 コクリと頷くコハク。

 なんか可愛いな。頭をナデナデしてやりたい。

「·········なるほどね。話はわかったわ」

 黙って聞いていたシャイニーがコハクを警戒しつつ言う。

「で、その子をどうするの? まさか今度はコロンゾン大陸に送ってやるなんて言わないわよね?」

「いや、普通に雇うけど」

「ですが社長、アルルの時とは明らかに違います。この方は犯罪奴隷です」

「いや、話を聞く限り悪い奴じゃないよ。無銭飲食は悪い事だけど、暴れたのは仕方ないよ」

「あのねコウタ、そいつの話がホントって証拠はないでしょ? 自由になりたいが為にあんたを襲わないとも限らないのよ」

「まぁ。そんな事をしようものなら即あの世行きですが」

 キリエの視線は俺の右手に刻まれた紋章だ。

「ご主人様、わたしは裏切らない。助けてくれたお礼する」

「わかってる」

「あぅ」

 やべ、ついコハクを撫でてしまった。

 嫌がらないので頭をナデナデすると、コハクは気持ちよさそうに目を細めた。

 ミレイナはシャイニーとキリエに向かって言う。

「シャイニー、キリエ、お願いします。コハクは悪い子じゃありません、どうか信じてあげて下さい」

「·········」

「·········ふむ」

 二人はしばらくコハクを見つめていたが、ネコみたいに撫でられるコハクを見て息を吐く。

「はぁ······わかったわよ。その代わり、危険な奴と判断したら······いいわね」

「いいよ。あなた強そうだけど、わたしのがたぶん強い」

「あぁん⁉」

 コハクは俺に撫でられながらケンカを売った。

「じょ、上等じゃない‼ ここまで露骨にケンカ売られて買わないわけに行かないわ‼ 表に出なさい‼」

「おい、ケンカ売ったのはお前だろ」

「いいよ。ご主人様、戦闘の許可をちょうだい」

「ダメだっての。コハクまで何言ってんだ」

 その様子を見たキリエはコクリと頷いた。

「ふむ、ご主人様ですか」

「いや、変な勘違いするなよ」

「はい。ですが社長、有事の際はお願いしますね」

「ああこの紋章か。悪いけど俺には魔力とやらが無いからどうにもならんぞ」

「え」

 キリエが硬直した。

 もしかしてミレイナ、それがわかってて俺をご主人様にしたのかもな。

「ちなみにコウタさん、魔竜族は偉大なる竜の化身とも言われ、全ての魔獣が背中を許し、魔族一の騎乗に優れた種族とも言われています。もしかしたらコハクならエブリーを乗りこなせるかもしれません」

「なーるほど、そりゃすごいな」

 シャイニーとコハクは睨み合ってるが、険悪というよりはケンカ友達みたいな雰囲気になってる。仲良くなるのも時間の問題かな。

「コハク、お前には会社の仕事を手伝ってもらう」

「会社?」

「ああ、俺達と一緒に仕事をするんだ。ちゃんと給料も払うし休みもある。期待してるぞ」

「わかった。ご主人様のために頑張る」

 まずはエブリーを運転させてみよう。

 もし上手く乗りこなせたなら、ドライバーとして正式登録して、シャイニーと一緒にゼニモウケ外の配達を任せるのもありかもな。

 期待を膨らませていると、シャイニーが言う。

「あのさ、さっきから気になってたんだけど······これ、なに?」

 テーブルの上には、白い毛玉が転がっていた。




 改めてコハクに聞く。

「なぁコハク、これ何だ?」

「わかんない。いつの間にか居た」

 バレーボールくらいの毛玉。遠目で見ると巨大なタンポポの綿毛に見えなくもない。

 とりあえず持ち上げてフカフカしてみると、尻尾と耳と口がニョコッと盛り上がる。どうやら寝てたようだ。

『うなーお』

「ったく、変な鳴き声だな」

『なうー』

 デブ猫みたいに鳴くので俺は身体をフカフカしてみた。

 すると気持ちいいのか、犬みたいな尻尾をフリフリしてる。

「ね、ねぇコウタ、アタシにも触らせてよ」

「············僭越ながら、私も」

 シャイニーとキリエも気になるのかウズウズしてる。

 俺はシャイニーに毛玉を手渡した。

『うなー』

「か、可愛いじゃない······この、フカフカしてやるっ」

『なうなうー』

「シャイニー、私にも貸してください」

「このこのっ」

『なーう』

「シャイニー、私にも」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。これめっちゃ気持いい······」

 どうやら気に入ったようだ。

 キリエがソワソワしてるなんて初めて見た。可愛い物好きなのかな。

「大人しいし可愛いし、ウチで飼うか」

「賛成っ‼」

「あの、コハク。この子は何を食べるんでしょう?」

「なんでも食べるよ。前見た時は石を食べてた」

「流石にそれは駄目です。そうですね、雑食なら私達と同じで大丈夫でしょうか、ミレイナ」

「たぶん、大丈夫だと思います」

 毛玉を膝に乗せてフカフカ撫でながらキリエは言う。

「ところで、この子の名前はなんですか?」

「知らない。付けてない」

「じゃあコウタ、あんたが付けなさいよ」

「え、俺が?」

「そりゃそうでしょ。社長なんだし」

 なんだよそれ、関係なくね?

 まぁいいや、それより名前か。

「そうだな·········白くて丸いから『しろ丸』なんてどうだ?」

「へぇ、可愛い名前ですね」

「······安直だけどいいわね」

「とてもいいと思いますよ」

「よろしく、しろ丸」

『うなーお』

 どうやら気に入ったようだ。

 こうして、アガツマ運送会社に新しい仲間が一人と一匹増えた。

 魔族の少女コハクと、毛玉のしろ丸。

 シャイニーやキリエはまだ警戒してるが、きっと仲良くなれると思う。

「あ、わたしもミレイナに聞きたい事があった」

「え? なんでしょうか」

「うん。あのね、わたしのおじさんが『青龍王ブラスタヴァン』なんだけど、聞いたことがあるの」

 おい、今とんでもない事をサラリと言わなかったか?

 青龍王がなんちゃらとか。

「ミレイナの髪の色······黄金と白銀が混じった白金プラチナの髪。四天種族を束ねる最強の魔族、『魔王族』とおんなじ色だけど、ミレイナって魔王様の親戚なの?」

 首を傾げるコハクの質問は、俺たちの度肝を抜いた。

 そしてミレイナは、ペコリと頭を下げて言った。

「·········そうです。私は『魔王族』であり、最強の魔族である『天魔王ゼルルシオン』の実の妹です。黙っていて申し訳ありませんでした……」

 強烈なカミングアウトに、俺たちは愕然とした。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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