9・トラック野郎、ゼニモウケ王国へ
第2章です
旅は順調に進んでいた。途中で美味しそうな果物を見つけたり、ミレイナと出会った川で休憩したり、ゼニモウケへの道を順調に進んでいた。
「······なぁ、今更だけどさ、こんなトラックで王国に入って大丈夫かね?」
「ええと······たぶん大丈夫だと思います。ゼニモウケは商業大国なので、日々いろんな物が出入りしてます。このトラックも変わった交易品と思われるんじゃないでしょうか」
『ミレイナ様の意見を肯定します』
タマとミレイナがそう言う。
2人が言うならいいけど、はっきり言って面倒はゴメンだ。波風立てずに平穏に生きて行きたい。
「でもなぁ······不安だ」
すみません小市民で。こんな未知の異世界じゃ仕方ないだろ? だって人が集まる所って何気に初めてだしな。
とはいえ進むしかない。運送屋をやると決めた以上、町や王国に入らないワケにはいかないしな。
『ゼニモウケ王国まであと半日ほどの距離です。マスター』
現在、時速60キロで街道を走行中。
整備されてるそうだが、アスファルト舗装されているわけではない。平らな地面だからか、どうしても多少は揺れる。
「ミレイナ、揺れるし住居で休んでてもいいぞ?」
「いえ、ここでいいです。切り替わる景色を、コウタさんの隣で見ていたいんです」
「そ、そうか」
ええ子や。可愛いし、おっぱいはフワフワだし、やるときゃやるし、もう最高ですよお母さん。
そういえば、ミレイナのこと詳しく聞いてなかったけど、確か家出してきたって言ってたよな。詳しく聞いたらマズいかな?
「あの、コウタさん······その」
「ん? どうした」
ミレイナがモジモジしてる。これはトイレかな?
「······やっぱり、ぽ、ポテチは欲しいです」
「······」
可愛い。こんな妹がいたら幸せだろうな。
俺はポイントを消費してポテチを購入し、ミレイナに渡した。
ミレイナは目を輝かせて、ポテチをポリポリ食べる。
俺もお茶を購入し、飲みながら運転を続けた。
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「見えました、あれが『商業大国ゼニモウケ』ですね。この世界の中心に位置する、最大の商業大国です」
『推定人口250万人。名だたる有名商家が拠点を構える大国です。商業を司る国として、ここ以上の場所はありません』
「·········不安になって来た」
運送屋をやるなんて言ったけど、こんなトラック一台でどうにかなるのだろうか。ヤバイな、急に不安になって来た。
「コウタさん、まずは冒険者ギルドに向かって下さい。依頼完了の報告と、ドッグタグを渡して死亡の報告をします」
「あ、ああ。わかった」
『ルート案内はお任せ下さい。現在、検問での待ち時間21分。最短ルートを検索·········検索完了。冒険者ギルドから最も近く検問が早いルートは東門です』
タマの案内でルートを変更すると、商人らしき馬車や護衛の傭兵たちとすれ違い始める。すると案の定、ポカンとした表情でトラックを見てる。
「み、見られてますね」
「だな······」
検問所は行列だったが、入口を見るとスルスル進んでいた。
ガタイの良さそうな兵士が何人かで荷物のチェックをしてるようだけど、このトラックは大丈夫だろうか。
『マスター。入場の際は「仕事を探しに来た」と答えるのが宜しいかと。この商業大国で仕事を求めて来る人間は珍しくありません。くれぐれも不審な態度を出さずに』
「わかったわかった。っていうか不審な態度ってなんだよ」
この野郎、俺が不審者とでも言うつもりか。まぁ異世界から来たんだし、ある意味不審者だけどよ。
バックモニターで確認すると、後ろの商人たちが指さしてガヤガヤ騒いでる。そして検問は進み、俺の番が来た。
ギアをセカンドに入れ、ゆっくりと前進させる。
兵士たちの目は興味と不審。様々な商人たちの出入りを見てる門番たちでも、トラックは見たことがないんだろうな。
「ようこそ、商業大国ゼニモウケへ。この国へは何をしに?」
「え〜と、仕事を探しに」
「······この金属は?」
「え、えぇと······」
トラックを指差し兵士が質問する。
何と答えようか迷ってると、兵士たちが少しづつトラックを包囲し始めたのがわかった。こりゃやべーだろ⁉
『これは【産業大国スゲーダロ】で発明された馬車に変わる乗り物の試作機さ。コイツを使って商売を始めようと思ってな、そろそろ通してくれよ』
スピーカーから俺の声が聞こえた。緊張して固まってるミレイナも驚き、俺も思わず固まってしまった。
「なるほど、スゲーダロの新作とはな。すまない、疑って悪かったな。通っていいぞ」
俺はコクコクと頷き、ギアを入れて発進した。
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ゼニモウケに入り、車道に当たる部分をゆっくりと走る。
どうやらここは馬車専用の道路らしく、何台もの馬車が行き来してるのが分かる。それにしてもトラックは浮いてるな。
暫く走り、路肩に駐車した。
「はぁ〜〜〜、緊張したぁ〜〜〜」
「わ、私もです。冒険者は基本的に検問所はスルーなので、あんなに絡まれたのは初めてでした」
それより、タマはお手柄だ。まさか俺の声を使って誤魔化すとは、さすがサポートに長けた神工知能だぜ。
『申し訳ありません。勝手な事を言いました』
「なーに言ってんだよ、お前のおかげで怪しまれず済んだんだ、謝らなくてもいいって。むしろこっちがお礼を言わないと」
『いえ。私が言ってるのは、このトラックがスゲーダロの新作と言う事です。この世界の技術ではトラックの模造品すら作ることは不可能でしょう。それなのに試作機などと言って誤魔化してしまいました。誠に申し訳ありません』
「·········まぁ、とにかくいいや」
ポイントがずれてるけど別にいい。とにかくゼニモウケに入れたんだ。俺は改めてゼニモウケの町並みを観察する。
なんというか、産業革命期のロンドンみたいな町並みだ。道幅はやたら広いし、歩く人たちも様々だ。
武装した冒険者に傭兵、金持ちそうな商人、犯罪者みたいな怪しいヤツに浮浪者と視線を変えるだけでまるで違う。
「タマさん、ギルドまでの道のりは」
『はい。ルートを表示します。マスター、案内に従い運転して下さい』
「わかった。なぁ、ここって交通ルールはあるのか?」
『特にありません。なので、子供の飛び出しや死角からの人にご注意下さい』
「だよなぁ、信号機なんてないもんなぁ」
フロントガラスにナビが表示され、ルートが表示される。
最初の目的地は冒険者ギルド。それが終わったら武器防具屋で装備を買い取ってもらい、資金を調達する。その後は運送屋の事務所兼住まいを探すため、商人ギルドに向かう予定だ。
「よーし、行くか」
「はい、なんかワクワクして来ましたね‼」
まだ不安だよ、とは言えなかった。