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異世界の配達屋さん~世界最強のトラック野郎~  作者: さとう
『第7章・トラック野郎と水の王国』
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81・トラック野郎、『蒼』VS『藍』についていけない

 激しい金属音の正体は、シャイニーが右手で抜いた剣がアインディーネの剣の鞘にぶつかる音だった。

 おいおい、こんな場所でガチバトル突入ですか。

「お、おい、ヤバいだろ」

 俺は周りの兵士を見たが、誰一人動こうとしない。

 思わず太陽を見るが、何故か腕組みして見ていた。

「おっさん······これは避けられない戦いなんだ」

「は?」

「シャイニーブルーさん······頑張って下さい」

「え?」

「わたくし、応援しています‼」

「あの」

「ファイトっ‼」

「ええと、その」

 何を言ってるんだろう、この勇者パーティーは。

 フツーに考えてこんな場所でドンパチ始めるのはおかしい。王様の前だし。それとも俺がおかしいのか?

 俺はミレイナとキリエを見た。

「シャイニー······」

「恐らく、このウツクシー王国最後の戦いですね」

「·········」

 どうやら、俺がおかしいようだ。

 もういい、俺は彫像になり成り行きを見守ろう。




 えーと、これは後で聞いた話と合わせた説明だ。

 シャイニーの持つ剣の一本『シュテルン』が、アインディーネの持つ刀剣『七堂伽藍しちどうがらん』の鞘とぶつかり、お互いの殺気が高まっていく。

「·········アタシ、あんたにも恨みがあるのよね」

「あら怖い。それに貴女、どこかで見た事があると思ったら、『七色の冒険者アルコバレーノ』のシャイニーブルーじゃない?」

「そうよ·········アタシはシャイニーブルー、シャルルブルームなんてお姫様じゃない。嵌められた借りを返すため、強くなって戻って来たのよ」

「ふふ······健気で可愛いお嬢様ね」

「つーわけで、まずはアンタをボコるから」

 シャイニーの剣とアインディーネの鞘が離れ、二人の距離も離れる。

 シャイニーは背中の左剣『エトワール』を抜くと、双剣を逆手で構えた。これが本来のシャイニーの構えらしく、ニナは『蒼月の型』って名付けたらしい。

 シャイニーは両手を開き一直線にアインディーネに向かって行く。

「『双月』っ‼」

「っと‼」

 双剣による連続攻撃。

 アインディーネは剣を抜く事も出来ずに鞘で受ける。俺にはよくわからんくらい速い攻撃だ。

「すげーな。シャイニーブルーさん、かなり強えーぞ」

「ええ。速さもだけど目がいいわね、狙いは鞘じゃなくて鞘を掴む手······いえ、指ね」

「ですが、あの女性も上手くポイントをずらして受けてます」

「わ、私、ぜんぜん見えなかった」

 勇者達はよくわかるみたいだ。クリス以外。

 やっぱ俺みたいな凡人にはついて行けない。

「シャイニー、やっぱり強いです」

「はい。そうですね」

 ミレイナとキリエはわかってんのかな?

 さっきからギンギンと金属がぶつかり合う音が響く。

「······ッチ」

 あ、アインディーネが舌打ちした。

 シャイニーの連続攻撃を上手く受けながら、何かを探ってるように見えた。

 アインディーネは剣を受けながらバックする。

 するとアインディーネの体勢が僅かに崩れた瞬間を、シャイニーは見逃さない。

「喰らえ‼」

「ざんねん♪」

「なっ⁉」

 シャイニーの双剣による振り下ろし攻撃をアインディーネは鞘で受け、なんとそのまま鞘を傾けスライドさせるように受け流した。

 勢いを付けた一撃は受け流され、シャイニーの体勢が崩れる。

 そこをアインディーネは見逃さなかった。

「あちょーっ♪」

「がふっ⁉」

 がら空きのボディに強烈な膝蹴り。

 ハイミスリルの鎧に覆われていない腹部を狙った膝蹴りは、カウンター気味にシャイニーの腹に吸い込まれた。

 シャイニーはその場に崩れ落ちる事はなく、バックステップで距離を取る。

「ふふ、まだまだ甘いわね。勢いに任せた突進はまるで獣みたい」

「あぁ?」

「それに私······まだ剣を抜いてすらいないのよ?」

「······ッ⁉」

 アインディーネは『七堂伽藍しちどうがらん』を構える。

 俺はその姿に見覚えがあった。漫画だけどね。

「居合······」

 アインディーネは動きにくそうな着物なのに、シャイニーより速く駆け出す。

「なっ」

「『藍迅あいじん』」

 次の瞬間、シャイニーの身体が吹っ飛んだ。




 シャイニーは壁に叩きつけられた。

 女性とは思えないくらいの力だ。俺だったらあんなに人を吹き飛ばすほどの力は出せない。

 居合いによって抜かれた刀は俺には全く見えなかった、気が付いたら終わってた。

「へぇー······腕を切り落としたつもりだったけど、よく受けたわね」

「······ペッ」

 シャイニーは口から血の塊を吐き出す。

 よく見ると右腕から血が出てる。ハイミスリルの鎧もヒビが入りボロボロになっていた。

「ふふ、まだ続けるかしら? 言っておくけど、今のスピードは序の口よ」

「·········」

「私、冒険者最速の剣技の使い手なの」

「·········ふーん」

 シャイニーの表情は変わらない。

 おい、マジで誰か止めろよ。このままじゃ死人が出るぞ。

 シャイニーは改めて剣を構え、真っ直ぐに突っ込んで行く。

「はぁ、おバカさんねぇ」

「······」

 先程と同じ、剣と鞘のぶつかり合い。

 だけど今回は違う、アインディーネが攻撃を加え始めてる。

「それそれそれっ‼」

「チッ······」

 鞘による突きと打撃。抜刀しての斬撃がシャイニーを襲うが、シャイニーは紙一重で回避する。だが壁に激突したダメージなのか、俺でもわかるくらい動きが鈍くなっていく。

「ほらほら、痛いわよ?」

「ぐっ⁉」

 鞘による突きがシャイニーの腹部を穿つ。

 そのまま流れるように袈裟斬りが繰り出されるが、シャイニーは辛うじて双剣で受け流す。

「プルシアンの妹だから殺さないであげるけど、腕の一本くらいは貰わないとね」

「·········ふん」

 アインディーネにダメージは殆どない。

 それに比べてシャイニーはボロボロだ。ハイミスリルの鎧は砕け、アインディーネの手加減された斬撃で至るところに裂傷が出来ている。

 傷自体は小さいが数が多い。

 出血も多いぞ、このままじゃヤバい。

「おい、ありゃマズいぞ‼」

「大丈夫です」

「はい。シャイニーですから」

「は?」

 ミレイナとキリエの声色は変わらない。

 シャイニーの勝利を確信してるような、そんな声だった。

「社長、シャイニーは必ず勝ちます。信じて下さい」

「え、いや、でもよ」

「コウタさん、大丈夫ですから」

 何これ、何でこんなに安心してるんだ?

 すると、シャイニーが大きく息を吐いた。

「······ふう、もうわかったわ。終わりにしましょう」

「あら? じゃあ降参かしら? 私ね、女の子は愛でるタチなのよ。だから諦めてくれるといいんだけどねぇ」

「ぶぅわーか。アンタみたいな三下に降参なんかするかっての。わかったのは別のことよ」

「······ふぅん」

 するとアインディーネは抜刀の構えを取る。

「じゃあ終わらせましょうか。足を切り落とせば流石に動けないでしょうね」

「やってみろ三下」

 『蒼』と『藍』は、同時に動き出した。




 ここから先は、後で聞いた話だ。

 それくらい速く、俺には理解できなかった。

 シャイニーとアインディーネは同時に駆け出し、接触するまで何秒と経過しなかったらしい。

「『藍じ·······え」

「シッ‼」

 なんとシャイニーは右剣の『シュテルン』をアインディーネに向けてぶん投げた。

 双剣士が剣を投げるなんて想定していなかったアインディーネは一瞬だけ対応が遅れた。だが、鞘から僅かに剣を抜き剣の腹でシュテルンを受ける。

 シュテルンはそのまま真上に弾かれ、シャイニーとアインディーネの距離はほぼゼロに。

「ジャッ‼」

「シャッ‼」

 残ったシャイニーの剣が抜きかけの『七堂伽藍しちどうがらん』と衝突する。

「甘いっ‼」

 アインディーネはエトワールを抜きかけの刀身で受け、そのまま鞘を思い切り閉じて鯉口と鍔でエトワールを抑えてシャイニーの体勢を崩す。

 アインディーネは勝利を確信した。

「え?」

 だが、シャイニーはあっけなくエトワールを手放した。

 エトワールを手放したシャイニーは丸腰、アインディーネは鯉口と鍔で抑えたエトワールを解放し、抜刀の態勢に入る。

「おバカさん‼」

「アンタがね」

 丸腰のシャイニーは一歩下がり半回転。

 アインディーネは悪寒を感じ、胸の前で剣を抜こうと構えた。

「な」

 半回転したシャイニーは、右足を上げる。

 それはハイキックのような体勢で、まさかの格闘にアインディーネの動きは中途半端に終わる。

 剣を僅かに抜いたまま、シャイニーのハイキックにどう対処するか悩む。避けるか鞘で受けるか、その迷いが中途半端な抜刀体勢になり、剣が鞘から僅かに見えていた。

「だらぁっ‼」

「ぎぁっ⁉」

 シャイニーの狙いはその僅かな刀身と、落ちて来たシュテルンの柄頭。

 シャイニーのハイキックはシュテルンの柄頭に命中し、切っ先は『七堂伽藍しちどうがらん』の僅かな刀身に直撃した。

 そして『七堂伽藍しちどうがらん』は、バギンと音を立てて柄と刀身が見事にへし折れた。

 この間、僅か五秒。

 シャイニーの狙いは、ハナから武器だった。

「シッ‼」

「いぎゃっ⁉」

 シュテルンを掴んだシャイニーは、アインディーネの手を斬りつけた。恐ろしい事に、手を斬りつけたんじゃなくて、両手の指を一本ずつ丁寧に斬りつけていた。

「これで剣は握れない。アタシの勝ちね」

「ぐ、ぅ······」

「一応教えてあげる。アタシがアンタの剣を受けたのはわざと、アンタの剣速を図るためよ」

「なる、ほどね······」

 シャイニーの勝利だ。

 俺は息を吐いてミレイナ達に向き直る。

「はぁ、なんとか勝ったな」

「はい。シャイニーはやっぱり強いです」

「ま、アガツマ運送会社の護衛ですからね。あれくらいは」

「オラァッ‼」

「ぶぎっ⁉」

 叫び声が聞こえ、思わず振り返る。

「おぉぉぉぉッ、らァァァァっ‼」

「ぶぎゅぶっ⁉」

 そこにいたのは、アインディーネをぶん殴っているシャイニーだった。

 容赦なく顔面を殴り、頭を掴んで地面に叩きつけている。

 まるで某ヤクザのヒートアクションだ。『シャイニーが如く』って感じのゲームになりそうだ。

「あの、シャイニーは何を?」

「何って、トドメよ?」

 俺の声が聞こえたのか、シャイニーは「何で当たり前の事を?」って感じの顔で聞いてきた。

 うげ、アインディーネの顔が鼻血まみれで失神してる。あれじゃ美人が台無しだ。

「さーて……ゴミは片付けたし、あとはメインね」

「ひっ!?」

 シャイニーの目はギロリとプルシアン王女に向けられる。

 プルシアン王女は、いつの間にか尻餅をついていた。

「あぁ、ずっとこの日を待っていたわ。五年前、アンタに嵌められて追放されてから、アンタの顔面をぶん殴る事ばかり考えていた。やっとその願いが叶うのね」

「しゃ、シャルル、わ、悪かったわ。その」

「黙れ♪」

「あぎぃっ!?」

 シャイニーは尻餅をついたプルシアン王女の足を踏みつぶす。

 めっちゃ笑ってる。なんか怖くて近付けない。

「ま、さすがのアタシも父親の前で殺すような事はしない………一発。一発だけ全力でぶん殴る。それで勘弁してあげる」

「しゃ、シャルル聞いて」

「あーあーあー、聞かない聞かない。アンタがする事は口を閉じて動かないことだけよ。それと、これが終わったら罪を償いなさい。あ、そうだ、アンタが始末した兄弟姉妹達の無念もついでに拳に込めるわ」

 とんでもねーついでだな、めっちゃ軽いぞ。

「ひ、ひ……」

 あ、プルシアン王女の股間からジョロジョロと液体が。

 そりゃそうか。護衛であるアインディーネを滅多打ちにされ、次はお前だと宣言されて迫られてるんだ。そりゃとんでもない恐怖だよな。

 シャイニーはしゃがんだままのプルシアン王女にゆっくり近付く。

「アタシは別にこの国に思い入れはない。今更戻りたいとも思わないし、父親や母親に会いたいなんて全く考えてない、でもね……ダマされ、嵌められ、陥れられて苦汁を嘗めさせられた事だけは許せない。そしてアルルを……あんな小さな子を、王になりたいとかいう馬鹿馬鹿しい考えで母親と引き離すなんて、絶対に許せない」

 シャイニーの右拳がブルブル震え、歯をギチギチと食いしばる。

「思い知れプルシアン……これがアタシの五年の怒りだぁぁぁぁっ!!」

「ひぃぃぃっ!!」

 泣きじゃくりグシャグシャのプルシアン王女の顔面に、下から掬い上げるようなアッパーが入る。

 勢いが強すぎてプルシアン王女の身体が浮き上がり、両手を握りしめたシャイニーはその身体に怒濤のラッシュを叩き込む。

「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 まさかの連打。おかしいな、一発って連打なのか?

 どうやら一発の定義が俺とシャイニーでは違うようだ。

「うがぁぁぁぁぁっ!!」

 プルシアン王女は既に気を失ってる。

 最後にダメ押しの一発をたたき込み、ようやくシャイニーの復讐は終わった。

「目が覚めたら尋問をして真実を吐かせなさい。この女も実行犯よ、二人共々牢屋へ入れておきなさい」

「は、はっ!!」

 おい、なんで兵士に命令してる。そしてなんで命令を聞くんだ兵士よ。

「シャルル……」

「シャルルブルームは死んだわ。アタシはシャイニーブルーよ」

 王様の悲しげな声を、シャイニーはぶった切った。

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お読みいただき有難うございます!
最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~
新作です!
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[良い点] トラックにならない時の主人公の凡人ぷりがたまらない
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