8・トラック野郎、ゴブリンのお宝をゲット
「薄暗いな……タマ、ホントに何も居ないだろうな」
『はい。生体反応はありません。間違いなく洞窟内は無人です』
トラックのライトを照らし、洞窟内をゆっくり進む。
ミレイナは持っていた食材を使い、キッチンでお昼ご飯を作っている。最低限の設備の使い方を教えたので、これからどんな料理が出てくるか楽しみだ。
『前方120メートル先に反応アリ。ゴブリンの犠牲となった冒険者たちの装備と財宝を確認しました』
「お、来たか」
暗いのでサードギアのまま走る。光が届かないほど暗いから、車のライトだけじゃちょっと暗い。それに幅も狭いし天井も低い。よく考えたら帰りってバックで帰らないと行けないのか!? どっかでUターン出来ないかな。
「なぁタマ。この洞窟内でUターン出来るとこある?」
『検索中………この先ドーム状の空間アリ。運転アシスト機能機動。バックモニター展開』
「お、やっぱ付いてたか」
フロントガラスの一部がバックモニターに変化した。これで帰りは多少安心だ。
それに、この車の強度が気になるな。車体強度10ってどれぐらいなんだ? 仮に岩や壁にぶつかったらどうなるんだろう。修理は出来ないし……うーん。
「タマ、仮にトラックが大破したらどうなるんだ?」
『トラックが傷ついたり大破した場合は、ポイントを消費して修理できます。現在はモンスターの討伐報酬ポイントがありますが、現金をポイントに替えることも出来ます』
「へぇ~……じゃあさ、車体強度10ってどれぐらいなんだ?」
『車体強度10レベルをこの世界で換算すると、ベヒーモスの一撃程度なら完全に防御出来ます』
「……譬えがわからん」
そんなことを言ってると、目的の場所へ到着した。
洞窟の最深部だろうか、半円形のドームみたいな形をしている。そしてドームの奥に、鎧やら剣やらが無造作に積んであった。
「あれが財宝か?」
『はい。金属反応の正体です。剣や鎧、硬貨や札、そして貴金属などの装備品が集まっています』
「……う~ん、なんか後味悪いな。よく考えたら泥棒じゃ……」
そう思って躊躇すると、後ろのドアが開いてミレイナが現れた。
ピンクのエプロン姿で、まるで新妻のようだ。
「コウタさん、ご飯が出来ました」
「ああ、今行く」
まぁ、メシ食ってから考えよう。ミレイナの料理が冷めちまう。
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ミレイナが作ったのは、肉と野菜の合わせスープと、ちょっと硬いパンだった。材料がないんだろう、少し申し訳なさそうだ。
「申し訳ありません……食材の残りがこれしかなくて……」
「いいって。洞窟から出たら、食べられる果物でも探そう」
そう言いながらスープを1口………うん。コリャ美味いな。塩気も丁度いいし、メッチャ俺好みだ。これなら何杯でもおかわりできちゃうね。
「あのさ、財宝の事なんだけど……」
俺はミレイナに相談する。
財宝ではなく、冒険者の遺品であること、貴金属は冒険者たちのアクセサリーであることなど、ミレイナに説明して帰ってきた答えは、意外な物だった。
「貰うべきです。この洞窟で死んでしまった冒険者たちを思うのなら、暗い洞窟に放置するより、これからを生きるコウタさんのために使うべきです。武器防具屋に売ればお金になりますし、修理して売られれば新しい持ち主の元で武具は活躍します。だからコウタさん、亡くなってしまった人達のために、貰いましょう」
そっか、そういう考えもあるんだな。
確かに、泥棒みたいなマネはいやだし、ミレイナの意見次第では帰ることも考えた。でも、俺たちの糧になってくれるなら、貰ってもいいかもしれない。
「そうだな……ありがとう、ミレイナ」
「いえ。そんなことありません」
食事を終わらせ、俺とミレイナは外へ出た。
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タマは何も居ないと言ってたけど、こう暗いと怖い。
俺はデザートイーグルをズボンに挟み、ミレイナは剣を装備して外へ出た。
ライトで放置された武具を照らしていたが、相当な数の武具と………人骨があった。
「う、おぉぉ……」
「可哀想に……せめて、外に埋葬してあげましょう」
26年の人生で、人間の頭蓋骨なんて初めて見た。標本の模型じゃないガチ頭蓋骨を抱えたミレイナは、持っていた袋に骨を入れ始めた。なんか俺って情けない。
その変わり俺は装備を集め、トラックのバンボディのドアを開ける。そう言えば部屋もベッドルームも出来たのに、外見はフツーの4トントラックにしか見えない。まぁ細かいことはどうでもいいや。
「それにしても………」
かなりの数がある。
剣に防具、ネックレスや指輪、そして袋に入ったコインと札束。剣だけでも30本以上ある。安っぽい銅材質の剣や、やたらキラキラしたナイフにネックレス。札束はかなり分厚いところを見ると、もしかしたら現金輸送でもしていた冒険者なのかと思ってしまった。
「コウタさん。失礼します」
「おっと、どうした?」
「いえ。ドッグタグを回収してギルドへ持って行くんです。死亡確認をしないと、いつまでも行方不明のままですから……」
「そっか……」
15分ほどで回収は終わり、俺とミレイナは洞窟を後にした。
洞窟から出た俺は、タマにある事を聞いた。
「タマ、近くに見晴らしのいい場所はあるか?」
『検索完了。ここから西に1・5キロ、人通りのある比較的安全な空間があります。埋葬をするならそこがベストでしょう』
「タマさん……ありがとうございます」
タマに指示された場所は、街道沿いだが開けた場所で、道の外れに人骨を埋めても通りには問題のなさそうな場所だった。
スコップはないので棒を拾って穴を掘り、人骨をそこに埋めて岩を乗せて花を添える。岩は重かったが2人掛かりで転がして設置した。
「ふぅ……これでいいだろ」
「はい。この街道の安全を見守ってくれるといいですね」
「だな……」
ポイントを消費し、ワンカップを添える。
勝手なイメージだが、冒険者なら酒好きだと思うし、あの世で飲んでくれ。
「じゃあ……行くか」
「……はい」
ちょっとしんみりしたが、気分を変えて行く。
トラックに乗り、ラジオをかける。
「よし!! 『商業王国ゼニモウケ』に行くぜ!! 換金して資金をゲット、そんで運送屋の事務所を借りよう!!」
「はい!! 行きましょう!!」
俺はアクセルを踏み、トラックを走らせた。
第1章完
次回から王国編です。