78・トラック野郎、ありがたく頂戴する
*****《コウタ視点》*****
ウミヘビの化物を細切れにした俺は、関わり合いになるのを恐れて、ミレイナ達と合流する為にスターダストへ向かっていた。
太陽達には悪いがすっとぼけさせて貰おう。俺がやった証拠はないし、勇者の事情に関わるのはもうゴメンだからな。
それに、今頃はシャイニーとキリエがミレイナの着せ替え人形となってるはずだ。シャイニーの気分転換を兼ねて買い物するってミレイナは張り切ってたしな。
運転すること三〇分。ナビの案内で『スターダスト・ウツクシー支店』にやって来た。
相変わらず女性客ばっかりだが、意を決して俺は店内へ。
ミレイナ達はすぐに見つかった。
「見てくださいシャイニー、すっごく綺麗なイヤリングですよ」
「これはウツクシー海で採れるシーパルシェンの真珠イヤリングね。最近は養殖も出来るようになったらしいけど、天然物とは大きさも輝きも違うそうよ」
「これは·········養殖物ですか?」
「ええ。本物と比べれば一目瞭然よ」
なんか楽しそうだな。
イヤリングやネックレスが展示してあるスペースで楽しそうに笑ってる。前にもこんな事があったけど入りにくい。
しかし、やっぱりミレイナちゃんは気が付いた。
「あ、コウタさん」
俺はミレイナ達の元へ。
するとシャイニーが俺に確認する。
「終わったの?」
「ああ、災害級は倒したよ」
「そう。お疲れ様」
それだけだった、実にあっさりしてる。
「では社長。詳しい話は全て後にして、今は買い物を楽しみましょう」
「······よし。そうするか」
「まさかキリエに言われるとはね」
「うふふ、今日は楽しんじゃいましょう‼」
ミレイナの号令で、俺たちは買い物を再開した。
それから数時間……買い物や食事、観光などをして楽しんだ。
シャイニーはずっと被り物をしてるせいで窮屈そうだったが、そんな事を忘れるくらい楽しんでいたと思う。
夕方近くになり、一度宿に戻って休憩してから、夕食に出かける事になり、トラックに乗って宿へ向かった。
「あれ、コウタさん。あそこに居るのは勇者様じゃ?」
「あ、ホントだ」
宿の前に太陽達がたむろしてる。
こりゃ絶対に俺の事か、それとも別のことか。
トラックを停車させて窓を開けると、興奮気味の太陽が近づいてきた。
「おっさんおっさん!! 会えてよかったぜ!!」
「お、おう」
「あのよ、大事な話と渡すモンがあるんだ。ちょっと時間くれや!!」
「ちょ、落ち着け……」
俺はトラックを馬車の駐車スペースに移動させ、ミレイナ達を連れて太陽達の元へ。
話したいことは決まってるだろうし、ここは乗っかるべきだな。
「俺たちメシでも食おうと思ってたんだ。よかったら一緒にどうだ?」
「お、マジで?」
「ああ。今度は海鮮鍋の店だ。奢ってやるけどどうだ?」
太陽はすっげぇ眩しい笑顔で振り返ると、月詠達はニッコリ笑い頷いた。
「行く!!」
そんなわけで、少し早いがみんなで海鮮鍋の店へ。
この国には魚が多いな。悪いワケじゃないがガッツリ肉が食べたい気持ちになる。
お店に到着し、大人数だったのでまたもや個室に案内された。
「さ、好きなの頼め」
「サンキューおっさん!!」
「ありがとうございます、コウタさん」
「ありがとうございます、おじさま」
「ありがと、おにーさん♪」
太陽はともかく、煌星までおじさんかよ。
飲み物を注文し大鍋を三つ頼む。さらに舟盛りも注文した。
俺とシャイニーはキンキンに冷えた麦酒、それ以外は冷えたお茶を掲げ、一番年上の俺が乾杯の音頭を取った。
「それじゃあ……乾杯!!」
「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」
こうして、アガツマ運送会社と勇者パーティーの夕食会が始まった。
まずは海鮮鍋を堪能する。
たっぷりの魚介類が入った美味そうな鍋だ。エビ、ホタテ、白身に赤身。出汁も濃厚な魚介エキスが染み出して美味い。
鍋をつつきながらビールもとい麦酒を煽る。
「ッかぁぁ〜〜ッ‼ 麦酒がうめぇぇっ‼」
「コウタ、オヤジ臭いわよ」
シャイニーにツッコまれた。確かに今のはオヤジ臭かった。
「はふはふ······おいひいれふ」
「ふむ、ここに辛味パウダーを入れればもっと美味しくなると思いませんか?」
「ちょ、やめなさいよキリエ·········でも、美味しそうかも」
うちの従業員達は一つの鍋を仲良く分け合ってる。ちなみに辛味パウダーは少しだけ入れた。
「くぅぅ〜っ‼ 肉も美味いけど魚もうめぇぇっ‼」
「確かに。ウツクシー王国といえば海鮮だもの」
「クリスちゃん、このホタテ美味しいですよ」
「食べる食べるっ‼」
育ち盛りだから勇者達には鍋を二つあげた。案の定、こいつらはよく食べる。おかげで鍋も舟盛りもあっという間に完食した。
食後のお茶を啜っていると、月詠が鞄をゴソゴソ漁り、中からソフトボールほどの青いビー玉を取り出した。
「シャイニーブルーさん、これを」
「これは······」
「災害級危険種サーペンソティアの【龍核】です。正確には龍ではないんですが、サーペンソティアの脳から出てきたんです」
「の、脳?」
「はい。実はお聞きしたい事がありまして」
来たか。ってかこの巨大ビー玉······あのウミヘビの脳みそ割って取り出したのか、なんかグロいな。
「コウタさん·········災害級危険種を討伐したのは、貴方ですか?」
「は? んなわけあるかよ、今日は俺たち全員、町で買い物してたんだぞ?」
「·········そうですか」
「だーから言ったろ月詠、おっさんは無関係だって」
「じゃああの状況はどう説明するの? 災害級危険種がいきなりバラバラになって落ちて来たなんて」
「そりゃアレだ、海にはもっと強いモンスターがいたんだよ」
「そんな強いモンスターがいるなら、どうして今まで船や海の生物達が被害に合わなかったのかしら?」
「それは、ええと······そう、そのモンスターは海の守り神かなんかだよ」
うーん、太陽と月詠の言い争いになっちまった。
でも、災害級を倒したのが俺なんて言ったら、どんな厄介事に巻き込まれるかわからん。もしかしたらオレサンジョウに来てくれなんて言われるかもだし。
「わぁ······キレイです」
「ふむ、これが災害級危険種の【龍核】ですか。見た目は完全な円形ですね、従来の龍核はもっとゴツゴツしてると思いましたが」
「·········これなら」
ミレイナ達は龍核を見ていた。
これでシャイニーの追放処分が取り消されるのか。
「明日、陛下は『王令』を使うそうです。その後でよろしければ、わたくし達が陛下への謁見を取り次ぎますが、如何でしょうか?」
「ええと、じゃあ宜しく頼む」
「まっかせて‼」
頼りになる勇者パーティーだ。
一国の王様に合うなんて中々出来ないぞ、まぁ俺は外で待ってればいいかな。
こうして、楽しい食事会は終了した。
太陽達と別れ、宿へ戻ってきた。
場所は俺の部屋。みんなで集まり話をする。
「『王令』は全国民に向けて発表されるわ。どんな政策が立てられるかみんなワクワクしてるわね」
「確かに、町やお店でもそんな話ばかりでしたね」
「それに、どんな政策が持ち出されるか賭けなども行われてるようです」
「それにしても、こんなビー玉が国宝ねぇ」
俺の視線はベッドの上にある巨大なビー玉。
確かにキレイで美しいけど、とても国宝に変わる物には見えない。
「あのね、災害級危険種の龍核なんて、この国では歴史上一度も見た事がないお宝よ。武具にでも加工しようもんなら、伝説を超えた神話クラスの武具が造れるわよ」
「へぇ、すげーな」
ぶっちゃけ興味ありません。武器はトラックで十分だし、拳銃やらミサイルやらがありますんで。
「勇者には借りが出来たわね······」
「ま、あいつ等がゼニモウケに来たときにメシでも奢ってやれよ」
「そんなのでいいの?」
「ああ。太陽ならきっと喜ぶぞ」
明日、王様は『王令』を使う。その後で次期国王を指名するはずだ。
「明日ですか······シャイニー、追放処分が取り消されるといいですね」
「それはどうでもいいって。アタシはプルシアンをぶん殴りたいだけだから」
明日は、大変な一日になりそうだ。