77・トラック野郎、ユニックデコトラカイザー
勇者パーティーと別れ、俺たちは宿へと戻ってきた。
ミレイナ達は部屋でのんびりするらしく、俺は一人で運転席に座っていた。
「で………作戦は?」
『災害級危険種サーペンソティアの討伐方法。それはデコトラカイザーの新たなフォームを獲得する事です』
「新たなって………ブルデコトラカイザーを習得したばかりじゃん。残りはユニックか?」
『はい。ユニックデコトラカイザーの専用武器『ユニックハーケン』なら、安全にサーペンソティアを釣り上げる事が可能です』
「つり………釣り!? まさか釣り上げるって、魚みたいに釣るのか!?」
『はい』
「はいじゃねーよ!?」
まさかの釣りだった。っていうかそんな大物釣れるのかよ?
「あのな、太陽も言ってたけど、災害級危険種ってかなりの巨体なんだぞ。さすがのデコトラカイザーでも釣り上げるのはちょっと……」
『現状では不可能です。なので【車体強化】でトラックを強化する事をお勧めします』
「オススメも何も……」
ポイントはたんまりある、改造も問題ない。でも解決していない問題もある。
「あのさ、この広い大海原で、ピンポイントでモンスターを釣り上げられるのかよ」
『問題ありません。ユニックデコトラカイザーはパワー・スピード共にデコトラカイザーに劣りますが、索敵探知能力はどの形態よりも優れています』
「…………」
まぁ、俺が提示できる問題なんてタマにとっては想定内の事ばかりだろう。
仕方ないな……ここまで来たら、やるしかないな。
「わかったよ、じゃあ【車体強化】を頼む」
『畏まりました』
何でだろう、タマの声が嬉しそうに聞こえる。
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【車体強化】
○車体強度 レベル30 経験値消費3000
○タイヤ強度 レベル30 経験値消費3000
○エンジン出力 レベル30 経験値消費3000
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「なんかこの画面も久し振りだ」
『推奨レベルは四〇です。ポイントを消費して強化しますか?』
「まぁいいか……」
『強化開始………完了』
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【車体強化】
○車体強度 レベル40 経験値消費4000
○タイヤ強度 レベル40 経験値消費4000
○エンジン出力 レベル40 経験値消費4000
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「よし、次は【特殊形態】で」
『畏まりました」
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【特殊形態】
○ユニックデコトラカイザー[150000]
○ブルデコトラカイザー[習得済]
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「はぁ、結局二つの形態を手に入れる事になったか……」
『現在レベル五八。恐らくですが、災害級危険種を討伐すれば新たな形態を入手出来ます』
「お、そりゃ楽しみ………でもないな」
何度も言うが、俺の生活に戦いは必要ない。もう変形はお腹いっぱいだぜ。
ユニックデコトラカイザーを購入し、取りあえずの強化は終わった。
俺も宿に戻り、シャイニー達の部屋に向かう。
「あ、お帰りなさいコウタさん」
「何してたのよ?」
「ん? ああ、トラックの強化。なんでもタマのヤツ、災害級危険種を倒す方法があるって言うから、明日こっそり勇者の手伝いをしようと思ってな」
「なるほど。それはいいアイデアです」
「あの、実は皆さんにお伝えしたいことが……」
ミレイナが、言いにくそうに手を挙げた。
「どうしたのミレイナ?」
「実は、魔王四天王の眷属のことですけど……」
そういえばミレイナは魔族だっけ。そういえばそんな設定もあったな、すっかり忘れてた。
「聞いたことがあるんです、魔王四天王にはそれぞれ二体の眷属がいると。そして玄武王バサルテス様だけは眷属を持たなかったそうです」
「へぇ、なんで?」
「ええと、その……バサルテス様は食欲旺盛で、たまに配下のモンスターを食べていたようで」
「そ、そうか……」
怖いよミレイナ。聞きたくなかったぜ。
「私も弟に聞いたので、詳しい事は知りませんが……眷属の数体は、バサルテス様よりも強いと言われています。バサルテス様はそれを認めようとしなかったそうですが」
俺としてはミレイナの弟が気になる。ぶっちゃけ眷属とか関係ないし、ゼニモウケに帰ればまた仕事の日々だ。
「取りあえず、何とかなるの?」
「まぁな。改造もしたし、あとは明日やるよ」
「ふーん……」
「シャイニー、大丈夫ですか?」
キリエがシャイニーを気遣うが、シャイニーは微笑む。
「平気。どうやら運も向いてきたみたいだしね」
「ツクヨさんが言ってた事ですか?」
「ええ………落とし前、付けさせて貰うわ」
怖い、怖いよシャイニー。
そんなわけで翌日。
ミレイナ達は買い物に出かけ、俺は何故か人気のない海岸近くの森に来ていた。しかもトラックではなくユニック車に変形している。
「おい、ここで何をするんだよ」
『センサーに反応。災害級危険種サーペンソティアは、現在位置から約四キロの地点に潜んでいます。この位置から釣り上げます』
「この位置からって、届く……んだよな。タマが言うんだし」
『はい。勇者の乗った船とサーペンソティアが接触するまで約一〇分。社長。変形を』
「はいよ。何か慣れてきた自分がイヤになる……」
ロボットに乗って戦う運送屋なんて、世界中探しても俺だけだろうな。
「デコトラ・フュージョン!! ユニックフォーム!!」
お馴染みの変形タイム。お約束なので誰も邪魔はしません。
運転席がせり上がり、機械の駆動音と共に変形する。驚いたことに、ユニックデコトラカイザーはかなり細身のスタイルだ。右腕だけがゴツく太い。手はクレーンのフックになっている。
「ユニックデコトラカイザー!! 作業開始!!」
今回は敵が目の前に居ないから安心だ。それに、こんな細身じゃ殴られただけでぶっ壊れそうだ。
『社長。サーペンソティアを索敵します。索敵後コマンド入力。必殺技を発動後、勇者達の船の近くにサーペンソティアを移動させます』
「いいけど……大丈夫かなぁ。出来れば俺がやったっていう証拠は残したくないんだよな」
『問題ありません。とどめは勇者に譲ります』
とはいえ、確実な方法なら乗っかるしかないな。まぁ太陽なら単純だし何とかなるだろ。
『索敵完了。位置捕捉。コマンド入力をお願いします』
フロントガラスにコマンドが表示される。敵も居ないし問題なく入力出来るぜ。
「上下右右左下緑緑」
『コマンド入力成功。《フィッシングパニッシュ》発動』
「お?」
必殺技のモーションに入ったようだ。
いつの間にか左手にドライビングバスターが握られ、何故かゆっくりと振りかぶる。
「え……ま、まさか………ぶん投げる気か!?」
正解。なんとドライビングバスターを思い切り海に向かってぶん投げた。
そして右腕からフックが勢いよく射出され、モンスターに向かって勢いよく飛んで行く。よく見るとフックにはブースターみたいな推進装置が付いている
カメラが高性能なおかげでよく見える。そしてほんの数十秒でモンスターの位置に着水した。
「お、お、おぉぉっ!?」
どういう原理なのか。右腕のワイヤーが思い切り巻き取られ、巨大で長い何かが水面から浮上した。
『ぐぉぉぉぉぉぉっ!? な、なんだこれはぁぁぁぁっ!?」
おいおい、デカいウミヘビってこれの事か。フツーに喋ってる。
しかも身体中にワイヤーが巻き付き、フックの部分が口に引っかかってる。ホントに釣り上げたよ。
そしてフックの推進装置から火が噴きだしそのまま上空へ。海上から数十メートル持ち上がった瞬間に巻き付いたワイヤーが急激に巻き取られる。するとウミヘビはまるでコマのように高速回転した。
『グガァァァァァァッ!?』
めっちゃ苦しんでる。そりゃそうだよな、空中で高速回転するなんて今までの人生でなかっただろうよ。
「あ、来た」
ここでようやくドライビングバスターが到着。
フック部分と剣の柄が合体し、高速回転するウミヘビに向かってムチのようにしなりながら飛んで行った。
「おいおい待て待てっ!?」
思わず止めるが時既に遅し。
ウミヘビは空中で切り刻まれブツ切りに。いくつもの破片が太陽達の船の近くにドボンドボンと落下した。
『パンパカパーン。レベルが上がりました。テレッテッテー。レベル六〇到達。新たなフォームを獲得可能です』
「やかましい!! これじゃトドメもクソもねーだろうが!! ポイントもしっかり入ってるし!?」
『社長。お疲れ様です』
「お前マジでわざとだろ!?」
俺は本気で頭を抱えた。
*****《勇者タイヨウ視点・船上》*****
「いい、最初から全開で行くわよ。少しでもサーペンソティアの気配を感じたら『鎧身』を発動。クリスは海を固定して、あたしと太陽と煌星は『鎧神奥義』を使う」
「わーってるよ、何度も聞いたっての」
「太陽くん、作戦ですから、何度でも確認しないと」
「キラボシも真面目だねぇ」
オレと月詠の必殺奥義は引き分けだった。なら、オレと月詠と煌星の合体奥義なら倒せるかも知れない。それがオレたちの出した答えだった。
『鎧神奥義』とは、オレたち風の言葉で言うと、武具にインストールされてるそれぞれの必殺技だ。オレたちの意思と魔力により武具に内臓されてるセンサーが反応して必殺技を繰り出すことが出来る、夢とロマンの溢れた必殺武器だ。これを考えたヤツはマジで尊敬する。
「クリスも混ぜれば最強最終奥義が使えるんだけどなぁ……」
「仕方ないですよ。クリスちゃんには足止めをして貰わないと」
「そうね。だけど、煌星の力を混ぜれば十分よ」
「ああ。さっさと終わらせてオレサンジョウに帰ろうぜ」
「はい。あ、そういえば……追加装備の件は」
「それはあと。現状の装備に不満はないし、この武具も満足に使えないのに、追加装備なんて使えないわ」
「はぁ……追加装備かぁ、楽しみだぜ」
実は、オレサンジョウから手紙が届いた。
武具の追加装備が完成したから至急戻って欲しいって事に、新しい武具が完成したから、候補者をスカウトして欲しいって事だ。
「おい、追加戦士はオレがスカウトするからな!!」
「何よ追加戦士って……候補でしょ?」
「バカ!! 新しいメンバーって言ったら追加戦士だろうが!! ちなみに女の子な」
「死ね」
「太陽くん、最低です」
「タイヨウのバカー」
なんで? オレ何かヘンなコト言った?
みんな白い目でオレを見る……ちくしょう。だって考えてみろよ、このパーティーに男が入ってみろ、パーティー内の風紀は絶対に乱れるだろうが。だったら最初から男はオレ一人で、オレが全員を受け入れればいい話じゃん。
「あのね、たいよ………」
「たいようく…………」
「タイヨ…………」
「あん? どうしたんだよ?」
月詠・煌星・クリスが硬直した。何故か空を見上げてボーゼンとしてる。
意味が分からないが後ろに何かあんのか………それとも、ついに来たか。
「へへ、おでまし…………」
そこで振り返り、オレは見た。
見覚えのある何かが、ブツ切りの状態で空から振ってきた。
それは、船の近くにドボンドボンと落下し、大量の水飛沫をあげた。
「「「「…………………」」」」
ボーゼンとしたオレたちは、最後に落下してきた塊が、海ではなく船の甲板に落ちたのを見て、ようやく我に返った。
甲板に落ちてきたのはサーペンソティアの頭だった。
オレたちは武器も構えずにゆっくりと近づく。するとサーペンソティアは目をギョロリと開きオレを凝視した。
『く、ははは……してやられたわ勇者よ。完全に虚を突いた一撃、実に見事だった』
「え、あ、うん」
『我はここで滅びるが……眷属はまだ五体いる。決して油断せぬ事だ』
「あ、はい」
『くはは……さらばだ、勇者よ………」
サーペンソティアは目は白く濁り、そのまま息を引き取った。
オレたちだけでなく、船の乗組員も唖然としてる。
「あー………………うん、勝利だ!! 魔王四天王の眷属を討ち取ったぜ!!」
オレは剣を掲げて叫ぶ。すると乗組員達は揃って歓声をあげた。
意味が分からん、全くわからん。
だけど、とりあえずオレたちの勝利だぜ!!
報告します。
『勇者にみんな寝取られたけど諦めずに戦おう。きっと最後は俺が勝つ。』が、新紀元モーニングスターブックス様より書籍化します。
続報は後ほど報告します。
トラック野郎との同時進行となりますが、皆様が納得される作品を作りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。