73・トラック野郎、水の王国へ
*****《コウタ視点・水上王国ウツクシー》*****
ようやく砂漠を越え、徐々に景色に緑色が混じり、窓を開けると潮の香りが俺の鼻をくすぐる。どうやら水上王国ウツクシーは近い。それもかなり。
街道も普通の平地になったのでトラックフォームで進む。今回はミレイナが隣に座り、開いた窓から顔を出している。長いプラチナブロンドが風に揺れ、太陽の光を浴びてキラキラ光っていた。
「コウタさん、不思議な香りがします」
「ああ、潮の匂いだ。ウツクシー王国は近いぞ」
心なしかミレイナはウキウキしてる。それにキリエの話じゃ海産物が有名だって言うし、刺身の盛り合わせとか舟盛りとか食べてみたい。でもその前に最初はアルルの母親の所へ行かないとな。
そして走ること一時間。ついに海が見えてきた。
「おぉ……」
「わぁ~っ!!」
林道を抜けた先、青く美しい海が俺たちの前に現れる。
気温もジメジメした暑さからカラッとした常夏の暑さに変わり、まるで南国に来たかのように錯覚する。
街道沿いに生えてる植物も、まるでヤシの木や砂漠に生えていたサボテンもどきが目立ち、異国に来たとより強く錯覚する。っていうかモロ異国だけどな。
「いやぁ、キレーな海だなぁ……」
「はい。凄いです……」
思わず見とれる。
こんな美しい国で、後継者問題でドロドロの争いが起きてるとは思えない。しかも犯人はシャイニーの姉だって言うし、世の中わからんな。
「お、あれか……」
「見えましたね。あれが水上王国ウツクシーです」
シャイニーから事前に聞いていたが、ホントに海上の島に国が出来ている。正確にはドーナツ型の浮島に町があり、その中央にウツクシー王国の城が建ってるって話だけど。
『社長。検問までの距離およそ一五分です』
「了解。町に到着したら宿を取ろう。そろそろいい時間だし、今日はゆっくり休むか」
「そうですね。アルルも心の準備が必要ですし……」
いきなり行っていきなり再会じゃムードも何もない。とりあえず今日は休んで明日アルルの母親に会いに行こう。
アルルの母親アルメロは、カフェを経営する男性といい雰囲気らしい。もしかしたらの可能性も十分にあるし、ここは慎重に行かなくては。
そして、トラックはウツクシー王国へ続く大橋検問所に到着した。
トラックの入国は驚くほど問題にならなかった。
注目は浴びたが警戒されるほどじゃなく、むしろ面白そうな物を見る好奇心で溢れていた。検問の兵士でさえジロジロ見つつも興味津々って感じだし、「これは産業都市スゲーダロの新作だ」って言ったらみんな納得してたし。
ちなみにシャイニーとアルルは帽子を被ってる。髪の色を見せないようにするためであり、顔をジロジロ見られるワケでもないし、目の色はスルーした。
「まぁとにかく入国だ。ゼニモウケと違ってガードが緩いな」
「確かにそうですね。でも、警戒されるよりは楽でいいかもです」
「まぁそうだな。よし、まずは宿を探すか」
「はい。実はシャイニーにお勧め宿をいくつか聞いておいたんです。まずは一番のお勧め宿に向かいましょう!!」
「お、おう」
見知らぬ町に来るとミレイナのテンションが上がるな。普段は大人しいけど、もしかしたらこっちが地の性格なのかも知れない。まだまだミレイナの事を知らないな。
ウツクシー国内はトロピカルな町というイメージだ。どことなくハワイみたいな雰囲気で、建物は南国風のロッジみたいだし、オープンカフェがやたらとある。観光業に力を入れてるってのはマジみたいだ。
そんな事より俺の運転は少し危なっかしくなっていた。自分でも自覚がある。
「…………」
「コウタさん、前前!!」
「おぉっとスマン。危ない危ない」
「コウタさん……」
ちょっとよろめいてしまい、トラックが左に寄りすぎてしまった。
おかげでミレイナが非難するようなジト目で俺を見る。こんな目で見られたのは初めてだ。悲しいけど俺が悪いんだ、だってしょうがないじゃん……。
『社長。ウツクシー王国に入国して一五分。前方不注意回数が一四回を越えました。水着の女性に見とれて走行するのは大変危険です』
「ばばば、バカ言うな!! 誰が何に見とれてるだと!?」
『水着の女性です。このウツクシー王国の平均気温は三〇度。外出の際の水着着用は認められています』
「コウタさん………」
あぁ、ミレイナがむくれてる。可愛いけど罪悪感。
だってしょうがないじゃん。俺だって男だし、薄着の女性に目が向くのは仕方ないじゃん……勘弁して下さい。俺だって目の保養が欲しいんです。
「あ、えーと……あ!! そろそろ宿に到着だな、さーて奮発して高い宿に泊まろうぜ!!」
「む~っ……はい、そうですね。ぷん」
納得はしてなさそうだが、何とか誤魔化した。
むくれミレイナは貴重だけど、あんまり見たい姿じゃないな。
到着したのは、ヤシの木モドキに囲まれた海沿いの白い建物。看板には『ホテルウツクシー』と書かれていた。
馬車の駐車スペースにトラックを駐めて全員で降りると、その外観の美しさに俺とミレイナとキリエは声を出して驚いた。
「おぉ〜······モリバッカとは違う趣きだな」
「そうですね〜······」
「なるほど。潮風による建物の腐食を防ぐ為に木材に何か塗られてますね。海沿いの町の知恵でしょうか? 町中ではそのような建物はありませんでしたが······」
キリエは考え込んでる。そんな細かい事は別にいいじゃん。
「建物にはシュリコンっていう植物から採れる油を塗り込んでるの。シュリコンは塩や水を弾くから、海沿いの建物には良く使われてるわ。ちなみに町中の建物に使われてないのは、潮風の影響が少ないのと、シュリコン自体が高価だからよ」
「ウツクシーのお城が白いのも、シュリコンがいっぱい使われてるからだよね?」
「そうよ。と言っても耐久性は精々十年程度だけどね」
さすが地元。シャイニーとアルルはよく知ってるな。
ここからでも見える城は、某ランドにあるような城にそっくりだ。俺はその城を眺めてると、シャイニーが言う。
「待ってなさいよプルシアン、アタシがその顔ぶん殴ってやる······っ‼」
シャイニーが怖い。久し振りの故郷なのに、懐かしむとかそんな雰囲気じゃない。
思わず背筋がゾクッとしちまったぜ。
*****《王女プルシアン視点・ウツクシー城》*****
「·········」
「ん? どうしたのかしら、プルシアン?」
「いや、ちょっと寒気が······」
「へぇ······風邪でも引いたの? 私が温めてあげる?」
「いい。っておい、胸を触るな」
「うふふ······」
ウツクシー城・プルシアンの寝室。
この部屋にはモリバッカ産の最高級品質の木材で作られたベッドがあり、その上には裸の女性が二人並んで寝そべっていた。
一人はこの国の第一王女であり、次期国王の地位がほぼ約束された王女プルシアン。もう一人はプルシアンが雇った護衛であり、最強の冒険者『七色の冒険者』の一人である『青藍刀剣アインディーネ』である。
プルシアンは立ち上がりドレスに着替え直す。今日の夜はウツクシーの地区長達のパーティーに招かれてるので仮眠を取っていたのだ。しかしアインディーネに邪魔をされたおかげで余り眠れなかったが。
「アインディーネ、お前もドレスに着替えろよ。今日のパーティーはウツクシー地区長の一人が開催するパーティーだ。王の地位がほぼ決まってるとはいえ媚を売っておいて損はねぇ」
「はいはい、わかったわよ」
アインディーネも立ち上がり、壁に掛けてあるドレスに手を伸ばす。
「ねぇプルシアン。貴女が女王になっても、私を傍に置いてくれるの?」
「何だよ急に······まぁ、護衛としての腕前や裏仕事の手際もいいし、そのつもりだけどよ」
「そ。ならいいわ」
「変なヤツだな······」
二人はドレスに着替える。本来ならメイドに手伝わせるが、煩わしいのが嫌いなプルシアンは、この手の作業は一人で行うのが決まりだった。
ドレスに着替え終わり身だしなみを整える。そしてプルシアンは王女としてのスイッチを入れ、粗暴な言葉遣いのプルシアンから、王女としてのプルシアンに変わる。
「さ、行きましょうか。アインディーネ」
「ふふ、私はどっちの貴女も好きよ?」
二人は仲良く部屋を後にした。