67・トラック野郎、観光する
*****《コウタ視点・モリバッカ》*****
トラックに戻ると、シャイニーがジュースを飲みながら助手席のドアに寄りかかっていた。どうやらギルド内の酒場で買ったようだ。俺の分も買ってきてくれるといいのに。
「遅い」
「悪い……っていうか、お前が早いんだよ。ちゃんと礼くらいしろっての」
「言ったじゃない。ありがとうって」
「あのな……まぁいいや、ミレイナ達と合流するか」
「ええ」
トラックに乗り込みシートベルトをする。情報を手に入れたし、後は町を観光してウツクシー王国に行くだけだ。その前に砂漠越えもあるし、準備はしっかりしないとな。
「タマ、ミレイナ達はどこだ?」
『はい。ミレイナ様達は、《スターダスト・モリバッカ支店》で買い物中です』
「そうなの? 結構時間経ってるし、他の場所にでも行ったのかと思ってたのに」
「ミレイナだしな。たぶん、朝から晩までスターダストでも問題無いと思うぞ」
「あぁー……」
何か思い当たるのか、シャイニーは苦笑い。
モリバッカにしかないアクセサリーや服もあるって言ってたし、きっとアルルやキリエを連れてハッスルしてるんだろうな。こりゃウツクシー王国でも気が抜けない。
「じゃあタマ、スターダストまでのルートを表示してくれ」
『畏まりました』
とにかく、ミレイナ達と合流しよう。
スターダスト・モリバッカ支店は、この町に合ったロッジのような建物だった。
相変わらず女性客で賑わっているが、トラックの登場は注目を集めたらしい。馬車の駐車スペースにトラックを止めると外からミレイナ達が出てきた。手にはいくつも袋を持っている。
「コウタさーん、シャイニーっ」
ミレイナだ。なんか久し振りな気がするのは気のせいだろうか。
可愛らしい帽子を被ったアルルとシスター服ではないちょっと露出の多いワンピースを着たキリエが疲れたようにミレイナの後に着いてきた。
俺とシャイニーはトラックから降りてミレイナと合流する。
「買ったなぁ……」
「はい!! モリバッカならではのお洋服やアクセサリーがいっぱい買えました。
よく見ると後ろの二人は疲れてるようにも見える。どうやらミレイナに付き合い着せ替え人形にされたのだろう。アルルはシャイニーに抱きつきミレイナから距離を取っていた。
「さて、思ったより時間が経っちまったし、今日はメシでも食ってロッジに帰るか」
「はい。昨日はお肉でしたし、今日はサッパリとした野菜鍋なんてどうですか? 近くに何件かいいお店があるみたいですよ」
ぐったりしたキリエとアルルはコクコク頷く。どうやら喋れないくらい疲弊してるようだ。
「社長……お腹が空きました」
「わたしも……ミレイナちゃん、わたしより興奮してた」
「お疲れ様。こんな事を言うのはアレだけど……助かったわ」
うーん。明日は買い物じゃなくて町の観光名所を回ろう。まだ滞在日数はあるし、のんびり行こうか。
「さ、美味しいご飯の時間ですよ!!」
ミレイナの笑顔は、この中の誰よりも輝いていた。
翌日。町のカフェで優雅な朝食を終えた俺たちは、町の観光をする事にした。
オシャレなオープンカフェで紅茶を啜りながら考える。
アルルの母親の情報とウツクシーの内情を知った今、問題は殆ど消えた。シャイニーの落とし前云々もそこまで問題じゃない。数日数年でシャイニーの姉が王様に即位するような事態にはならない。それに災害級危険種の問題もある。話では海に生息するモンスターで何隻も船が沈められ、現在は船を出す事が出来ないとか。まぁ太陽の事だしバカンスを楽しんでるだろう。それに、トラックで海のモンスターを狩ることは出来ないしな。
ぶっちゃけ、シャイニーの落とし前は諦めさせた方がいい。
災害級危険種を狩ることは出来ないし、シャイニーが諦めれば済む話だからな。それに、下手に顔出しして捕まるのは目に見えている。
こっそりアルルを母親に返し、そのままゼニモウケに帰るのがベストな判断だ。ぶっちゃけ、ウツクシーの後継者争いなんて俺には何の関係もないしな。もしアルルを母親が受け入れなければ、それこそ一緒にゼニモウケに帰ればいい。余計な争いはせずに平和的に解決だ。
「おじさん、どうしたの?」
「ん? ああ、ちょっと考え事をしてた」
「そうなの?」
おっと、考え事をし過ぎたのかアルルが不思議そうに見てる。
今日は町を楽しみつつ、スナダラケ砂漠を越える準備をするんだったな。
「よし、行くか」
紅茶を飲み干し、俺は立ち上がった。
この町の名物と言えばやはりこの『聖樹ククノチ』だろう。調べてみると、どうやらリフトで上まで登れるらしい。せっかくだしみんなで登ってみる事にした。
「ねぇおじさん、ロッジより高いかなぁ」
「そうだな、きっと高いと思うぞ」
「ふふふ、落っこちないようにね、アルル」
「うん。お姉ちゃんに掴まれば平気だよね?」
「もちろんよ‼」
リフトは魔術とやらで動く仕組みらしく、俺には理解出来なかった。なのでちょっと怖いな。
リフト乗り場には冒険者よりも観光客が多い。だけどリフトはかなり大きく広いので、俺たちは待つ事なく乗り込めた。
リフトがゆっくり上昇する途中、パンフレットを片手にキリエが俺に話しかける。
「社長。この『聖樹ククノチ』の上部には展望台とお土産屋、飲食店があるようです。せっかくなので行きませんか?」
「い、飲食店もあるのか?」
「はい。おすすめは『ククノチクレープ』に『ククノチシェイク』ですね。凄く興味があります」
「ありがちだけど確かに気になる。みんなで食べるか」
「はい。ありがとうございます」
シャイニーとミレイナはアルルをあやしてる。朝飯食ったばかりだけど、クレープくらいなら食えるだろう。
リフトは時間を掛けて上昇し、ようやく辿り着いた。
「うお······すげぇな」
リフトから降りた場所は聖樹の枝の上だった。枝の上と言ってもめちゃくちゃ広く太い。幅だけでも百メートルはありそうだ。
転落防止用にちゃんと柵も付いてるし、歩いた感じ普通の地面と何ら変わりない。
「わぁ······凄い景色です」
「ホントね······」
ミレイナとシャイニーが並んで景色を眺めてる。今更だがこの二人はホントに可愛いな。
「キリエちゃんキリエちゃん、あそこに何かあるよ‼」
「あれはお土産屋さんですね。それと飲食店やカフェもありますね」
「わぁ、わたしクレープたべたいっ‼」
「私もです。では行きましょうか」
「うんっ‼」
キリエとアルルは花より団子だな。キリエは俺に確認を取るとアルルと手を繋いで飲食店スペースへ向かう。
まさか聖樹の上に飲食店やカフェがあるとは。こんなの世界遺産モノだろ、スマホがあれば写真を撮りまくっていた。
俺はミレイナとシャイニーの近くへ。するとミレイナが俺の顔を見てにっこり笑った。可愛い。
「いい景色ですね······」
「ああ。凄いな······」
「あれ? キリエとアルルは?」
「ああ、クレープ食べるって、向こうの店に行ったぞ」
「え、アタシも食べたいっ‼」
「ふふ、じゃあ私達も行きましょうか」
俺はミレイナとシャイニーを連れてキリエ達の元へ。
その後、土産物屋でニナのお土産を買ったり、お昼を食べたりして過ごした。
地上に降りた後は砂漠越えの為に食料の買い出しをしたり、気になった店に入ったりして観光を楽しんだ。
ミレイナは服屋に入って色々物色したり、シャイニーは武器屋に入って珍しい武器を眺めたり、キリエは教会に入り祈りを捧げたり、アルルはおもちゃ屋に入ってぬいぐるみをおねだりしたり、楽しく町を観光した。
ちなみに俺は付いて回っただけ。無趣味で悪かったな、だけど武器屋では剣を買おうかと本気で悩んだぜ? だって本物の剣なんて持つ機会はないし、拳銃とは違う魅力がある。
ま、結局は買わなかった。シャイニーが居るしな。
それから数日。特にイベントもなく町を出発する日が来た。
お世話になったロッジを出てトラックに乗り込み、これから何日か掛けて『スナダラケ砂漠』を越える。そして次はいよいよ『水上王国ウツクシー』だ。
荷物を積み込み、ロッジ近くのカフェで朝食を済ませてトラックに乗り込む。ミレイナ達は居住ルームでのんびりしていた。
「よーし。案内は頼むぜタマ」
『畏まりました。スナダラケ砂漠は深い砂地の為トラックフォームではタイヤを取られる可能性があります。なのでブルフォームで進む事をお勧めします』
「あ、そっか。キャタピラだもんな」
タマのアドバイスはホントに助かる。確かに砂地はタイヤよりキャタピラで進んだ方がいい。スピードは出ないけど文句は言えない。
「よし、行くか」
『はい。社長』
エンジンを掛けてギアをセカンドに入れる。左右確認をしてウインカーを付けてアクセルを踏む。
楽しかったモリバッカの観光。またみんなで来ようと思う。
俺は窓を開け、モリバッカの美味い空気を胸いっぱいに吸い込んだ。