66・勇者のお話⑤
案内された部屋は狭く、椅子テーブルはあるけど窓は設置されておらず、換気用の穴が一箇所だけ空いていた。なんとも辛気くさい部屋だ。
「やぁ、勇者パーティーの諸君」
「あ、どうも王様」
椅子には王様が座ってる。改めて見ても普通のオッサンにしか見えない、どうやってハーレムを作ったのか、一度じっくり聞いてみたいもんだ。
すると、月詠達が前に出てそれぞれ一礼する。
「初めまして。私はツクヨと申します」
「わたくしはキラボシと申します。お初にお目に掛かります」
「わ、私はクリスです。クリス・エレイソンです」
王様は月詠達を見てオレを見た。わかる、わかるぞその視線。どうやらオレとあんたは同類って事を認識したんだな。
「『紅の勇者ツクヨ』に『碧の勇者キラボシ』か。そして『純白の聖女クリス』とは、勇者パーティーはこうも美女揃いなのかね、『黄金の勇者タイヨウ』よ」
「当然!! あんたなら分かってくれると思ってたぜ、さすが王様だな!!」
「ははは、やはりキミは面白いな。おっとすまない、座ってくれ。食事がまだなら手配しよう」
「ごはんっ!!」
真っ先に反応したのはクリスだ。まぁオレも腹減ったし、遠慮しないで貰うか。
王様の話は、食事をしながら聞くことになった。
出てきた食事は、気持ち悪いヘビの活け作りだった。
「なんだこれ……」
「知らないのかい? これはオイルスネークの活け作りだよ。このウツクシー王国では珍味の部類に入るが、慣れるとやみつきになる味さ」
「……おい月詠、まさかお前……」
「月詠ちゃん……」
「ツクヨ、貴女がヘンなコト言うから……」
「ち、違う!! あたしは関係ないわよ!!」
さっき月詠がオイルスネークの活け作りとか言ったせいかと思ったが、どうやら偶然らしい。
とにかく、出された料理を食わないというのは悪い。見た目はグロテスクなヘビ、プリプリした白身が活け作りにされてる。オレは箸で摘まんで恐る恐る口に運ぶ。
「……………」
「ど、どう? 太陽」
「太陽くん?」
「タイヨウ、おいしい?」
結論、マズい。
オイルスネークって言うくらいだから脂っこいのと思ったが案の定そうだった。
白身だから淡泊な味かと思ったが、噛んだ瞬間油がにじみ出てくる。これは刺身にして食うようなモンじゃない。確かにこれは珍味だ、これ単品で食い続けるのは不可能だ。
オレは活け作りの皿を掴み、ドアの近くに立っていた護衛らしき人に皿を手渡す。
「………あの、唐揚げにしてくれません?」
オイルスネークのカリカリ唐揚げを食べながら、王様は改めて後継者問題を説明した。
オレとクリスは唐揚げに夢中になり、月詠と煌星は食事の手を止めて話を聞いてる。そして、王様の話が終わると、月詠ははっきりと言った。
「陛下、助言は出来ますが、私たちが表立って協力することは出来ません」
「………やはりそうか」
「はぁ!? 何でだよ!!」
オレは月詠の答えに、思わず食事の手を止めて食ってかかる。すると月詠は分かっていたようにオレに答えた。
「あのね。あたし達は災害級危険種の討伐に来てるのよ。それに、王国の問題に勇者であるあたし達が表立って協力出来るわけないでしょ? あたし達はオレサンジョウ王国の勇者なんだから、他国の後継者問題に介入したら、オレサンジョウや他の王国がいい顔をしないわ」
「そ、そんなの言わなきゃいいだろーが」
「そういうワケに行かないでしょうが。どこに目や耳があるか分からないのよ? 本当はこうやって一緒に隠れて食事をするのだって危ないかも知れないのよ?」
「で、でもよ……」
「だから助言なのよ。とは言っても……難しいわね」
「確かに。後継者候補が四人、他の子供は追放、または死亡……さらに、ウツクシー城ではプルシアン王女を後継者にする声が広まってる……」
「あむ。むひゅかひいもんだいね」
「クリス、食べながら喋らない。陛下としてはプルシアン王女に改心して欲しいとの事ですが……それは難しいと思います」
「…………」
「自身の欲望のために兄弟姉妹を追放、死に追いやってまで権力を求める者を改心させることは容易ではありません。まずは王族殺害の証拠を揃え、プルシアン王女を逮捕するのが先ではないでしょうか」
「それも不可能だ………プルシアンは一切の証拠を残していない。殺害や追放の指示こそプルシアンが出したことだが、実行犯は別だ」
「じゃあその実行犯をつるし上げればいいじゃん。何ならオレがブチのめしてやってもいいぜ!!」
「だから!! あたし達は表だって動けないって言ってるでしょ!!」
「タイヨウ、やっぱり力技だね」
そりゃそうだ。難しい話はサッパリだしな。
「あの、実行犯の御方はどのような御方ですか?」
「キミ達も見たと思うが……プルシアンの傍に居た、藍色の髪の女性だ」
「あ!! あのおねーさんか!!」
藍色の髪の美女。オレに手を振ってくれた色っぽいおねーさんが実行犯だったのか。
「彼女は『七色の冒険者』の一人、『青藍刀剣アインディーネ』だ。その強さは冒険者でも屈指で、キミ達といえども手を焼くだろう。それに彼女を倒したとしても証拠がない。むしろウツクシー王国に対する宣戦布告としてオレサンジョウに対する制裁措置が取られかねない」
「そ、それって………戦争?」
「可能性はあるわね……」
おいおい、そりゃマズいじゃん。さすがに戦争なんてやってる場合じゃない。
モンスター退治に来たのに、随分と大事になっちまった。
「じゃあ、結局はどーすんだ?」
「…………うぅん」
月詠が頭を抱えるが、答えは出てこなかった。
煌星もクリスも同じで、同然だがオレも答えなんて出てこない。すると王様が、苦渋の決断をしたようだった。
「やはり、『王令』を使うしかないのか……」
「おうれい? なんだそりゃ?」
今更だが、オレって一国の王様にタメ語だよな。王様も気にしてないからそのままだけど。
「王令とは、ウツクシー王国の王が一度だけ使える絶対遵守の命令さ。どんな権限を持ってしても、どんな手段を持っても覆すことは不可能。まさに王としての命令なのだよ」
「へー、どんな命令でも?」
「ああ。歴代の王は殆どが国民の為の命令を出したと言うが………ボクはどうやら、歴代で最低の王になるしかないようだ」
たぶん「王女を捕まえろ」みたいな命令を出すんだろうな。じゃなきゃこんな辛そうな顔しないだろ。
「プルシアンが唯一恐れているのはこの『王令』だろう。だからこそプルシアンはボクに王令を使わせたがってる。行方不明の姉妹を探すため、王令を使って冒険者を総動員しろとね」
「なるほど、王令さえ使わせれば、プルシアン王女に障害はなくなる」
「ああ。しかも王令を使った王は役目が終了したとみなされ、次期国王を指名する義務がある」
うーん、なんか眠くなってきた……って、おい。
「くぅぅ……くぅぅ……」
なんか静かだと思ったら、クリスのヤツ寝てやがる。
確かにオレも眠くなってきた。そろそろ宿に帰りたい。
「やはり、証拠を見つけてプルシアン王女を逮捕するしかないと思われます。私たちに協力出来る事は……」
「そうか……いや、ありがとう。話を聞いてくれただけでも心が軽くなったよ」
「申し訳ありません。わたくし達の力及ばず……」
お、なんか締めに入りそうだ。王様には悪いけど、手が出せないなら引き下がるしかないなぁ。
「王様も大変だなぁ……オレも王様みたいなハーレム作りたいけど、そんな面倒くさいのはゴメンだぜ」
「ははは、耳が痛いな」
「オレだったら………………」
オレは、オレの望むハーレムを語る。
月詠や煌星はオレがハーレムを作る事を容認してるし、オレの目標とするハーレムを語っても問題ない。月詠は呆れ、煌星は苦笑しながら聞いていたが、次第に二人と王様の顔色が変わる。
「……ってな感じかな。やっぱ面倒なのはゴメンだぜ……って、どうした?」
「「「……………」」」
何だろう、三人がオレを凝視してる。すると王様が立ち上がった。
「そうか………そうか、その手があったか!!」
「は?」
「確かに、盲点だったわ……」
「え?」
「『王令』を使えば可能ですね。ですが、このウツクシー王国の歴史が変わりますよ?」
「はい?」
「いや、これは革命だ。新たなウツクシー王国の開幕となるだろう。さすが伝説の勇者だ、こんな方法を思いつくとは……天晴れだ!!」
「確かにね。あたし達は考えすぎてたかも」
「流石です、太陽くん!!」
ワケ分からん。なんだよ一体? オレの理想のハーレムが何だって?
「ありがとう勇者パーティーの諸君!! 道が見えてきた!!」
王様は勝手に興奮してる。もうワケ分からん。なんか知らんが、問題は解決したって事でいいのかな?
「……………くぅ」
クリスは、静かに寝息を立てていた。