65・勇者のお話④
*****《勇者タイヨウ視点》*****
「ええっと………つまり、その王女サマは悪い奴で、王様の子供達をみーんな追放した、って事っすか?」
「そうだ。プルシアンは野心家で、この国の実権を握ろうとしてる。あの子にとってはこの国の全てがオモチャ箱みたいな物さ。ははは、父親なのにボクは何も見えていなかった」
話がムズくてオレにはさっぱりだ。わかったのは、あの王女サマが悪い奴で、王様の子供を何人も追放したって事だけど……あれ、なんかおかしいぞ。
「あ、あの、王様の子供って何人いるんすか?」
「ん? 妻が三五人と子供は三四人だよ。子供は殆ど失って妻達も居なくなってしまったがね……」
「さささ、さんじゅうごにん!?」
「ああ。ボクは愛する者は全て受け入れるからね。行きつけの酒場の娘、若い頃お忍びで通った娼館の娘、馴染みの定食屋の看板娘……みんなボクを愛してくれたし、ボクもみんなを愛した。だから国王になって全員を受け入れたのさ」
「うぉぉぉぉっ!! すげぇ、王様すっげぇぇぇぇぇっ!!」
「あ、ああ……ありがとう」
王様はマジモンのハーレム王だ。おいおい、オレの目標とするハーレム王が目の前に居るよ。見た目はどう見てもその辺のオッサンなのに、三〇人以上と結婚して子供を作ってるなんてスゲー!!
もうダメだ。オレの目標とするハーレム王を手助けしてやりたい気持ちで一杯だ。
「王様!! オレに出来る事はあるか!? 王女をぶっ倒せばいいのか!?」
「お、落ち着いてくれ。プルシアンは野心家だが根は良い子なんだ。だから……改心させたい」
「どうやって!!」
「そこが問題なんだ……だから伝説の勇者なら良い知恵を出してくれると思って、この秘密基地に呼んだのだが」
「ははは、そりゃムリだ。だってオレ頭悪いし、戦う以外出来ねーもん」
「…………ははは」
王様は何故か渇いた笑い声だった。
考えるのは月詠の仕事だし、オレは基本的に剣を振るのが仕事だからなぁ。
「事実、城の中でも次期国王はプルシアンを押す声が強まってる。プルシアン以外の候補はまだ若く、失うことを恐れた妻達がはぼ隔離状態で部屋に籠もっているからな……」
「ふーん……」
「勇者タイヨウ。どんな些細な事でもいい、何か上手い策は思いつかないか? プルシアンを改心させる方法を!!」
「えぇぇー……うーん、オレはムズい事はわかんねーしなぁ。月詠なら良い案が思いつくかも」
「ツクヨ……『紅の勇者ツクヨ』か。勇者パーティーの頭脳と言われる……」
「ああ。ちょっと呼んでこようか?」
「良いのかい? いや待て、これからだとマズいな……」
王様は少し考え込むと小さく頷く。
「よし、夕食時にウツクシー六番街『さざなみの夢』に来てくれ。そこの店主に『今日も波は穏やかだな』と伝えてくれ」
「え、なにそれ?」
「合い言葉だ。後は店主が案内してくれる」
やっべぇ、まるでスパイ映画みたいだ。くっそ面白くなってきた。
「でもさ、王様が城抜け出していいのか?」
「ああ。ボクは子供を失ったショックで引きこもってる事になってるからね。確かに悲しくて部屋に籠もっていたけど、その間にプルシアンが手を回したみたいで、仕事を殆どプルシアンが肩代わりしてるんだ。おかげで城内のプルシアンの評判はうなぎ登り、ボクの評判はだだ下がりなのさ」
「あらら……」
「だが、ボクにはまだ『王令』がある。王になってから一度だけ使える、絶対遵守の命令がね。だから辛うじて王で居られるけど」
「はぁ、まぁとにかくわかりました。じゃあ後で」
「え、ああ……うん。また後で」
なんか長そうだしもういいや。クレープ買って月詠達の所へ戻るか。
クレープを買ってホテルへ戻る。部屋には月詠たちが集まっていた。
月詠は読書、煌星は紅茶を飲み、クリスは俺のベッドの上でゴロゴロしてる。
「遅くなった。ほれ、クレープ」
「わぉ、ありがとうタイヨウ」
「ありがとうございます、太陽くん」
「………」
「な、なんだよ月詠」
月詠がクレープをじっと見てる。おいおい、まさか食いたくないとか言うんじゃないだろうな。
「ねぇ……お金はどうしたの?」
「え!? ど、どういう事だよ」
「だって、あんたの財布そこにあるじゃない。しかも小銭入れも」
し、しまった。王様から借りた金のことなんて言おう。
「あ、いや、その……さ、札を一枚、ポケットに入れておいたんだよ」
「…………ふぅん」
「ほ、ほら、いいから食えよ。それと、大事な話があるんだって」
「大事なお話……ですか?」
「ああ。って食うの早いな煌星」
すでにクレープを完食し、紅茶を啜ってる煌星が言う。とにかく、王様から金を借りたなんて言えないし、さっさと話題を変えよう。
「じつは、遅くなったのは、王様からの頼みを受けてたからなんだ」
オレは覚えてる限りの事情を説明した。
ぶっちゃけ、話が難しくてよく分からんかった。
「つまり、王女は悪女で、ええと……王様の子供を始末して、自分が女王になろうとしてるんだよ。それでその……ええと、王様は王女をなんとかしたくて、オレに知恵を求めてきたんだ」
「「「……………」」」
あれ、三人とも黙っちまった。なんかヘンなこと言ったかな?
「え、ええと。つまりその……」
「はぁ、もういいわ。今夜、王様に呼ばれてるんでしょ? その時に聞くから」
「ぐぬぬ……」
「わ、わたくしはちゃんと分かりましたよ? ええと、王女様は悪い人なんですよね?」
「わ、私もわかったよ?」
煌星とクリスのフォローがありがたくも悲しい。ああ、オレってホントにバカなんだなぁ……悲しいぜ。
その後、オレたちは部屋でのんびりした後、ウツクシー六番街の『さざなみの夢』に向かった。場所は大ざっぱにしか聞いてないが、ウツクシー王国観光パンフレットに所在が載ってたから助かった。
「ここか……」
「どうやら酒場みたいね」
「なんだか、南国をイメージする、爽やかな酒場ですね」
「ねぇねぇ、お酒じゃなくてゴハンが食べたいよー」
クリスの言うことも一理あるが、まずは王様の用事を済ませる。それに、酒場といえどもメシくらいはあるだろうさ。
オレたちは酒場に入り、カウンターの店主の元へ。店は夕食時だからそこそこ混んでるが、オレたち四人が座れる場所はあった。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「ええと……『今日も波は穏やかだな』」
「……ああ、確かにな。最近はモンスターのおかげで魚も高くてなぁ」
「……!」
店主はオレたち四人に水を出す。すると、オレのコップのソーサーに、一枚の紙が挟んであった。やばい、マジモンのスパイみたいでカッコいい。
月詠はその紙を一瞬でひったくり、目にも止まらぬ速さで確認すると、店主に一言。
「マスター、オイルスネークの活け作りを頼むわ」
「オイルスネーク? ああ悪い、ちょうど切らしちまってなぁ」
「そう? じゃあいいわ。また来るから、今度はお願いね」
「あいよ。悪かったね」
「行くわよ」
月詠は立ち上がり、オレたちも後になって続いて酒場を出る。
「こっちよ」
それだけ言うと、月詠は『さざなみの夢』と隣の建物の隙間の路地へ入っていく。オレたちは特に疑わず進み、建物の裏手へ来た。そこはどう見ても裏口だ。
「どうやらここは諜報ギルドが管理する建物みたいね。表向きは酒場で、裏ではこういう秘密の場所を提供してるみたい」
「か、かっけぇぇ………マジ惚れるぜ」
オレの感動を無視し、月詠は裏口を三回ノックした。すると、カギが開く音がしてドアノブがゆっくり回る。そこに立っていたのは、そこそこ強そうなオッサンだった。
「オイルスネークの活け作り、四人前ね」
「………入れ」
オレはウキウキ、月詠はやや警戒、煌星はニコニコ、クリスは腹減ったのか項垂れてる。
さて、王様のために一肌脱ぎますかね。