65・トラック野郎、内情を聞く
*****《コウタ視点》*****
今思ったが、こんなに早くギルドに帰って問題ないのだろうか。土砂崩れの撤去作業なんて本来なら数日は掛かる作業だ、出発して数時間で戻っても終わったなんて思われないだろう。
「なぁ」
「大丈夫よ。嘘を付いて情報を貰ってもアタシ達には何の得もないわ。むしろ諜報ギルドの信頼を裏切ったとして制裁を受ける可能性もある。それに、怪しまれようとも撤去作業が終わったのは事実だし、堂々と報告すればいいのよ」
「お前まで心を読むなよ······」
シャイニーがそう言うなら問題ないんだろうな。申し訳ないですね小市民で。
「ウツクシー王国かぁ······なんか旅行気分だけどな」
「ふん。アタシはプルシアンのババァに落とし前を付けさせに行くのよ。もちろんアルルのついでにね」
「はいはい。それと、厄介事に巻き込むなよ。俺たちの目的はアルルの母親と、お前の落とし前だけだからな。次期王とかの政治的な絡みは勘弁してくれよ?」
「わかってるわよ」
それにしても、デコトラカイザーは強いな。
俺の操縦技術が悪いのはわかる。それを差し引いてもかなりの強さを誇るな。せっかくだし、他のフォームも獲得してみようかな。
「ブルとユニックか······なぁ、どっちがいいと思う?」
「は? 何が?」
「デコトラカイザーの新フォーム。多分だけどブルはパワー形態、ユニックは······わからん」
「ふーん。じゃあユニックで」
「え、なんで?」
「わからないんでしょ? だったらわかる方よりわからない方のフォームが気になるじゃん」
「なるほどな。意外とわかる理屈だ」
パワーこそ史上‼ とか言いそうな脳筋キャラのくせに、パワーより好奇心を取るか。まぁそのうち新しいフォームを獲得してみるか。
ギルドまでもう少し。なんか腹も減ってきた。
ギルドに到着した俺たちは、早速サルトゥースの元へ。
シャイニーはズカズカとサルトゥースと話した部屋へ向かい、ドアをノックもせずに開けた。するとそこには驚いた表情のサルトゥースが、ホットドッグを片手に書類を広げていた。
「んっく、ど、どうしたんだい? 土砂の撤去作業は」
「終わったわ。それと聞きたいんだけど、なんでドラゴンオーガの事を黙ってたの? まさかアタシ達を嵌めたんじゃないでしょうね······」
「お、おいシャイニー、落ち着けよ」
シャイニーが怖いオーラを纏いながらサルトゥースに詰め寄る。ヤバい、こりゃマジで怒ってる。
「ドラゴンオーガ? ちょ、ちょっと落ち着いてよシャイニーブルー、何の事だかサッパリだよ」
「······土砂崩れの作業現場にドラゴンオーガが現れたのよ。作業現場には誰も居なかったわ。多分、アタシ達とは別のルートで逃げたんでしょうね」
「何だって······まさか」
すると突然ドアが開き、慌てた様子の冒険者が入ってきた。肩で息をしながら目を見開いている。
「た、大変だサルトゥース‼ ど、どど、ドラゴンオーガが現れたんだ‼」
タイムリーなネタだ。どう考えても俺たちが倒したヤツだろうな。
「土砂崩れの作業現場に現れたんだ、何とか全員逃げたが······暫くは近付けない。くそっ‼」
「あ、それなら倒したから平気よ。それと土砂も退かしたから」
「は?」
シャイニーはつまらなそうに冒険者に言う。するとサルトゥースが冒険者に向かって指示を出した。
「······おい、隠密に長けた冒険者を数人連れて確認して来てくれ。シャイニーブルーの言う事が真実なら、街道は開通してるはずだ」
「何よ、疑うの?」
「まさか、安心を得る為の確認さ。もちろんキミの事は信じてるからね、情報は提供しよう」
冒険者は頭を下げると部屋を後にした。シャイニーはそのままソファにドカッと座ると、さっそく聞く。
「じゃ、報酬を支払いなさい」
「はいはい。全く、まだ食事の途中なんだけどな」
「いーから早く」
サルトゥースはホットドッグの残りを口に詰め込んだ。
「何から話せばいいか迷うな。よし、キミたちが聞きたい事にボクが答える形にしよう。何から聞きたい?」
なんか芝居がかったセリフだな。『赤』のオッサンとは別の意味で面倒くさそうな奴だ。
シャイニーは俺をチラリと見ると息を吐く。
「そうね、まずは今のウツクシーの状況ね」
「そうだね。海産物とリゾートが有名な美しい王国であり、現国王フィルマメントの統治も問題ない。問題は······現国王の子供が何人も行方不明になってる事かな」
「ふぅん······」
「表向きは事故や病死だけど事実は違う。フィルマメント国王の愛人や子供達による後継者戦争なんだ」
シャイニーの言った通り、後継者争いは起きてるようだ。
「現在、次期国王最有力候補がプルシアン第一王女で、第二候補がアルブラオ第三十王子。ちなみにアルブラオ王子は満二歳。事実上、始末する価値無しと判断されたんだろうね」
「なるほどね。じゃあ犯人はもちろん」
「当然、プルシアン第一王女さ。彼女は既に子供を失い悲しみに暮れる国王の代わりに、国の統治を始めてるそうだよ」
「·········」
ヤバい、なんかシャイニーが怖いな。俺は完全な空気だし。
「それとプルシアン王女の傍にはアインディーネが居る。どうやら高値で雇われ、汚れ仕事は彼女が全て行ってるらしい」
「アインディーネって、『七色の冒険者』の一人ですよね······何で王女に?」
俺の何気ない質問も、サルトゥースは笑顔で返してくれた。
「ま、冒険者と言っても、ボクみたいな奴も居れば、傭兵みたいな奴も居るからね」
「はぁ······」
よくわからん。そもそも冒険者の定義って何だ?
纏めると、プルシアン第一王女が他の王候補を始末してたのは事実みたいだ。手を降したのはアインディーネとか言う冒険者。シャイニーとアルルを追放したのもアインディーネの仕業なのか?
「次は······アルメロって女性の居場所を教えて。あんたならもう知ってるはずよ」
「もちろんさ。昨日、キミ達が連れていた少女の母親だろう? キミと同じ、ウツクシーから追放された少女だね」
「えっ」
サルトゥースはどうやらシャイニーの正体を知ってる。俺の驚きを無視してシャイニーは続けた。
「ふん。彼女の居場所と現在の状況は?」
「彼女はアルルを失い城を追放されてね。ウツクシー城下町の片隅でひっそり生活してるよ。どうやらカフェを経営している男性といい感じみたいだね」
「·········そう、詳しい場所を教えて」
サルトゥースは地図をシャイニーに渡す。
どうやら、アルルの母親は新しい人生を歩んでるようだ。というか調べるの早っ。それに国王の愛人とは言え、娘が勝手に国王の妻を追放していいのかよ。
「現在、国王の愛人は三人しか残っていない。追放されたり、自ら城を出たり、子供を失ったショックで自殺をしたり······残された子供も四人しか居ない。まぁキミとアルルを入れれば六人か」
「親父なんてどうでもいいわ。全部自分で撒いた種じゃない」
つ、冷たい。アイスより冷たいよシャイニー。それに自分の撒いた種ってなかなか的を得てるね。
「サルトゥース、アタシが国に戻ればどうなると思う?」
「そうだね······まぁ門前払いじゃないか? 濡れ衣とは言えキミは国宝を破壊したんだ。別な意味で歓迎されると思うよ」
「チッ······じゃあ、どうすればプルシアンをぶん殴れる?」
「そうだな······そうだ、国宝の『龍の涙』に匹敵する宝を土産に持って行くのはどうだい?」
「·········あのね、『龍の涙』は超危険種オーシャンドラゴンの【龍核】よ。しかもオーシャンドラゴンはウツクシーの守護龍で、命が尽きてもウツクシーと共にと願いを込めて、龍核を当時の国王に捧げたという伝説の龍核なのよ。そう簡単にそれ以上のレアアイテムなんてあるワケないでしょ」
おいおい、そんなヤベーアイテムを壊したのかよ。そりゃ追放されても仕方ないわ。
するとサルトゥースは思い当たるフシでもあるのかニヤリと笑う。なんかムカつく顔だな。
「その件に関して面白い情報があるんだ」
「······何よ。あんたのその顔ムカつく」
「ははは、厳しいな。実は······勇者一行がウツクシーに来てるそうなんだ」
「勇者一行って、太陽達が⁉」
「やはり知り合いか。それで、勇者一行の目的は、ウツクシー海に現れた災害級危険種の討伐なんだ。顔見知りなら彼らと協力してモンスターを倒し、災害級の素材を王国に献上すればいい。もちろん勇者の許可は必要だけどね」
「現在勇者達は、ウツクシー海に出る手段を探してる最中らしい。王国所有の船は破壊されたしギルドや漁師の船は使えない。キミ達なら力になれるんじゃないか?」
「力って······トラックで?」
いやまさか、トラックだぞ。ボートじゃないぞ?
それに災害級危険種って······ドラゴンオーガよりヤバいし、玄武王より高いレベルじゃねーか。死んじまうぞ。
「ま、そこまではボクの関係する事じゃない。どうするかは任せるよ」
「ええと、はい」
とりあえず、聞くべき事は聞いたかな。
シャイニーが姉をぶん殴る為には、壊した国宝に変わる国宝レベルのアイテムが必要。
太陽達がモンスター討伐の為にウツクシーに来てる。
そのモンスターの素材を王国に献上してシャイニーは許して貰う。
シャイニーは堂々と姉をぶん殴り、おしまい。
「うーん·········こりゃ難しいわ」
目的地は見えたけど、道のりがハード過ぎる。
太陽達は元気かな。あれから強くなったのだろうか。
「最後に······国王は『王令』を使った?」
「いや、まだだね」
「そう、わかったわ。いろいろありがとね」
シャイニーは立ち上がるとさっさと部屋を出てしまった。
「お、おいシャイニー······ああもう、申し訳ない、どうもありがとうございました」
「いやいや、役に立ててよかったよ」
シャイニーの後を追って部屋を出ようとすると、サルトゥースがポツリと言った。
「彼女の事、よろしくね」
振り向くとサルトゥースは、見た事がないような優しい笑顔を浮かべていた。