63・勇者のお話②
*****《勇者タイヨウ視点》*****
オレたち勇者パーティーは、ウツクシー城にやって来た。これから王様に謁見してご挨拶、そして災害級危険種モンスターの情報を貰い、討伐に出る予定だ。
オレたちは浮島の中心にある城を見て驚く。だってさ、浮島なのに更に浮いてるんだぜ?
「おお、キレーなお城だなぁ」
「確かにね。お城も海に浮いてるとは驚きね」
「ふむ、つまりこの島は円形の中心が空洞なのですね。元からこの形なのか、人工的なのか······興味深いですわね」
「私は遊べればそれでいいけどなー」
お城は某ランドにあるような立派な城だ。煌星の言い方はよくわからんが、簡単に言うとこの島はドーナツ、そしてドーナツの中心に城が浮いてるって事だ。
城へ続く架け橋の前には門番が二人いる。その門番はオレたちを見ると持っていた槍で道を塞いだ。
「何者だ、止まれ」
「我々は勇者です。オレサンジョウ国王の命令を受けてモンスター討伐に参りました。フィルマメント国王にお取り次ぎ願います」
堅苦しい月詠の言葉に門番はハッとする。すると槍を下げて深く頭を下げた。どうやら気がついたようだな。
「これはこれは、申し訳ありません。すぐに別室にご案内します」
「宜しくお願いします」
月詠は礼儀正しいけど、門番にまで頭をペコペコ下げなくてもいいと思うけどなぁ。それより、オレは少し気になった。
「なぁ門番さん、ここって釣りは出来るのか?」
「つ、釣り······ですか?」
「ああ。ほら、美味そうな魚がいっぱい泳いでるぜ」
「は、はぁ。特に禁止はしておりませんが」
「よーし、バカンスの予定に釣りを入れておこう」
楽しみが増えたぜ。さっさとモンスターを退治してやろうって気持ちが更に強くなった。すると煌星が首を傾げる。
「釣り、ですか?」
「ああ。煌星はお嬢様だもんな、やった事はないか」
「は、はい。お魚を捕まえるんですよね?」
「そうだ。よーし、一緒にやるか?」
「ええ是非。面白そうですわ」
「あ、ずるいずるい。私もやるー」
「おお、もちろんだ」
釣った魚をその場で捌いて網焼きにする。小さい頃に親父と釣りに出かけた時に食べた魚は美味かった。味付けは塩のみのシンプルな味付け、そして焼き上がるまでの待ち時間がワクワクしっぱなしという。
「あの······」
「放っておいて下さい。ちゃんと仕事はしますので」
何故か門番と月詠が頭を抱えていた。
王様との謁見とか、堅苦しいのは苦手なんだよな。
月詠や煌星はそうでもないらしいけど、クリスも苦手みたいだ。なのでさっさと終われというのがオレの意見だ。
なので謁見の間に案内され出て来たのは王様ではなく美女だったのは嬉しい誤算だ。
「陛下は体調が優れないので代わりに私が。初めまして勇者様、私はウツクシー王国第一王女、プルシアン・ウツクシー・ビューティフルです」
「······初めまして王女様。私は勇者ツクヨ、こちらは勇者タイヨウと勇者キラボシ。そして彼女は聖女クリスです」
名前にツッコミを入れたいが止めておく。どうやらこの世界では普通みたいだし、月詠も何とか堪えたようだ。
「王様、腹でも下したんですかね?」
「な、このバカッ‼」
「いでっ⁉ 何すんだこの」
「黙ってなさいっ‼」
「はひっ」
こわ。ちょっと思った事を喋っただけなのにキレられた。おかげで変な声が出てしまった。
月詠が王女様と何か難しい話を始めた。仕方ない、オレは王女様の近くにいる美しい女性でも眺めているか。
「ふふ······」
「お、どうも」
キレーな藍色の髪の女性だ。オレを見てニッコリ笑い手を振ってくれる。オレも思わず頭を下げてしまったぜ。
「美しい方ですわね、太陽さん」
「はは、煌星の方が美人だぜ。悪いがこれはマジだ」
「も、もう······太陽さんのエッチ」
「え、なんで?」
「もう、タイヨウもキラボシも楽しそうでズルい。私も混ぜてよー」
「おう、いいぜ」
オレはクリスの頭をポンポン撫でる。するとクリスはネコみたいに目を細めてウニャンとなる。まるで本物のネコみたいだ。
「なるほど······つまり、ウツクシー王国の海域を荒らすモンスターを退治しろと」
「ええ。ウツクシー海域の船を襲ったり、海産物を荒らすモンスターのおかげで、このままでは魚が採れなくなってしまいます」
「しかし、災害級危険種と言うのは? モンスターはそこまでの強さなのですか?」
「ええ。何でも、そのモンスターは人語を話したらしいんです。もしかしたら魔王と関係があるのではないかと思いまして」
「魔王軍·········可能性としては、水を司る魔王四天王、『青龍王ブラスタヴァン』が関係しているかも知れませんね」
月詠が言った単語にオレは反応した。おいおい、魔王四天王だと? こりゃ楽しくなってきた。
「魔王四天王っ⁉ おいおいマジかよ‼」
「ちょ、うるさいわよ太陽。まだそう決まったワケじゃないわ」
「へへへ、玄武王の時と一味違うオレの強さを試すチャンス到来ってか。楽しくなってきたぜ‼」
「あのね、まずは調査をして」
「調査か······よっしゃ行くぜみんな‼ まずは海水浴だ‼」
「はいっ、太陽さん‼」
「わーい海海ーっ‼」
「ちょ、煌星、クリス、あんた達まで」
「王女様、王様によろしく言っといてな‼」
挨拶も済んだしまずは調査を始めよう。近くの砂浜に出て水質調査を兼ねた海水浴と行こうか。その前に高級ホテルを予約して道具屋で釣り竿を買っていこう。やれやれ、勇者は実に忙しいぜ。
オレたちは海辺の高級ホテルを取り、水着に着替えて浜辺に集合した。もちろん武器は持って来てる。
「はぁ·········ホントに恥をかいたわ。一国の王女様にあんな姿を見られて······」
「まーだ言ってんのかよ月詠。王女様も気にしてないみたいだし、細かい事はいいじゃねーか」
「あのね、元はと言えばあんたが調子に乗るからでしょうが。あたし達はモンスターの討伐に来てるのよ‼」
「とか言ってるくせに、お前も水着じゃん。しかも浮き輪まで持ってるしよ」
「うぐ········」
前から思ってたが月詠はかなりスレンダーな体型だ。貧乳ってわけじゃないし、全体的なバランスがかなりいい。水着はフリルの付いたビキニで、黒髪ポニーテールの月詠にはよく似合ってる。身体付きは華奢なのにこんな細腕でモンスターをぶん殴るから凄い。しかもモンスターは吹っ飛ばされて死ぬしよ。
「ふふ、月詠ちゃんは可愛いですね」
「う、うるさいわよ煌星。とにかく、海の調査を優先する為に仕方なくね」
「はいはい、わかってますよ」
煌星は凄い、とにかく凄い胸だ。
白ビキニにパレオを巻いた腰。頭には麦わら帽子を被り、持っている弓や矢筒が不思議と似合ってる。どう見ても戦闘スタイルじゃないけどそれがいい。
「太陽くん、どうでしょうか······その、ちょっと恥ずかしいですね」
「お、おう······いいぜ、最高だ」
腕を胸の前で挟むように組むから、胸の谷間が強調される。こいつはヤバい、オレには刺激が強すぎるぅ‼
「タイヨウ、なんで前屈みなの?」
「いやその、諸事情で······」
クリスは水玉ワンピースだ。子供っぽいけどクリスにはよく似合ってる。手には杖を握り······あれ、なんか違う?
「クリス、それって」
「これ? えへへ、釣り竿だよ。タイヨウと釣りしたくて、近くの道具屋で買ったの」
「そ、そうなんだ」
クリスの持ってる釣り竿は竹竿に糸と浮きと重りと針の付いたシンプルな物だ。リールは付いてない。
さすがに武器くらいは持とうぜ。専用武器がないと『鎧身』も使えない。すると、やっぱり月詠が言う。
「ちょっとクリス‼ 武器はどうしたのよ‼」
「え、ええと、部屋に置いてきた」
「·········何で?」
「ええと、私はその、武器が無くても魔術は使えるし、回復も出来るし······えへ」
「取ってきなさい」
「えぇ〜」
「取って来い」
「ひうっ、は、はいぃ」
クリスは釣り竿を肩に掛けて振り返る。するとクリスの手から離れた釣り針が振り子のように揺れ、何かに引っかかる。
「え」
「まぁ」
「おぉぉぉぉぉーーーーっ⁉」
引っかかった釣り針をそのままにクリスは歩く。すると魔法のように月詠のブラトップが外れて胸が露わになった。結びが甘かったのか、スルリと取れた。
腰に手を当てて仁王立ちだったので、バッチリと見えた。ヤバい、オレのジュニアが目を覚ましてしまった。
「ひっ、あ······いゃぁぁぁーーーーっ‼」
「わわわ、ごめんツクヨっ」
「あらあら、これがハプニングですね」
月詠が蹲り、釣り針に付いたブラを見てクリスは慌て、煌星はタオルをそっと月詠の肩に掛ける。オレは幼馴染の成長した胸を見て感動していた。
爽やかな笑顔で月詠の肩を叩き言う。
「ナイスだクリス、そしてありがとう月詠」
「死ねやゴラァァァァァーーーーッ‼」
「ぶっぱぁぁぁっ⁉」
ぶん殴られたオレの意識は闇に沈んだ。