62・トラック野郎、ロボットバトル
「…………あれ?」
シャイニーの案内でムジン街道に到着したが、そこには誰も居なかった。
街道を塞ぐように土砂が溢れ、作業の途中だったのか道具が散乱してる。置いてあるというよりは放り投げてあるって感じだ。まるで逃げ出したようにも見える。
「よっぽど作業が辛かったのかねぇ……」
「違う………これは」
「シャイニー?」
シャイニーは周囲を見て何かに気が付いたようだ。それと同時にタマからのアナウンスが入る。
『警告。超危険種である《ドラゴンオーガ》接近中。デコトラカイザーへの変形を推奨します》
「え」
それは、突然の事だった。
「やっぱり………見て、道具や荷物はあるのに馬車が一台もない。きっとモンスターが出て慌てて逃げ出したんだわ」
シャイニーがそう言うと、ズズンと地面が揺れた。
それは一定間隔で揺れ続き、得体の知れない圧力を感じさせた。そして土砂で塞がれた街道脇の藪をかきわけてモンスターが現れた。
「な…………なんだ、あれ」
「ど、ドラゴンオーガ………デカいわね」
それは、二足歩行のドラゴンだった。
ドラゴンの大きさは十メートルはある。筋肉ダルマと言って差し支えない肉体に強大な両翼を広げ、顔は厳ついドラゴンに全身緑の凶悪な姿をしていた。あまりの出来事に俺はフリーズしていた。
『社長。変形を推奨します』
「え、あ……ええと、叫ぶんだっけ」
『はい』
「よ、よし……行くぞ」
「変形? あ、あの巨人になるのね!!」
シャイニーは何故かワクワクしてる。そう言えば変形するとシャイニーはどうなるんだ? コックピットは一人乗りだし、まさか外に放り出されるんじゃないだろうな。
『社長。シャイニーブルー様は変形と同時に居住ルームへ移動されます。心配はありません』
「あ、そうなのね」
相変わらず心を読むのが上手いヤツだ。でもまぁ、心配ないなら久し振りにやるか。
叫ぶのは恥ずかしいけど、シャイニーだし別にいいや。
「行くぞタマ。デコトラ・フュージョォォォーーーンッ!!」
『音声認証コード確認。デコトラカイザー変形シークエンス起動』
「うぴゃあっ!?」
変形が始まったと同時に、助手席のシャイニーが後方にスライドして消えた。どうやら居住ルームに消えたのだろう。
「おぉぉっ!?」
二回目だが慣れない。運転席が突然せり上がり視界が高くなる。ここからじゃ見えないけど、トラックのボディが変形して人型になってるんだろうな。特撮に出てくるロボットそのままだし。
『腕部変形。脚部変形。安全装置解除。最終確認完了』
タマも何かブツブツ言ってる。俺は変形が終わるまでボケッと座ってるだけだ。はっきり言ってこのロボットは俺に相応しく無いと思う。
『最終確認コードを入力して下さい』
どうやら変形が完了したようだ。あとは俺の最後のかけ声でデコトラカイザーは完成する。
「デコトラカイザー!! 配送開始!!」
さて、久し振りのロボット操縦だ。
『ガォォォォォォォッ!!』
「ひぃぃぃっ!?」
『社長。コントローラーを』
「あああ、わわ、わかった」
俺はドラゴンの雄叫びにビビりつつもコントローラーを掴む。確か操作は格闘ゲームと殆ど同じだったな。
「い、行くぞ」
視界は百八十度保たれている。よく分からん計器もいくつかあるけど弄るのはコントローラーだけだ。とりあえず接近戦を仕掛けようと、俺はアナログスティックを前に倒して前進させる。
『グガァァァァァァッ!!』
「おぉぉぉっ!?」
いちいち叫ぶドラゴンにビビる。思わずスティックから手を離してしまい、デコトラカイザーは動きを止める。するとその隙を突いたのか、ドラゴンオーガが一気に距離を詰めてきた。
「うぉわぁぁぁっ!?」
『機銃発射』
『ギャォォォォォッ!!』
完全な二足歩行ダッシュで距離を詰めたドラゴンオーガに機銃の弾を浴びせるが全く意に介しない。むしろ機銃を無視して体当たりをしてきた。
「うおわぁぁぁぁぁっ!!」
車体が揺れ地面に倒れる。思わず手からコントローラーが離れてしまった。
『社長。体勢を立て直して下さい。ドラゴンオーガはブレスを吐こうとしています』
「マジかよぉぉぉぉぉぉーーーッ!?」
俺はコントローラーを拾い黄色ボタンを連打する。するとデコトラカイザーは立ち上がり後方へジャンプした。
「ど、どうしよう」
『表皮がかなり硬いので打撃は期待できません。ドライビングバスターの使用を推奨します』
「じゃあそれで!!」
『畏まりました。ドライビングバスター展開』
すると上空からゴテゴテした大剣が現れる。それを掴むとデコトラカイザーは自動で構えを取る。打撃がダメなら斬撃ってか。
改めて照準をデコトラカイザーに向け、ドラゴンオーガは緑のブレスを吐く。
『ブゥゥゥバァァァァァッッ!!』
「回避っ!!」
俺はアナログスティックを左に倒しブレスを躱して前に進む。そして赤ボタンを連射しながらドラゴンオーガに近づいた。
「おりゃぁぁぁぁっ!!」
かっこよさもクソもない。ドライビングバスターを振り回しながらドラゴンオーガに接近して切り刻む。
ブレス攻撃で隙が出来ていたドラゴンオーガの表皮を切り刻むと、緑色の鮮血が飛び散った。
『ギュアァァァァッ!!』
「うぉぉっ!?」
勢いが付きすぎてドラゴンオーガの腕を切り落としてしまった。あれ、もしかしてチャンス?
『社長。キャノンモードでトドメを刺しましょう。デコトラカイザーの位置を指定ポイントに移動させ、《ドライビングキャノン》を発射して下さい』
「わわ、わかった」
指定ポイントの意味は分からないが、言われた通りにする。
カメラ機能なのか、フロントガラス部分に赤いマークが表示される。そこにデコトラカイザーを移動させてドライビングバスターをキャノンモードに変形させ、腕を押さえて苦しむドラゴンオーガに標準を合わせる。
『フルチャージ』
「さて、お前の命……あの世に配達してやる」
『ドライビングキャノン。発射』
砲身から発射された光線が、ドラゴンオーガを包み込んだ。
光線の軌跡上には何も残らなかった。
「あ、そういうことか」
『はい。お役に立てたでしょうか』
「さっすがタマだ。ナイスアシストだぜ」
『お役に立てて光栄です』
俺はタマに指示すると、デコトラカイザーはトラックに戻る。すると、助手席に座ったままのシャイニーも戻ってきた。
「あぁビックリした。それで……あ、終わったのね」
「ああ。ドラゴンオーガはやっつけたぜ。楽勝だったな」
ホントはめっちゃビビったけどな。あの凶悪な顔つきは夢に出てきそうだ。
「超危険種のドラゴンオーガが楽勝ねぇ……」
「ま、跡形も無くなっちまったけどな。素材とかあれば高く売れたか?」
「もちろんよ。ドラゴンオーガの爪や牙や【龍核】なんて、冒険者からすれば金のなる木みたいなモンよ。武器や防具に加工すれば最高の物が出来上がるしね」
「ふーん。ちょっと勿体なかったかな」
「まぁ別にいいでしょ。それより、少し休んだら土砂の撤去作業……あれ!?」
「ふっふっふっふ。気が付いたか」
そう、土砂の撤去作業は終わった。実は最後のドライビングキャノンで、ドラゴンオーガと一緒に土砂を吹き飛ばしたのだ。だからデコトラカイザーの位置を変更して射線上にドラゴンオーガと街道の土砂を合わせたんだ。
「くっくっく、これぞ一石二鳥。帰って報告して終わりだ」
「え、ええ……これもあの巨人の力なの?」
「ま、そんなところだ」
俺はポイントでコーヒーとカフェオレ、ポッキーとせんべいを買う。それをシャイニーに渡すと、シャイニーは笑顔で言う。
「わぉ、気前いいじゃん」
「久し振りのバトルで疲れたし、少し休憩してから行くか」
「うん!!」
俺はコーヒーのプルタブを開け一口含み、微糖の苦さに顔をしかめた。