61・トラック野郎、殆ど出番なし
サルトゥースと呼ばれた男性は、俺たち一人一人を見てシャイニーに言う。
「シャイニーブルー、冒険者を辞めたって聞いたけど、ここで何を?」
「ウツクシーに向かう前に立ち寄ったのよ。それと、あんたに聞きたいこともあるしね」
「へぇ、何をだい?」
「そうね……と言いたいけど、日を改めるわ。今日着いたばかりで疲れてるし、町を観光したいしね」
「そうかい。まぁボクは町のギルドにいるからいつでも訪ねるといいよ」
「ありがと」
そう言ってサルトゥースは去って行った。なんか爽やかな好青年って感じだな。『赤』のオッサンとはタイプの違う冒険者だ。
「アイツは見ての通りの優男だけど、狙った獲物は決して逃さない狩人よ」
「ま、まさか『緑』のサルトゥース様に会えるなんて……はふぅ」
「ミレイナ? 大丈夫ですか?」
「は、はい」
そう言えばミレイナは冒険者に詳しかったっけ。シャイニーやニナの事も詳しかったし、有名な冒険者のファンなんだな。
「おじさん、お話おわった?」
「あ、ああ。じゃあ行くか」
とにかく、今日は町を満喫しよう。
町で買い物したり名所を観光して遊び、一日目が終わった。
ロッジに戻る前に夕食を済ませ、ちょっぴりお酒も飲んで宴会気分を楽しんだ。やっぱ旅の醍醐味と行ったら旅館での宴会だが、アルルも居るしハデな事は出来ない。なのでアルルが眠った後にロッジ近くの酒場で少しだけ飲んだ。ミレイナはお酒が飲めないのでアルルと留守番し、飲み過ぎないことを誓って酒場で楽しんだ。やっぱ異世界の酒場は賑わってる。
「ふぅ、この麦酒は美味いな。ビールとは違ったコクがある」
「そうね。ポイントで買うお酒も美味しいけど、ここの農園で育った麦酒もなかなかイケるわ」
「はい。おつまみも美味しいですし、良いこと尽くしですね」
円卓に座りジョッキを傾ける。以前の失敗があるからチビチビと飲むと、少し気分が良くなってきた。
「シャイニー、貴女の知り合いの御仁ですが」
「サルトゥース? それがどうしたの?」
「いいえ。どういう関係なのかと思いまして」
「別にヘンな関係じゃないわよ。冒険者時代に何度か顔を合わせただけ、向こうもそう思ってるはずよ」
「ふむ………残念です」
何がだろう。気になるけど聞かない方がいい気がする。
言っちゃ悪いがシャイニーに色恋沙汰は似合わない。元気いっぱいに剣を振り回してるイメージが強く、シャイニーの魅力はそこにあると思う。だから恋をして顔を赤面させるより、楽しそうに笑う笑顔がシャイニーの魅力だと俺は思う。まぁそんな事本人には言えないけどな。うーん、俺も酔ってるな。
「キリエ、明日はミレイナとアルルを連れて買い物にでも行ってちょうだい。アタシとコウタはサルトゥースから情報を仕入れておくから」
「わかりました。が、本当に宜しいのですか?」
「ええ。遊びたいのは山々だけど、本来の目的を優先するわ」
「分かりました。ではよろしくお願いします」
「コウタ、あんたもそれで良いわよね」
「ああ。わかった」
遊びたい気持ちはあるが、シャイニーの言うことはもっともだ。それに滞在日数はまだまだあるんだし、情報収集を済ませてさっさと遊びに出かけよう。
翌日。俺たちは二手に分かれて出かけることにした。
俺とシャイニーはギルド、ミレイナ達は遊びに行く。ちなみにミレイナ達はスターダストに出かけるようだ。朝からミレイナがご機嫌だったし、アルルの服やアクセサリーを買うと張り切っていた。
俺とシャイニーはトラックに乗り込み、冒険者ギルドを目指す。
「聞くのはウツクシーの情勢と次期王の情報ね。サルトゥースなら知ってるはずよ」
「知ってるはずって……国も違うし、ウツクシー王国はここから離れてるんだろ? そう簡単に」
「大丈夫よ。ちゃんと理由があるから」
「はぁ」
よく分からんが、ここは任せておこう。
ロッジから冒険者ギルドはそう遠くない。二十分も走ると到着した。
分かっていたが、建物はギルドで共通だ。看板に刻まれる紋章だけが違う。
「さ、行くわよ」
馬車の駐車スペースに停車させ、俺たちはギルド内へ。
すると、待ち構えていたようにサルトゥースが出迎えてくれた。
「やぁ、おはよう」
「お、おはようございます」
思わず敬語で返してしまった。ぶっちゃけこの青年は苦手だ。なんか怪しいような、腹に何か抱えてそうなイメージがある。
「さっそくだけど話があるわ」
「ああ、別室を用意してるからこっちへ。久し振りだし、ボクもいろいろ聞きたいしね」
「別に聞いてもつまんないわよ?」
「ははは、それはボクが判断するさ」
うーん、やっぱ仲がいいんじゃないかな? シャイニーもサルトゥースも何か楽しそうだし。
俺たちはサルトゥースの案内でギルドの別室へ。準備が良いな。
ソファに座り、さっそく話をする。
「さて、ボクに聞きたいことって?」
「ウツクシーの情勢、王族の情報をちょうだい。お金なら払うわ」
おいおい、いきなりだな。しかもお願いしてる立場なのに凄い偉そうだ。
「いいよ」
「はぁっ!?」
そして、あまりにもあっさりとした返事に俺は思わず叫んでいた。いやいや、マジで?
するとサルトゥースは、ケラケラ笑いながら言う。
「もちろん、タダじゃないけどね。ボクの頼みを聞いてくれたら情報を提供するよ」
「ま、当然ね。等価交換よ」
「あ、その、頼みとは?」
イヤな予感を感じつつ聞くと、サルトゥースは俺を見てニコリと微笑む。
この笑顔はどうも胡散臭い。やっぱ好きになれないな。
「簡単さ。キミの乗る『とらっく』の力を貸して欲しいのさ」
「え」
「もちろん、キミがゼニモウケとモリバッカを繋ぐ参道を開通させた貢献者という事は知ってる。キミの乗り物がスゲーダロで作られた極秘兵器だというのもね」
「え、ああ……はい」
スゲーダロに関しては間違ってるが、敢えて訂正しないでおこう。というかなんで知ってるんだ? この町に来てまだ一日しか経ってないのに。
「実は、モリバッカの南にある『ムジン街道』が土砂崩れに遭ってね。復旧の手伝いをして欲しいんだ」
「ムジン街道? なんで土砂崩れが?」
「さぁね。どうやらウスグレー参道と同時に土砂崩れが起きて、冒険者たちはムジン街道の復旧に掛かりきりなんだ。キミのトラックの力で復旧の手助けをしてくれたら、情報を提供しよう」
「わかったわ。そのかわり美味しい情報を提供しなさいよね」
「もちろん、約束しよう」
シャイニーは立ち上がると部屋を出て行く。俺も慌てて後を追った。
ギルドの外に出ると、シャイニーが背伸びをした。
「さーて、さっそくムジン街道に行くわよ。ここから一時間も掛からない距離だし、様子を見に行きましょ」
「こ、これから行くのか? ミレイナたちは?」
「平気よ。遅くなるからアタシ達は気にせず遊んでなさいって言ってあるし」
「あ、そうですか……」
どうやら、今日は遅くなりそうだ。
町に入って一日足らずでまた出ることになるとは思わなかった。
現在、俺とシャイニーが向かっているのはムジン街道という、モリバッカの人達にとっては大事な流通ルートの一つだ。ウスグレー参道の土砂の撤去をしてる時も思ったが、モリバッカ側で土砂の撤去作業をしていなかったのは、人員をムジン街道に裂いていたからだ。
まぁそこに不満はない。あるとすればシャイニーのサルトゥースへの信頼だ。
「なぁ、あのサルトゥースは信用出来るのか?」
「何よいきなり。まぁ疑う気持ちはわかるわ、あいつ胡散臭いもんね」
「お前もそう思ってるなら、なんで」
「そりゃ信用するわ。サルトゥースは諜報ギルドのギルド長だからね」
「へ? ちょうほう、ギルド?」
「そう、諜報ギルドは裏のギルド。金さえ払えばどんな情報でも手に入れるし売ってくれる。胡散臭いけどその情報に偽りや嘘はないわ」
「え、じゃあアイツ、冒険者じゃないのか?」
「表が冒険者、裏が諜報ギルドのギルド長ってとこね。ちなみにゼニモウケにも諜報員は存在するわよ。会ったことないし顔も知らないけど」
「へぇ……まだまだ知らない事がいっぱいあるな」
「運送屋には必要ない知識よ。それより、土砂の撤去作業はよろしくね」
「はいはい……」
まぁ、ブルドーザーの運転はだいぶ上達したからな。どんな状況かは見ないと分からないが、さっさと終わらせよう。