59・トラック野郎、森の王国へ到着
書籍化決定しました。
現在、改稿作業中です。
モンスターとそこそこ戦闘しつつ進み、気が付くとウスグレー参道を抜けていた。
途中、全く手入れされていない分かれ道があり、どうやらそっちに進むと神殿跡地があるようだが俺たちは完全にスルー、補給地である『森林都市モリバッカ』まであと数日の距離まで来た。
ウスグレー参道を抜けた先は木々に囲まれた街道。タマ曰くこの辺りは森や木々に囲まれた道が殆どらしい。だけど日は差してるし暗いという事は無い。むしろ柔らかい日差しが森を照らし、森林浴をするには絶好の場所ともいえる。
「おじさん、あそこにタヌキがいるよ!!」
「お、ホントだ……でも色が緑だぞ?」
助手席に座るアルルが指さしたのは、街道沿いにいる緑色のタヌキの親子。姿形はタヌキだけど色が緑だ。緑のタヌキ……なんかカップラーメンが食べたくなってきた。
『あれは一般種のミドリポンポコです。大人しく人懐っこいモンスターですので、危険はありません』
「ミドリポンポコ……」
「かわいいね、おじさん」
「あ、ああ」
うーん、名前が可愛いのかタヌキが可愛いのか。それとも両方か。
ポンポコに手を振るアルルはとても楽しそうだ。平和的で実に和む。
「アルル、モリバッカに着いたら行きたい場所はあるか?」
「うーん……おいしいご飯が食べたい」
「ご飯か。確かに美味い物は気になるなぁ」
『モリバッカの名物は牧場で飼育された家畜の乳を使った生クリームと、森で採れた新鮮なフルーツを使ったパフェが人気です。そして牧草のみで育てたモータンクのステーキなどが人気ですね』
「パフェ!! たべたい!!」
「いいね。じゃあみんなで行くか、パフェとステーキ」
「いく!!」
ヤバい、俺も楽しみになってきた。自然とアクセルを踏む足に力が入る。
モリバッカでは、久し振りに宿屋に泊まることになってるし、食事も豪華なディナーを楽しむ予定だ。
アルルとの思い出作りというのもあるが、俺たちの慰安旅行も兼ねているので楽しく行こうと事前に相談してたからな。シャイニーの事情は置いといて、純粋に町を楽しもう。
「アルル、いっぱい楽しもうな」
「うん!!」
この笑顔とも別れが近いと考えると、少し淋しかった。
アルルは最初の頃とは比べ物にならないほど俺たちに打ち解けた。俺の事をおじさんと呼ぶのは勘弁して欲しいが、シャイニーやミレイナ、キリエにはよく懐いてる。それこそシャイニーとは本当の姉妹のようだ。
上手くいけばアルルは母親の元へ帰り、生まれ故郷のウツクシーで仲良く暮らせるだろう。だが、アルルの母親がアルルを拒絶すれば、再びゼニモウケで俺たちとの暮らしが待っている。
シャイニー達は何も言わないが、どう思っているのだろうか。もちろんアルルは母親の元へ帰りたがっているから、母親と暮らすのがいいに決まってる。だけどアルルとの生活をこのまま続けたいと望む気持ちもあると思う。
特にシャイニーはアルルを可愛がっていた。一緒の部屋で寝泊まりし、空いた時間でアルルを公園に連れて行ったり、ショッピングをして楽しんでいた。別れはきっと辛いはず、こんな事を思うのは最低だが、心の中でアルルの母がアルルを拒絶すればいい……そう考えてもおかしくない。
「おじさん、ジュースのみたい」
「そうか、ぶどうジュースでいいか?」
「うん!!」
アルルは、どう思ってるだろうか。
俺たちと別れるのが淋しい……そう感じてくれてるだろうか。
こんな事を聞くのは最低かも知れない。
「アルル……」
「なに、おじさん?」
「もうすぐ、お母さんに会えるな」
「うん!!」
「お母さんとウツクシーで暮らせたら、嬉しいか?」
「うん。でも……おじさんやお姉ちゃんたちはいないんだよね」
「ああ。仕事もあるし、帰らなきゃいけない」
「……いっしょにウツクシーに住めないの?」
「ああ。それはできない」
「じゃあ、お母さんといっしょにゼニモウケに住む!! それならおじさんもお姉ちゃんも居るし、学校の友達ともいっしょに遊べる!!」
「はは……そりゃいいな」
子供らしいな、それなら全ての問題が解決する。だけど殆ど不可能に……いや、待てよ? 意外とアリかもしれん。もしアルルの母親がウツクシー王国を出てもいいって言うなら、ゼニモウケに連れて帰るのもアリかも。ゼニモウケ内なら仕事はいくらでもあるし、なかったら俺の会社で雇えば良い。あれ、もしかして良い考え?
「おじさん?」
「………あ、あぁスマン。ちょっと考え事してた」
「?」
アルルは小首を傾げて俺を見る。いやはや、小動物みたいで可愛いな。蒼いツインテールも左右に揺れてる。
よし、ちょっとみんなに提案してみるか。
トラック内で夕食を済ませ、風呂にも入り、もう寝るだけとなった時間帯。アルルを寝かせた後に俺はみんなを招集して先ほどのアルルのアイデアをみんなに提案した。
「……って事なんだけど、どう思う?」
「難しいですね」
真っ先にキリエが否定した。まぁ想定内だ。
「それは私たちやアルルにとって最高のプランです。ですが不確定要素が多すぎます。例えば、アルルの母親が既に再婚してる場合は不可能ですし、アルルを拒絶した場合は更に不可能です。それに母親がウツクシーに住み続ける可能性もありますし、考えるとキリがありません」
「だよな……まぁ、可能性の一つとして考えといてくれ」
「そうね、そのプランがアタシ達やアルルにとっては最も嬉しいプランね。正直なところ、アタシはそうなって欲しいわ」
「私もです。アルルも学校で友達が出来ましたし、ワガママかも知れませんけど、お母さんと一緒にゼニモウケに来て欲しいです」
「もちろん、私も同じ考えです。ですが難しい可能性ということは理解して下さい」
「わかってるよ、キリエ」
まぁ、こういうプランだって事を共有したかっただけだ。全ての判断はアルルとその母親にある。
「さて、話は終わり。今日はもう寝よう」
「そうね。おやすみー」
「お休みなさい、コウタさん」
「お休みなさい、社長」
みんなはベッドルームへ向かい、俺はソファに横になる。
「ふぁ……」
欠伸をして目を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
それから数日。相変わらずの森道を進んで行くと、俺の目の前にあり得ない光景が飛び込んで来て、思わずブレーキを踏んでしまった。
「な······なんだありゃ」
「見えましたね。あそこが森林都市モリバッカです」
助手席に座るキリエは淡々と語る。どうやら知ってたようだ。
「で、でけぇ······」
そう、俺の目の前には、とんでもなく巨大な木が見えていた。
樹齢何万年どころじゃない。高層ビルやスカイツリーに匹敵するほど巨大な木だ。こりゃ世界遺産登録間違いなしだな。
すると唖然としてる俺を見て、キリエは解説してくれる。
「あれはモリバッカ名物『聖樹ククノチ』です。この世界で最も巨大な樹木と言われ、樹頭には神の力が宿る神木が採れると言われています。しかし、その樹頭に辿り着いた者はいないとも言われてますね」
「はぁ〜·········すげぇ」
「モリバッカは聖樹ククノチを囲むように作られています。聖樹を削って作られたお守りは人気の一つですよ」
「へぇ、じゃあ買っていくか」
「はい。町には神殿や社がたくさんあるので、祈りを捧げるのもいいですね。数日滞在して巡礼など如何でしょうか?」
「い、いいんじゃないか?」
シスターってか坊さんみたいだな。ぶっちゃけ俺はあまり興味ない。
近付くに連れて聖樹がどんどん大きく見えてくる。すると、町の入口である門が見えてきた。門と言うか大木で出来た柵だなありゃ。
「さーて、まずは宿を確保して観光だな」
「はい。資金はありますし、最高の宿を手配しましょう」
ちょうど小腹も空いてきたし、宿を確保したら食べまくってやるぜ‼