57・トラック野郎、久し振りの戦闘
走り慣れた街道を進み、ウスグレー参道の入口にやって来た。
綺麗とまではいかないが、参道の土砂は撤去されている。これなら進む事が出来そうだ。ブルドーザーと冒険者とミレイナのおやつパワーのおかげだね。
「あ、あの?」
「おっと、何でもない」
可愛いミレイナを凝視してしまった。今日もミレイナは可愛いね、お兄さんお小遣いあげたくなっちゃうよ。
俺はアクセルを踏みウスグレー参道を進む。参道って言うくらいだし神社やお寺はあるんだろうな。今更な質問だけどミレイナに聞いてみるか。
「なぁ、この参道には何があるんだ?」
「ウスグレー参道ですか? ここは昔、大きな神殿があったらしいんですけど、大地震で倒壊してしまったそうなんです。なので参道と名は付いてますけど普通の街道と変わりない道ですね」
「へぇ、名前だけが残ったのか」
何とも寂しいね。寺院や神殿には興味ないけど、そんな話を聞くと見たくなるのはなんでだろう。するとミレイナが言う
「コウタさん、アルルの事なんですけど、学校には休学届けを出したんです。もしもの事がありますし······」
「そうだな。それでいいと思う」
「あと、シャイニーが言ってたんですけど、モリバッカの冒険者ギルドで情報を集めたらどうかと。少し離れてるとはいえモリバッカからウツクシーに渡る冒険者はたくさんいますし、シャイニーの知り合いがいるかも知れないって言ってました」
「シャイニーの知り合い?」
「はい」
さて、どんな奴だろうか。
それも気になるが、情報は大事だよな。アルルやシャイニーにとっては久し振りの帰郷だ。自分の国の情勢がどうなっているか気になるだろう。
『警告。前方に《ワイルドゴブリン》五体感知。参道沿いの藪に潜んでいます』
「え、マジで? すっげぇ久し振りのモンスターだな」
「藪に潜んでの奇襲はゴブリンの常套手段です。依頼を終えて安心した冒険者を狙ったり、疲弊してボロボロの冒険者を襲います。逆に、強そうな冒険者や体力気力共に万全な人間を狙うことはありません」
「へぇ、ゴブリンの割には頭がいいんだな」
「ええ、ゴブリンはモンスターの中でも知能が高いんです。単体では弱いという事を自覚してますので、頭を使い仲間と連携して戦うんです。なので駆け出し冒険者はゴブリンだからと舐めて掛かり、全滅するといった事がよくあります」
「よくあるんだ······」
怖いな。でもトラックなら問題ないだろう。
『社長。このまま通り過ぎる事も可能ですが、討伐をお勧めします。理由はトラックが通り過ぎた後に、ゴブリンに襲われる冒険者が現れる可能性があるからです。ここで確実に仕留めましょう』
タマのやつ、やる気満々だな。反対する理由もないし、別にいいか。ポイントも稼げるしな。
「わかった。タマ、機銃を頼む」
『畏まりました。[機銃]マニュアル展開』
両側のサイドミラーが変形し、見慣れた砲身が現れる。それと同時にクラクション部分からガンコントローラーが現れた。
「ふふふ、俺だってたまにはやるぜ」
「コウタさん、ファイトです‼」
ミレイナちゃんの応援が俺の力になる‼ 今ならどんなモンスターでも倒せるぜ‼ なーんてね。
トラックをゆっくり前進させてタマの指定したポイントで停止させる。するとフロントガラスに赤いポイントが表示された。
『社長。ポイント部分に狙いを定めトリガーを引いて下さい。そこがワイルドゴブリンの潜んでいるポイントです』
「わかった······」
俺は一番近い位置のポイントにカーソルを合わせて引き金を引く。するとサイドミラー機銃から弾丸が発射された。
『ブギュッ⁉』
何か潰れたような声が聞こえた。どうやらヒットしたみたいだ。
「げっ」
「き、来ました‼」
すると怒ったのか残りの四匹が飛び出して来た。幸いな事に正面からの特攻なので機銃で対応出来る。俺はゴブリンに狙いを定めて引き金を引きまくる。
「うぉぉぉぉーーっ‼ こぇぇぇーーっ‼」
モンスターに慣れたとは言え、バケモノの特攻は怖いな。しかも手には棍棒みたいな鈍器を持ってるし。
弾丸はゴブリンを蜂の巣にした。何発か外れてあさっての方向に飛んでいったが問題ない。
「はぁぁ······疲れた」
「お疲れ様です、コウタさん」
ミレイナの笑顔に癒やされ、俺はガンコンを下ろした。
モンスターを退け、ミレイナは昼食を用意するために車内へ。その変わりにシャイニーが助手席に座った。相変わらず装備を付けたままだから座りにくそうだ。
「なぁ、装備くらい外せよ」
「あのね、いつどこでモンスターが現れるか分からないのよ。装備を万全にしておくのは護衛として当たり前の事よ」
「お、おう……」
ついさっきゴブリンが現れた事は言わない方がいいかも。シャイニーの見てない所でモンスターの襲撃があったなんて言えば護衛としての立場がない。するとシャイニーは外を眺めながら言う。
「ねぇ……アルルを攫った奴の話、覚えてる?」
「え、ああ……確か、藍色の髪だっけ?」
「そう、そいつ」
「それがどうしたんだ?」
「もしかしたら、厄介な相手になるかも」
「は?」
「もしそいつがあのバカ姉に付いてるんだとしたら……状況次第じゃ戦う事になるかも」
「え」
ちょっと待て、どういうことだよ。俺たちはアルルを母親の元へ送るだけだぞ。なんで戦いになるんだよ。
「ゴメンね。アタシ……あのバカ姉を一発殴らないと気が済まない。アルルの件もだけど、アタシを追放した落とし前を付けさせないと」
「お、おい。そんな事したら犯罪者だって、お前が言ったんだろうが!?」
「そうね。だけどあのアホ親父がアタシを覚えてるなら活路はある。あのマヌケ平和親父なら、ただの姉妹ゲンカとしてお咎めナシにしてくれるはずよ」
「そりゃ甘過ぎだろ……」
どんだけアホなんだよ、その親父さんは。
「多分、バカ姉は強力な護衛を雇って身辺警護をさせてるはず。そいつをぶっ倒して姉の顔面を陥没するくらいぶん殴るのがアタシの目的だから。もちろん一番はアルルだけどね」
「勘弁してくれ……」
「ムリ」
そもそも、追放処分になったのに国の敷居を跨ごうとしてるんだぞ。シャイニーが王族なんてのは蒼髪と瞳でバレるだろうし、騒ぎになったらマズすぎる。
「昔は何も出来なかったけど、今は違う。どんな奴が相手でもアタシは負けない。たとえ相手が『七色の冒険者』でもね」
「は? あ、アルコバレーノって……」
「藍色の髪なんてそうはいない。恐らくバカ姉……プルシアンの護衛は、『七色の冒険者』の一人、『青藍刀剣アインディーネ』よ」
新キャラの敵が登場。イヤな予感がビンビンしてきた。
「悪いわね。アルルの事は大事だけど、アタシの目的も大事なの。強くなってアタシを嵌めたバカ姉をぶん殴るために、アタシは冒険者になった」
シャイニーは外の景色を見たまま喋る。まるで必死に言い訳をしてるようにも聞こえた。
「あの国に未練なんてないし、今の生活はすっごく楽しい。でもね、汚名を着せられて国を追放された恨みは残ってる。ケジメは付けさせないと」
「ケジメって、極道じゃあるまいし」
小指でも貰うんだろうか。モリバッカの武器屋にドスって売ってるかな。
「ふん。あのバカ姉がアタシやアルルを蹴落として王になるのよ? なんか癪に障るわ。だから王になる前に一発ぶん殴る。それでウツクシーとの因縁を終わらせる。バカ姉が王になる前なら、姉妹ゲンカで終わらせられるし、アタシが入国しても親父は仕方なく歓迎するでしょうしね」
「それがお前の目的か……」
「そうよ。今だから言うけど、時期を見てアタシはウツクシーに向かうつもりだったの。でもアルルと出会ってウツクシーに向かう口実が出来た。だからみんなには感謝してる」
「そ、そうか……」
うむむ、どうするべきなんだろうか。
別に復讐のために殺人を犯そうとしてるわけじゃない。自分を陥れた姉をぶん殴るために強くなり、落とし前を付けさせるために帰郷しようとしてるのだ。
復讐っていうくらいだから殺人でも犯すのかと思いきや、「姉が王様になる前に姉妹ゲンカをしにいく、王様になったら殴ることが出来ないから」なーんて理由で故郷へ戻るなんて意味が分からん。
シャイニー曰く勝算があるみたいだし、後でみんなに相談するか。
次は勇者パーティーのお話です。
この章から勇者視点の話がちょこちょこ入ります。
ちなみに
57話~72話まで第六章
73話~83話まで第七章
です。第7章までが第二部となります。
この章から徐々に戦闘シーンが増えていきます。
どうか最後までお付き合いください。